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〈ブーム〉の反対語=〈××離れ〉〈脱××〉〈失われた××〉の用語集
―― 衰退は復活のはじまり
 

失われた××

父性喪失の時代

1974年版本誌収録。以下、

家父長制をもちだすまでもなく、昔はどこの世界でも、父親の権威は絶対的なものであった。ところがいま、明らかに父親の権威は失墜し、喪失しようとしている。職住分離、精神労働の増加などによって、子供は父親の社会における闘争を具体的に把握できず、精神的にも物理的にも父親を喪失してしまったのだ。実質的に社会経験をもたぬ若者が、家庭経験から得た失望、怒り、攻撃欲から、社会に対する過激的な行動に出るという理論も、あながちこじつけとはいえないだろう。親子の断絶という問題は、家庭構造ばかりでなく、社会構造にも原因がある。

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母性喪失の時代

1972年(1974年版本誌収録)。以下、

母親が自分の子供をいじめ殺したり、捨て子をしたりする事件がこの数年激増している。物質的にも繁栄している現代の世相だが、精神的には、捨て子が横行した終戦直後の荒廃によく似ているという。母性愛の美しさ、尊さがうたわれたのは過去の時代で、いまは母親になる精神的用意もできぬうちに子供を産むようなぐあいだから、しまつに困って殺したり捨てたりすることになる。価値観が変わったといっても子供がかわいくない母親はいないはず。母子家庭に対する国の福祉が行き届いていないのが、大きな原因のひとつだろう。

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子ども時代の喪失

1986年版本誌収録。以下、

子どもの姿を根本から問い直そうとする研究の成果が目につく。子どもが群れを作って遊ぶ、あるいは、いつも空腹だという。そして、何かをしようとして、チョロチョロする。こうした子どもらしさが見受けられなくなった。そうした変化に気づき、かつての子どもの姿をとらえ、それとの対比のなかで、現代の子を理解しようという動きが生ずる。アリエスの「子供の誕生」(みすず書房)が、そうした子ども研究の先駆的な著作であろうが、その他にも、マリー・ウインの「子ども時代を失った子どもたち」(Children without Childhood, 1981年 サイマル出版)、「子供はもういない」(The Disappearance of Childhood, 1982年 新潮社)の訳書など、子ども時代の行方を探ろうとする著作の刊行も進んでいる。

さらに日本でも、中内敏夫を代表とする「産育と教育の社会史」編集員会の刊行した「子どもの社会史・子どもの国学史」など5冊の叢書(新評論社)、岩田慶治をコーディネーターとする「子ども文化の原像」(日本放送出版協会)、さらに、教育史関係の研究者が協力した「世界子どもの歴史」(第一法規11巻)など、意欲的な研究所が続いている。逆にいうなら、子どもの変化が研究者の心をとらえ、そうした研究が進むほど、子どもの様変わりが深刻化していると要約できよう。

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学級崩壊

2000年版本誌収録。以下、

1997(平成9)年頃からマスコミで、「学級崩壊」という新たな現象がしばしば取り上げられるようになり、文部省も実態把握を始めた。東京都教育庁が99年に都内の全公立小学校を対象に行った調査では、「授業が始まっても着席しない」「担任に反抗的な言動をとる」「気に入らないと大声で泣き、暴れ、授業がしばしば中断する」など、複数の児童の自己中心的な行動や学習規律の乱れのために一定期間授業が成立しないなど、運営が困難になった学級があるという回答が全体の2割を超え、高学年ほど目立っている。

学級崩壊の定義は明確ではないが、小学校を中心とする現象として広がっており、特定の困難な児童の問題というよりも授業不成立などの学級運営全体の問題としてあらわれること、ベテランの教師でも対処できず休職を余儀なくされるなど極度の疲労状態に陥ることなどが指摘されている。学級崩壊は一人担任制の小学校で顕著な現象であるが、中学校においても校内暴力が増加し、すぐ「キレ」るなど「新しい荒れ」が広がっており、また幼稚園・保育園など幼児期の集団生活の場でもパニックを起こしたり、コミュニケーションがとれない子どもが増えているといわれる。多動などの情緒障害、家庭における虐待などの原因がある場合もあり、子どもの発達阻害の問題が個々の教師の力量の限界を超えて複雑化しており、状況は深刻である。

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第2次反抗期の喪失

1993年版本誌収録。以下、

従来の発達理論によると、中学生となる頃から第2次反抗期が始まる。それまで親に依存していた子が自立しようとする時、親からの影響が大きいだけに、親の存在が成長の妨げになる。そこで親に生理的な反発を示す。それが第2次反抗期で、これは、自立する過程でみせる一過性の反抗のスタイルで、子どもが成長するために避けて通れないと考えられていた。しかし、このところ、そうした反抗を見せる子どもが少なくなりつつある。父親にやさしさがまして、子どもの反発をそそらなくなった。あるいは、母親の権威が増し、母の存在を軽視できなくなったなど、反抗期の喪失を促進した背景は多様であろう。しかし、いずれにせよ、現在、小学校の高学年から20代の前半までかかって自立するというなだらかな反抗のスタイルが顕著になりつつある。モラトリアムやスチューデント・アパシーなど、青年期の自立の遅れや無関心さが指摘されることが多い。それらは第2次反抗期の遅れの延長線上に登場してくる現象と考えられる。

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家庭・家族の“崩壊”現象

1989年版本誌収録。以下、

1980年頃からマスコミで言われるようになった。当時は離婚率が毎年戦後最高を更新し、一方では家庭内暴力が顕在化し、単身赴任が新たな問題としてクローズアップされていた。1983(昭和58)年の「国民生活白書」では初めて「家庭・家族」にポイントを置いて取り上げている。こうした家庭“崩壊”の根底には、高度経済成長によって顕著になった職住分離、性解放の影響、家事の商業化など、産業化の進展により、従来の家族を結びつけていた諸機能が外部化し、家族関係が希薄になったからと言われる。しかし一方には、この現象を“個人の誕生”を促すものとして、肯定的に捉える見方もある。一時は家族“崩壊”のあらわれと見られた別居結婚、婚姻届を出さないカップル(別姓結婚)、未婚の母、シングルなどを“新しい家族”としてとらえる動きも出てきている。

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ロスト・セックス(lost sex)

1951年版本誌収録。以下、

「失われた性」の意。戦後新憲法で男女同権が認められて以来、国会議員その他に婦人の進出目覚ましく、各方面で大いに活躍しているのはいいが、彼女たちは次第に女らしさを失って中性化しつつある。結婚によって男子に隷属することを嫌って独身主義でとおすものもあれば、心ならずも婚期を逸してしまうものもある。

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ヤクザの崩壊

1993年版本誌〈社会風俗用語〉収録。以下、

「暴力団新法」が施行された。これも“バブルの崩壊”と同じで、一部の当事者を除いて実態はストレートには伝わってこない。静かに、ゆっくりと、そう言えば…という感じで思いあたるような現象が事故の後遺症のごとくに、身のまわりに目立つようになる。拳銃と実弾をコインロッカーに置き捨てる組員の事件、などが各地で相次ぐようになった。またソビエトの崩壊によって流れてきたとされるソ連製のトカレフ銃が、暴力団の崩壊で巷に流れ、それを使用した現金強奪事件などが発生した。“民暴”を扱った映画「ミンボーの女」の監督・伊丹十三が組員に襲撃される、というような事件も起こっている。

言われてみれば、ひと頃よりも町なかでそれっぽい人たちを見掛けることが少なくなったような気もする。「新法」の施行によって、実際どのように打撃を受けているのか、詳しいところは全くわからないのだが、たとえば神社の祭りからその種の人たちが営む露店がめっきりと減った。町内会が運営するような学園祭じみたクレープやたこ焼きの屋台が目につく。ありがたくもあり、少し町の色気がなくなったような寂しい気もする。

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バブルの崩壊

1993年版本誌収録。以下、

日銀は、1989年には5月を皮切りに3回、90年には3月、8月と公定歩合を引き上げて6.0%とした。それが、バブルの弔鐘になった。89年末に3万8915円という最高値をつけた株価は、90年に入って下げ始め、10月1日には一時的に2万円を割る事態になった。さらに92年4月には1万7000円を割り、8月18日には1万5000円を割った。また、90年夏頃から、東京をはじめ大都市の都心部の地価が上げ止まり、ないしは低下の傾向を見せ始めた。

こうした中で90年の秋から、それまで過度な不動産投資を展開していた企業の資金繰りの破綻が出始め、また金融機関によるルーズな土地融資が明るみに出てきた。他方では株価の低落で損失を出した大口投資家に対しては証券会社などが損失補填をしていたことも明らかになった。こうした一連の「銀行・証券スキャンダル」は、個人株主の株式市場離れをひき起こした。安定株主工作として企業間の株式相互持ち合いの程度が高い日本の株式市場では、個人株主が市場からリタイアしたのでは、なかなか浮上のきっかけがつかめないでいる。

それに、金融自由化によって株式市場の国際化が格段に進んだことが、日本の株式市場の不安定性を増す可能性も高い。また、株式指数先物取引によって実体経済と無関係に株式市場が大揺れする懸念も強い。ワラント債の償還問題を重視する見方も消えない。株価の回復には、多くの課題があると言わなければならない。

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