月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
裏にまわっている人、いた人の特集
―― 田中耕一さんノーベル賞受賞記念
 

田中耕一

島津製作所

田中耕一さんの勤務先。計測機器、医用機器、航空・産業機器などの製作会社。本社は京都市中京区。創業は明治8(1875)年、初代島津源蔵(1839〜94 京都の生まれ)が教育用理化学器械の製造を開始したことによる。2代目源蔵(1869〜1951)は昭和5年、日本十大発明家の1人として、天皇の昼食会に招かれたことも。それだけに「科学技術で社会に貢献する」が社是。なお、島津の姓と家紋(丸に十の字。社章でもある)は、創業者の先祖が薩摩島津家より賜ったとのこと。

ページの先頭へ 戻る

フェロー

fellow ノーベル賞の受賞時、島津製作所ライフサイエンス研究所の主任であった田中に対して、同社は「田中ノーベル賞記念研究所」(仮称)の創設を決定、田中は同研究所所長で、研究に専念できる「フェロー」として、当面は部長待遇とする(11月1日付)。これは、田中本人の「いきなり役員待遇は荷が重い」との意向を汲んだ措置という。また、特別報奨金1000万円の支給も決定した。フェローは英語で、(大学等の)特別研究員、(学術団体の)特別会員等の意。

ページの先頭へ 戻る

タンパク質の質量分析

田中耕一さんのノーベル化学賞受賞理由となった研究。正式には「生体高分子の同定と構造解析のための方法の開発」。タンパク質分子の立体構造を決めることなどでその機能が理解可能となり、新薬開発、食品検査、がんの早期診断などへの応用も考えられる。受賞者3人がそれぞれの方法を開発しているが、田中の場合はレーザーを試料に当てて小さな断片に爆破、分子を自由空間に解放する「ソフトレーザー脱着法」。

ページの先頭へ 戻る

「現場」

田中のような企業の技術者がノーベル賞を受賞することは珍しい。田中本人も受賞によって「裏方にまわっていた技術者を評価する機運が生まれてきたことは嬉しい」と語っている。実際には日本の全研究費の7割を民間が負担しており、研究開発における企業の役割はきわめて大きい。

ページの先頭へ 戻る

富山県富山市

田中の出身地(1959年生まれ)。豊富な水資源・電力を背景にした北陸地方有数の工業都市。人口32万5000人(2000年調べ)。越中薬売り、真宗王国で知られるとおり、こつこつ、勤勉の気風で知られる土地柄。田中は、理科は子どもの頃から好きだったという。小学校の卒業文集には電車の運転手になりたいと書いた。田中は県立富山中部高校を卒業。同校は公立優位の同県にあって御三家に数えられる屈指の進学校(残りは高岡高校、富山高校)。

ページの先頭へ 戻る

東北大学

田中の母校。同大の前身・東北帝国大学は1907年創立、東京、京都につぐ第3番目の帝国大学で、「研究第一主義」と「門戸開放」の基本理念をもってならした。

1978年、工学部に入学した田中は電気工学科で学んだ。研究テーマは「損失性媒質とダイポールアレイの組み合わせによる平面波の吸収」。在学当時は周囲と溶け込むより、一人で何かをするタイプだったという。島津製作所入社後は、畑違いの化学に取り組むことになったが、おかげで常識にとらわれない研究ができたと語っている。

ページの先頭へ 戻る

変人

田中の人柄を語るとき、「まじめ」「こつこつ」などとともに、必ず出てくるのがこのことば。一つの世界に没頭する性格のためとされるが、本人自身が受賞発表後の会見で「会社では変人と呼ばれている」と語っている。しかし、本人の中では筋が通っているようで、一例として、数年前、髪を丸刈りにした時期があり、訳を聞かれると、「散髪にいく手間も省けるし、面倒でなくていい」と語ったという。

ページの先頭へ 戻る

こつこつ

一つのことを飽きずに続けるさま。バブル期以降、ときに軽視され、煙たがられてきたが、近年そうした姿勢に対する評価が盛り返しつつある。田中の特徴の一つであり、彼が幅広い層に支持される理由の一つともされる。田中自身、インタビューなどで「こつこつ」「一つ一つ」「粘り強く」などという発言をすることが多い。

富山県富山市

ページの先頭へ 戻る

文化勲章

文化の発達に関し、顕著な功績のあった人物に対して送られる。等級は設けられていない。英語名称はOrder of Culture。田中はノーベル賞受賞後、急遽本年度の文化勲章候補となり、受章。文化勲章受章者としては史上3番目の若さ。親授式では、「緊張して天皇陛下の顔が見られなかった」という。

ちなみに1994年、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎が、文化勲章の授章を辞退している。その理由は「私は戦後民主主義の世代。文化勲章など国がらみの賞は受けたくありません」。

ページの先頭へ 戻る

田中人気

受章後、現場出身、無欲な人柄、粘り強さ、などなどが報道されるにつれ、「励まされる」「癒される」など、中年男性からOLにまで「田中人気」が急上昇。週刊誌がわざわざ人気の秘密を分析した記事を載せるほどの加熱ぶりだが、本人は「私の顔を早く忘れて欲しい」「そっとしておいてほしい」と発言。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS