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「今度、事故ったら、もんじゃだね」 というコラム
執筆者 土屋彰久

今度、事故ったら、もんじゃだね

もんじゅ

日本最初の高速増殖炉実験炉「常陽」に続く原型炉として開発されたのが、このもんじゅです。もんじゅの由来は、仏教の文殊菩薩で、「3人寄れば、文殊の知恵。」なんていう諺にもあるように、知恵の菩薩として知られています。天神様と並ぶ受験生の人気キャラなので、お参りに行った人も、けっこう多いのではないでしょうか。ちなみに、仏教の世界、たとえば寺院の仏像などでは、文殊様が御本尊になっていることより、大日如来などの御本尊を真ん中に挟んで、普賢菩薩と対になっていることが多く、キャラ分けはされていますが、この普賢菩薩も名前を見ればわかるとおり、元は知恵系の菩薩です。もんじゅは、1995(平成7)年7月にナトリウム漏れという重大事故を起こし、以来、操業は停止していますが、操業再開を急ぐ国側と廃止を求める住民側が激しく対立し、今回の訴訟(※)もその中で起こされたものです。

編集部註:(※)は1985(昭和60)年9月に福井県住民約40人の原告が、「もんじゅ」の設置許可の無効を求めた行政訴訟。2005(平成17)年5月30日に最高裁判決が出され、住民側敗訴が確定した。

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高速増殖炉

高速増殖炉というのは、燃料のプルトニウム239にウラン238を組み合わせて、消費した以上のプルトニウム239を生み出すという、原発推進派は「夢の原子炉」と呼ぶ原子炉です。「増殖」というのは、このプルトニウムの増殖のことをいっています。そして、「高速」というのは、増殖の速さが高速だという意味ではなく、通常の原子炉が「熱中性子」という最も低速で飛ぶ中性子を使うのに対して、高速で飛ぶ「高速中性子」を使うためです。高速増殖炉では、プルトニウムの割合を増やすことで、高速中性子により連鎖核分裂反応、すなわち「臨界」を実現する設計となっています。

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熱中性子

一般的なウラン235を燃料とした原発では、高速中性子を減速材によって減速し、熱中性子にして核分裂反応を発生させます。これは、高速中性子では速すぎて核分裂反応を起こしにくいためです。熱中性子は、最も遅く飛ぶ(運動エネルギーが低い)中性子で、「低速中性子」よりも、もっと遅いところに位置しています。

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高速中性子

中性子の中でも、熱中性子の対極で最も速いところ(運動エネルギーが高い)に位置するのが高速中性子で、それだけに核分裂反応も起こしにくく、熱中性子の数百分の1程度とされています。ただし、この高速中性子には、ウラン238をプルトニウムに変える能力があり、一般的な原子炉の内部では、高速中性子によってウラン238の一部がプルトニウムに変わります、これを「転換」といいます。ちなみに、こうしてできたプルトニウムの一部も、また熱中性子によって分裂するので、ウランだけを燃料とした場合でも、原子炉の中ではプルトニウムの核分裂が起こります。

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燃料転換率

最初の燃料として使ったウラン235及びプルトニウム239が消費された後に、どの程度の割合でプルトニウム239ができるかの割合を燃料転換率といい、一般の原子炉に比べて、この転換率が高いものを転換炉といいます。さらに、転換率が100%を超えると、使ったよりも多くの燃料ができるために、呼び方が「転換」から「増殖」に変わり、原子炉の名前も増殖炉となります。

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減速材

減速材としては、軽水(重水に対して、普通の水をいう)、重水、黒鉛などが一般的です。重水は、中性子が一個くっついた重水素でできている水で、減速材としては優れていますが、入手が困難であることなどから、軽水を使ったものが最も一般的です。また、重水は水爆の原料にもなることもあり、北朝鮮が重水炉の自力建設を断念する見返りとして、KEDOを通じた対北朝鮮軽水炉建設支援事業が進められたという経緯がありますが、北朝鮮が核兵器開発を認めたことなどもあって、現在、計画は頓挫しています。一方、黒鉛は、世界最初の原発事故となったウィンズケール発電所(イギリス)や、史上最悪の事故を起こしたチェルノブイリ発電所で使われていたこともあり、「呪われた減速材」というイメージが拭えないところがあります。

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実験炉/原型炉/実証炉/実用炉

原子炉といっても、目的や規模、形式によって色々な種類がありますが、日本の場合、目的でいうと、ほとんどが発電を目的とした動力炉で、規模では実験炉、原型炉、実証炉、実用炉と分かれており、形式は軽水炉が多いですが、様々なタイプがあります。実験炉は、実用化に向けての第一歩となる基礎研究のための原子炉で、この次の段階がもんじゅやふげんの原型炉です。原型炉は、実験炉において確認された技術、データに基づいて、規模拡大の可能性や経済性などについて検証するための原子炉で、ここまでは事業としては採算がとれないために、国(核燃料サイクル開発機構/旧動燃)が行います。次の実証炉は、商用炉の第一歩で、ここからは民間の電力会社の事業となり、採算性など経済性の検証に主眼が移ります。そして、最終的に実用段階に達したものが実用炉で、一応、机の上の話としては、この実用炉の稼働により生み出される利益で、それまでの開発コストが回収されるという計算になります。ただ電力会社としては、金ばかりかかる、開発の初期段階を国が分担してくれるので、楽な話といえます。

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ふげん

神、じゃなくて、仏をも恐れぬ、科学技術庁&旧動燃(動力炉・核燃料開発事業団)が、もんじゅと並んで、普賢菩薩から名前をいただいて作った新型転換炉原型炉がふげんです。ふげんは、幸い事故もなく天寿を全うし、2003年に運転を終了し、現在は廃止措置が進められています。そもそもが、プルトニウムをいっぱい作ろうということで始まったふげんの計画でしたが、作りさえすればいいというわけにはいきませんでした。せっかくプルトニウムのいっぱい入った使用済み核燃料を作っても、国内では東海村の反対運動の高まりや、六ヶ所村の再処理工場で次々と発生した問題などにより、核燃料の再処理が進まず、処理待ちの使用済み核燃料が増えていくばかりで、一時は使用済み燃料で保管庫が満杯になり、ふげんが操業停止に追い込まれるという「糞詰まり事件」にまで発展しました。そしてコスト面から見ても、プルトニウムの利用には再処理や保管に過大なコストがかかり、通常のウラン型原子炉に劣ることが、図らずも「実証」される結果となり、実証炉の計画は中止となりました。さすがは普賢菩薩、慈悲に満ちた引導の渡し方をしてくれましたね。

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新型転換炉

新型転換炉は、燃料転換率を上げるとともに、プルトニウムとウランの混合燃料、MOX燃料を使用できるようにした原子炉です。これにより、再処理を繰り返せば、天然の状態では、99%以上を占める燃料とはならないウラン、ウラン238を燃料、すなわちプルトニウム239に転換して使い回していけるという仕組みです。ただ、転換率が100%を超えない限りは、燃料は少しずつ減っていくといことになるので、目指すは100%オーバーの増殖なわけです。ですから、新型転換炉は高速増殖炉へのつなぎ役のような存在といえます。国が、実証炉計画の中止を決定した背景には、反対の世論やコスト面での不合理性という表向きの問題もありましたが、その一つ先の高速増殖炉を実用化できるなら、新型転換炉にこだわる必要はないという判断もありました。だからこそまた、新型転換炉からは、比較的素直に手を引いたにもかかわらず、高速増殖炉にはこだわり続けているわけです。

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ウラン

アトムの妹です。その他、自然界に存在する最も重い元素でもあり、その大半(99.3%程度といわれる)は、核燃料として使用できない、いわゆる「燃えないウラン」=ウラン238で、「燃えるウラン」=ウラン235は、0.7%程度しか存在しないといわれています。原子炉の種類によっては、この天然の比率でも燃料として使えますが、核燃料としての性能を上げたり、核弾頭に利用するためにはウラン235の比率を高める処理が必要で、これをウラン濃縮といいます。そして、処理されたものが濃縮ウラン、逆にその過程で捨てられるウラン238が劣化ウランと呼ばれています。「劣化ウラン」という名前だけを聞くと、まるで勝手に核分裂して使い物にならなくなってしまった、賞味期限切れのウランを指しているようですが、むしろ逆にウラン238の純度を極限まで高めた「吟醸ウラン」と呼んだ方がいいくらいです。

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劣化ウラン弾

アメリカが、実に気軽に使うために、知名度はかなり上がりましたから、ご存じの方も多いでしょう。劣化ウラン弾は、ウランが非常に重く固いという性質を利用し、戦車などの厚い装甲を撃ち抜くために開発された砲弾です。この劣化ウラン弾に対抗するには、劣化ウラン装甲を装着する他はありません。劣化ウラン弾は、目標に着弾すると、装甲の内部に進入する段階で気化し、内部を焼き付くし、その後、装甲の内外で微粉塵として空気中に拡散します。劣化ウランは、核燃料とはなりませんが、核分裂を起こし放射線を発生する核物質なので、呼吸などによって体内に取り込まれた劣化ウランは、長年に渡って内部被爆をもたらし、発ガンなど、様々な放射能による健康被害を引き起こします。

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プルトニウム

自然界には天文学的に微量にしか存在しない、基本的には原子炉で人工的に作り出された元素で、そのせいか同位体は色々ありますが、その中心的存在は、ウラン238を元にした生成比率においても大半を占め、そして核兵器の原料や原子炉の燃料となるプルトニウム239です。プルトニウムは核分裂によって発生する中性子の数が多く、ウラン235より少量で連鎖核分裂反応が可能であるため、原子爆弾には最適の材料といえます。そのために、原子力発電の副産物として取り出されるだけでなく、プルトニウム生産そのものを目的とした原子炉なども用いられて、冷戦期には大量に生産されました。その後、冷戦の終了で核弾頭の廃棄が進んだ結果、アメリカ、ロシアを合わせて、余剰プルトニウムの総量は5万トンに上るといわれています。一方、プルトニウムが9キロあれば核弾頭が一個作れるといいますから、それがどれほどの量かおわかりでしょう。さて、このプルトニウム、火薬や爆薬が炊事の燃料には向いていないように、民生利用に転換しようとしても、これがなかなかうまくいきません。しかしその一方で、管理にはかなりのコストがかかります。そのようなわけで、かつては資産と捉えられていたプルトニウムですが、近年では、むしろプルトニウムは負債であるとの見方も先進国の間には広がっています。日本に関しても、コスト計算に基づく限り、プルトニウムは明らかに負債となっているのですが、最高レベルの潜在核保有国であり続けたいという政府の密かな願いと、日本の技術力で不可能なものはないという科学技術大国の傲りに支えられて、プルトニウムにはまだまだ強いこだわりが残っています。

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潜在核保有国

潜在核保有国というのは、核兵器を保有してはいないが、技術的には保有が可能な国家を指し、原子力発電を行っている国は、レベルの差こそあれ、潜在核保有国となります。日本は、その中でもトップレベルに位置し、核兵器の製造決定から二週間以内に核兵器の配備が可能であると見積もられ、世界の中では警戒心を持って見られています。非核三原則などというお題目は、国内でしか通用しません。ただ、核拡散防止条約に基づき、核保有国以外は、プルトニウムを単体で保有することは禁止されているので、日本の保有するプルトニウムは、全て、処理前の使用済み核燃料の状態か、ウランと混ぜてMOX燃料に加工された状態にあります。プルトニウム単体での保有が可能だったら、配備には一週間もかからないでしょうね。

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プルサーマル計画

転換炉の計画は中止となり、増殖炉の計画は暗礁に乗り上げてしまったが、それでもそこで使う予定だったプルトニウムは溜まっていくばかりです。そこで、なんとか別の方法でプルトニウムを使って減らしていこうことで、普通の軽水炉でプルトニウムを使う方法が模索されました。それがプルサーマル計画で、元々は転換炉向けに開発されたウランとプルトニウムの混合燃料、MOX燃料を軽水炉で使い、プルトニウムを高速中性子ではなく熱中性子(サーマル・ニュートロン)で反応させるということで、その名前をくっつけて(正確には、プルトニウム・サーマル・リアクターから)、このような名前が作られたわけです。その技術的限界の高さやコストの問題から、高速増殖炉開発からの撤退を決めた先進各国においても、その持て余し気味のプルトニウムを有効活用する方法として導入が広がっています。ただし、これまでに幾度も深刻な事故を繰り返してきた原子力行政、及び原子力発電業界に対する住民の不信感やプルトニウムに対する警戒感も根強く、MOX燃料の製造に関わる再処理・燃料加工工場や、それの使用を進めようとする原発の回りでも、周辺住民の抵抗は強く、計画は思うようには進んでいません。

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核燃料サイクル

かつては、エコっぽい雰囲気を狙ってか、「核燃料リサイクル」といわれていましたが、今では「核燃料サイクル」という言い方が定着しています。これは、使用済み核燃料を再処理して、そこからウラン、プルトニウムなどの再利用できる資源を回収し、再び、核燃料の原料とする事業です。ただし、忘れてはいけないことが二つあります。一つは、どれほど再利用を進めようとも、再利用できない放射性廃棄物は、どんどん増えていくということです。そしてもう一つは、現在の技術レベルでは、同じ量の電力を得る場合に、再利用の行程を経た方が、天然ウラン燃料の一回使いっきり(ワンス・スルーという)よりもコスト的に高くなるということです。こんな不合理で危ういリサイクルごっこにしがみつくよりも、まずは省エネに真剣に取り組むことの方が先でしょう。

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核燃料サイクル開発機構

もんじゅのナトリウム漏れ事故、東海村の再処理施設火災事故、さらに臨界事故と、不祥事などと軽い呼び方はできないような深刻な事故を繰り返し、批判を浴びた動燃(動力炉・核燃料開発事業団)が、とにかく名前だけでも変えて、反省して改革したふりをしようということで改組したのが核燃料サイクル開発機構です。この10月には、原研(日本原子力研究所)と統合して原子力機構(独立行政法人日本原子力研究開発機構)となり、さらに過去の失態とのつながりをうやむやにした上で、さらに大規模な事故の再発を目指し、、、ということではないのかもしれませんが、もんじゅの操業再開に向けての動きを見ると、ソノ気なんじゃないかという気もしてきます。相手は、知恵の菩薩、文殊様ですよ。技術力に対する過信=人知の傲りに対して、前回よりもさらに強烈な天誅が下ってもおかしくない気がします。よした方いいですよ。仏の顔も三度じゃないけれど、一回目の警告を無視したようなおバカに、再び「もんじゅ」を名乗ることを許してくれると思いますか?今度やったら、もんじゃですって、マジで。

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