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トラブルや法律紛争から1年を振り返る用語集
執筆者 山口アイ子

景観の2004年

景観権・景観利益

個人が良好な景観を自分の財産として受ける権利。景観利益とも言う。その地域の住民全体は、良好な景観による利益を得る権利を持つとともに、維持管理する義務を負う。日本国憲法25条では、国民に「健康で文化的な最低限度の生活」をする権利(生存権)を認めている。これに関連する権利として、高層ビル建設などの際に地元住民から住居の日当たりを侵害されない権利(日照権)や住居からの眺めを侵害されない権利(眺望権)のほか、景観権、景観利益というものが主張されるようになった。これらの権利は法律上明確に規定されているわけではないので、裁判でも判断が分かれている。

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国立マンション訴訟

1999(平成11)年、東京都国立市に建設が計画された18階建て高さ53mの分譲マンションについて、地元住民が「景観を損なう」と反発。建設予定地は桜や銀杏の街路樹が美しいことで有名な「大学通り」に面しており、これまで地域で守ってきた景観にそぐわない、というのが理由だった。2000年、業者側は住民の意向を考慮し、計画を14階建て、高さ44mに変更。国立市の認可を得て着工したが、その1か月後に国立市が高さ20m以上の建物の建築を禁ずる条例を制定。01年、地元住民49名とマンションの隣地で小中高校を運営する学校法人が原告となって、建築主の明和地所などを相手に、条例違反と日照権・景観権などの侵害を主張してマンションの工事の中断及び慰謝料を請求する裁判を起こした。

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受任限度

騒音や日照権侵害などの公害や生活妨害があった場合、そうした侵害行為が違法かどうかを判断するための基準となるもの。被害者の受任限度を超える侵害行為は違法となる。2002(平成14)年12月、東京地方裁判所で下された国立マンション訴訟の判決は、被告側に対しマンションの高さ20m以上の部分を撤去することを求めた。判決時、既に完成していたマンションは14階建て、高さ44m。20mというのは建物のおよそ7階部分以上で、国立市が00年に改正した景観条例の建築物の高さ制限に準じたものだった。撤去の理由として東京地裁は、長年に及ぶ住民の努力で現在の良好な景観が形成されたのであり、住民には景観を楽しみ、維持する権利がある、と初めて住民の景観利益を認めている。景観を損ねるマンションの建設は住民の受任限度を超えるものと認定されたのである。被告側は判決を不服として控訴した。

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控訴認容

第一審判決が不当であるとして、第一審を取り消す裁判のこと。控訴に理由があるとして、控訴した者の主張を認める(認容する)ものである。国立マンション訴訟の控訴審は、2004(平成16)年10月、東京高等裁判所で判決が下された。その内容は控訴を認容し、一審判決を取り消すというもの。景観は行政が整備するもので、個人や住民の利益としては認められないと景観利益を否定。また、被告側は建築基準法などの法令には違反しておらず、高さ20m以上の建物の建築を制限する国立市の条例についても、該当マンションの建築着工より後に成立したもので、この場合は適用されないと判断された。原告住民側は最高裁に上告している。

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景観法

景観を国民共有の財産と認め、良好な景観の形成、維持を促進することによって地域の発展等に寄与(貢献)することを目的とする法律。2004(平成16)年12月、新たに制定された景観法が施行された。景観を守るため、国や地方公共団体、さらには住民の責任を明記し、違反者には罰則もある。例えば「景観地区」に指定された場所に家やビル、店舗等を建築する場合には、建物の高さや壁面の材質などについてその地区の景観を損ねないようなものにしなければならないといった制限が課せられることになる。

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