月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
舵取りとマネジメントを考える現代用語集
 

経済界が生き残りのため磨いてきた指導・管理技術

能力主義(実力主義)  meritocracy

本誌1966年版

学歴や学閥や縁故関係などにかかわりなく、本人の実カしだいで部署や役割をきめる適材適所主義。またそうした考えかたで能力を開発し、人材を養成すること。能力主義は、人間を“誰であるか”(“Who he is”)ではなく“何ができる”(“What he can do”)で判断する。イギリスではこうした実力主義を意味するメリットクラシィ(meritocracy)という新語が使われている。いまやデモクラシィの時代は去ってメリットクラシィの時代がきたというわけである。能力主義は、ほんらい資本主義に固有の思想で、資本主義上昇期に封建的・身分的制約をうちやぶる役割をはたした個人主義・合理主義の思想には能力主義がふくまれていたが、現代の能力主義は、高度に発達した資本主義のもとでの企業経営の合理化の要求として現われており、とくにオートメーションを中心とする技術革新の進行にともなう人間能力開発計画として各国で政策化されている。資本主義体制のもとで能力主義が全面的に実現されうるか否かは問題だが、それはともかくとして、一般に能力主義には、<1>能力を生まれつきのものとみる考えかた、<2>適材適所といいながら、じっさいには優秀者の選別と養成のみを事とする傾向、<3>大資本の要求する経済的効率の観点からだけで教育を割り切ろうとする傾向などが結びついている。そうしたものとしての能力主義が、現在、資本主義国における教育改革の中心思想になっており、そこに今日の教育をめぐる多くの論争的問題が集中している。

ページの先頭へ 戻る

テイラー・システム  Taylor System

本誌1952年版

米人フリードリッヒ・ウインスロー・テイラー(1856〜1915)が提唱し実施した経営管理制度をいう。産業合理化の一典型である。それは各労務者の「公正な1日の作業量」すなわち「課業」を基準とする生産の計画的な実施方法(課業制度)を中心としている。この「課業」の決定のためテイラーはそれぞれの作業過程を綿密に分析して労働科学の基礎を置いた。課業管理のためには各種の管理機構を必要とするが、テイラーの自ら提唱実施したものには、能率給制度としての差別的出来高払制度、企画部制度、職能的職長制度、指導票制度などがあり、その指導原理は「高賃金、低生産費」にある。

ページの先頭へ 戻る

リザルツ・マネジメント  result's management

本誌1967年版

結果による管理。米国の経営学者エドワード・C・シュレイの理論。ふつうのマネジメントは、<1>目標を示し、<2>その目標を達成できるように指揮指導し、<3>その結果を監督する、としているのに対し、この方式は、<1>組織全体が期待する結果を、多数の人に分割する。これを「命令」という。<2>その分割された結果を、各自が実現すれば、企業全体の目標が達成できる。<3>したがってその過程がどうであろうと、その仕事の結果が完全に果たされればよい、ということになる。

ページの先頭へ 戻る

目標管理制度

本誌1968年版

目標による管理(management by objective)ともいう。組織構成員に対し、行動の目標を与え、それをいかに達成するかの方法については各人の自主と創意に期待する管理方法。さらに進めば、組織の側は、全体から割り出される条件のみを示し、目標の設定そのものをも各人が、自主的に行い、かつその達成に努力するものをも含む。この場合、管理者は上から威圧的に命令する役割をもつのではなく、目標の設定を指導し、多数者の目標設定を調整し、目標達成に必要な情報と助力を与え、目標の達成度を測定し、障害を除去するという促進的役割をもつものとなる。目標管理制度が提唱される理由は、組織の巨大化にともなう組織構成員の無気力化、一方的・布告的管理の生み出す管理組織の硬直を救済しようとすることにある。

ページの先頭へ 戻る

リスク・マネジメント  risk management

本誌1979年版

危険管理。経営活動にともなう各種のリスクを最小費用で最小限にくいとめる体系的措置。各種のリスクの洗い出し、その内容の分析と評価、リスク処理の諸方法の検討と選択の過程をふむ。リスクには種々のとらえ方があるが、雇用・生産販売・投資・研究・開発などの業務活動にともなう動態的・投機的リスクと、地震・火災のように欲せざる形で生じる静態的・純粋リスクに分けるやり方の他に、経済的・社会的・政治的・心理的・物理的・法律的などに分けるやり方がある。リスク処理の方法は、基本的にリスク・コントロールとリスク・ファイナンスに二分される。前者は、リスクを回避・軽減・分散をはかるものであり、安全装置の取付けのような技術的対応策と定期検査・教育のような人的対応策とがある。リスク・ファイナンスは、保険に代表されるように、リスク発生時の資金的対策を整備するものである。

ページの先頭へ 戻る

トップ・マネジメント  top management

本誌1959年版

一般には最高経営とか最高管理とかいわれるが、本来これは一つの機能である。経営にはまずその設立と経営者の人事を行う組織化機能と最高人事の機能があるが、これらは経営自体の形成であって、その後の活動に関するマネジメント(管理)ではない。トップ・マネジメントは、経営活動の管理のうち最高の機能である。経営活動は決定にはじまり、具体的な実施としての作業に終る。大規模な現代の経営では、決定と作業との間に、決定を具体化した計画を立て、それらを逐次指令し、指示し、指揮し、監督する機能が存在する。このような決定−指令−指示−指揮−監督−作業という機能系列のうち、決定は狭義固有の経営機能であり、指令から監督に至る各機能が管理である。トップ・マネジメントは、決定を具体化して指令する機能をさすものである。このような機能の担当者は、企業の発展とともに異なるが、資本と経営の分離した現代の企業にあっては、決定機能は主として取締役会によつて担当され、トップ・マネジメントとしての指令を中心とする決定から指示に至る機能は、社長や常務会のごとき機関が担当する。それらは、会社的な立場で決定の執行活動を管理するのである。

ページの先頭へ 戻る

マネジメント  management

本誌1959年版

経営体は、経営−管理(マネジメント)−作業という機能的階層からなる。マネジメントあるいは管理は、その上層の経営において決定された経営方針にもとづき、その下層にある現場の活動を指揮、監督して目的実現に向かわしめることである。したがって管理自体は、官庁、教会、軍隊、学校などのあらゆる組織体に共通に存在し、一定の目的や方針を合理的に実現させるという意味でマネジメントの一般原理が成立しうる。アメリカ経営学といわれるものは、このようなものか、せいぜいそれのビジネスヘの適用としてのビジネス・マネジメントであり、真に経営体の特性や原理を示す経営の研究にまで及ばない。管理の内容は、計画、組織設定、指揮、調整、統制などと分析できるが、別な見方からすれぱ、組織的側面と事務的側面の2側面をもっている。管理者が管理を合理的に行うには、組織を設けるとともに事務、計数を完備することが必要だからであり、そのうえで計画や調整や統制が円滑に行われうるからである。マネジメントはまた管理者の意味をもつが、経営体においては、社長以下職長までがそれであり、それがさらにトップミドル、ロワーの3者に区別されることもある。

ページの先頭へ 戻る

ミドル・マネジメント(中層管理)  middle management

本誌1959年版

これは、トップ・マネジメントのすぐ下に位し、その委任を受けてその政策や方針を実行し、円滑に機能する。つまり一つの大きな部課を管理する責任をになう中間層の職階にある管理者で、具体的には部長・課長クラスをさしている。近時、生産や事務の機械化に伴い、人間労働の量的現象とともに質的な増加がみられ、現場の作業や管理のみでなくこの層の管理にまで影響を与え、中層管理の改廃統合にまで再編されるにいたった。その職務の二、三をあげると、<1>会社の細部事項を処理し、最高管理ができるだけ例外的業務を実施できるように取りはからう、<2>円滑に運営できる組織の確立に協力する、<3>主要政策方針における部門間の連結関係を理解する、<4>組織における部門間の調整を図る、などである。

ページの先頭へ 戻る

ビジネス・リーダーシップ  business leadership

本誌1960年版

経営は組織体であり、経営目的を経済的に達成するために、経営秩序を指導する統合作用が必要である。このような機能は、経営者や管理者に必要とされるものであり、かれらは経営という団のリーダーとして活動するのであるから、その作用をビジネス・リーダーシップという。リーダーシップは、経営のみでなく、あらゆる人間集団に普遍的に必要なものである。しかしそれにはいくつかのタイプがある。中世的な強権あるいは温情もその一つであり、物質的誘因で人を駆使するのも一つの型である。しかし現代のリーダーシップは、強権、温情、物質的誘因などによるのではなく、心からの協働をもり上げるものでなければならない。マネジメントはその代表的なものである。

ページの先頭へ 戻る

ウーマネジメント  womanagement

本誌1976年版

簡単にいえば、女性を管理職にすること。ウーマン・イン・マネージメントである。アメリカの労働者は、政令第4号で、賃金や昇進で女性を差別するなという行政指導を出した。アメリカ政府はそれに基づいて、出入り業者のうち、従業員50人以上、年間5万ドル以上の契約をしている26万社に対して、「女性を差別すると契約をキャンセルする」旨を通達した。これによって、業者は、黒人女性を重役にしたり、セクレタリー(秘書)の上に、エグゼクティブ・セクレタリーを置くなど、たいへんなさわぎであるということだ。

ページの先頭へ 戻る

コンティンジェンシー・プラン  contingency plan

本誌1996年版

不測事象対応計画と訳される。企業が策定する長期経営計画の関連手法の一つ。今日のように環境変化の激しい時代では不確実性の度合いが高く、長期計画は策定された後も常に見直しが必要である。従来その対応として用いられてきたのがローリング・プラン(rolling plan)で、現実と計画とのズレを埋めるために見直し、部分修正を重ねていく方法である。コンティンジェンシー・プランは、あらかじめ発生確率の低い事象にも備えて、複数の代替的計画を用意し、不測事象の発生のつど、柔軟にスイッチして適応することができるようにしておく。

ページの先頭へ 戻る

コーチング  coaching

組織で働く人たちが、必要とする知識やスキルの学習能力を高める育成技法。ここ1〜2年で急速に普及している。

コーチングは、「人間は自己実現に向かって主体的、能動的に行動する」という人間観に立つ。コーチングの鉄則は「すべての答えは相手の中にある。コーチの役割はそれを引き出し、目標達成の行動を促すこと」である、とされる。コーチングは知識ではなく、あくまでもコミュニケーションスキルであり、そのスキルはすべてこの鉄則に集約される。組織のリーダーは単なるマネジャーではなく、コーチングによって自律的・主体的人材の育成を担うコーチの役割を求められている。マネジャーは部下の業績向上の有効な手段として、コーチング・スキルの習得が求められている。

ページの先頭へ 戻る

企業トップの世襲化

本誌1990年版

政界、芸能界、文学界、スポーツ界など、各界で、2代目がもてはやされる2世現象が目立つようになった。たとえば、政界。自民党国会議員の約4割が2世で占められている。その象徴が約2カ月で倒れた宇野内閣で、閣僚20人中に2世が国会議員の女婿や県知事、市長などの息子3人を加えると、12人になる。2世現象は、社会や経済が安定した時代の表れで、保守的傾向を示す。困難なことや新しいことに対するチャレンジ精神を欠く時代を反映しているとみられる。経済界でも2世現象が強まり、好業績を背景にトップ交代の多かった流通業界では、約4割が世襲であった。

企業トップの世襲化で、最も社会の反発を買ったのは、東京ガスの社長人事である。とくに安西家は、公益事業である東京ガスのオーナーでもないのに3代にわたってトップの座を独占している。その一方で、五島昇亡きあと、長男の哲氏が、東急グループの盟主の座に就くのかどうかでも話題をよんだ。結局、東急グループは現経営陣での集団指導の道を選び、哲氏への世襲は微妙になっている。

また松下幸之助の死去で、孫の正幸氏が松下電器常務へ昇格し、トップの道へ一歩進むかどうかも取り沙汰されたが、結局、見送られた。同族企業ではあるが、サントリーでもトップ交代が秒読みに入っており、同族内部での甥か世襲かにゆれている。上場、非上場、オーナーか実力サラリーマン経営者かを問わず、企業トップの世襲化は、今後も増えこそすれ、減ることはあるまい。

ページの先頭へ 戻る

企業トップ肥大化

本誌1990年版

日本の企業では、最高経営責任者は代表取締役社長というのが一般的だが、代表権をもつ実力会長が増え、会長が君臨する会社も多い。さらに会長の補佐役として副会長をおく会社も増える傾向にある。新日鉄の三鬼彰氏は副会長から会長に就任したが、日本郵船の岩松重裕氏は、社長が会長に退いたのに、副会長を留任している。

社長、会長経験者が代表取締役あるいは取締役のまま、名誉会長、相談役として「権威」と「権力」と「気楽さ」から、「トップの中のトップ」の座を占める経営者もいる。トップ間の確執が伝えられる日本電気の小林宏治氏代表取締役相談役名誉会長などは、まさにその一人であるが、「老害」のイメージもつきまとう。

名誉会長、相談役として処遇していくには、部屋、秘書、専用車、報酬など、年間5000〜6000万円の経費を要する。経団連の会長、副会長など財界の重鎮ともなると、財界活動資金を含めて会社の負担する経費は数億円になる。日本の経営者がポストにしがみつき、トップの肥大化が起きるのは、権力欲だけではなく、経済的要因も一つといわれる。無役になれば、それまでのポストにふさわしい体面の維持が経済的に余裕なく、困難になるからだ。

とはいえ、トップが屋上屋を重ねることは役員の若返りやダイナミックな経営のカジ取りを求める時代の要請に逆行する。トップを含む役員の新陳代謝をスムーズに行うには、役員定年制、任期制実施と合わせ、退任後の生活不安を除く経済的な裏付け、体面の維持策(たとえば、部屋、オフィスなど)、社外のポスト確保などが必要になる。本田技研、出光興産、三井物産など一部の大企業が実施しているように、有税積み立ての役員年金制度や顧問制度(たとえば一定のポスト経験者を顧問として処遇、部長と秘書とクルマがつく)などを導入、定着させていく必要がある。

ページの先頭へ 戻る

転換能力

本誌1965年版

経済成長のためには、企業や経済全体が需要に応じて、その構造を変化、転換させていかなければならないが、そのための能力をいう。昭和39(1964)年度の”経済白書”に登場したことばで、具体的には、農業や中小企業が近代化していくこと、製造業のなかでも需要の成長の大きい重化学工業部門へ重点が移っていくことがあげられている。

ページの先頭へ 戻る

サラリーマン重役

本誌1952年版

戦後の大変動、追放などで戦前の大物重役が退陣したのに代って、大株主でなくとも、社員の推薦などで登場した若手重役のこと。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS