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袋小路派の政治経済学*[食の安全]
執筆者 土屋 彰久

袋小路派の政治経済学*[食の安全]

不二家スキャンダル

蛾だのネズミだの、もう後は真打ちの人肉ネタの登場を待つのみか、ってくらいに、あらゆる話が飛びだして来た、“ワイドショーのおもちゃ箱”不二家ですが、そもそもの事の起こりは、埼玉工場でシュークリームの製造に消費期限切れの牛乳を使っていたことが明るみに出たというところからでした。もうちょっと詳しく言うと、そのことを隠していたことが明るみに出そうになったので、慌てて会社側が発表したという話でして、直接のきっかけは内部告発と見られています。その後はまあ、スゴイですよね、メディア側の新ネタ探しも、それに応えるかのような、不二家側からのネタの出具合も。結果、不二家関連の報道は、玉石混淆も甚だしい状態に陥っています。たとえば、プリンなどで行われた賞味期限偽装や、激甘の細菌検査基準などは、悪質なケースですが、チョコレートの箱に蛾が入っていたということで苦情を申し出た主婦が、「誤ってガを食べてしまったら健康に害はないのか」と詰め寄ったら、工場長らが「害はない」と苦しまぎれに答えた、なんてのはどこにでも転がっている苦情処理を巡る売り言葉買い言葉のレベルの話です。まあ、どこのデスクも、「何でもいいから、不二家ネタ取ってこーい!取るまで帰って来るなー!」って感じで、記者の尻を叩いてるんでしょうね。

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内部告発通報制度

2004年12月号参照

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消費期限

読みにすると、「しょうみ」と「しょうひ」で一字時違い。しかも、は行とま行と隣り合っているので、とりわけ区別が付きにくかったりしますが、中身はけっこう違います。どちらも、近年改正された食品衛生法、JAS法に基づくものですが、消費期限というのは、生鮮食品などの、要するに「放っておくと腐るもの」について設定されるもので、一方の賞味期限は、缶詰、乾物といった加工食品について設定されるものです。それまでは、製造年月日の記載が義務づけられており、消費者はそれに慣れ切っていたんですが、食品業界や表示方式の異なる外国からの強い要請(≒強請)を受けて、消費者の反対を押し切る形で法改正が強行されました。少しでも新鮮なものを買いたい(意外と「食べたい」との間には見えない壁があります)という消費者心理に振り回されるのがうっとうしいというわけです。そのようなわけで、業者間の競争により有名無実化することを警戒して、当初は製造年月日の記載を禁止すらしようとしていたのですが、これはさすがに消費者側の反発が強く、見送られましたので、製造年月日を併記している例も少なくありません。

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賞味期限

加工食品は、冷凍食品のような例外もありますが、基本的には腐敗の原因となる細菌が入らないように作られていますので、腐敗より変質が期限設定のポイントとなります。そのため、食品の種類によって一律に決まるというものではなく、種類やメーカーによってある程度の幅があります。たとえば、油脂類なんかはけっこう早く酸化して変質するために、同じインスタント・ラーメンやカップ麺でも、油で揚げたタイプの麺(油揚げ麺)は、油で揚げていないタイプの麺(ノンフライ麺)よりも賞味期限が短く設定されています。ちなみに、賞味期限と内容的に似通ったものに、品質保持期限というのがあり、若干の混乱を招いていましたが、それぞれの管轄官庁である厚労省(食品衛生法:品質保持期限)と農水省(JAS法:賞味期限)が合同会議を設置しまして、賞味期限に統一することが決まり、関係する省令や告示の改正が行われました。

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自主回収/商品撤去

2002年08月号参照

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先入れ先出し

あなたは、スーパーでの買い物で、棚の前から取ります?それとも奥の方から取ります?私は奥の方をガサゴソと探すイヤな客です。やる人はわかりますよね、その理由。スーパーのように、商品を切らさないように仕入れ・棚出しをしていくと、異なる消費期限賞味期限の商品が、倉庫や棚に同時に存在することになります。そこで、古い方の商品が残ってしまわないようにと、先に入った商品を先に出す、それが「先入れ先出し」です。先入れ先出しは、製造過程の原材料の扱いにおいても、本来は徹底して行われていることです。ただ、仕事がいい加減な現場では、「使い忘れ」や「置き忘れ」が、当然、発生しますし、消費期限というのも実際にはある程度余裕を持って定めてあるので、一日ぐらい消費期限を過ぎていても、「味を見てみた限り、問題ない」というのがほとんどですので、これからすぐに鍋で煮られるなど、加熱調理に回されるということであれば、「やっちゃえ、やっちゃえ」となるのも人情です。実際、家庭ではよくあることですよね。一族経営も家庭の延長みたいなもんだから・・・・・・で済む話ではありません。

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あやしい牛乳

私、牛乳、好きです。好きですのでよく飲むんですが、昔から、不思議に思っていたことがありました。それは、製造年月日などを見る限り、鮮度に問題はないはずなのに、「どうしてこう、妙にくさくてまずいんだ?」と思うような“ハズレ牛乳”に、時々当たっていたことです。その謎は、二つの段階を経て解けました。第一の段階は、おなじみの雪印事件です。この事件では、雪印の加工乳(低脂肪乳)が起こした集団食中毒をきっかけに、回収された消費期限切れ牛乳の再利用など、内部のあきれた実態が明らかになりましたが、私もその話を聞いて、「ああ、あのクサマズ牛乳は、回収品使い回しのせいだったのね。」と、その時は納得していました。ところがですね、雪印事件でどこの工場・業者も気をつけるようになったはずなのに、相変わらず当たるんですよ、あのクサマズに。当初は、どこも実際には以前と大して変わっていないのだろうと理解して、一度当たったメーカーは避けるようにしていたんですが、その後、第二の発見により、自分的には謎が解けました。これは、『ザ・コーポレーション』という映画を見て知ったことなのですが、牛というのは、元々、体がそれほど丈夫ではなく、しかも乳牛の場合、不自然に大量の乳を出すために品種改良が重ねられ、しかもそれ用の餌を食わされ、さらにはホルモン・チップを耳に埋め込まれといった具合で、乳腺炎にかかりやすいんだそうです。乳腺炎、「あたしもやったわ、痛かったわよー。」なんてお母さんもいるでしょうね。牛がこれをやるとどうなるかというと、もちろん、抗生物質の増し打ちをしたりと、対処はしますけど、乳もガンガン搾ります。いや、搾ること自体は必要なんです、乳が溜まった方が病気は悪化しますから。ですが、その乳は乳腺炎の膿が混ざることがあるので、本当は使っちゃいけないし、症状のあるなしにかかわらず、表向きはきちんとした基準に基づいて検査されることになっています。でも、そんなの誰も見てませんから、他の牛と一緒に搾乳機につながれて、“膿入り生乳”をぴるぴると搾られることになります。もちろん、工場に行けば、高温で殺菌されますので、製品になる頃には雑菌は死滅しています。でも・・・・・・工場に行くまでは、“膿入り生乳”の熟成が進みます。

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食の安全

2005年7月号参照

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食品安全委員会

雪印事件や狂牛病事件の発生を受けて、消費者の不安、不満も高まりまして、当時の政府としても、なんか仕事したふりしてごまかさなければということで、食品安全基本法が2003年に新たに制定されました。そして、この法律に基づいて設置されたのが、食品安全委員会です。食の安全に関わる二つの省庁、すなわち農水省と厚労省と連携して食品のリスク評価や緊急事態への対応を行うのが、その主たる任務となっていますが、それは表向きの話です。食品安全委員会の最初の大仕事、ご存じですよね、そう、アメリカ産牛肉の輸入解禁です。全頭検査なんてやってたまるかという、お寒い限りの防疫体制を誇るアメリカ産牛肉に、危険部位さえ取り除けば大丈夫というお墨付きを与えて、輸出再開のゴーサインを出したのが、この食品安全委員会です。おいおい、何考えてるんだ、と誰でも言いたくなるところですが、お役所にはお役所の言い分というのが常にありまして、名前は「食品安全委員会」でも、仕事は「リスク評価」なんだということなんですね。なら、最初から「リスク評価委員会」にすればいいだろうというのが、第一ツッコミなんですが、その「リスク評価」というのが、そもそも何なのかというのも見ておかなければなりませんね。

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リスク評価

まず、食品安全委員会の言い分を紹介しておきましょう。<私たちは、一日たりとも食べ物を食べない日はありません。私たちが口にする食べ物には、豊かな栄養や成分とともに、ごく微量ながら健康に悪影響を及ぼす要因が含まれていることがあります。「リスク評価」とは、リスク(食品を食べることによって有害な要因が健康に及ぼす悪影響の発生確率と程度)を科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価することです。評価は、化学物質や微生物等の要因ごとに行われ、本委員会の第一義的な役割となっています。>字面を追っても、いま一、要領を得ないので、日本語に翻訳しましょう。要は、車に乗っていれば事故に遭うことだってある、だからといってこの便利さを手放すわけにもいかないだろう、だから食い物を食う時だって、多少の毒は気にするなってことよ、すぐ死ぬようなのだけは教えてやっからよ、ということです。まあ、酒、たばこの毒性を考えれば、有害性が指摘される食品添加物の毒性だって、かわいいものって話もありますけど、その種の議論というのは統計学的な数字の上の話であって、人間を人間として見ない冷たさがイヤですね。しかも、食の安全には、常に金の話が絡んできます。食品添加物の類というのは、基本的に食品に必要とされるものではなく、食品を工業製品として生産し流通させるにあたって、そのコストを圧縮するため(=売るため≠食うため)に使われるものです。このように、金儲けと安全を天秤にかけるにあたって、金儲けの方に“科学的に”肩入れするのが、食品安全委員会の実際の仕事です。

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食品添加物

食品添加物。まず、法律上の定義を紹介しておきましょう。「この法律で添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物をいう。」(食品衛生法第4条第2項)ですから、定義の上では豆腐の製造に絶対不可欠な「にがり」などの凝固剤も添加物に入ってくるんですが、大部分は、味や色、固さなどを調整したり、日持ちをよくしたりするために添加されるものです。また、同法第11条では、この添加物の成分や使用方法などについて、厚生労働大臣が基準を定める(ことができる)としており、現在、800強の添加物が認可されています。しかし、外国と認可制度や指定品目が違っていたりするために、日本国内では認可されていない無認可添加物が国内で使用されていたり、使用された食品が輸入されることはよくあり、明るみに出ると回収騒ぎになります。近年では、ミスタードーナツの肉まん(中国産)に無認可添加物が使われていたケースや、協和香料化学が生産していた香料に、アセトアルデヒドなどの無認可添加物が使用されており、納入先の菓子メーカー各社に回収騒ぎが拡大したケースなどがあります。ただ、国連の関係機関である食品添加物専門委員会(JECFA)が認定した食品添加物ですら、600近くが日本では無認可であることからもわかるように、「海外では普通に使われている便利な添加物」は数多く存在し、国内でもコスト圧縮のために活用されている例は少なくないようです。

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アセトアルデヒド

2002年08月号参照

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無登録農薬

無認可添加物と似たものに無登録農薬というのがあります。農薬は、農薬取締法に基づいて、危険性などについての実験データを基に3年毎の登録更新を行っていないと、無登録(=違法)農薬となり、使用できません。しかし、危ない農薬ほどよく効くというのは、まったくもって本当の話でして、未登録、登録失効の“よく効くクスリ”が、実際には闇で出回っています。これが明るみに出て、東北の果樹農家を中心に出荷停止の憂き目に遭ったのが、しばらく前のダイホルタン・プリクトラン事件でした。私の実家の山形では、主にこのダイホルタンで主産品のラ・フランス(洋梨)が大打撃を受けましたが、裏事情を聞いて、ちょっと気の毒にもなりました。実は、ダイホルタンを使うと、通常は10回程度行う農薬散布が1回で済むので、人手不足と高齢化に悩む農家にとっては、救いの神のような存在だったんだそうです。そうなると、半分の毒性の農薬を10倍かけた方が安全といえるのだろうか、なんていう疑問も湧いてきたりします。しかし、そんなことより、消費者が不自然にきれいな農産物を求めすぎるからこそ、農家は過剰な労働を強いられ、農薬が不必要に使われ、結果として食の危険が増大するということを、我々はよくよく考えるべきでしょう。食の安全の第一歩は、我々の口に入るものを作ってくれる人々に対して、敬意と思いやりを持つことから始まると、私は思います。

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無登録農薬不使用安全宣言

2003年5月号参照

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