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さてさて、政権交代
執筆者 土屋彰久

さてさて、政権交代

スイング  swing

今回の政権交代劇は、小泉劇場がもたらした巨大な逆波に自民党自身が飲まれたようなところがあります。郵政民営化選挙での爆勝劇からの揺り戻しが大きく出たということで、このような現象は振り子現象、あるいはスイングなどと呼ばれます。ただ、これを単純にスイングと理解してよいのかというと、そうとも言えないところがあります。スイングは、基本的にわずかの票の移動で勝ち負けがはっきり出やすい小選挙区制の下で、スイングボーター(層)と呼ばれる浮動票ないし無党派層が、前回と反対の投票行動をとることで発生します。ところが日本の場合、本当の意味でのスイングボーターは少ないので、スイング現象の前提条件が満たされていないとも言えます。→スイングと無党派層

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スイング現象

2005年09月号参照

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スイングと無党派層

今では世論調査で最大勢力となっている無党派層ですが、中身は保守無党派層と革新無党派層に分かれており、本当の意味でのスイングボーターは保守無党派層の一部に限られ、そのスイングだけで勝敗を大きく左右するほどのインパクトはありません。得票率の推移を見ると、勝った民主党は過去に比べて大幅な伸びを示しています。これはストレートに解釈すれば、今までは自民党に入れていた人々(つまり、スイングしない層)が初めて民主党に入れた結果と見ることができます。この自民離反層が保守無党派層としてこのままスイング層に加われば、後から見ればこれは振り子の振り始めだったということになりますが、それでも前回からの振り戻しとはなりませんよね。→離反の原因

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無党派層

→2005年09月号参照

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自民離反層

離反層というのは、基本的には一回こっきりのものです。ですから、一回の選挙結果には大きなインパクトを与えますが、その後は元の鞘に収まったり、あるいは無党派層に吸収されたりと分散するので、「影響力のある一団」ではなくなります。ここを見誤ると、次の選挙でこけることにもなります。以前の例としては、自社さ連立政権で社会党に愛想をつかした支持層が社会離反層として、一部が一時的に共産党の投票層(支持層ではない)に流れ込み、共産党の躍進を演出したことがあります。今回は、特に農村部において自民離反層が大量に発生し、民主投票層に流れ込んだと見られています。農村は、都市と違って経済の政策依存度が高いので、気楽に無党派層になれるようなものでもありません。なので今回発生した自民離反層は、そのまま民主支持層に入るか、あるいは自民支持層に舞い戻るかの二者択一になる可能性が高いでしょう。こうした自民離反層の特性を考えると、次回の選挙へ向けての戦略は、スイングをどうする(待つ、作る、防ぐなど)といった話とは別の次元で練る必要がありますね。

離反の原因

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離反の原因

今回の自民離反層は、小泉政権のネオリベ政策の下で直接的な不利益を被り続けたことから、我慢も限界に達して重い腰を上げたというところがあります。農村は、長年に渡って自民党の強固な支持基盤でした。ですから、少々のことでは自民党から離れなかったのですが、「自民党だから」と信じて(もしくは惰性で)投じた一票は、前回の選挙では小泉政権の後半から強まった規制緩和&地方切り捨て路線を追認する一票として扱われ、以後、さらなる追い討ちを招く結果となってしまいました。これはさすがにこたえたようで、食うや食わずのところまで追いつめられて、離反の踏ん切りがついたようです。→初投票層

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初投票層

今回の選挙結果にインパクトを与えた要素として、私は自民離反層に加えて初投票層の動向にも注目しています。初投票層は、教科書的には初めて選挙権を得て投票にいく新有権者となりますが、実態は異なっています。世代別の投票率を見ると、20、30代で30%台、40代で40%台と、40代以下の層では<投票にいかない習慣>の人の方が多数派です。世代別投票率は、その後70代まで大体年齢と投票率が同じような感じで上がっていくのですが、これは少しずつ<投票にいく習慣>の割合が増えていっていることを意味しています。ここでの、<初投票>の意味は、この習慣の切り替わりとなる投票というように考えてみてください。つまり、「これからはこの一票で一言言わせてもらうぞ」というような意識を持って行くようになっての最初の投票です。

初投票層の疑似スイング

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初投票層の疑似スイング

初投票層としての若年層に目をつける戦略が図に当たったのは、小泉自民党がその戦略を採用して圧勝した前回の衆院選が最初と言えましょう。この時の自民党圧勝を支えた要因の一つが、初投票層の支持率の高さでした。しかし、その後自民党政権が進めた政策は、初投票が多い若年層の生活をさらに苦しくするようなものでした。そのため、4年間生活苦にあえいだ前回の初投票層の多くは、政治に失望して無投票層に戻るか、あるいは民主党支持に回り(これは普通のスイング)ました。そして今回の初投票層は、生活苦にたまりかねて投票に行くことにしたというわけで、これまた民主党に入れました。そのようなわけで中身は入れ替わっているんですが、初投票層として見るとスイングを起こしたようにも見えます。

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