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不正事件で注目を集めた企業をめぐる用語集

リクルート事件とその周辺の用語集

リクルート事件

1989年版本誌掲載。以下、

大手情報産業リクルート(本社、東京・中央区)の江副浩正会長(52)が子会社リクルートコスモスの値上がり確実な、店頭登録前の株(非公開株)を政治家、公務員、マスコミ、金融機関幹部ら76人にばらまいた。譲り受けた人たちは、公開後高値で売り抜けて数千万から億単位の金を手にしていたことが表沙汰になり、リクルートの賄賂疑惑が持ち上がった。リクルートはこの株の分配理由を「売却して減益決算を防ぐため」「安定した株式づくりの為」としているが、譲り受けた人の大半はリクルートの子会社の融資付で買い、公開後すぐに売却、まさに濡れ手にアワ。この疑惑は6月18日、川崎市の小松秀熙助役(6月20日、解雇)が譲渡を受けて1億円を超す売却益をあげていたことから表面化した。政界ではこれまで秘書などを含めて名が挙がったのは竹下首相、中曽根前首相、宮沢蔵相、安倍幹事長、渡辺政調会長から民社党・塚本委員長にまで及んでいた。彼らはこの未公開株が「インサイダー取引(未公開情報を利用した不公正取引)禁止」の法律に抵触しないことから強気で「秘書のやったこと」、「純然たる商取引」などと弁解。国会では株譲渡者リストの公開、江副前会長(7月6日、会長職辞任)の証人喚問などを要求する野党の疑惑追及を自民党は突っぱね、この事件もまた、雲散霧消するかと思われた。ところが、リクルートコスモスの松原宏社長室長(47)が社民連の楢崎弥之助代議士に一連の疑惑追及に手心を加えて欲しいと500万円の現金供与を申し出される新疑惑が暴露された。楢崎氏は9月8日、松原新室長(9月5日事件発覚で辞任)と池田友之社長(49)と江副前会長の3人を贈賄罪で東京地検に告発した。新疑惑では楢崎氏は松原氏との会談をビデオに収めたり、弁護士を同席させる周到ぶり。その会談で松原氏は「(金ではなく)本当の手土産」「助けて頂ければ一生ご奉公」などと語っているが、ビデオを撮られていたのを知って、氏は「はめられた」と釈明。これは何を意味するのかは明らかではない。江副前会長への臨床質問でもリスト公表問題は進展しなかったが、いずれにせよ、これで刑事事件として真相の究明がなされる。

さて、リクルート社。就職情報だけでなく、結婚、自動車、ビジネスなど幅広い情報サービスを行う。近年は『R25』『ホットペッパー』などのフリーペーパーのヒット(?)で話題。『R25』は創刊時から「ターミナル駅に配付すると同時に飛ぶように捌けていく」と話題に。2006(平成18)年4月には高校教員向けフリーマガジン『R−T(アールティーチャー)』を創刊するなどその勢いはとどまるところを知らない。

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江副浩正

1936(昭和11)年6月12日大阪市出身。東京大学卒。就職情報会社・株式会社日本リクルートセンター(現・リクルート)の創業者。リクルート・元代表取締役会長、リクルートグループ・元特別顧問。未公開株譲渡の是非を問われたリクルート事件で逮捕。2003(平成15)年には自伝『かもめが翔んだ日』を出版。朝日新聞06年1月26日付朝刊の「虚飾 ホリエモン逮捕」の記事中、ライブドア粉飾事件にからみ「リクルート事件と二重写し」などと報じられたことに対し、名誉を棄損されたとして200万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。

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未公開株

1991年版本誌掲載。以下、

(店頭株)非上場で日本証券業協会に登録している株式。証券会社の店頭で売買されることから上場株に対し店頭株とよぶ。店頭株には、一般の店頭登録銘柄と、上場廃止となった登録扱い銘柄(管理銘柄)がある。1990(平成2)年6月末現在の登録銘柄数は277。新たに登録銘柄になるには、創立2年以上、配当金年5円以上、資本金1億円以上、純資産2億円以上などの基準を満たす必要があるが、上場基準よりはるかに緩く、まず登録銘柄となり将来は上場へと期待をつなぐ企業は多い。ベンチャー企業の資金調達や育成の場として重要な役割を果たしている。ただ、登録銘柄数が5000を超すアメリカの店頭市場(ナスダック)と比べると、規模はまだ小さく、投資家数も少ないので、登録基準の見直しや、売買システムの早期構築が求められている。リクルートコスモス未公開株譲渡問題をきっかけに、89年4月から、公開価格決定までの過程に入札制度や公開前の株式取得に対して保有義務期間を設けるなど新たな制度が導入された。

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インサイダー取引(規制)

1991年版本誌掲載。以下、

内部情報を利用した証券の不正取引をインサイダー取引という。特に企業の役員や大株主、取引先をはじめ企業と特別な関係にある者が、その立場を利用して不当な利益を得るというケースが多い。欧米ではインサイダー取引に対する規制が以前からきわめて厳しく、アメリカ証券取引委員会(SEC)が2000人の職員による捜査、監視体制をしいて年間30件以上の証券犯罪を摘発している。わが国では1988(昭和63)年5月に改正証取法が成立し、インサイダー取引規制についての論議が盛り上がった。その矢先に、リクルートコスモス未公開株譲渡問題が起こり、株式市場でも新日本製鉄と三協精機製作所との業務提携にからんで疑惑をもたれる動きが出たため、証取法の一部条文の繰り上げ施行に踏み切った。並行して証券界では88年7月から「内部者取引管理規則」という自主ルールを導入した。チャイニーズ・ウォールの構築、内部情報についての基準指定、顧客からの注文の調査、確認、特に発行会社の役員が顧客の場合は内部者登録カードを作成のうえチェック管理をするなど。89年4月から施行された改正証取法のなかで、企業内部者等による「重要事実」公表前の株売買を禁止した政省令が公布された。「重要事実」とは、企業の合併、増資、配当の増減、新製品の事業化など、株価に影響を及ぼす重要な情報のことである。重要事実の「公表」は、複数の報道機関に情報を公開してから12時間後、と定義されている。しかし、企業が公表したつもりでも、報道されなかった場合の補完措置として取引所にファイリング制度が設けてあり、一般の投資家も自由に情報を閲覧できる。90年4月、日新汽船が89年6月実施した第3者割り当て増資をめぐり、割り当て先のファイナンス会社社長(当時)が増資の公表直前に、他人名義で株式を購入していた疑いが明るみに出て、警視庁は初摘発に踏み切った。6月には、大蔵省が、証券局内に「証券取引審査室」を設置、監視体制を一層強化している。

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4ルート

リクルート事件で未公開株を譲渡されたとされる四つのルート。政界ルート、労働省ルート、文部省ルート、NTTルートをさす。各ルートで起訴されたのは以下の通り。政界ルート:藤波孝生元官房長官、池田克哉・元衆院議員。文部省ルート:高石邦男・元文部事務次官。労働省ルート:加藤孝・元労働事務次官、鹿野茂・元労働省課長。NTTルート:真藤恒・元NTT会長、長谷川寿彦・元取締役、式場英・元取締役、小林宏・元ファーストファイナンス社長。

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複合汚職

1991年版本誌掲載。以下、

リクルート事件で摘発されたNTT、労働省、文部省の官界3ルートは、工作の武器が未公開株だという点を除くと、贈賄の対象も、趣旨も、便宜供与の内容も全く異なっている。前リクルート社会長・江副浩正被告は、自分を中心に、リ社事業に関係する各方面に放射状に贈賄工作をしかけ、日本型犯罪といわれる「構造汚職」がいくつも寄せ集まった「複合汚職」だと、リ事件を9カ月間にわたり捜査の指揮をとってきた松田東京地検特捜部長は、感慨を込め、リクルート事件の特異性を解説。

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構造汚職

1998年版本誌掲載。以下、

いわゆる「政−官−財」の癒着関係から生じる構造的な汚職をさす。自民党の長期政権、金権選挙、中央官庁の許認可権の独占支配、経済財界人の見返りをねらった巨額の政治献金など政界寄付、準与党化した一部野党議員などによって生み出される構造的な汚職。その一つの典型が1988(昭和63)年に発覚したリクルート事件。リクルート社は、就職情報誌発行の販路拡大のため、加藤孝労働事務次官(当時)に、未公開株の譲渡・高級料亭での飲食・ゴルフなどの接待、高額商品の贈答などを行った。加藤事務次官は、92年、東京地裁で有罪判決を受けた。同じく饗応を受けたとされる政治家の名前も数多く挙がったが、未解明のまま。こうした構造汚職の噂は後を絶たない。93年、政治改革を訴えて登場した細川総理(当時)への佐川急便からの利益供与や、自民党加藤幹事長への共和からの不正な政治献金疑惑など、構造汚職の根は予想以上に深いといえる。

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心因反応

1989年版本誌掲載。以下、

いわゆる“リクルート問題”の中核的な人物であるとみられているリクルート社の江副浩正前会長が、国会からの招致要求を拒絶する理由として示した“病名”。『広辞苑』によれば、「心因反応」と「神経症」は同じものとあり、次のような説明がついている。

「不安・過労・精神的ショックなど、主に心理的な原因によって起こる精神の機能障害。精神病と違って、人格が障害されず、解剖学的な変化のないものをいう。心臓・胃腸・神経系に異常があらわれることが多い。ヒステリー・精神衰弱・神経衰弱などを含む。ノイローゼ。心因反応。」

しかし裁判などでは、“心因反応”の人の責任能力および証言能力を認めている。またサラリーマンなどのほとんども多かれ少なかれ心因反応のとりこになっているという説もあり、「国会議員を呼びつけておいて『死んでも真相は話せない!』と突っぱねるくらいの気力と勇気が残っているのなら、それほどの重症ではないのでは?」とくびをかしげるむきも少なくない。

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証取法26条

1989年版本誌掲載。以下、

「証券取引法」の第26条は、次のように規定している。

「大蔵大臣は、公益または投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、有価証券届出書の届出者、有価証券報告書の提出者もしくは有価証券の引受人その他の関係者に対し、参考となるべき報告もしくは資料の提出を命じ、または当該職員をしてその者の帳簿書類その他の物件を検査させることができる」

しかし、なぜか日本のトップ・リーダーである竹下首相は、国会で、「そのような“調査権”を発動するつもりはない」と断言した。ノーブレス・オブリージュ(尊き身分にあるものの社会的義務)を果たすものは誰か?いまや、世界中が日本のリーダーシップのありようを注視している。

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けじめ

小社刊『最新日本語活用辞典』より。以下、

語源は囲碁用語。終局間近に、決まらぬ目を詰め寄せることを闕(けち)ということから。

日本新語・流行語大賞(1989年)より。以下、

リクルート事件の解明が進み、江副浩正・リ社前会長は逮捕されたが“巨悪”は逃げ延びた。政・官界に対する庶民の不信感は頂点に達し、政治家の“倫理”は“死語”と化した。倫理に代わって登場したのが「ケジメ」。「巨人が優勝したら丸坊主になる」との約束を守った久米の「ケジメ」に反し、「政治家のケジメ」はどうなっているのかとやけくそ気味の批判が続出した(流行語部門・銀賞、受賞者:久米 宏(ANB『ニュースステーション』キャスター))。

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「妻(秘書)が・・・」

1990年版本誌掲載。以下、

(秘書がやりました/秘書に聞いてください)私は知りません。私はやっていません。私のせいではない。自分の責任を人に転嫁するときや何かについて知らんふりするときに用いる。「このいたずら書きはお前だな」「秘書に聞いてください」

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隠し撮り

対象者にそれとわからないように密かに撮影すること。リクルート事件では楢崎弥之助議員(当時)が松原・リクルート社長室長(当時)との会談の一部始終を隠し撮りし、その後告発するに至る。近年では、隠し撮りといえばわいせつ系犯罪の必須アイテムと化した感がある。

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