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ノーベル賞とその研究テーマに関する数値と単位
―― 小柴昌俊氏と田中耕一氏のノーベル賞受賞記念
著者 白鳥 敬

ノーベル賞とその研究テーマに関する数値と単位

ノーベル賞受賞者数は?

1896年に他界したスウェーデン人アルフレッド・ノーベルの遺志を継いで、1901年に第1回のノーベル賞が授与された。受賞者第1号は、X線を発明した、ドイツ人W.C.レントゲンだ。その後、第2次世界大戦時の数年を除いて、現在まで続いている。2002年までの総受賞者数は786人。内訳は、物理学賞168人、化学賞142人、医学生理学賞218人、文学賞99人、平和賞108人、経済学賞51人(経済学賞のみ1969年の開始なので受賞者が少ない)。このうちアメリカが、200人以上を占めてダントツの第1位。次いで100人ちょっとのイギリスだ。物理学賞・化学賞・医学生理学賞といった科学分野の賞についてみてみると、戦後はアメリカが突出しているが、戦前は、ドイツ・イギリスが上位で、アメリカは3位。第2次世界大戦を境として、ヨーロッパは凋落し、アメリカが栄えたということが、ノーベル賞受賞者数の変化からもわかる(頭脳流出)。

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ノーベル賞の基金はいくら?

アルフレッド・ノーベルは、ダイナマイトの発明によって、産業が急速に発達しつつあった19世紀後半のヨーロッパで莫大な富を築いた。ノーベル賞は、その莫大な遺産を基金として、運用益を賞金に充てている。ノーベル賞設立時の基金の額は、3160万クローナ(現在の日本のお金で約200億円)といわれる。また、現在の基金総額は300億円以上といわれている。賞金額は、運用の成果によって決まる変動制で、毎年同じというわけではない。まず、運用益の10%が、元金として基金に戻される。15%はノーベル財団の運営費用に当てられ、残り75%を受賞者で分ける。“変動”とはいえ運用が堅調なためか年々増額で、1980年代の頭からくらべて10倍近くになっている。近々の日本人受賞者でいえば、白川教授の年は約1億350万円、野依教授の年は約1億1000万円、今回の田中さん・小柴先生は約1億3000万円(共同研究の場合は按分)。

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ノーベル賞を辞退した人の数は?

世界最高の栄誉であるノーベル賞を辞退した人がいる。フランスの実存主義哲学者のサルトルは、1964年のノーベル文学賞に選ばれたが、「権威のある賞は嫌いだ」といって受賞拒否した。また、1958年には、旧ソ連の反体制派の作家ボリス・パステルナークが文学賞を受賞したが、旧ソ連政府によって受賞を辞退させられた。しかし、31年後の1989年に、息子のエフゲニー・パステルナークが父の代わりに賞を受け取っている。

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ニュートリノの質量は?

今回、小柴昌俊東京大学名誉教授のノーベル物理学賞授賞の理由はニュートリノ天文学。ニュートリノとは、物質を構成する最小単位の素粒子一つで、電気を持たないため、物質と反応しにくくほとんどの物質を素通りしていく。質量もないのではと言われていたので、「幽霊粒子」などとも呼ばれたことがある。ところが、小柴先生が中心になって開発を進めたカミオカンデ、スーパーカミオカンデの観測で、ニュートリノに質量があることがわかってきた。その質量はどれくらいか? 実は、まだわかっていないのだが、陽子の約1000億分の6の質量を持つのでは、という説もある。ちょっと、普通の人間には想像することができない極微の世界の話である。

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原子の大きさはどれくらい

原子は、原子核とその回りを回る電子からできている。その原子核は、中性子と陽子からできていて、それらはさらに小さな粒子からできている。現在、普通に高等学校を卒業した人なら、これくらいの知識はあるだろう。では、原子の大きさってどれくらいなのだろうか。

昔、「ウルトラQ」というSFテレビドラマに、「1/8(8分の1)計画」というのがあった。これは、人間を8分の1の大きさに縮小しようというもの。もし人間が8分の1の大きさになっても、せいぜい猫くらいの小ささになるにすぎないが、かりに100億分の1まで縮小できたとすると、その目線からは、ようやく原子が見えてくるはず。〈原子の大きさ〉は、100億分の1mくらいだから。しかし、実は、ここまで小さくなってもおそらく何も見えないだろう。というのは、今いった〈原子の大きさ〉というのは、電子の軌道のことだからだ。原子の中心部である原子核の大きさは、〈原子の大きさ〉の約2万分の1。電子軌道に立つと原子核は、400mの先の1円玉くらいの大きさに見えるから、並の視力では原子核を見ることはできないだろうというわけ。

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極微の世界の単位には何がある?

極微の世界を表すとき、単位に、接頭語をつけて表すことになっている。メートル法では、メートルが基本なので、mを基準にして、その10分の1をd(デカ)、100分の1をc(センチ)、1000分の1をm(ミリ)などという接頭語をつけて表している。この後は、1000分の1小さくなるごとに、μ(マイクロ)、n(ナノ)、p(ピコ)、f(フェムト)、a(アト)、z(ゼプト)、y(ヨクト)と続く。

中国の数学書『算法統宗』によれば、分(10のマイナス1乗)、厘(10のマイナス2乗)、毫(10のマイナス3乗)と続き、もっとも小さな単位は、「空」だそうだ。なんと、10のマイナス112乗という小ささ。前項で述べたように、原子の大きさは、10のマイナス10乗メートルだが、これを表す単位は、『算法統宗』では「埃(あい)」。これに比べても、はるかに小さい「空」は、何をはかるための単位なのか。クオークの大きさだろうか? それとも、さらに小さな粒子か?

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スーパーカミオカンデの光電倍増管の感度は?

岐阜県神岡町の地下深くにつくられたスーパーカミオカンデは、縦横約40mも巨大な水槽に50000トンの純水をたたえている。純水の中にニュートリノが飛び込んできたとき、純水の中の電子とぶつかって、チェレンコフ光という青白いかすかな光を発する。これを水槽の内壁に1万個以上ならべた光電子倍増管でとらえようというものだ。

ところで、その光電子倍増管って、どれくらい弱い光をとらえることができるのだろうか。スーパーカミオカンデの光電子倍増管の大きさは、直径は52cm、長さ72cmで大きな電球のような形をしている。光電子倍増管がもっとも高い感度を示すのが、チェレンコフ光の代表的な波長である390nm(ナノメートル)。目に見える光のうちもっとも波長の短い紫色の光だ。で、この光電子倍増管の感度だが、デジタルビデオカメラのCCDなどの限界をはるかに超えている。見ることができるのは、たった1個の光子(フォトン)から。

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純水の透明度は?

スーパーカミオカンデのタンクの中には、約5万トンもの純水がたたえられている。純水とは、不純物の限りなく少ない透明度の高い水のことだ。スーパーカミオカンデが神岡町に作られたのは、きれいな水が豊富だったことも一つの理由だ。スーパーカミオカンデでは、この水を、純化装置を使って、ゴミ・鉄などの金属イオン、バクテリア、ラドン・ラジウムなどの放射性物質を除去して純水にしている。純水を使用する目的は透明度を極限まで上げることだ。スーパーカミオカンデの純水の透明度は、チェレンコフ光の代表的な波長で約100m。透明度がタンクの直径が約40mを超えるのだから、純水の透明度の高さが想像できると思う。

ふつう私たちが知っている透明度といえば

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質量分析機の精度は?

ノーベル化学賞の田中耕一さんの受賞理由は、「生体高分子の同定および構造分析手法の開発」だ。有機物の質量を分析するとき、試料をイオン化し、発生したイオンを質量の違いによって分離して検出器で検出する。田中氏はこのイオン化の方法として、試料にレーザー光線を当ててイオン化して分離する方法を発明した。この分析法では、概略でいって10のマイナス14乗グラムの超微量な化合物を検出することができる。10のマイナス14乗というのは、1兆分の1のそのまた100分の1というわずかな量だ。

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イオンとは?

有機化合物の質量分析を行うとき、試料をイオン化すると前項で書いたが、イオン化ってなんだろう?

最近、エアコンや空気清浄機などでマイナスイオンを発生させるという触れ込みの家電製品が増えてきた。マイナスイオンには浄化作用があるので、空気をきれいにし、体をリラックスさせるそうだ。

それはさておき、マイナスイオンブームのおかげでイオンという言葉はかなり浸透したのではないだろうか。しかし、いったいイオンて何? という疑問の持つ方も多いだろう。イオンというのは、原子が電子を余分に持ったり、逆に電子を失った原子をいう。前者がマイナスイオン、後者がプラスイオン。だから、イオンの大きさは、原子と同じレベルの小ささだ。

質量分析では、イオン化した物質の重さで飛び散る速度が違うことを利用して質量を分析する。これを飛行時間型質量分析法という。ただし、飛行時間といっても、ナノ秒(10億分の1)レベルの極めて短い時間だ。

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