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受賞しなかった新語・流行語の30年 パートI
執筆者 木村伝兵衛

受賞しなかった新語・流行語の30年 パートI

かい人21面相

1984年に登場した言葉。この年の3月、グリコの江崎社長が何者かによって誘拐、監禁された。江崎社長は自力で脱出したが、その後「かい人21面相」と名乗る相手から〈商品に青酸ソーダを入れた〉等の脅迫状や脅迫電話が繰り返される。この事件を契機に食品業界の広告量が減少。この事件をきっかけに、模倣犯も続出。脅迫状がマスコミや警察に直接届くという大胆さから社会的な注目を浴び、「劇場型犯罪」なる呼び名が生まれた。各界の識者によって犯罪分析が展開され、犯人像はイメージされたものの、事件は迷宮入りとなった。

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ダッチ・ロール

1985年の流行語。8月12日、羽田空港を離陸し大阪に向かった日本航空機123便は、垂直尾翼付近に起こった異常のため、激しい横揺れと8の字状の蛇行飛行のすえ、御巣鷹山に激突、520人の尊い人命を奪った。にもかかわらず「ダッチ・ロール」という言葉は生活のさまざまな場面で援用された。

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バブル

〈バブル〉という経済用語が一般に浸透し始めたのは1986年。「泡」という意味の言葉が意味する経済現象は庶民にはピンと来るものではなかった。

確かな条件が存在しないにもかかわらず、個人・企業が値上がりを予想して株式や土地に投資、そのために結果としてその市場価格が騰貴するというような経済現象。膨らんでいるが、中身がない。大きく見えるが、実質がともなっていない。巷には〈マネー・ブーム〉が大きく膨らんでいた。一般個人客もこぞって株や土地に対して投資。政府は円高不況対策で、本来は設備投資に使われるべき資金にもかかわらず、公定歩合を引き下げ、これが株・土地への投資を呼ぶ。「泡」が1991年に破裂し、〈バブル崩壊〉に。

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ボーダーレス

1988年、国境のない経済、「ボーダーレス・エコノミー」という新語が頻繁に使われ始めた。昭和63年である。企業の多国籍化が急速に進行。日本の預金通貨銀行の対外資産も急激に高まった。「ボーダーレス」が流行語に。工業化および金融のグローバル化により、日本は、政策協調とともに、国内の保護政策を改める、という新たな課題に直面する。

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おたく

1989年、連続幼女誘拐殺害事件が世の中に大きな衝撃をあたえたが、この事件の犯人の日常生活は、アニメ、ビデオなどいわゆる〈おたくグッズ〉であふれた、まさしく〈おたく〉の部屋で営まれていたのだった。ということで、〈おたく〉という言葉が浮上する。対人関係が苦手で、アニメやビデオ、フィギュアなど自分の世界に没入し、同好仲間でも相手の名前ではなく「おたく」と呼び合う少年たち。長髪にTシャツ、Gパン、小太り、であることが多い。彼らはパソコン通信や電話のパーティーラインなどによる付き合いを好み、マニアックで、直接的な人間関係を嫌う。そんな限られた世界に没頭している連中をコラムニストの中森明夫が〈おたく〉と命名した。

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ツーショット

1989年ごろから流通するようになった言葉。男女が一対一で仲間から離れて二人だけで話をしていること。フジテレビ系、とんねるず司会の集団お見合い番組「ねるとん紅鯨団」から。恋人募集中の男女が集り、フリータイムにアプローチして、告白タイムに意中の人に告白する。後に「ねるとん」も出会い系のキーワードとして使われるようになる。

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自己啓発

1990年ごろからに頻繁に流通するようになる言葉。「精神修養講座」「人格形成セミナー」「能力開発講座」といった名称の自己啓発講座が若者たちの間で人気を集める。アメリカで開発されたものが多く、「積極的な性格になれる」「感性が磨かれる」といったキャッチ・フレーズで精神の充実をはかるものだが、新しいシステムということもあり、契約トラブルによる苦情、相談も続出した。

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成田離婚

1990年ごろ流行した言葉。見合い、結婚、ハネムーンがすんで成田へ着いたとたん、「私、どうしてもあなたといっしょにやって行けないわ」と、だいたい女性の方が、離婚宣言をする。どうも彼はマザコンじゃあるまいか、どうも趣味が悪い、ふるまいが不作法だ、など言い分はさまざま。

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リストラ

1990年ごろから流行した言葉。経済について使う場合の意味としては、対外経済摩擦を引き起こさずに、国民生活向上に十分な高さの成長率を達成できる経済構造・産業構造をつくり出すことである。リストラクチャリング(restructuring)の短縮語で、元の意味は再構成、再編成、改造だが、実際は「コストカット」「首切り」として乱用されて行く。

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すっぴん

化粧をしていないこと。ノーメイクの顔。グラビア雑誌「すっぴん」(英知出版)が登場したのは1986年だが、このコトバが言葉として一般に広く使われるようになったのは1991年。

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今まで生きてきたなかでいちばん幸せ

1992年、バルセロナ五輪。200メートル平泳ぎ金メダリスト岩崎恭子選手の第一声。6日前に誕生日を迎えたばかりの14歳の新星は五輪新、日本新で優勝。五輪競泳史上最年少、日本の女子平泳ぎでは、56年ぶりの「金」に輝いた。「今まで生きてきた中で、いちばん幸せ」と、まだ幼さの残る顔で表彰台に立ったこのシンデレラ・スイマーは、ふっくらとしたほおを流れる涙を何度もぬぐった。オリンピックのメダリストの発言が注目されるようになった初期の例だった。

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イエロー・カード

1993年開幕したJリーグ。そこからは「サポーター」という新語も普及したが、「イエロー・カード」という言葉も一般生活に使われるようになる。サッカーでは、故意に相手を蹴る、引っ張る、足を掛ける、ボールを手で止める等の反則、非紳士的行為をした選手に対して出される。

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コギャル

1993年ごろから流通した流行語。お色気を前面に出すようなボディコン・ギャルに対して、少女性を残しながら健康的にクラブ遊びなどを楽しむティーン・エイジャーの女の子を指す。

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バウバウ

タレント・松村邦洋が流行させたギャグ・フレーズ。残念ながら1993年の受賞語には届かず。

テレビ「電波少年」の中で、アポなしで暴走族の集会場に乗りこむなどのハプニング・バラエティを演じた松村邦洋がこの年の人気者になった。

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シブヤ系

1994年ごろから流通した新語。東京の渋谷っぽいサウンドということで当初は音楽のジャンルだったが、サブカルチャー、風俗全体を指すほどに広がる。

ビジュアル系」など、「○○系」という言い回しのはじまりでもある。

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ポアする

1995年の流行語。オウム真理教では、抹殺することを〈ポアする〉と言っていた。ほかにも、オウム真理教の実態が暴かれるにつれ、数々のオウム信者用語が公になった。サンスクリット語で〈真理〉を意味する〈サティアン〉は上九一色村の施設で、第○サティアンと番号を付けて用いる。また、宗教上の名前を〈ホーリーネーム〉といい、教祖が一部の出家修行者に対して与えていた。この年ひろまった一連のオウム関連語について、新語・流行語大賞審査委員会は「授賞に値せず」という判断を下した。

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脱いでもスゴイ

1995年の流行語。女子学生の就職難を背景にしたエステ会社のCM。見るからに小姑風の女性面接官から「美人ね」「顔だけで世の中渡っていけると思ってない?」とイヤミを言われ、「はい、思ってます。私、脱いでもスゴイんです」と開き直る彼女のセリフが支持を受けた。

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オヤジ狩り

1996年ごろから流通した新語、事象。高校生らが誘い合って、千鳥足で帰宅する中年男たちを襲って金品を奪う事件が相次いだ。「エアマックス強盗」も現れ、翌年には「たまごっち強盗」も。

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芸能人は歯が命

歯磨き粉のCMの中で、気恥ずかしいほどオーバーに“芸能人”を演じた東幹久と高岡早紀が流行らせた有名セリフ。1995年から96年にかけての流行語。

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グローバル

1996年、株主の権利や会計基準、意思決定の透明性など、事業の運営において世界的に通用する基準のことをいうグローバル・スタンダード(国際基準)という新語がこの時期勢いよく広まった。日本国内でしか通用しない〈根回し〉や〈事前折衝〉などの決済方法は、ジャパニーズ・スタンダードであるとして、排除される傾向に。

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オーガニック

1996年ごろから流通した新語。「完全有機の」という意味。〈有機栽培〉は農薬・化学肥料等を使用しないで3年おき、堆肥による土づくりをした圃場でなされる栽培方法。安全志向・健康志向にともなって需要が増加した、とともにこの「オーガニック」というしゃれた言葉が流行した。自然をおしゃれに味わうこのブームは、かつての理屈っぽい「自然食ブーム」とは違って若い層に素直に受け入れられた。

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ビジュアル系

1997年ごろから流通した新語。音楽レベルはともかく、派手なメイクによってブレイクしたバンドを〈ビジュアル系〉と呼んだことが始まり。音楽に関わらず、男について使われるようになった言葉。この年は〈複雑系〉〈なごみ系〉などの言葉が出てきた。

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