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特定秘密保護法と安倍政権
執筆者 伊藤幸太

特定秘密保護法と安倍政権

特定秘密保護法  state secrets law

安全保障、外交、特定有害活動(スパイ活動)の防止、テロ対策の4分野のうち、特に秘匿が必要な情報を「特定秘密」に指定、機密情報を扱う者の故意の漏えい行為を10年以下の懲役に処するなどとした法律。従来の国家公務員法、自衛隊法などと比較し大幅に厳罰化された。2013年12月6日に可決・成立。

秘密の指定を行うのは各行政機関の長で、その指定における恣意性への懸念が指摘されていることから、独立した第三者機関の設置について現在も議論が続いている。国際基準に照らし国民の知る権利、また報道の自由などに影響が出るおそれがあるとされ、また「何を秘密にしてはならないか」といった規定がないことから、同法への批判は根強く残る。

外国からの機密情報の提供を受けるため、日本版NSC(国家安全保障会議)とのセットで成立。だが法案成立に到るまでの審議過程の不十分さは大きな問題となった。

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知る権利  the right to know

憲法21条、表現の自由から派生したとされる「知る権利」とは、国民主権の観点から見た場合に、その原理に基礎付けられているという点において、極めて重要なものであるといえる。具体的なその権利行使などにおいては、インターネットの普及などに伴い情報の開示が徐々にではあるが進められている一方で、いまだ不十分であるという指摘も強く残る。行政による情報公開の動きは1970年代後半に遡り、以来全国ほぼすべての自治体で情報公開条例が制定されている。とはいえ公開と非公開の範囲等を巡る、その情報の透明性における課題は多い。→ツワネ原則

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日本版NSC

安全保障や外交における情報の一元化や迅速な意思決定など、国の基本方針を示す日本版のNSC(National Security Council、国家安全保障会)が2013年11月、参議院本会議で成立した。緊迫する海外情勢のもと、世界中の官邸と連携し機密情報の交換を可能にするという名目で、特定秘密保護法とのセットで成立を目指してきた。12月4日には初会合が行われている。

第1次安倍内閣では国会提出も審議未了のため廃案となっていた。第2次安倍内閣での設立に至る過程としては、2013年2月に内閣総理大臣を議長とした有識者会議を設置、現行の「安全保障会議」を「国家安全保障会議」としたことや、内閣官房に「国家安全保障局」を新しく設けるなどの法案を国会提出するという閣議決定が行われていた。

国家安全保障会議は、定期的に開く予定の4大臣会議(首相・外相・防衛相・官房長官)、また必要に応じた形で行われる9大臣会議、緊急事態大臣会合などからなる。国家安全保障局はこれらの会議における事務組織としての役割を果たす。安全保障、外交といった問題はより安倍カラーを強めていく。

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普天間飛行場移設問題

12月27日、沖縄県の仲井眞弘多(なかいまひろかず)知事は、米軍普天間飛行場を名護市辺野古沖へ移設するための埋め立て申請を承認した。1996年の日米両国の政府による普天間飛行場の日本への返還合意から18年、政権与党による方針の紆余曲折を経て、沖縄の基地問題は新たな局面を迎える。

だが沖縄県内の反発は変わらない。鳩山政権による県外移設発言も、そののちの辺野古移設閣議決定での政権崩壊、続く菅政権下での辺野古V字滑走路案など、沖縄の基地問題はつねに本土の意向に左右されてきた。基地問題とはすなわち、本土の意向の歴史でもある。

今回の安倍政権による振興策に対し、仲井眞知事が述べた「たいへん立派な内容」が意味するところにも賛否が渦巻く。辺野古移設に権限をもつ名護市長選が2014年1月12日に告示、その動向に注目が集まるなか、今回の移設についてはアメリカの映画監督であるオリバー・ストーンなど著名人などからも反対の声が寄せられている。

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靖国神社参拝問題

就任から丸一年を迎えた2013年12月26日、安倍首相は「(第一次安倍内閣)在任中に参拝できなかったことは痛恨の極み」として、かねてから自身が望んでいた靖国神社への参拝を行った。予想された中韓の反発ばかりでなく、アメリカからの「失望」声明まで出された今回の突然の参拝を巡り、国内外では大きな波紋が広がっている。

とはいえ、側近は首相が就任1年以内に参拝に踏み切ると予想していたといい、保守層へ配慮した発言は変わっていないことから、それを裏付けた格好とはなった。自らの信念に沿ったとする参拝は一定層から強く支持されたものの、「何故この時期に」という反発や疑念を示す声は少なくない。中国や韓国との関係改善の兆しが見えない中での参拝は、さらなる反発を招いたこと、加えてアメリカからの声明は極めて異例であったことから、外交上新たなリスクを抱え込んだとの見方は強い。

先の戦争におけるA級戦犯の合祀などから、首相をはじめ政治家による靖国参拝の是非はたびたび取り沙汰されてきた。75年8月15日、当時の三木武夫首相の参拝から靖国の問題は表立って論じられるようになる。当初は私的参拝であるとされたが、以降連綿と続くこの問題は、憲法の規定する政教分離の原則における解釈とも重なり、現在に到るまで様々な議論が続いている。

無宗教の国立追悼施設の建設について安倍首相は慎重な姿勢を崩しておらず、今後の在任中における靖国参拝についても明言を避けている。ちなみに、A級戦犯が合祀された79年4月以降、安倍首相を含め6人の首相が参拝を行っている。

首相は「不戦の誓いのために参拝した。中国、韓国の人々の気持ちを傷つける気持ちは毛頭ない。説明したい」と述べているが、結果としてアメリカをも巻き込んでの大きな反発が起こっている。緊張するアジア情勢をさらに悪化させた参拝の「説明」が、今後どれほどの説得力を持ちうるのか、すべては首相の行動いかんである。

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ツワネ原則  Global Principles On National Security And The Right To Information

正式名称は「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」。2013年6月、安全保障と国民の知る権利について、各国が法律策定の際のガイドラインとなるよう作成された。起草の過程で重要な会議が行われた南アフリカの都市・ツワネが名称の由来。国家機密などの重要な情報における公的アクセス権の問題、またジャーナリストなどの情報取得における制裁からの保護など、全部で50の原則から成っている。同年12月に成立したわが国の特定秘密保護法との対比で注目されたのは、このツワネ原則の水準に秘密法が達していないなどの指摘が多くでたことから。

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第三者機関

秘密保護法で「何を秘密にするか」について、そのチェックを担う様々な「第三者機関」の設置が検討されている。現時点では<1>情報保全諮問会議、<2>保全監視委員会、<3>独立公文書管理監、<4>情報保全監察室の4つが上げられているが、成立直前になって提案がなされたことも手伝い、その独立性・公正性には懸念が示されたままだ。

<2>は内閣官房に、<3>、<4>については内閣府に設置される。<1>の情報保全諮問会議は首相の諮問機関としての色合いが濃く、その座長には、読売新聞グループ本社の渡邉恒雄会長を迎えることが決まっている。

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