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袋小路派の政治経済学*[グローバリズムからユーバリズムへ]
執筆者  土屋彰久

袋小路派の政治経済学*[グローバリズムからユーバリズムへ]

ユーバリズム

粉飾会計の破綻から、財政破綻が表面化し、今年3月には正式に財政再建団体となった夕張市ですが、その後、様々な支援キャンペーンが開かれたり、一時は立候補者なしかと危ぶまれた市長職にも、統一地方選の際には7人もの候補者が立候補するといった人気ぶりで、外野の目には意外と未来は明るそうに見えたりもします。しかし、実態に目を向けてみると、住民、特に担税能力のある勤労者世帯の流出に歯止めがかからず、また、帳尻合わせのために過大な負担と過小な福祉を無理無理に組み合わせた、到底、実現不可能と見られる再建計画の中身そのものが、再建の大きな壁となりつつあったりと、未来は真っ暗という感じです。でも、“第一号”の夕張市は、まだいいんですね、世間の注目や同情が集まるし、他のライバル再建団体との競争に晒されるのも、まだ先のことですから。むしろ、もっと悲惨な状況、つまり、関心も同情も支援も受けられないまま、過酷な再建計画だけを押しつけられるというような状況が、今後、ぞろぞろと出てくる第二、第三の夕張を待ち受けていると言えましょう。まあ、それも不幸に輪が一つかかるか、三つかかるかというような話でしかありませんが、その大元にある“原始不幸”としての財政破綻には、かなりの共通性が見られます。おいおい、グローバリズムはどこに行ったんだ?語呂合わせのネタで終わりかよ?とのツッコミが返ってくるかもしれませんが、これがまた、大いに関係があるんです。

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グローバリズム  globalism

→2007年03月号参照

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財政再建団体

一般に財政再建団体、あるいは再建管理団体などと呼ばれていますが、法律上は、「準用財政再建団体」という、今ひとつピンとこない呼び方が正式の呼称とされています。これは、1955年に制定された地方財政再建促進特別措置法が、制定当時の赤字団体の救済を第一の目的とした特別法であり、1954年度までの赤字団体を「財政再建団体(法律上、正式の)」とし、以降の年度については、同法の規定を「準用」するとしたために生じている、正式呼称と通称とのズレです。いわゆる“通称”財政再建団体は、同法に基づき、一定の基準を満たした、というか超えた自治体(赤字額が標準財政規模の5%<都道府県>、もしくは20%<市町村>以上)が、総務大臣(以前は自治大臣)に申請した上で指定を受けるものです。ですから、自治体側が申請しない限り、総務大臣の方から勝手に指定してくることはありませんが、赤字団体としての起債の制限などは同じように適用されますので、放漫財政を際限なく続けられるというわけではありません。財政再建団体になると、国の支援措置を受けられるようになりますが、その代わりに再建管理団体とも言われるように、国、具体的には総務相にその財政を厳しく管理されることになります。

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増税なき財政再建

→2006年03月号参照

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標準財政規模

一般的な財政規模というのは、予算の規模を意味しますが、予算には地方債などの借金で賄う分も含まれているので、本来の“身の丈”より大きくなります。これに対して、普通に入ってくる収入を、標準税収入額に普通地方交付税額と地方譲与税を加えて算定したのが標準財政規模という数値で、これを基準として財政の健全性などが判定されます。

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財政再建計画

財政再建団体に指定されると、国の指導の下、財政再建計画が策定され、それに従って超、超々緊縮型の財政が施行されることになります。夕張にとって、直近の先例となる旧赤池町では、当初、12年で32億円の累積債務を償還する予定で、様々な公共サービスの値上げ、廃止と公共料金の値上げ、人件費の削減などが進められました。旧赤池町の場合、元々の標準財政規模が約27億あり、住民も協力的であったことなどもあり、予定より2年早く債務の償還を終え、再建計画を達成することができました。そのため、財政再建の成功例として、同様の悩みを抱える自治体からの視察も相次ぎました。一方、計画を策定中の夕張市では、同様の支出圧縮・収入増加策により、18年で353億の累積債務を償還する予定ですが、そもそも標準財政規模が約45億に過ぎないという、破格の債務超過状態にあるため、あらゆる方策が非現実的なほどに過酷なものとなることが予想されています。実際、すでに採られている様々な福祉の削減・撤廃、大幅な負担増により、脱出する能力のある勤労者世帯はどんどん脱出していっているため、今後の税収の大幅な落ち込みは確実で、計画の達成は不可能と見られています。

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第一号

そもそも地方財政再建促進特別措置法の制定が、特需景気後の不況で大量発生した赤字団体の救済を目的としたものであったことからもわかるように、財政再建団体への転落自体は、先例はいくらもありまして、最近でも福岡県赤池町(平成の大合併後の現在は、福智町の一部)の例がありますので、夕張市は本当の第一号ではありません。しかし、それがまるで“第一号”のようなインパクトを持っているのは、「夕張の前に夕張なく、夕張の後に数多の夕張あり」という状況が透けて見えるためなんですね。つまり、夕張は来るべきユーバリズムの時代の到来を告げる“第一号”だということです。

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平成の大合併

→2004年4月号参照

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夕張の前に夕張なし

夕張の前に夕張なしというのは、以前の例と比べた場合に、夕張に関してはいくつかの際立った特徴が見られ、かつまた、それが深刻なものであるためです。その第一点は、規模です。最近の赤池町、あるいは、申請を表明した後、批判を浴びて撤回した鳥取県日野町などの小規模自治体とは違い、夕張は立派な「市」です。実は、地方財政再建促進特別措置法の制定の制定当初まで遡れば、府県だけでも18もの府県が“元祖”財政再建団体に指定されており、その後も、青森県などいくつかの県も財政再建団体に転落した例があり、単に自治体の規模という話でしたら、別に「市」だからと言って目立つということはありません。しかし、それでもなお夕張「市」の財政再建団体転落は強烈なインパクトを持っています。それは、県もボロボロと財政再建団体に転落していた頃とは、財政のスタイルも規模も変わってきており、赤字の規模で行くと、償還予定額353億、標準財政規模に対する倍率が約8倍と、いきなりどでかくなるためです。また、地域の主力産業である石炭産業の衰退という主要因に関しては共通していますが、旧赤池町が、基本的には地域の経済力の低下による“老衰”的な財政破綻のパターンであったのに対して、夕張の場合、観光事業などの新規事業への積極的な投資が失敗に終わり、しかも、「隠れ起債」、「ヤミ起債」、あるいはよりストレートに「転がし」などと呼ばれる、一時借入金制度を利用した自転車操業により、表面的には黒字財政に見せつつ累積赤字を膨らましていくという、“覚醒剤”的な破綻の道を辿ったために、最終的に累積債務が表面化した時には、632億と膨大な額に膨れあがっていました。

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産炭地域振興臨時措置法

1961年に制定され、同法の規定により2001年に失効した法律です。この法律は、石炭から石油へのいわゆる「エネルギー革命」が進む中で、かつての主力産業であった石炭産業が、構造的不況により苦況に陥る中、石炭産業への依存度が高かった産炭地域において、構造不況の悪影響を軽減することや、代替産業の育成を進めることなどを目的として制定されました。夕張市も、この法律による様々な優遇措置を活用してきたわけですが、同法の失効によって、そのような優遇措置がなくなり、財政の悪化に拍車がかかる結果となりました。この優遇措置の中には、地方交付税交付金の増額のような財政補助的措置もありましたが、新規事業への投資を促進するような投資補助的措置も多くあり、これが結果として無駄な投資を拡大させ、累積債務の膨張につながったこともまた事実です。そして、失効した途端に禁断症状が発症して財政頓死(粉飾会計により表面化は遅れましたが)という経緯を見ても、夕張にとってはこの法律が“覚醒剤”となってしまったようです。

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隠れ起債

現在では、最近のいわゆる「三位一体の改革」による制度変更のため、地方債の発行は許可制から協議制へと変わっていますが、それまでの長い間、市町村の地方債の発行には、知事の許可が必要でした。しかし、夕張市では表の地方債の残高がすでに上限にあったために、通常は短期の資金繰りを前提としている一時借入金制度を、起債と同等の効果を持つ長期の借り入れに利用することで、長期債務を膨らませていきました。このような資金調達の手法は、会計処理の制度上、表面化しにくいため、資金繰りに悩む自治体の間では広く行われていると見られています。この隠れ起債が「転がし」とも呼ばれるのは、年度が切り替わる毎に借り換えて行けば、累積債務の表面化が避けられるためですが、これをやるとサラ金の借金の借り換えと同じで、債務は雪だるま式に膨れあがっていくことになります。そのため逆に、貸し手である金融機関にとっては、自治体という実質的にノーリスクの貸付先に対する貸付を拡大することのできる、実にオイシイ商売であるため、他にいい貸付先のない地域の金融機関は、積極的に営業をかけてくることもあります。夕張市では、財政破綻の発覚時、この一時借入金の残高が292億にまで達していました。

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三位一体の改革

→2005年4月号参照

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空知産炭地域総合発展基金

夕張市の場合、通常の金融機関だけではなく、空知産炭地域総合発展基金という実に都合のいい資金の調達先があったために、債務はさらに拡大を続けることになりました。空知産炭地域総合発展基金というのは、北海道の空知管区の産炭地を対象とした開発基金ですが、今回の事件をきっかけとして、夕張市の他にも、芦別、三笠、赤平、歌志内の四市、そして上砂川町が、程度の差こそあれ、同様の借り入れを行っていたことが表面化し、夕張に続く財政再建団体への転落が懸念されています。夕張の後に第二、第三の夕張ありというのは、一つには、周辺の自治体にこのような類似の状況が見られるためです。

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空知

そらち、と読みます。空知支庁は、北海道の中央部よりやや西方に位置し、東西70km、南北180kmに及ぶ広大な内陸地帯で、中央を石狩川が縦走し、南西部にかけて豊かな石狩平野が広がっています。総面積は、6558平方キロで、ほぼ島根県に匹敵し、東京都の約3倍の広さになります。支庁所在地は岩見沢市。

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構造不況業種

夕張市がこのような苦境に陥った第一の原因は、同市の最大にして唯一といってもよかった産業である石炭産業が、エネルギー革命の下で進んだ脱石炭の流れの中で衰退どころか、消滅してしまったことにあります。一時は10万人を超えていた同市の人口が、閉山や事業所の閉鎖が相次いだ結果、現在では最盛期の10分の1以下の1万人程度にまで減少してしまったことからも、その影響の大きさがわかると思います。石炭産業は、鉄鋼産業と並んで、かつては、この国の工業化の原動力となった最重要産業でしたが、産業構造の変化に伴い、構造不況業種へと転落し、そこにエネルギー革命が追い討ちをかけたために、同じ構造不況業種であった“盟友”の鉄鋼や造船、海運が中国の急速な経済発展に引っ張られる形で息を吹き返したのとは裏腹に、一人、奈落の底に転落して行きました。

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不況業種

→2002年12月号参照

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炭坑から観光へ

石炭産業に代わる産業を、ということで、夕張市が掲げたスローガンが、この「炭坑から観光へ」でした。このような基本路線の下、産炭地域向けの優遇策により確保された潤沢な資金を基に、多方面に多大な投資が重ねられ、市内には30カ所を超える観光施設が建設されました。そして、最盛期には年間200万人を超える観光客を集め、地域活性化のモデルとして国から表彰を受けもしました。しかし、このような表面的な成功は、一面ではバブル景気という時代の追い風、もう一面では、20億投じて10億を回収するような、決して帳尻の合うことのない過剰投資によって支えられたものに過ぎず、バブルの追い風が長期不況の向かい風に変わって以降、赤字は急速に拡大していきました。そして、同じような観光テコ入れに全国の地方自治体がこぞって乗り出したこともあって、国内市場においては観光産業は圧倒的な供給過剰に陥り、また、円高の進行や海外旅行の容易化も手伝って、海外の観光地との競争にも晒されることになり、頼みの綱であったはずの観光産業もまた、新たな構造不況業種の仲間入りとなってしまいました。

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