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読んだつもりになれるマンスリーブックガイド
執筆者 高木尋士

読んだつもりになれるマンスリーブックガイド

『聞く力』

週刊文春「この人に会いたい」で、1993年5月から900回を超えるインタビュー対談を連載している阿川佐知子が、「聞く」をテーマに書き下した『聞く力 心をひらく35のヒント』。豊富なインタビューで体験した「聞くことの鍵」が、著者の飾らない筆致で描かれている。

トーハン・日版が発表した2012年の年間ベストセラー(2011年12月〜2012年11月)の総合1位を獲得し、2012年1月の刊行から12月までの発行部数は105万部。この年唯一のミリオンセラーとなった。

阿川佐知子著、文藝春秋、文春新書。税抜価格800円。

本書は、〈聞き上手とは〉〈聞く醍醐味〉〈話しやすい聞き方〉という三部構成で、全体は、サブタイトルのように35の章。そのトピックは、「まえがき」で言及されているように体系的というよりは、おしゃべりなつぶやきという感じでまとめられ、読み進むにつれ、いつの間にか阿川佐知子本人が目の前にいるように感じられる。

体験談に出てくる相手は、北野武、萩原健一、ジュリー・アンドリュース、笑福亭鶴瓶、五代目柳家小さん、デーモン閣下、筑紫哲也、井上ひさし、室伏広治…etc.etc.

いかにうまく「聞く」かのノウハウより、「聞く」ということは「何か」ということが大きなテーマと著者はいう。相手に敬意を払い、意見を聞きたいという気持ちがあればいい、それこそが「聞く力」だと。

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『僕は友達が少ない CONNECT』

現在出版されている文庫の2割を占めるライトノベル(略称ラノベ)。そのラノベ界で2009年8月に第1巻が発売され、既刊は8巻。2011年度版『このライトノベルがすごい!』では2位を獲得し、シリーズ累計450万部を突破した人気の作品だ。公式略称は「はがない」。キャッチコピーは、「残念系青春ラブコメ」。今年1月より第2期アニメ、テレビシリーズも始まる。

平坂読著、メディアファクトリー・MF文庫J。税抜価格580円。

聖クロニカ学園高等部2年生の主人公羽瀬川小鷹は、転校から1か月経ってもヤンキー的な外見が原因でクラスから浮いた存在だった。ある日、小鷹は同級生の三日月夜空が1人で「エア友達」と楽しそうに話しているのを目撃する。夜空は、友達を作るために「隣人部」という部活を創部し、小鷹を無理やり入部させた。やがて、隣人部には女王様気質の美少女・柏崎星奈、「しんのおとこ」を目指す楠幸村、変態的思考を持つ天才少女・志熊理科、小鷹の妹・羽瀬川小鳩など、「残念」な美少女たちが次々と入部してくる。そこでさまざまな事件や日常が描かれていく、というのが本編の物語だ。

本作は、これまでに本編の中で描かれなかった各キャラクターの過去のエピソードや重要な秘密などを、主人公小鷹以外の視点で描いた短編集。番外編、外伝、アナザーストーリー、サイドストーリーなど呼び方はさまざまあるが、著者は、「番外編ではなく、本編の一部である」としている。

本編では描ききれないエピソードを取り上げ、「はがない」独特の世界観に強度と豊かさをもたらせている。また、各キャラクターの内奥を浮き彫りにして、次巻9巻へとしっかりと橋渡しをしている。サブタイトルの「Connect」という趣旨がはっきりとした作品だ。

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『散華の刻』

書下ろし人気長編時代小説〈居眠り磐根〉シリーズの第41巻目にあたり、「天明の関前騒動」と銘打った3部作の2作目となっている。前作の3部作第1作は「春霞ノ刻」、本書が第2作、今月(2013年1月)発売予定の第3作が「木槿ノ賦」だ。3部作で一つの連続した物語になるが、もちろん本書だけでも矛盾なく完結している。

佐伯泰英著、双葉社・双葉文庫。税抜価格648円。

物語は、主人公の剣客坂崎磐根がかつて所属していた関前藩の御家騒動を描いたものだ。江戸家老・鑓兼参右衛門が関前藩の物産事業を私物化し、長崎からの品物売買にかこつけ大麻を江戸に持ち込もうとするのを、関前藩国家老で磐根の父である坂崎正睦が出府して磐根とともに解決にあたる。この事件を辿っていけば、磐根の仇敵である田沼意次・意知父子の策略に繋がっていく。そして、それらさまざまな問題を磐根の剣が解決する。剣客物語でありながら、国家老と江戸家老の弁舌による応酬も読みごたえがある。

自らを<職人作家>と称し、「二十日で一作」を書きおろすという著者独特のリズムとスピード感溢れる筆致による物語展開は、50巻完結を予定している本シリーズの大きな特徴となっている。

また、シリーズを彩る魅力溢れるわき役たちの物語も目を離せない。深川の幼馴染である幸吉とおそめの成長ぶりや、お代の方様の生死のゆくえ、後継ぎ問題、空也と睦月など、主ストーリーを見事に補完している。シリーズ本編の大きな動きの中での番外編的な本作とも読めるが、シリーズを理解するための大きな一作となっている。

今回の題名の「散華」という言葉は、戦中の特攻隊を想像させるが、そうではなく、花をまいて仏に供養するという意味で使用され、本作の内容に深みを与えている。

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『謎解きはディナーのあとで 3』

2011年、第8回本屋大賞第1位を獲得した『謎解きはディナーのあとで』シリーズの第3作。人気アーティストのCDジャケットを多く手掛けるイラストレーター中村佑介の鮮やかなイラストが目を引く本シリーズは、累計340万部を売り上げ、2012年のドラマ化に続き、2013年には、映画公開も予定されている。

東川篤哉著、小学館刊。税抜価格1500円。

登場人物は、世界的に有名な大富豪の令嬢でありながら現職の新米刑事でもある主人公宝生麗子とその執事の影山。主人公が捜査にあたる難事件を、執事が事件の「あらましを聞いただけ」で解決してしまうという安楽椅子探偵スタイルのミステリーだ。

キャラクターの強烈な個性も魅力のひとつ。「お嬢様、いま少しばかり脳みそをご使用になられてはいかがでございますか」という探偵役の執事影山の慇懃無礼なキメ台詞とともに展開される謎解きは、爽快! 本書1冊に6話が収録されている短編形式であるが、それぞれに意外性があり、用いられるトリックも密室・アリバイ・物理・叙述など幅広く、古典ミステリー手法を彷彿とさせ、しっかりと論理的解決がなされている。本格ミステリーという分野に新しい扉を開いたと言える1冊。

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『夢をかなえるゾウ 2』

2007年に刊行された『夢をかなえるゾウ』。この200万部を突破したベストセラーの続編にあたる。

水野敬也著、飛鳥新社刊。税抜価格1,500円。

うだつの上がらない主人公の前に突如インドの神様であるガネーシャが現れ、人生で成功するための教えを説く、というストーリー。ゾウの姿で関西弁をまくしたてる神様が人気を呼び、2008年には連続テレビドラマとして放映されたほか、舞台・アニメ・ゲームなど、多くのメディアに取り上げられた。

前作では「仕事」において成功するための課題を示し、ビジネスマン向けの啓発書の要素が強いものであったのに対し、本作のテーマは「夢」。売れないお笑い芸人である主人公の前に、ガネーシャと貧乏神(本作から新登場)が現れ、才能や努力のあり方、お金に対する向き合い方などを教えてくれる。

夢を叶えたい、お金持ちになりたいと、漠然とした願いを口にしつつも、具体的に何をするべきかはわからない。そんな私達に、今からでも実践可能な方法を提示する1冊。実在の偉人のエピソードも盛り込まれ、内容に説得力を与えている。

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『万能鑑定士Qの短編集 II』

万能鑑定士Qというタイトルや乙女チックな装丁のため、手を出していなかった向きには恰好の1冊。短編で、この恐るべき記憶力に基づく(高校時代にはオール1に近い劣等生だったのだが)該博な知識と推理力をもつ美少女凜田莉子(りんだりこ)の魅力に触れてみては。本書には5篇が収まる。第1話「物理的不可能」は本格物のテイスト。金券ショップの店員鴨嶺は、京都の資産家のアルバム3冊分の中国切手(計8億円!)をホテルに待機する買い手に届けることになる。手筈は万全だった。ありふれたジュラルミンのケースに入れ、ありふれた車に積み、他の車が入り込まないように前後を車で挟み、一部始終を追尾するHDDカメラで撮影。ところがホテルでケースを開くと……、そこへ犯人からのメッセージ……。ここに鑑定士凜田莉子がどうからみ、どう真実を見抜くのか。最後に登場人物を一室に集めて犯人を指名するという本格謎解きの手法を踏襲しているのも面白い。と思うと2話、3話は一転、個性的な登場人物や、長編でもおなじみの角川書店の編集者・小笠原悠斗や牛込署の葉山翔太警部補などが入り乱れて、泣かせたり、味わい深かったり。登場人物を追って、次々と他のシリーズに手が出ること請け合い。

松岡圭祐著、角川文庫。税抜価格552円。

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『お金をかけずにマスコミにとりあげられるユダヤ式PR術』

立川光昭著、東洋経済新報社刊。税抜価格1400円。

著者立川は、20歳の時に所持金1500円でバイク回収で起業し、11店舗にまで拡大した。そして、ユダヤ系商社に勤務。そこで、ナンバー1の成績をあげ、日本法人の実質的なトップとなり、2009年、PR会社メディマックスを設立する。2年目には20億円の売り上げを達成。そんな著者が、自身のPR手法をあますことなく書き下したものが本書だ。

著者がユダヤ系商社で体得したPR方法が、たくさんの具体的な事例として紹介される。その軸は「すべてを数値化する」「相手を動かすには対価に揃える」「無価値と思われているものの中から、価値を見出す」という「ユダヤ式」。

地方のテレビ局やフリーペーパーなどのローカル・メディアの利用や、TV番組にタダで取り上げてもらう方法、タレントに商品を絶賛させる方法など、すぐに誰にでも実践できる虎の巻だ。飲食店チェーンでの伝説的と言える成功から「行列請負人」と言われ、「映画レッドクリフ×白木屋」「富士そば」などの大型PR案件で大きな成果をあげてきた著者の語り口は、実績に裏打ちされた信頼感がある。個人商店や飲食店、全国展開するチェーン店や大企業まで、業種や規模を問わずに使える新しいPR方法が提案されている。

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『たくらむ技術』

著者は、高視聴率を記録し続けるテレビ朝日系バラエティ番組「アメトーーク!」「ロンドンハーツ」などの企画・演出・統括の全てをこなすゼネラル・プロデューサー。そんな売れっ子が、番組制作の技術や裏技を余すことなく具体的に明かしたのが本書だ。

加地倫三、新潮社・新潮新書。税抜価格700円。

ひとつのテーマに対して出演者が自由にトークしているだけに見える番組が、どれだけ緻密な計算の上に成り立っているか、「くだらない」と一笑される内容にいかに手間とお金を掛けているかなど、テレビ業界の裏話的トピックで全編が構成されていて、そこに著者のマネジメント論が浮き上がってくる。市場調査・企画・制作・リリース・評価付けなど、全ての業界にも通じるエッセンスが満載。

「トレンドに背を向ける」「企画はゆるい会話から」「勝ち続けるために負けておく」「文句や悪口にこそヒントがある」「スベる人の面白さ」など、著者独特の経験的視点は、堅苦しいビジネス書に一石を投じる。

『「バカじゃないの?」は、褒め言葉』という著者が就職するにあたり、母からひとつの忠告を受ける。それは、「1つ頼まれたら2つやりなさい」というもの。その姿勢が、番組作りにおける大きな土台となっていることがわかる。そして最後に著者は、こう締めくくる。「この仕事はめっっっっっっちゃ面白いよ。ずーーーーっと笑っていられるもん。たしかに最初の数年はキツいことも多いけれど、それを乗り越えたら、こんなに楽しい仕事はないよ」。

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