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ベストセラーを解読するマンスリーブックガイド
執筆者 高木尋士

ベストセラーを解読するマンスリーブックガイド

『とっぴんぱらりの風太郎』

 本文が746ページ! この分厚さでも一気読み! 

万城目学著、文藝春秋刊。税抜本体1900円。

 もっと読みたい、終わらないでほしいと、きっと誰もが思うだろう。著者は、青春小説や京都を舞台にした軽妙な作品で人気が爆発している万城目学(まきめ・まなぶ)だ。デビュー作『鴨川ホルモー』でファンを獲得し、『鹿男あをによし』で独特の世界観を創り上げ、『プリンセス・トヨトミ』で世界観を不動のものにした。本作は、7作目の作品となる。タイトルの「風太郎」は、「ぷーたろう」と読む。週刊文春に二年間にわたり連載されたものだ。

 物語は、一言で言えば、「不運なニートの忍者が活躍する青春と成長の日々」なのだが、そこは万城目学、いたるところに爆発的な想像力が埋め込まれている。伊賀を追い出された主人公風太郎は京へ向かう。友達でマカオ出身の黒弓、腐れ縁の忍者・蝉、美貌の常世、神出鬼没の女忍・百という多士済々が物語を彩る。そして物語のキモは、なんといっても「ひょうたん」だ。ひょうたんから出てきて、風太郎に難題を突き付けるのは、仙術使いの因心居士。風太郎は、因心居士がふっかけるはちゃめちゃなミッションをこなしていくうちに、いつしか「大阪冬の陣」へとなだれ込んでいく。

 本書を読みながら、まるでロールプレイングゲームのような疾走感あふれる体験ができる。荒唐無稽とも思えるが、史実を背景にしているところになんともいえぬ真実味が溢れている。また、その真実味は、風太郎をはじめとする賑やかな登場人物たちが緻密に書き込まれていることにも所以する。ラストへむかう戦の場面は、著者の特徴でもある軽妙な笑いは影を潜め、人間の愚かさと戦うことの悲惨さ、そして、歴史の大きな流れに翻弄される人類の陰がページを埋め尽くし、重厚な読後感をもたらす。

 万城目文学の一つの到達点とも言える作品だ。

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『祈りの幕が下りる時』

東野圭吾著、講談社刊。税抜本体1700円。

 語られることのなかった加賀恭一郎の母親。そこから、加賀の内面を描き出した一作

 東野圭吾と言えば「ガリレオ」シリーズが人気だが、「加賀恭一郎」シリーズも絶大な人気を誇っている。本作は、その10作目にあたり、初版発行部数20万部、現在は27万部を突破している。これまでの9作品のうち、『赤い指』(ドラマ化)、『新参者』(ドラマ化)、『麒麟の翼』(2012年映画化)が映像化されている。2014年には、『眠りの森』の放送が決定している。

担当編集者は、「東野圭吾という名の謎。その頭の中はどうなっているのか。ミステリーの形をとった“奇跡”にお立会いください」と発売時に語っている。

 物語は仙台から始まる。田島百合子という女性の後半生から死までが語られ、時は移る。東京のアパートで女性の他殺死体が見つかる。被害者は滋賀県在住、上京時の事件、もともとのアパートの住人は行方不明。同時期にホームレス殺人事件発生。成功した女性舞台演出家、二組の親子、原発……。仙台の女性は誰か。身元不明のホームレスの正体は。日本橋を囲む12の橋が意味するものとは……。

多くの要素全てが加賀恭一郎自身の人生に深く関ってくる。登場人物の父娘の複雑な愛情を作中の演劇作品の中でその意味を補完し、読者をミスリードから導いている。一気読み間違いなしの小説だ。

 「加賀恭一郎」シリーズで定番とも言える親子愛が、本作を貫き、複雑に感じられるミステリーをスマートに収束させている。ラストへ向かう50ページほどの重層的な筆力は圧巻だ。そして、本書に用意されている悲劇的カタルシスこそ東野圭吾が多くのファンに読まれ続けている理由の一つだろう。

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『原発ホワイトアウト』

 フィクションなのか、ノンフィクションなのか、小説なのか、あるいは真の内部告発なのか……。ラストシーンの恐怖を読めば、この「物語」が小説であってほしいと誰もが思うだろう。

講談社刊。税抜本体1600円。

 著者は若杉冽。略歴として「東大法学部卒、国家公務員I種試験合格、現在霞が関の省庁に勤務する現役のキャリア官僚」とだけある。現役キャリア官僚が匿名で政治家、官僚、電力業界の癒着と手口を書いたものだ。登場人物の全てはもちろん作者の創り上げた人物なのだろうが、登場人物の誰が実際の誰にあたるのか、わかる人にはすぐにわかるはずだ。

 冬の爆弾低気圧に襲われた北国の原発をテロリストが襲う。非常用発電機や電源車も動かせない暴風雪と酷寒の正月。視界を奪われるホワイトアウトの中、外部電源を支える送電線鉄塔を爆破して「第二の福島」が引き起こされるという恐怖のシナリオをモチーフに、原発が産み出す無限とも言える富の再分配と、巧妙に目隠しをされた国民には想像もつかない電力業界が作り上げた政治をも操る「モンスターシステム」が詳述されている。

 著者は、「現実世界は原発再稼働に向けて着々と動いています。

 一方で私は、電力業界のずるさや安倍首相の言う『日本の原発は世界一安全』がウソなのを知っている。私は公僕です。そうした情報は国民の税金で入手したとも言える。もちろん国家公務員として守秘義務もある。だから小説の体裁を借りて『みなさん、このまま再稼働を認めていいんですか』と問いかけたかった」(毎日新聞10月22日夕刊)と語っている。

 管直人オフィシャルブログで菅元首相が本書について、「私の知ることと共通する点が多い」と言及しているのも意味ありげだ。

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『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』

「長く外国にいると、日本がつぶさに見えてくることは確かだ。日本の長所は非常に多く、それはとりわけ実用面で際立っている。」

川口マーン惠美著、講談社刊。税抜本体838円。

 著者は、30年ドイツに住み続けている日本人だ。さまざまなデータから日本の特徴を記した本は多いが、とりわけ本著は両方の国で生活や育児を経験した著者のリアルな視点で語られており、その違いがより身近に感じられる。

 2時間単位の配達時間指定が可能な宅配便。24時間営業し、あらゆるサービスを一手に引き受けるコンビニ。日本の鉄道が世界一時間に正確だということは有名だ。日本に住んでいると当り前のことだが、ドイツでは絶対にあり得ないという。

「日本には素晴らしいところがたくさんある。人々の行動や思考の基本に思いやりが潜んでいるのが、とりわけ素晴らしい。」

 東日本大震災時も、世界から絶賛された日本人の性質は、日本を大変に住みやすい国にしている。しかし一方で、その性質が世界基準で考えると欠点にもなり得ると著者は指摘する。日本の奥ゆかしさや「和」を重んじる風潮は、突出することを嫌い、自己主張を抑える。それは日本の世界に対する主張の弱さに繋がっており、今後、領土問題やTPPでの交渉で不利に働くことが懸念されるという。

 ドイツは現在、脱原発に対する課題を抱え、EU内で非常に苦しい立場にある。日本が直面する問題について、参考にすべき点は多いはずだ。本書は、日本を一歩離れたところから眺めることで、自国に自信を持ち、他国に学ぶ重要性を説いている。TPPへの参加や憲法改正など、大きな決断を迫られている今こそ、必読の一冊。

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『人とお金』

 銀座まるかんの創設者にして、2003年には累計納税額で日本一になった斎藤一人。全国に支店やファンの会があり、カリスマ的人気を誇っている。数多くの成功本を上梓している著者が、「お金」と「人間関係」にテーマを絞って書いた一冊。

斎藤一人著、サンマーク出版刊。税抜本体1,600円。

 やさしくて、どんな人にも親切で、困った人を見ると放っておけない「いい人」。でも、世の中は「いい人」だからといって成功するとは限らない。成功するためには「いい人」であることはそのままに、さらに二つのことを学ばなければならない。それが、「お金(経済)」と「人間関係」。

 「お金」も「人間関係」も、悪い流れを作らない、思考を前向きにする、といった内容は他の成功本と共通するが、本書ではそれらを「神様」「霊」「波動」といった言葉で説明しているのが特徴的だ。景気のいい話が嫌いな人は貧乏な波動をだしており、そういう人には貧乏神がつく。日頃から景気のいい話をすることで貧乏波動を豊かな波動に変え、貧乏神を追い払うことが必要だ、という。縁起を担いだり、言霊信仰のある日本人には受け入れやすい内容だろう。

 巻末には付録のCDがあり、著者の40分ほどの講演を聞くことが出来る。

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『日本人はいつ日本が好きになったのか』

 このタイトルに、ずっと好きだったんじゃなかったの? と思って本を開くと、著者はのっけにこう書く。

 「平成22年の時点では(中略)はっきり言いにくい空気に包まれていたように思う」。

 それを打ち破った直接的契機は9.11の東日本大震災だとか。確かに、あの時の被災者たちのとった整然とした行動が、暴動や略奪が起きるのが当たり前の他国の例に比較して、世界中から称賛を浴びた記憶は、いまだに私たちの記憶に新しい。

 ここを起点に、いくつかの外患が起きたことも、日本人の愛国心に火をつけたという。中国との尖閣列島問題、韓国との竹島問題などだ。

 そして本書の白眉は、そもそもなぜ「日本が好き」といえない状況が生まれたかについての考察だ。結論から言ってしまえば、戦後すぐ、占領軍が実施したWGIPがすべての始まりと説く。

 WGIP(War Guilt information Program)すなわち「日本人の潜在意識に戦争についての罪を植え付ける宣伝計画」である。その最先頭が「報道」と「教育」だった。

 本書は、この日本軍を武装解除したのみならず、日本人を精神的武装解除するためにとった施策をまず説く。日本国憲法、そして第9条も、その重要な一環であり、日教組などもWGIPで刷り込まれた心情をそのよりどころにしているという。

 そしてWGIPと全く対立する概念として、日本が一貫して、天皇と国民が一体化して国を守ってきたこと=「君民共治」を対置する。明治天皇の玄孫であり、保守の論客として知られる著者ならではの史観と言えよう。

 後章では、中国や韓国にも1章ずつを割き、対処法を解く。国力(経済力・国土・人口)から割り切る切り口は面白い。

竹田恒泰著、PHP新書。税抜本体760円。
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