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当世、民主主義事情
執筆者 桧山信彦

当世、民主主義事情

民主主義  democracy

昭和20年代の『現代用語の基礎知識』(執筆・中村哲、1948年発行)から「民主主義」の定義を引いてみよう。

民主主義とは自然法、個人主義、自由主義の三つの思想的要素から成立ち、具体的には第一に国家は本来独立自由なる多数の個人が共同の幸福又は利益を得んがために集って作った団体であるから、国家は各個人のため存在するものである。第二に従って国家の最高の権力即ち主権は常に国民自身に存せねばならぬ。第三に人間は等しく自由独立なるべきものであるから元来何人か特定の個人に服従すべき性質のものではない。従って我々が国家の意志に服するのは、国家の意志は多数個人即我々によって作られるものであるからである。以上の三つの思想的要素から成立つ民主主義の精神はリンカーンの有名なる『人民の人民に依る人民の為の政治』という言葉によってよく代表されている。英米に於ては民主主義というのは政治的には議会主義、経済的には資本主義の形をとることをいっているが、ソ連のいう民主主義は階級なき社会の実現をいう。デモクラシーの同義語。

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日本の民主主義

民主主義という言葉の定義は、じつは曖昧です。「民主主義」を実現した社会というものが実際にこの世に存在するのかどうかも、言葉の定義によるといえるでしょう。「できるだけ多くの人の自己決定が尊重される」などといった説明もありますが、昨今の国会運営などをみると、強行採決といった言葉がメディアをにぎわすように、単に多数派優位であるようにも思えてきます。百歩譲って、仮に「多数決」で国の政治を決めることが「民主主義」なのだとすれば、いまの日本でも「民主主義」は実現されている、ということなのかもしれませんが、はたして本当にそうでしょうか。

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一票一揆

選挙で一票一票の力を有効に使い、一致団結して現状に「抵抗」する。野党や新人の候補者が「一票一揆」をキャッチフレーズに使うことがある。室町時代の「一向一揆」をもじったもので、社会評論家の室伏哲郎がつくった言葉といわれる。一例をあげると、3.11以降、脱原発に取り組んできた女性たちが、女性の中から政治を変えようと「一票一揆」を呼びかけ、2012年8月、「女たちの一票一揆ネット」を発足した。「女が変える!政治も暮らしも原発も!」をキャッチフレーズに、脱原発候補の後押しや原発推進候補の落選を目指す。2013年に行われた福島県の首長選挙では、郡山、いわき、福島、二本松の市長選、富岡町、広野町の町長選で新人が当選、現職の6敗となった。→一票の重みネット選挙

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一票の重み

民主主義の基礎である「一人一票」の原則。しかし、投票する地域の有権者の数と選挙区割りによって一票の価値が違い、一票の重みの平等が脅かされている。「一票の格差」は2009年の衆院選で2倍以上、10年の参院選では5倍にも開き、最高裁は「違憲状態」との判断を示した。12年11月の衆院解散直前、衆院、参院ともに格差是正を図る法案が成立。衆院では「0増5減」で定数を300から295に減らし、格差を2倍未満に抑え、参院は「4増4減」で定数は変わらず、格差を5倍未満にするというもの。ただし衆院の新たな選挙区割りは法制化も必要なため、12年の総選挙には反映されなかった。14年2月、衆院選の「一票の格差」是正に向けた実務者協議で、野党5党は選挙区の「5増30減」と「3増18減」の2案を提示したが、これに対し自民・公明両党は、13年11月の最高裁判決が「0増5減」で格差が2倍未満に縮小したことを「一定の前進」と評価したことを受け、選挙区の定数を変えず比例代表を30削減する案を堅持した。「一票の格差」問題は、まだ解消されていない。→シルバー民主主義

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公聴会

国会法第51条には、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、利害関係を有する者、または学識経験者等から意見を聴くことが定められている。公聴会には国会で開かれる「中央公聴会」と、議員を各地に派遣して意見を聞く「地方公聴会」がある。公聴会は案件に対し賛成・反対双方の立場から広く意見を聞き、国政に民意を反映させる機会として位置づけられている。2013年12月4日、自民・公明両党はさいたま市内で、「特定秘密保護法案」に関する参議院国家安全保障特別委員会の地方公聴会を開いたが、法案に反対する民主、社民、また、衆院において法案修正で合意した維新、みんなも欠席する異例の公聴会となった。公聴会には45席ある傍聴席に、事前に各政党から案内状を受け取った人が入場でき、約30人が出席した。自民・公明両党はこれで審議を尽くしたとして、12月6日の法案可決に臨んだ。→強行採決

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ネット選挙  Internet campaigning

2013年夏の参院選から、インターネットを使った選挙運動が解禁された。候補者は、ブログやフェイスブック、ツイッターなどを使って街頭演説を配信したり、政策を宣伝できる。有権者はこれまでより手軽に、ネットの情報から候補者の主張や人となりを知り、比較できる。また有権者から候補者に質問したり、応援する候補者の投稿をシェアして友人に広めたり、「あの候補者には投票しないで」という落選運動も認められている。解禁時に安倍首相が「投票率の向上につながる」と述べるなど、主として若年層有権者の政治参加が期待されたが、解禁直後の参院選挙の投票率は52.61%と、前回を下回る結果となった。→一票一揆

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地方議会意見書

地方自治体の意見を政府や国会に提出する文書。地方議会の議員が提案し、議会内で討論したうえで、賛成多数や全会一致の手続きを経て可決する。例えば「脱原発」を求める意見書を可決した自治体は、14年1月までで全国455にのぼる。福島第一原発の事故から約3年、事故前までは国にエネルギー政策を任せてきたが、事故後は住民の安全を守るため、国に意見する自治体が増えている。また、2013年12月6日に可決成立した特定秘密保護法に対し、廃止・撤廃を求める意見書が、成立から約1カ月ほどの期間に、衆参両院で受理されたものだけで45件提出されている。国会には年間約7000件の意見書が提出されているというが、これらの内容に拘束力はなく、意見書の成否はその後の政府・国会運営いかんにかかっている。

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デモ  demonstration

戦後日本のデモといえば、安保闘争や反戦・反核デモ、メーデーの賃上げ闘争、あるいは右翼の街宣車によるデモなどが挙げられるが、2000年代後半以降、特定の組織に所属しない一般市民を巻き込んだデモが目立つようになり、例えば尖閣諸島抗議デモ、フジテレビ抗議デモ、反原発デモ、秘密法反対デモなど、多様化の傾向にある。福島第一原子力発電所事故をきっかけとして広がった反原発デモは、10万人規模のものも含め首都圏あるいは地方各地で繰り広げられ、毎週金曜日の夜に首相官邸前で行われるいわゆる「金曜デモ」も数万人規模となることがあった。これらのデモはツイッターによる情報拡散を発信源として広がる傾向があったため、ツイッターデモという言葉も生まれた。

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強行採決

2013年12月6日、安倍政権は参院の国家安全保障特別委員会で、特定秘密保護法案を可決成立させた。12月5日の参院の審議でも法案の問題点が浮き彫りになったが、いっこうにかみ合わない質疑の途中で突然自民党議員が立ち上がり、怒号が飛び交うなかで採決が強行された。自民党が数の力で法案成立を押し切ったかたちで、話し合いなき「多数決」の論理がまかり通った瞬間であったが、これを「強行採決」と呼ぶか、あるいは手続きを踏んだ通常の「採決」であるとみるかはメディアによって意見が分かれた。また一方でこの「採決」はむしろ、多数決による民主主義である、とする論調も登場した。

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シルバー民主主義

急速に高齢化の進む日本では、有権者に占める高齢者のウェイトが相対的に高まる。これによって政党が高齢者の意向に配慮するようになり、少数派である若年・中年層の意見が政治に反映されにくくなるなど、世代間格差の拡大につながるとされる。人口構造の少子高齢化が進むと、経済・社会等多方面に影響が出る。年金、医療、介護など社会保障費の支出が増える一方、教育や子育てなどの分野に充てられる費用が縮小し、勤労世代への負担が増加する、といった問題が指摘されている。また、「一票の格差」是正のため、人口に合わせて選挙区割りを変更することは、じつはシルバー民主主義を助長することにつながる、という議論もある。→一票の重み

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国民投票

憲法改正手続法である国民投票法案は、2007年5月、自民、公明両党の賛成多数で成立し、憲法改正に必要な法的手続きが整った。憲法施行から60年を経て初めてのことであった。

改憲原案は公布から3年後の2010年から国会に提出可能となった。投票権年齢は18歳以上で、投票テーマは憲法改正に限定し、賛成が有効投票の2分の1を超えた場合に承認される。

当時、安倍首相(第1次)は、在任中に憲法改正を目指す考えを示した。もちろん、それには衆参両院の3分の2以上の賛成が必要であるが。

第2次安倍内閣は、投票年齢を「18歳以上」に確定する法改正を先行することとし、3月、自民、公明、民主など7党が、法案を共同提出することで合意。国民投票法改正案は、この国会で成立する見通しになった。

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クリミア共和国問題  Cremea Republic Problem

参考までに、12年前の『現代用語の基礎知識』(執筆・寺谷弘壬、2002年発行)からクリミアについての用語を引いておこう。

その人口の7割をロシア人が占めるクリミアは、フルシチョフが1954年にウクライナに譲渡した土地だが、ロシア議会がその無効を決議して以来、両国は対立してきた。94年1月にクリミア大統領となった親ロシア派のメシコフは、ウクライナのクラフチュク大統領(当時)の反対を押し切って住民投票を強行し、ロシア系住民の多くの支持を得た。しかし、これに対してウクライナは、クリミアが採択していた憲法を無効とし、クリミア大統領の地位も廃止した。メシコフが強行した住民投票には、この地を故郷とするクリミア・タタール人もボイコット運動を展開している。ウクライナのクラフチュク大統領(当時)はこの問題で人気を失い、大統領選挙でも落選。ロシアのエリツィン政権は、97年5月にウクライナと友好条約を結び、クリミアがウクライナ領であることを正式に認めた。

(現代用語の基礎知識2003年版の用語から)
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民意

日本維新の会の橋下徹共同代表(当時)が2012年6月ごろから使い始めた「ふわっとした民意」という言葉。12年12月の衆院選前後に盛んに使われた。13年7月の参院選での惨敗、そして同年9月29日の大阪・堺市長選挙で大阪維新の会の候補が敗れたことで、翌日の読売新聞朝刊の記事には「ふわっとした民意 離れた」という見出しが付いた。

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