「国家試験受験のためのよくわかる会社法」第7版をお使いの方へ ~令和元年改正会社法情報
「国家試験受験のためのよくわかる会社法」第7版をお使いの方へ
令和元年成立の改正会社法が、一部の規定を除き、令和3年3月1日より施行される運びとなりました。「国家試験受験のためのよくわかる会社法」第7版(以下「同書」といいます)は、出版時期の関係から同改正法の内容に対応していない部分があります。そこで、同改正法の内容について、司法書士試験、行政書士試験、公認会計士試験等に必要と思われる範囲内で同書の該当頁を示したうえ、改正内容の概略を記しておきますので、参考になさってください。
1 株主総会関連の改正
①株主提案権に議案数の制限が付加された(同書153頁)
取締役会設置会社において、一人の株主が議案要領通知請求権を行使して提案できる議案の数は、一株主総会あたり10個までに制限されることになりました(305条4項)。つまり会社は、株主から提示された10を超える数に相当する数の議案を拒絶できるということです。どの議案を「10を超える数に相当することとなる数の議案」とするかは、取締役が定めます(同条5項本文)。つまり、株主に要領を通知すべき10個の議案は取締役が選択することができます。ただし、株主が議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役はその順位に従わなければなりません(同条5項ただし書)。
②株主総会資料の電子提供制度が創設された(同書160頁)
株主総会の議決権について、書面による行使または電磁的方法による行使を認めた場合、株主総会参考書類や議決権行使書面等の株主総会資料を招集通知とともに送付すべきことが義務づけられています。株主総会資料は書面による送付が原則とされていますが、例外的に電磁的方法により株主総会資料を提供するときは株主の個別の承諾を必要とします。
これに加え、会社が株主総会資料を自社のホームページのウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する等の方法により、株主の個別の承諾なく株主に対して必要な情報を提供したものとする制度(電子提供制度)が創設されました(325条の2)。この方法を採用するには、株主参考書類等について電子提供措置をとる旨を定款で定めれば足ります。上場会社は、この電子提供制度の採用が義務づけられます。
この制度については、他の改正事項と異なり、令和3年3月1日時点で未施行です。令和5年中に施行されるとの情報が有力のようです。したがって、当面は、試験との関わりを気にする必要はありません。
2 取締役関連の改正
①取締役の欠格事由から成年被後見人等が外された(同書177頁)
成年被後見人および被保佐人であることが取締役の欠格事由とする規定が削除され、成年被後見人や被保佐人も取締役に就任する道が開かれるとともに新たに次のような規律が設けられました。まず、成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が成年被後見人の同意(後見監督人がある場合には成年被後見人および後見監督人の同意)を得たうえで成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければなりません(331条の2第1項)。被保佐人は、保佐人の同意を得て就任の承諾をすることにより取締役の地位に就くことができます(同条2項)。民法の規定に基づき代理権を付与された保佐人が被保佐人に代わって承諾する場合は、被保佐人の同意を必要とします(同条3項)。これらの規定を遵守して取締役に就任した成年被後見人または被保佐人が取締役の資格に基づき行った行為は、行為能力の制限を理由として取り消すことができません(同条4項)。
②上場会社について、社外取締役の設置が義務づけられるとともに、一定の業務執行について社外取締役への委託が可能とされた (同書211頁)
上場会社等(公開会社かつ大会社である監査役会設置会社であって、金融商品取引法による有価証券報告書の提出が義務付けられている会社)においては、社外取締役を設置しなければならないこととされました(327条の2)。これは、以前から懸案となっていた上場会社等における社外取締役の設置を義務づけるものです。また、社外取締役を置いている会社は、会社と取締役(指名委員会等設置会社では執行役)との利益が相反する状況にある場合、その他取締役(指名委員会等設置会社では執行役)が会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、その度ごとに取締役会決議により、社外取締役に業務の執行を委託することができることとされました(348条の2第1項)。これは、会社と取締役との利益相反取引はもとより、MBO(マネジメントバイアウト)のような株主と取締役の利益が相反する特殊な取引の場面で社外取締役の活用を意図するものです。社外取締役は本来、会社の業務執行を行うことができないとされていますが(2条15号イ)、この委託された業務を行っても、禁止された業務執行には当たらないとされています(同条3項)。
④会社補償および役員等責任保険契約が明文化された(同書262頁)
会社補償とは一般に、会社が役員等に対し、その職務の執行に関して発生した費用や損失の全部または一部を事前または事後に負担することをいいます。 役員等賠償責任保険とは、役員等がその職務の執行に関し負担する損害等を填補するために、会社が役員を被保険者として保険者(保険会社)と締結する契約です。補償契約の内容の決定および役員等賠償責任保険の内容の決定は、どちらも株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません(430条の2、同条の3)。その他細かい手続規定等が定められていますが、さしあたっては、その内容に立ち入る必要はないと思われます。
3 社債管理補助制度の創設(同書129頁)
会社は、募集する各社債の金額が1億円以上である場合等社債管理者の設置が不要である場合(702条ただし書参照)でも、社債の管理を適正かつ効率的に行うため、社債管理補助者を定め、社債権者のために、社債管理の補助を行うことを委託することができます(714条の2)。社債管理者は一定の場合に設置が義務づけられますが、この社債管理補助者は、任意の制度です。「補助者」という名称からわかるとおり、この制度は社債権者自身による社債の管理が前提となっていますから、社債管理補助者の権限は社債管理者に比べて限定的です。
4 会社を原告とする責任追及の訴えにおいて和解をする場合、監査役等の全員の同意を要することとされた(同書255頁)
会社が、取締役、執行役および清算人ならびに過去にそうであった者の責任を追及する訴えにおいて和解をするときは、会社の形態に応じて、それぞれ監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては各監査役)、各監査等委員、各監査委員の同意が必要とされました(849条の2)。
5 株式交付制度の創設(同書347頁)
株式交付とは、株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することです(2条32号の2)。この制度は、既存の会社間で親子会社関係を創設することを目的とするという点で株式交換に類似しますが、株式交換の場合のような完全親子会社関係の創設までは企図しない場合に用いることのできる制度です。
手続の流れとしては、まず株式交付親会社が、一定の法定事項を定めた株式交付計画を作成します。この株式交付計画は、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認を必要とし(816条の3第1項、309条2項12号)、反対株主には株式買取請求権が認められます(816条の6)。その後は、株式交付親会社から株式交付子会社の株主への通知→株式交付子会社の株主からの譲渡の申込み→株式交付親会社による同社株式の割当といった一連の手続を経て、株式交付子会社の株主は、効力発生日に、株式交付親会社の株主になります(774条の2~同条の11)。
文責 神余博史