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単位と基準と規格の常識・基礎知識事典
著者   白鳥 敬

『《限界》から事件のすごさを知る』の特集

テロの危機!生物兵器はどれだけ危険か?―――炭疽菌等生物兵器の致死量の単位

2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロ事件に引き続き、アメリカ国内で炭疽菌がばらまかれる事件がおこりました。この事件は、テログループによる犯行ではないとされていますが、アメリカのみならず世界を震撼させました。

炭疽菌によってひきおこされる炭疽病には、肺炭疽、皮膚炭疽、腸炭疽の3つがありますが、死亡率が高いのは腸炭疽と肺炭疽で、治療が遅れると死亡率は、ほぼ100%と言われています。じっさいにアメリカの炭疽菌テロでは、肺炭疽で死亡者がでています。

炭疽病は潜伏期間が1〜60日、ヒト対ヒトの感染はありません。呼気中に8,000-50,000個の炭疽菌芽胞があると発病します。

今回使用された炭疽菌は、呼吸とともに肺に入り肺炭疽をおこしやすくするため、直径1.5〜3μm (1μmは1000分の1mm) の超微粒子に加工さていました。

致死量の単位にLD50とLC50があります。LD50は半数致死量。つまり半数が死亡する毒物の量です。LC50は、半数致死濃度。半数が死ぬ気体または液体中の濃度を言います。

アメリカ陸軍のMedical Research Institute of Infectious Diseases (http://www.vnh.org/BIOCASU...) に詳しい情報があります。

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異常プリオン、どれだけ食べればまずい?―――狂牛病 (ヤコブ病) になる確率は極めて低いものの...

狂牛病 (牛海綿状脳症、BSE:Bovine  Spongiform  Encephalopathy) を発病したウシからヒトに感染しておこる病気が、変異型クロイツフェルトヤコブ病です。狂牛病の牛の脳・せき髄・眼球などにある異常プリオンを食べることで感染するといわれています。プリオンというのは、分子量30,000くらいの糖タンパクの一種で生物はみな持っています。このプリオンがなんらかの原因で、生体に害を与えるようになったものが異常プリオンです。異常プリオンが発生する原因も異常プリオンをどれくらい摂取するとヤコブ病になるかも正確にはわかっていません。

しかし、人がヤコブ病になる可能性は確率的にいって、非常に低いということを知っておけば、気が楽になると思います。

これまでイギリスで狂牛病に感染した牛が18万頭 (イギリス以外では、たったの2200頭) 。イギリスのクロイツフェルトヤコブ病患者数は約100名 (イギリス以外ではわずか4名) 。これから見ると、日本で仮に100頭の狂牛病の牛がみつかったとしても、ヤコブ病の患者が発生する確率は極めて低いと思われます。日本で飼育されている約460万頭の牛すべてが狂牛病になっていた、という悪夢のような事態になれば、どうなるかわかりませんが…。

農水省の狂牛病関連情報はこちら (http://www.maff.go.jp/soshiki...) 。

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アンテナの長さでわかる?不審船のねらい―――電波が届く距離限界

昨年暮、奄美大島西方の東シナ海に、国籍不明の不審船が現れ、追跡した海上保安庁の巡視船との間で銃撃戦になりました。最初にこの不審船を発見したのは、米軍の偵察衛星で、ついで海上自衛隊が不審船が不審な電波を出しているのを傍受したといいます。

今回みつかった不審船は、1999年に新潟沖でみつかった不審船に比べてアンテナが少ないのが特徴でした。 アンテナの長さを見れば、使用している周波数を推定することができます。アンテナの長さは、一般に使用している周波数の波長の2分の1か4分の1になっています。電磁波の波長 (m) は、300/周波数 (MHz) で求めることができます。アンテナの長さからみて不審船が使用していた電波は、長距離通信・傍受が可能なHF (短波) 帯の電波だったと思われます。逆に、新潟沖に出没した不審船には、長さ2-3mのアンテナが何本もついていました。これは、VHF、UHFの超短波帯用のアンテナで、見通し距離内の通信・傍受用です。

直進性の強いVHF、UHFで本国と無線連絡しようとしても、電波の届く距離には限界があります。この限界距離 (D=km) は、次の数式で求めることができます。D=3.83 (√h1+√h2 ) (h1は送信アンテナの高さ (m) 、h2は受信アンテナの高さ (m) ) 。不審船のアンテナの高さが10m、受信局のアンテナも10mとすると25kmほどしか届かないことがわかります。ただし、実際は、若干の回折や屈折、及び地表面に沿って伝わる表面波によって、もう少し遠方まで届きます。

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携帯のGPSはどれだけ“つかえそう”か?―――GPSの精度の限界は?

米国防総省が開発・運用しているGPS (Global Positioning System、全地球測位システム) は、カーナビなどですっかりお馴染みになっています。最近は、携帯電話にもGPSが搭載され、歩行者ナビゲーションや位置情報を利用したコンテンツサービスが始まっています。

ところで、GPSの精度の限界はどれくらいでしょうか。当初、民間向けの信号は、SA (Selective Availability、選択利用性) という測位精度を意図的に落とす措置がとられており誤差は100mほどありました。ところが、2000年5月2日に、このSAが解除され、測位精度は一気に一桁向上し、10m程度の誤差で測位できるようになりました。

独立行政法人電子航法研究所のホームページ (http://www.enri.go.jp/sat...) には、SA解除前と解除後の測位精度の違いをグラフ化したものが掲載されていますが、それによると、SA解除後は5.6mほどの誤差で現在位置を知ることができるそうです。これが、現在の米国のGPSの測位限界といってもいいでしょう。

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長持ちするようになった携帯やノートPCの電池の使い方―――リチウム電池の特性

携帯電話やノートパソコンがこれだけ便利に使えるようになったのは、リチウムイオン電池のおかげといえるでしょう。超小型・軽量でありながらエネルギー密度が高く、ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池のようにメモリー効果 (放電が十分でないまま充電を繰り返しているうちに容量が低下する現象) がないのでとても便利に使えます。

しかし、携帯電話の取り扱い説明書にもあるように、使い方を間違えると、ほんとに危険がありますのでご注意を。リチウムイオン電池は、過充電すると、リチウムがイオンの状態で存在できなくなって、リチウム金属の結晶が生じて正負極間でショートし、発熱して爆発することがあります。また過放電の場合は、電極が溶け出し、やはりショートして爆発に至る場合があります。

じっさいにはリチウムイオン電池には、過充電・過放電を防ぐ保護回路が内蔵されており、通常の使用においてはなんら問題ありませんが、使い方を誤ると凶器にさえなっていまいますから、気をつけたいものです。

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ビルの耐震強度  史上最大の地震はマグニチュード9.5?―――マグニチュード (M) からモーメントマグニチュード (Mw) へ

ニューヨーク同時多発テロ事件では、ワールドトレードセンタービルが2棟とも崩壊するという、信じられない光景を目にしました。

ところで、日本の高層ビルは、耐震構造になっており、とくに、1981年以降に建てられた建物は、新耐震設計基準によって建てられていますから、地震にたいしてより安全です。阪神淡路大震災でも、新耐震設計基準によって建てられたビルの倒壊率は小さかったという調査結果が出ています。

大被害を出した阪神淡路大震災のエネルギーは、マグニチュードは7.2でした。一般に使われているマグニチュードとは、震源から一定距離離れた場所の地震計が記録した最大振幅から求めています。揺れの幅が10倍になると、マグニチュードが1大きくなります。しかしこの方式では、大きな地震については、数値が頭打ちになり正確なマグニチュードを出すことができませんでした。そこで、最近は、地震のエネルギーを正確に表すことができるモーメントマグニチュードが使われるようになっています。阪神淡路大震災の地震エネルギーをモーメントマグニチュード (Mw) で表すと6.9になります。これまでおこった最も強い地震は、1960年のチリ地震で、マグニチュードは、8.5、モーメントマグニチュード9.5です。
防災科学研究所のホームページ (http://www.bosai.go.jp/ad...) に詳しい解説があります。

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WTCのオフィスにあったハードディスクの記録は蘇ったか?―――磁気記憶装置の限界

ビジネスも個人の知的活動も、現代社会はコンピュータ無しでは動かなくなってしまっています。昨年のワールドトレードセンタービルの崩壊事故では、多くの企業の貴重なデータが記録されたコンピュータが、ビルの崩壊とともに損壊してしまいました。ところが、この損壊したハードディスクから、記録されていた情報を引き出して復元する企業が存在します。

ドイツにあるConvarという会社 (http://www.datarecovery-europe.com/) がそれです。独自のレーザスキャナ技術を持ち、瓦礫の下に埋もれたハードディスクからデータを復元し読み取る作業を行っているといいます。

ハードディスクは、情報を読み書きするヘッドの部分が衝撃に弱く、作動中はあまり強い衝撃を与えないようにしておいたほうがいいのですが、停止中はヘッドが安全な位置まで待避するので意外と衝撃に強いものです。ヘッドが壊れていても、データが記されているディスクさえなんとか手に入れることができれば復元は可能です。

ハードディスク装置が完全に壊れているように見えても、データは消えていない可能性が強いので、壊れたからといってそのまま捨てていると、どこかに情報が漏れていくかもしれません。

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ビルに飛び込んだ飛行機はどうなった?―――飛行機の強度限界--荷重倍数

ワールドトレードセンタービルに衝突したジェット旅客機は、まるでビルに吸い込まれるように消えていきました。いったい、飛行機はどうなったのでしょうか。

飛行機の機体は、丈夫にすると重くなってしまいます、軽くしすぎると強度が弱くなってしまいます。そこで、飛行機は、強度と重さのバランスをとって設計されていて、一定の荷重よりも大きい荷重さえかけなければ、安全に飛行できるようになっています。

この荷重を制限荷重倍数 (記号:n) と言っています。飛行機が激しい動きをすると、この荷重が大きくなります。たとえば、機体を傾けて (バンクをつけて) 旋回するときは、通常より大きな荷重がかかります。そのため、飛行機は、その種類 (耐空類別) ごとに、最大バンク角が決まっています。それ以上傾けてはいけないわけです。また、機体の構造強度は、旅客機 (T類) の場合で、前方9G、横3G、上方3G、下方6G、後方1.5Gの荷重がかかっても、乗客の安全が守れるように設計されています。これを終局荷重といいます。

ワールドトレードセンタービルにぶつかった飛行機は、高速でぶつかっているため、設計限界のGを遥かに超える力がかかっていますから、ビルの中でぐしゃぐしゃに破壊されたであろうと思われます。

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飛行機がこわれるとき―――飛行速度の限界は人間の限界

車の速度計は、国産車であれば180km/hまで目盛ってあり、エンジンがパワフルであればこの速度まで出せます。一方、飛行機の速度計は、たとえ200ノット (370km/h) まで目盛りが刻んであっても、その速度まで出すことはできません。速度が大きくなれば、それだけ運動エネルギーが大きくなりますから、操縦桿を大きく急激に動かすと、機体の設計上の強度限界を超えてしまい、機体構造にダメージを与えます。

そこで、飛行機の速度計は、パイロットが飛行速度と荷重 (G) の関係を直感的に理解できるように、計器の周囲に色分けが行ってあります。フラップを上げた状態での失速速度から、最大巡行速度 (正確には最大構造巡行速度という) までが緑色、最大巡行速度から超過禁止速度 (これ以上の速度にすると機体が壊れるという速度) までが黄色、超過禁止速度には赤色の線が入っています。

小型飛行機は、3.8Gまでしかもちませんが、戦闘機などは、9G以上の荷重に耐える強度を持っています。しかし、人間が乗っている以上、肉体の限界を超える速度でマニューバ (運動) を行うことはできません。人間が耐えることができるのは、耐Gスーツを着用してても、4Gくらいまで。空中戦のときは、6Gくらいまでかかります。このあたりが人間の限界です。

NYテロ事件の2番めにWTCビル南棟に突っ込んだ飛行機は、衝突直前に、速い速度のままかなり深いバンクに入れて、狙いを定めていましたが、旅客機にしては、大きめのGがかかっていたかもしれません。

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飛行機の燃料は燃える?  爆発する?―――航空燃料の限界

飛行機の燃料は、小型プロペラ機に搭載しているピストンエンジンでは、ガソリンです。ただ、航空ガソリンといって、車用のものよりオクタン価が高い、鉛が含まれているなど、いくつかの違いがあります。いっぽうジェット機は、JET-A1と呼ばれる灯油系のジェット燃料を使用しています。

飛行機が巡行する高空は、気温がマイナス56℃にもなるので、燃料もこの温度で凍結するわけにはいきません。航空ガソリンは、マイナス100℃まで凍結しませんし、ジェット燃料はマイナス47℃くらいで凍結が始まりますが、凍結しないように防止剤が添加されています。さらに、エンジンオイルの熱を利用してエンジンに入る直前の燃料を暖めています。

ところで、飛行機の墜落現場ではだいたい火災がおこっていますが、ジェット燃料そのものは、発火点が高くあまり燃えやすいものではありません。しかし、衝突などの衝撃によって、燃料が空気と混ざった状態になるとよく燃えるようになります。

NYテロでビルに突っ込んだ飛行機によって火災がおこったのは、衝突によって燃料が飛び散り空気の混ざって爆発的に炎が広がっていったのです。衝突速度が速いほど飛び散る速度が速いので、激しく爆発します。犯人はそこまで計算に入れていたのかもしれません。

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