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そんなに負担はできやしないの特集
 

負担のことば

高福祉・高負担(1972)

本誌1972年版収録。以下、

わが国の社会保障費の国民所得に対する比率は、1963年において5.6%であり、アメリカの7.6、イギリスの13.8、西ドイツの20に比べ、著しく低い。また1968年になっても5.9%に過ぎない。また68年における一部屋当り人員は日本1.03人でアメリカの0.7、イギリスの0.7、西ドイツの0.9に比べて低い。同年の下水道普及率は日本は20%でアメリカ68、イギリス90、西ドイツ63と比べて著しく低い。このような低福祉の状況を改善しようとして日本の財政は世界で最も努力を行なっているが、財源の面で制約される面がある。租税および社会保険負担率の国民総生産に対する比率は1968年において、日本23%で、アメリカ36、イギリス45、西ドイツ43などに比ベて著しく低い。これら諸点にかんがみて、高福祉を望むには、それ相応の負担が必要であるといわれ、その具体策の一つとして付加価値税の導入が検討される気運にある。

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高福祉・高負担(1988)

本誌1988年版収録。以下、

福祉の対象が全国民におよぶ福祉国家において国民による租税その他の負担が高くなること。いわゆる高福祉といわれるスウェーデン、デンマーク、西ドイツなどでは、租税負担率は、日本のそれに比べて2〜3倍ぐらいの高い比率を示している。しかし、生活が保障され、たとえば、スウェーデンにおける病院通院のためのタクシー代金の保険支払いなど、高負担が身近なことにまで還元されていること、高額所得ほど累進度が高く、いかなる人にも脱税が公正に取締られていることなどから負担への不満は少ない。わが国では、高福祉のためには高負担が必要との意見もあるが、国民のなかの合意は得られていない。しかし在宅福祉の拡大や年金の充実にともない福祉サービスの利用料問題が注目されてきている。

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低福祉低負担型

本誌1990年版収録。以下、

1989年の2月に、総務庁の老人対策室が全国の30代から60代までの男女3000人を対象に、『長寿社会における男女別の意識の傾向に関する調査』を行ったところ、「高齢者の公的福祉サービスの費用負担」について、男性と女性では全く反対の考え方をしていることがわかった。すなわち、男性のほうが「サービスを充実させるため多少の負担は増えてもよい」と“高福祉高負担型”の意見を示したものが多かった(36.6%)のに対して、女性のほうは「サービスはある程度にとどめ、負担は少ないほうがいい」と“低福祉低負担型”の意見を述べたものが多かった(33.5%)。明らかに「社会による救済」観に背を向けはじめているということがうかがえるが、さらに「老後の生活費」についての調査項目ではその傾向がハッキリとあらわれており、男女ともに「働けるうちに自分で準備する」という“自助型”が多数(64.3%)を占め、「社会福祉でまかなうべきである」としたものは25.4%しかいなかった。

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受益者負担

本誌1970年版収録。以下、

受益者負担という用語はドイツ行政法に発し、本来の意味は「特定人に対して便宜を供与する特定の行政行為に応ずる一定の負担」ということである。今日、国鉄などの公共企業の場合、特定の利用者の受益となるサービスについては、受益者がその費用を負担すべきであり、これを租税という形で納税者一般の負担に転嫁することは不公平になるのみならず、資源のムダをまねくことにもなりかねない。したがってこのような分野については受益者負担の原則を徹底していくべきであるという考え方がある。他方、公共料金としての受益者負担は公共性を有するという点において、民間における価格とはおのづから性格が異なったものでそこに市民の税金を当然投入してよいはずであり、一概に受益者負担の原則を徹底することは問題があるという考え方もある。

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応能原則/応益原則

本誌1980年版収録。以下、

租税の根拠もしくは租税負担の公平に関する2大基準。応能原則は、納税者はその支払能力に応じて納税すべきであるとする考え方で、能力説ともいう。これに対し、応益原則は、租税を各納税者が国や地方公共団体のもとで享受している利益の対価として把え、したがって各人が得ている利益以上に租税を負担する必要はないとする考え方である。現実の税制では、いずれか一方の原則をとっているというわけではなく、原則を異にする複数の租税から構成されているといえる。ただ一般的にほ、上下水道のように受益者が明確なサービスの場合には応益原則が、警察、消防のように利益が広範に及び受益者を区分することが難しいサービスの場合には応能原則が適用されやすいといえる。

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超過課税

本誌1976年版収録。以下、

地方公共団体が法人住民税もしくは法人事業税の標準税率を超えて課税すること。その使途は、小中学校の木造校舎の改築財源(横浜市)、公害防止財源(尼崎市)など特定されている場合もあるが、特定されていない(神戸市、広島市など)場合が多い。標準税率は、法人住民税については、現在、市町村12.1%、道府県5.2%(ただし、制限税率はそれぞれ14.5%、6.2%)、法人事業税については、資本金1000万円以上の法人に対しては12%、その他の法人に対しては所得段階別に6%、9%、12%である。

現在、法人事業税の超過課税は東京都のみが行っているが、法人住民税の超過課税は、兵庫県など10の県および市が実施している。なお、昭和50〈1975〉年度税制改正によって、事業税についてあまり大幅な超過課税が行われると、納税者の税負担に大きな影響を与えるなどの理由により、事業税について標準税率の1.1倍に相当する制限税率が新設された。

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担税能力

本誌1980年版収録。以下、

租税を負担する能力をいい、課税可能限度を測定する場合の一種の基準といわれる場合と、各納税者負担を公平ならしめる基準としていわれる場合とがある。前者の場合には、国民所得から最低生活費とある程度の投資額を差引いたものが一国の担税力に相当するといえ、これを超えた課税は国民経済を破壊することとなろう。後者の場合には、所得の大小、勤労所得か資産所得かなどの所得の種別、扶養親族の有無およびその多少などの事情が考慮されなければならない。なお租税原則中の応能原則(租税はその能力に応じて公平に負担されねばならぬ)は後者に関連するものであり、また、前者の意味での負担能力は租税収入に対応する歳出内容のいかんにより左右されることに注意が必要である。たとえば、教育費や医療費を国費負担により無料とした場合には、家計の担税能力はそれだけ増大しよう。

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租税弾性値

本誌1980年版収録。以下、

国民所得、または、国民総生産の伸び率を1とした場合の租税収入の伸び率の値。戦後わが国の税制、特に国税体系は、所得税を中心とするものとなっており、その累進構造により、国民所得の伸びに対して税収入の伸びが大きくなる。したがって租税弾性値は1を上回るのが通例である。昭和54〈1979〉年度一般会計税収の国民総生産に対する弾性値の実績見込みは0.87(年度間の税制改正は行われないものとし、53年度当初予算額については年度所属区分の改正による増収見込み額を差し引き調整して計算)である。

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患者負担

本誌1979年版収録。以下、

医療保険で受診したさいに、患者が負担しなければならないことの総称である。通常は3つあると考えられる。第一には、被用者保険の被保険者(本人)のように、10割給付の現物であるが、受診にさいして一定の金額(初診時600円)を納付することが定められているものを一部負担または一部自己負担という。本来は保険で給付すべきものの一部を負担するからである。

第二に、被用者保険の家族や国民健康保険の加入者のように、給付率が7割であるから残り3割分を負担するのを自己負担という。始めから保険は7割しかみないことが定められているので、3割は保険の給付外であるから負担しなくてはならない。

第三には、保険給付となっていない治療や薬剤の費用を負担するのを差額負担という。全体の費用のうちから保険でみる部分を引いた残りの保険でみない分を負担するものである。この差額負担は入院のさいの室料についてのみ認められており、いわゆる差額ベッド料であるが、いまひとつ付添婦の料金についても入院のさいにやむをえず負担することがあり、この2つを保険でみない分であることから保険外負担というが、これも患者負担のひとつと考えてよい。少なくとも一部負担や自己負担があることは望ましいことではなく、保険での受診の抑制に目的をもっているが、それだけに他面で早期受診をも阻むことになる。保険外負担は長期入院のばあいなどの患者負担としての重圧はきびしいものがあり、差額ベッドの規制の強化や付添婦の保険給付への取入れはなんらかの早急な解決が望まれている。

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患者負担(2002年)

本誌2002年版解説記事より。

患者が負担する医療費。一部負担と差額負担に大別される。一部負担は保険診療費の一部を患者が負担するもので、その負担方式には定率負担と定額負担がある。日本では被用者保険(本人2割、家族入院2割、外来3割)、国保(3割)、老人保健制度(1割)とも定率一部負担、入院時の食事療養費は定額一部負担(1日780円)、薬剤は種類に応じて定額一部負担となっている。2001年の健康保険法等改正で一部負担が変更された。一部負担を課す目的として、受診の抑制、保険財政の安定、受益者負担、健康者との負担の均衡、などがあげられている。一部負担には高額療養費制度が設けられている。差額負担は保険給付の対象としない範囲の医療費を患者が負担することをいう。日本では特定療養費制度にかかわる医療以外の差額負担は禁止されている。

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保険外負担

本誌1985年版収録。以下、

被用者を対象とした医療保険の加入者本人が入院した場合、その費用はすべて医療保険で支出されることになっている。本人以外の家族は8割、国民健康保険加入者の場合は7割を保険でまかない、残りの自己負担分も5万1000円を越えれば超過分は保険で支払うことになっている。しかし、入院してみると自己負担の差額ベッド料や基準看護の病院での付き添い看護料などが必要になり入院患者の大きな負担となっているのが現状である。これは保険の給付対象でないので患者の自己負担となり、この2つをとくに保険外負担と呼ぶが今日の問題である。

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外国人の医療費負担

外国人が日本の病院で病気の治療をした場合、その医療費の支払いがトラブルになる。保険に加入していないと本人の自己負担になるが、高額で支払いができない。しかし不法残留者には国民健康保険や生活保護の適用はできない。結局、徴収不能で病院の負担になることが多く、これをおそれる病院は外国人の患者に扉を閉ざすことになる。1992(平成4)年から一部の自治体で行旅病人取扱法の適用が復活したが、活用できる範囲は狭い。また、群馬・神奈川・千葉・埼玉などでは焦げついた医療費を県が負担している。なお、厚生省(現厚生労働省)は、95年に外国人労働者に対する初の職業病認定を行い、また、不法滞在でも常時雇用関係があるものに健康保険を適用することとした。

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教育費家庭負担

本誌1968年版収録。以下、

家計の中で教育費の支出は年々急増の傾向を示すようになった。ここでいう教育費とは学校教育費で、授業料(月謝)と教育費を指す。これを公教育費といい、課外に習いごとをさせるとか、進学準備のために学習塾へ通わせるという類を家庭教育費という。給食費をここに計上するのは間違い。いわゆるお稽古ごとを教育とし、その費用が非常に多くなったことをもって家庭の教育水準向上と見たり、父母の負担が多くなったことを大きく取上げるについては、家計の上からも、日本の教育水準という点からも大きな問題である。

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公害防止事業費用負担法

本誌1972年版収録。以下、

昭和45年12月に成立した公害関係14法の1つ。国や自治体が防止事業を行う場合、発生源の企業などから事業費を強制徴収することにし、その負担割合を定めている。しかし、費用の徴収は企業が直接の発生源となっている公害の防止対策に限られ、しかも長期にわたって蓄積された汚染や、その事業が公害防止以外の効果を持っている場合は、企業の負担分は減る仕組みになっており、「事業者負担が甘すぎる」と国会審議でもめた。

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