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訂正とお詫び

『国家試験受験のためのよくわかる行政法(改訂第3版)』に関連する法改正情報について

◎平成24年度地方自治法改正について
 
地方自治法の一部を改正する法律が、平成24年9月5日に公布され、すでに施行されています。これに伴い、平成23年12月刊行の「国家試験受験のためのよくわかる行政法改訂第3版」(以下「同書」といいます)の記述内容について、現行の地方自治法の規定に即していない箇所が出てきています。
そこで、上記改正のうち、行政書士試験、公務員試験での出題可能性が高いと思われるものについて改正の内容を箇条書きにし、下に簡単なコメントを付しておきます。同書での関連ページも併せて明示しておきますから、改正部分には十分な注意を払って学習を進めるようにしてください。
なお、( )内に引用してある条文は、すべて地方自治法の条文です。

1 一部事務組合・広域連合(同書P289以下)
① 一部事務組合の構成団体は、その議会の議決を経て、脱退する日の2年前までに他の全ての構成団体に書面で予告することにより、一部事務組合から脱退することができる。

●コメント
構成団体の議会の議決および2年前までの書面による予告だけで一部事務組合を脱退できることとして、脱退手続を簡素化するものです(286条の2第1項)。他に、協議会、機関等の共同設置からの脱退も同様に簡素化されています(252条の6の2第1項、252条の7の2第1項)。

② 一部事務組合は、規約で定めるところにより、当該一部事務組合の議会を構成団体の議会をもって組織することができる。
●コメント
一部事務組合の議会を廃止し、これに代えて一部事務組合を構成する地方公共団体の議会がその機能を果たす形態の導入を可能としたものです(287条の2第1項)。このような形態をとる一部事務組合を特例一部事務組合といいます。

③ 広域連合においては、執行機関として長に代えて理事会を置くことができる。
●コメント 
広域連合には、独任制の長を置くことが予定されていますが(291条の5第2項)、これに代えて、執行機関としての理事会を置くことが認められました(291条の13、287条の3第2項)。いわゆる複合的一部事務組合に設けられていた制度を広域連合にも認めたものです。


2 条例の公布(同書P306)
 長は、議長から条例の送付を受けた日から20日以内に、再議に付す等の措置を講じた場合を除き、当該条例の公布を行わなければならない。●コメント
従来の地方自治法の規定では、「長は、条例の送付を受けた場合において、再議その他の措置を講ずる必要がないと認めるときは、その日から20日以内に公布しなければならない」とされていました。しかし、この規定を反対解釈すると、長が再議その他の措置を講ずる必要が「あると認める」ときは、条例の公布は必要ないということになってしまいます。そうすると、長が再議等の具体的な措置を講じることなく、かつ、条例の公布もなされない状態が続くことになりかねません。そこで、長は、再議に付す等の具体的措置を講じた場合を除いて、当該条例の公布をしなければならないとされました(16条2項)。


3 地方公共団体の議会(同書P317以下)

① 普通地方公共団体の議会は、条例で定めるところにより、定例会および臨時会とせず、毎年、条例で定める日から翌年の当該日の前日までを会期とすることができる。
●コメント
普通地方公共団体の議会については、「定例会」「臨時会」の区分が設けられ、会期ごとに期間を区切って集中的に審議を行なうという運営が行なわれてきました。今回の改正により、このような方式によらず、「毎年、条例で定める日から翌年の当該日の前日までを会期とする」いわゆる「通年会期」も認められることとなりました(102条の2第1項)。この制度の創設により、地方公共団体は、その選択により従来の「定例会」「臨時会」の方式によることもできるし、条例で定めれば、通年会期制を採用することもできることとなったわけです。その目的とするところは、多様な層の幅広い市民参加を促し、地方議会の活性化を図ることにあると考えられます。

② 通年を会期とした議会は、条例で、定期的に会議を開く日(定例日)を定めなければならない。
●コメント
上記の通年会期制による場合、議会の活動期間に制限はない状態となります。そこで、この制度を選択したときは、条例で、定期的に会議を開く日を定めなければならない、とされています(102条の2第6項)。さらに、長は、議長に対し、会議に付議すべき事件を示して定例日以外の日に会議を開くことを請求することができ、その請求があったとき、議長は、都道府県および市にあっては7日以内、町村にあっては3日以内に会議を開かなければならないこととされています(102条の2第7項)。

③ 議長による臨時会の招集請求のあった日から20日以内に普通地方公共団体の長が臨時会を招集しないときは、議長は、臨時会を招集することができる。
●コメント
従来から、地方議会の招集権限は長に専属することを前提に、議長が長に対して臨時会の招集を請求できるものとされています(101条2項)。これに加え、長が請求に応じないときは、議長が臨時会を招集できるものとされました(101条5項)。議会と長の対立が深刻化し、議長の度重なる招集請求に長が応じないという事態を生じた事例(いわゆる鹿児島県阿久根市問題)の反省から、議長に招集権を認めてそのような事態を防止するという意味合いがあります。

④ 議員定数の4分の1以上の者による臨時会の招集請求のあった日から20日以内に普通地方公共団体の長が臨時会を招集しないときは、議長は、当該請求をした者の申出に基づき、臨時会を招集しなければならない。
●コメント
議員の定数の4分の1以上の者は、長に対し、臨時会の招集を請求することができます(101条3項)。この請求があったにもかかわらず、20日以内に長が臨時会を招集しないとき、議長は、その請求をした者の申出に基づき、当該申出のあった日から、都道府県および市にあっては10日以内、町村にあっては6日以内に臨時を招集しなければならないものとされました(101条6項)。

⑤ 普通地方公共団体の議会は、その本会議において公聴会の開催および参考人招致が可能であることが明文化された。
●コメント 従前は、委員会における公聴会の開催および参考人招致の明文規定が存在していましたが、本会議における公聴会の開催および参考人招致の規定は存在していませんでした。そこで、本会議における公聴会の開催および参考人招致が可能であることを明文化するとともに(115条の2第1項・2項)、委員会にこの規定を準用するという体裁がとられています(109条5項)。


4 長の専決処分(同書P323)
 副知事、副市長村長の選任は、長の専決処分の対象外とされた。
●コメント
長の専決処分は、議会の議決や決定を得られない場合に、長の権限として認められるものです。従来は、特にその対象が限定されていなかったのですが、改正法では、副知事、副市町村長の選任は、その対象からはずされることになりました(179条1項ただし書)。副知事や副市町村長は、地方公共団体の長が議会の同意を得て選任することとされていますが(162条)、これが専決処分の対象からはずされたことにより、今後は長単独の判断で選任することはできなくなります。


5 長と議会の関係(同書P324)
① 再議のうち、いわゆる一般的拒否権の対象に関する制限が撤廃され、議会における条例の制定・改廃または予算に関する議決以外の事項についても長の拒否権の行使が認められた。
●コメント
再議制度における一般的拒否権は、長が議会の議決を拒否して、再度の審議及び議決を要求する制度です。一般的拒否権は、その権限を行使するかどうかは長の任意的な判断によります。従来は、この一般的拒否権の対象が条例と予算に関する議決に限られていましたが、今回の改正は、この制限を撤廃し一般的拒否権の対象を条例・予算の議決以外の議決に拡大するものです(176条1項)。条例・予算の議決の再議決要件は出席議員の3分の2以上の多数ですが、条例・予算の議決以外の議決の再議決要件は過半数です。なお、従来は収入または支出についての執行不能議決に対して、長は再議に付すことを義務付けられていましたが(特別拒否権)、今回の改正では、この収支不能再議の規定が廃止されました。収支不能再議は、その内容に応じて、一般的拒否権または特別拒否権の対象となります。

② 普通地方公共団体の長が、議会の審議に必要な説明のため議長から出席を求められた場合において、出席すべき日時に出席できないことについて正当な理由があるときは、その旨を議長に届け出ることにより出席義務が免除される。
●コメント
従来から、地方公共団体の長は議会の審議に必要な説明のため議長から出席を求められた場合には、議場に出席しなければならないとされています(121条1項本文)。しかし、とくに通年会期制を導入した場合、議会出席による長の負担増、行政事務への支障が懸念されるため、出席できないことに正当な理由があるときは、その旨を議長に届け出ることにより出席義務を免除するものとされました(同項ただし書)。もっとも、この規定は従来どおりの定例会、臨時会の制度を採る場合も適用されます。なお、教育委員会の委員長、選挙管理委員会の委員長その他行政委員会の長等も、長と同様の要件で出席義務が免除されます。


6 直接請求制度(同書P335以下)
住民の直接請求制度のうち、議会の解散、議員・長等の解職請求など有権者数の3分の1以上の者の署名を請求要件とするものについて、必要な署名数の要件が次のとおり引き下げられた。

改正前  有権者数が40万を超える場合、40万を超える部分については6分の1

改正後 有権者数が40万を超える場合、40万を超え80万までは6分の1、80万を超える部分については8分の1

●コメント
議会の解散、議員・長等の解職請求など有権者数の3分の1以上の者の署名を要する直接請求の制度については、大規模な地方公共団体では必要数の署名を集めることが困難であったことから、有権者数が40万を超える地方公共団体について、平成14年の改正で、40万を超える部分については6分の1と請求要件が緩和されました。しかし、その改正後も、都市部においては必要数の署名を集めるのが困難であるため、今回の改正でさらに署名数要件が引き下げられたものです(76条1項、80条1項、81条1項)。


7 国等による違法確認訴訟制度の創設(同書P365)
 国が自治事務に関する是正の要求または法定受託事務に関する是正の指示をした場合に、地方公共団体がこれに応じた措置を講じようとせず、かつ、国地方係争処理委員会への審査の申出もしないとき、国は、高等裁判所に対し、当該是正の要求または指示を受けた普通地方公共団体の行政庁を被告として当該不作為の違法確認訴訟を提起することができる。
●コメント
国による自治事務に関する是正の要求または法定受託事務に関する是正の指示について争いがある場合は、当該是正の要求等を受けた普通地方公共団体から、第三者機関である国地方係争処理委員会への審査申出や訴訟提起の手段が以前から制度化されています(251条の5)。一方で、国の是正要求等に対する普通地方公共団体の不作為については、これまで国からの審査申出や訴訟提起の手段は制度化されていませんでした。そこで、是正の要求等を受けた普通地方公共団体が、当該是正の要求等に応じず、かつ審査申出や訴訟提起等を行わない場合には、国から高等裁判所に対し、当該普通地方公共団体の不作為の違法確認訴訟の提起を可能としたものです(251条の7)。また、市町村の不作為について、都道府県の執行機関が、高等裁判所に対し市町村の行政庁を被告として不作為違法確認訴訟を提起することも制度化されました(252条)。

文責 神余博史

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