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嗚呼、幻の南セントレア市
執筆者 土屋彰久

幻の南セントレア市と「自治」にまつわることば

セントレア/トヨタ空港

事の発端になったとも言えるセントレア。正式名称は中部国際空港で、伊勢湾東部の常滑市沖約4kmに最近完成した海上空港です。同じ3セクながら、特殊法人型の関空が、そのお役所的経営で高コスト体質に陥っているのに対して、セントレアは、民間出資を50%とすることで民間会社型の形態をとり、民間の合理的な経営手法を前面に打ち出しています。社長もトヨタの元役員であるように、地元の巨大企業トヨタの影響が非常に強く、陰では「トヨタ空港」とも呼ばれています。便器の納入さえ、地元企業のINAXに一切、配慮せずに、最安値入札のTOTOに決めるなど、トヨタ流の徹底したコストカットで、ライバルの成田や関空に比べて、着陸料は7〜8割程度に抑えて、経営陣は鼻高々ですが、それでも韓国の金浦空港などと比べると、まだまだ倍以上ですので、国際競争は厳しいと言えましょう。

また、「金は、かけるところにはかける」と豪語して、各種飲食店、土産物店など空港の定番出店にも趣向を凝らし、さらに目玉として展望風呂を設置するなどオヤッジィな企画も取り入れ、とりあえず物見高い見物客だけは集めて、今のところは連日盛況のようです。しかし、設計段階では見過ごされていた冬季の横風の強烈さに、実は航空関係者は戦々恐々で、国際線の定期便を順調に獲得できるかどうかは、予断を許さない状況となっています。横風用滑走路を新設すれば、問題は解決されますが、そうすると新たに莫大な費用がかかり、「低コスト経営」の看板を返上しなければならなくなり、経営状況の悪化は必至です。着陸料に比べれば、見物客の落とす金なんて、微々たるものです。

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横風用滑走路

飛行機は、ある程度以上の横風を受けると、機体制御が不安定になり、離着陸が極めて危険になります。そのため、基本的には20ノットを超える横風の発生率が5%以下など、ガイドラインに沿って候補地が選ばれますが、大型空港の場合、大抵は横風用滑走路を持っています。しかし、横風用滑走路を用意しても発着本数が増えるわけではないので、コスト的には無駄の多い保険的投資となります。そのために、地方空港のような小型空港は、滑走路は一本のことも多く、大型空港でも、着陸用、離陸用に続く3本目の滑走路として建設されることが多いようです。横風が強過ぎる場合、離陸は延期すれば済みますが、着陸の場合には、他の悪天候時と同じく、しばらく旋回飛行を続け、回復の見込みがないようだったら、最寄りの着陸可能な空港に向かいます。

その名が示すとおり、国際空港、それもゆくゆくはハブ空港を目指すというセントレアの場合、乗り換えに大きな支障を来す着陸変更が頻発することは、けっこう致命的な問題と言えます。

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3セク(第3セクター)

「3セク」という略称がすでに一般化していますが、これは「第3セクター」を縮めたものです。第3セクターというのは、経済主体の分類における、第1セクター(公的部門、公共部門)、第2セクター(私的部門、民間部門)に続く三つ目の部門という意味で、公的部門と私的部門の中間的存在を意味します。具体的には、国や自治体などの公的部門と民間企業など私的部門との共同出資による事業体という形をとります。

かつては、「半官半民」という言い方がよくされていましたが、これは、まだ法的規制など、制度上の理由からこうした事業がごく限られていた頃のことで、「民間活力導入」のかけ声で3セク設立を容易にする法律が制定されてから全国でブームとなり、「3セク」が一般化しました。事業体の形態は、公社の形をとることもあれば、株式会社の形をとることもあります。

3セク・ブームの当初は、公行政と民間企業のいいとこ取りのような話でもてはやされましたが、実態はその逆、つまり悪いとこ取りになることが多く、安易に作られた3セクが、そこらじゅうで問題を起こしています。これは、公行政の悪い部分、すなわち腐敗体質、放漫経営という部分と、民間の悪い部分、すなわち経営内容の不透明さ、役員による経営の私物化という部分を併せ持った上に、3セク特有の責任の不明確さ、議会による監視のしにくさが追い討ちをかけて、関係者がよってたかって食い物にすることが可能となっているためです。

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平成の大合併

国は、市町村合併により地方自治体の経済的合理化=低コスト化を進めるため、市町村合併特例法というアメをぶら下げる一方で、補助金削減などのムチを振るって、自治体を合併に追い立てて来ました。これによって、日本全国に合併ブームが起こっており、合併特例法の期限切れまでに、自治体の数は3100程度から1700程度へ4割程度も減ると予想されています。

合併特例法は2005(平成17)年3月を期限として、合併後も一定期間、議員の定数や報酬を維持する在任特例や、合併特例債などによる財政支援をアメとして用意しており、とりあえず議席と報酬を確保したい議員や、合併特例債でハコモノを作りたい首長を駆け込み合併に駆り立てています。

しかし、こうした私利私欲だけで一部関係者が突っ走る結果、住民の反発を買い、いざ住民投票の段になって反対多数で挫折する例もけっこう出てきており、そうそう予定通りには運んでくれなさそうな雰囲気です。ただ、その場合、国はおそらく合併特例法の期間延長で対応するものと予想されています。

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ハコモノ行政

ハコモノ行政というのは、土建屋行政と揶揄される日本の自治体行政において、道路行政、ダム行政と並ぶ一つの定番スタイルで、とにかく、あれこれ理由を付けては、ハコモノ、すなわち大型建築物を建設する行政スタイルのことを言います。

このハコモノ行政は、国の補助金行政によって支えられている側面が強く、国が設定する基準に合致した計画をでっち上げて、とにかく地方に金を引っ張ってくる手段として活用されています。そのために、そのハコモノの必要性、経済的合理性などは、非常にいい加減に見積もられて、計画が立てられます。結果として、建設費用も運営費用もバカ高になりながら、利用者はちらほら、などという「公共施設」が日本中にポコポコ、ニョキニョキとおっ立つことになるわけです。それでも、性懲りもなくこうしたハコモノ行政が続けられるのは、それは建てること、つまり建設業者に金を回すことに、ハコモノ行政の意義があるためです。

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自治

自治は「自らを治める」と書くように、自己統治というのが基本的な意味です。通常「自治体」や「自治会」といった用法でしか目にしないために、「自治」は軽いものと思われがちですが、自治の理念は、治者と被治者が同じでなければならないという民主主義の根本理念であって、本来は非常に重い意味を持っています。

一方で、私たちになじみの深い「自治体」の「自治」は、この自治の理念に直接に由来するというよりも、「地方自治制度」から来ている「自治」なので、それはごく限られた制度的な意味での「自治」でしかありません。もちろん、それが「自治」である限り、間接的には自治の理念とつながりますが、日本の地方自治の現状を見る限り、根本的な自治の理念を踏まえて運営されているようには見えません。

また、自治とは他治、すなわち他者による統治を否定するものなので、国や県といった上級機関の監督の下での自治というのは、実はおかしな話でして、本来は、そうした他者が口出しできない領域が、自治の領域ということになります。

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自治体

よく自治体、自治体と言われますが、カタい言い方をすると地方公共団体となります。具体的には、市町村と都道府県、そしてこれらが作る組合がそれに当たりますが、通常は、市町村の意味で言われます。これは、私たちが何か用があれば市町村の役所、役場に行き、また、もっとも身近な選挙がこれら議員、あるいは首長の選挙であることからもわかるように、市町村が行政と自治の基本単位となっているためです。

ちなみに、もうひとつ「区」というのがありますが、通常の政令指定都市に関しては、行政上の単位でしかなく、東京都の区のみ、市町村と同等の自治体(特別区)となります。

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地方自治の本旨

日本の地方自治の制度は、憲法上の規定によるもので、そこでは地方自治制度の原則を「地方自治の本旨」という表現で言い表しています。ただし、実際にこの「地方自治の本旨」が、どういう意味を持つのかについては、憲法学者の間でも争いが続いています。教科書的な説明では、「住民自治」と「団体自治」の原則が具体的内容であるとされていますが、「本旨」というわけですから、本来はもっと根本的な理念です。そして、その根本理念を巡ってですが、地方自治の権利は住民固有の権利、すなわち人権に近い前国家的な権利であり、憲法の条文はその存在を再確認したにすぎないという説と、地方自治は、憲法上の制度としてその存在を保障されているにすぎないという説とが対立しています。

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住民自治

住民自治の原則というのは、その自治体に関する決定は、その自治体の住民が行うという原則です。

住民自治の典型は、やはり住民投票です。最近では、市町村合併などで住民投票が活用されるケースが目立って増えてきていますが、長らく保守系勢力から毛嫌いされてきたこともあって、いまだに特別の条例の定めがない限り、法律上の例外を除いて、住民投票に法的効力は認められていません。

これは、下手に住民投票にかけられると、保守系の政治家達が数の力で押し通した利権がらみのプロジェクトが、御破算になってしまう可能性があるためです。実際、原発誘致やダム建設など、様々なプロジェクトを巡って、市民グループ・革新野党と関係業界・保守与党が住民投票を挟んで対峙する構図が繰り返され、反対多数の住民投票の結果を無視してのプロジェクトの強行も、幾度となく繰り返されてきました。

このように日本の利権政治の政治文化の下では、住民投票は目の上のたんこぶでしかないために、今日まで制度化が進んでこなかったというのが実状です。

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団体自治/3割自治

団体自治の原則というのは、自治体が、国や県からは独立した別個の団体として、独自に判断、行動するというものです。

明治政府が、ガッチガチの中央集権体制を作り上げて以来、この国の行政文化は上意下達の中央集権型に固まってしまいました。新憲法制定に始まる戦後の民主化で、一時は地方分権が進みましたが、すぐに揺り戻しが来て、集権化の動きが強まりました。そのために、県は国の、市町村は県の出先機関のような状況で、本来の主体性を失っています。実際、自治体の自主財源は平均で財政規模の30%程度にしかとどかず、そうした実態を表す言葉として「3割自治」という言葉が定着しています。しかし3割自治の状態は、「国と地方のパイプ」を強調する、利益誘導型の政治手法には、むしろ都合がいい側面もあるために、自治体の首長など、口先で言うほどにはこのような状態を改善したいとは思っていません。

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三位一体の改革

小泉政権の目玉政策の一つとして打ち出された、地方自治財政の改革政策で、実態は他の政策と同様の羊頭狗肉パフォーマンスです。

表向きは、地方分権を進める上で、それを支える自治体の財政上の独立性を高めようということで、(1)補助金の削減、(2)地方交付税制度の改革、(3)税源委譲の三つで、三位一体ということになっています。ちなみに、地方交付税というのは、自治体間の税収格差を是正するために機械的に徴収・再配分される財源で、性格的には自主財源に近いものです。

三位一体の改革は、分権化を推進するというタテマエになっていますが、実際は、税源委譲の額は補助金の削減額を下回る予定で、自主性は上がるが収入は下がるという、自治体の側にしてみれば、けっこう詐欺的なボッタクリ政策と言えます。このような政策が進められる背景には、国と地方に共通する財政赤字の問題があり、とりあえず地方を上手に切り捨てて、中央政府の財政破綻を先延ばししたいという財務省筋の思惑があります。

この改革が実現すれば、自治体の財政破綻=財政再建団体への転落は頻発し、自治体は国の財政管理の下、最低限の行政サービスしか提供できなくなり、住民の生活が圧迫されることになりますが、その影響はその自治体の内部に限定されるために、中央の行政への悪影響は遮断することができます。要は、国から地方への遠回しのツケ回しということです。

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