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これからどうなるか?のヒント アフガン民族の基礎知識
 

パシュトゥーンの行動規範「パシュトゥヌワレイ」

パシュトゥヌワレイ

パシュトゥーン民族の掟。パシュトゥーン慣習法ともいわれる。成文化されているわけではないが、これは部族あるいは血縁集団の精神的特徴をあらわし、時に争いがおこった場合の行動規範となり、時に日常生活の規範になっている。争いは、ザン (女) 、ザル (金) 、ザミーン (土地) をめぐって起こる場合が多い。パシュトゥヌワレイに忠実であることで、男性は社会的評価を得ることができるとされる。

しかし、すべてのパシュトゥーンがパシュトゥヌワレイに従っているとは言いがたい。内戦前ですら都市生活者や上流階級のパシュトゥーンは部族制とは切り離された生活をしていたし、内戦で部族の伝統とは断絶してしまった人々も多いので、どこまでがこの規範を受け継いでいるかは疑問。以下はパシュトゥヌワレイの各項目。

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トゥーラ

勇気のこと。原義は「剣」。勇気はパシュトゥヌワリのうちで最も重要なもので、剣はその象徴。日本の武士の刀のようなものである。人は剣に誓う。もし、ある少女と婚約していた男が家からいなくなってしまったとしたら、男の家族はその少女を、「剣」 (あるいはライフル) と結婚させることができる。結婚式のあと、夫の家族はその少女を引き取り、彼女は夫が家にもどってくるまで、夫の家で生活する。部族の体面を守るような行為をした場合は「トゥーラをなした」と言われる。

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ナナワティ

ナナワティとは、危険にさらされた人が逃げ場所を求めて他人の家に入ることをいう。そういう人が逃げてきた場合は、たとえそれが敵であっても保護しなければならない。

また、争いにおいて当事者の一方が和解を願っている場合は、弱者の側にたって仲介する。ムッラーが間に立つことが多く、当事者とともに敵対者の家に羊やお金 (場合によっては女性) を持っていき、許しを乞う。殺人の場合も、復讐にかわるものとして、賠償金による解決で当事者全員の体面を保つ方法もある。

ナナワティは許しを乞うための儀式であり、争いを終了させ、関係を修復するための伝統的な手段である。

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ナームース

名誉、精神的貞節のこと。特に女性の精神的貞節のことをさす。女性の貞節を守ることがすなわちナームースを守ることである。ナームースには序列があり、妻→母→姉妹→娘の順で、まだ“ゆりかご”にいるような生まれたばかりの女の子でさえ、この序列に含まれる。

誰かのナームースを犯すことは非常な罪で、決して許されない。口頭での侮辱は、罰金と恥をもたらす。また農地がナームースの対象となる部族もある。

氏族長の家の女性はすべて、共通のナームースの対象で、部族の体面の中心点である。パシュトゥーンの間では「首領を救うためには財産を、ナームースを守るためには首領を犠牲にしろ」といわれる。

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メルマスティア

メルマはゲストの意味。ゲストには特別な権利が与えられており、いったん受け入れのホストの家に入れば身の安全が保証される。もし、ゲストに害を加えようとする誰かがいたとすると、それが誰であろうが、ホストは自分の家族の一員が攻撃されたとのと同様に、加害者に対処しなければならない。ゲストを受け入れた人は、周辺の人々から非常に尊敬される。ゲストが重罪犯であっても、一度ホストの家に入ったならば、ホストの敵もゲストの敵もその人に害を加えることはできない。いくつかの部落では、ゲストを受け入れて食事を提供するほかにも、贈り物をおくることもある。

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ジルガ

村や部族の問題を解決し、審議するために召集される会合。ムッラーや長老をはじめ成年男子が参加する。参加者には平等の発言権があり、オープンスペースで輪になって座って討論する。公開の場合は、脇で傍聴することもできる。

アフガニスタンにおいては、パシュトゥーンの部族統一を図るときに、2つの非常に重要な歴史的ジルガが開かれた。ひとつは全部族の長老たちが参加して、ミール・ワイズ・ババがペルシャの支配下から脱するために、クーデターの実行を命じたものである。もうひとつは、アフマッド・シャー・ババをアフガンの王として選ぶためのジルガである。「ローヤ・ジルガ」とは“大きいジルガ”の意で、国家の臨時の会議をさし、重要な話し合いが必要な時に開催される。

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バダル

リベンジ (=復讐) のことである。パシュトゥーンに対しての攻撃に加わった人はすべてバダルを受ける覚悟をしなければならない。攻撃を受けた本人が自分自身で復讐することもあるが、家族が復讐を果たすこともあり、部族の全員が復讐に加担することもある。殺人に対する復讐は殺人である。しかしこれはナナワティとジルガによって、修正されることもありえる。

西の方では、バダラという。自分のバダラを果たさない人は臆病者とみなされる。

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バドラガ

ある個人 (あるいはそのグループ) が移動する時に、誰かによって安全であるように護衛されることをいう。ある人が、問題となっている事項に関係しない部族のバドラガのもとにある時は、対立している人は彼に手出しをしないであろう。もし、手出しをしたら、護衛している人は自分たちに対しても害が及ぼされたとみなす。アフリディ部族では、もしバドラガのもとにある誰かが殺された場合、護衛している人は殺人者を追跡し、報復することが習慣となっている。

バドラガの効力はその部族の領域の外にある。同じバドラガが別の時に有効であるとは限らないが、もし必要とあらば更新されうる。護衛を頼む人は、羊かそれ相応のものを支払うこともあるが、支払いは絶対的な条件ではない。

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フジュラ

ゲストハウスのこと。1つあるいは2つの部屋からなり、訪問者はここで宿泊し、食事もできる。どの村にもフジュラはあるが、その村の長老や有力者が個人的に持っていることもある。

フジュラは旅行者の宿泊施設として使われるほかに、地元の会合の場ともなり、部族の男たちが集まってきて、茶を飲んだり、世間話をするのに使われる。独身男性が寝泊りする若衆宿的な要素もある。

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