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袋小路派の政治経済学「小沢新党とその行く末を占う」
執筆者 土屋彰久

袋小路派の政治経済学「小沢新党とその行く末を占う」

除籍

離党なのに除籍。実はけっこうよくあるパターンです。対等の(元)友人関係であれば、「お前なんか絶交だ!」、「こっちこそ絶交だ!!」(以後、解散、口喧嘩、リアル喧嘩などへ移行)というように、それぞれが処分の権限を行使できます。これに対して、組織と構成員の間では、構成員は脱退の自由、組織は処分の権限と、お互いに使える権利のレベルが違い、組織の側が基本的には上にきます。そのため、双方の関係が悪化した場合には、脱退という一点においては完全に一致しているはずなのに、メンツにこだわる組織の側が「より円満でない」解決策を志向する結果、離党届の扱いを棚上げにして先に除籍の処分を下すことがあります。→離党ドミノ

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国民の生活が第一

「今回の」小沢新党の名称です。新党とか名乗っても変わり映えがしないし、このスローガン(離党前の民主党がずっと掲げてきた)へのこだわりもアピールしたいということで、こんな名前になったそうです。文字数だけで言うと、「東京・生活者ネットワーク」(東京の地域政党ないし政治組織で自称は「ローカルパーティー」)の方が長いですが、助詞が二つも入っているので、体感レベルではこちらのほうが長ったらしく感じられます。ついでに、最後に「第一」という数詞で終わっていることも違和感を増しており、全体としてキワモノ感に溢れた政党名となっています。でも、どうせキワモノ路線を行くなら、最近の自虐ブームに乗って、昔から変わらない権力体質をアピールして「旧党・依然」とかどうでしょうかね。

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略称問題

国政選挙での政党名投票(比例区)のため、政党は略称を届け出る必要がありますが、「国民の生活が第一」は、まだ届け出ていません。党側としては、国民が決めてくれるのを待つという姿勢で、しばらくは様子を見るとしています。どこともかぶらなそうなのは「第一」ですが、仮に「国民」で届け出た場合、先に同じ「国民」で届け出ている国民新党とかぶってしまいます。ところが、それでも法律上は有効で、実際に選挙になれば、「国民」への投票は、国民新党と小沢新党で按分されることになります。このような略称重複問題は実際に、同じ「日本」で届け出ている新党日本とたちあがれ日本の間で生じており、まだ実際の選挙での按分までは行っていませんが、未解決の状態が続いています。

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52人

衆院での造反に際し、小沢グループとして何人集められるかで注目された数字です。実際には、この数字には10以上足りませんでしたが、この52の根拠は、野党側が内閣不信任案を提出した際、民主党から52人の賛成者が出れば可決されるというところにあります。ですから、離党せずに民主党に残った鳩山グループを加えると、このラインは軽く突破できますので、現在の焦点は参院での消費増税法案可決の前に不信任案が出るか、として民主党内からの再造反が出るかに移ってきています。

51人

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51人

似たような数字で51人というのもあります。これは、グループ単独で不信任案を発議するのに必要な数字です。根拠は衆議院規則の規定です。衆議院規則では、内閣不信任決議案を発議するには、50人の賛同者の署名が必要としており、発議者本人を含めて51人が必要ということになります。→52人

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壊し屋

「壊し屋」の異名もとる小沢一郎ですが、いったいどこらへんが壊し屋なんでしょう。まず一つは回数です。下の履歴の項ででつまびらかにしてみましたが、計五回、群を抜いています。もう一つは経緯。その分裂劇を誰が仕掛けたかというところから見てみても、深層の深層は別として、分裂への最初の一歩を踏み出しているのは、やはり小沢です。「一郎の一は、一抜けたの一」と言われても仕方ありませんね。多くの政治家、特に多数派工作に熱心で権力志向が強い政治家の場合、ここで我慢なり自重なりするのが普通ですが、どうもそれができないのが一端のようです。→壊し履歴

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壊し履歴

小沢一郎のこれまでの壊し履歴を振り返ってみましょう。出だしは当時の永世与党自民党のこれまた最大派閥田中派です。この田中派分裂で竹下派についた時点では、まだ自分で壊してはいません。次の竹下派分裂から、小沢の壊し屋伝説がスタートします。田中派時代から剛腕でならし、派内でもNo.2の位置にいながら、後継争いで小渕に敗れた小沢は、羽田を担いで派を割ります(一回目)。そして、この名目羽田派・実質小沢派は、野党提出の不信任決議に賛成して当時の宮沢内閣を衆院解散に追い込み、自民党を離党します(二回目)。自民党を離党後、新生党を結成し、さらにこれを基に新進党を結成し、当時の非自民連立政権の中核を担います。しかし、その独断専行の行動スタイルが災いして、連立政権が分裂、さらに新進党も分裂するに至り、自由党を結成します(三回目)。今度は、自社さ連立の崩壊を受けて、自民党と組み、自自、自自公連立と政権に参加しますが、これまた路線対立から連立を離脱します(四回目)。この際に、自民の強烈な引き抜き工作で勢力は半減しましたが、民主党に合流、政権交代時の圧勝劇に乗って勢力を拡大しました。しかし、再び党内の主導権争いに敗れ、野田内閣の消費税増税法案に反対し、今回の離党となりました(五回目)。→作り屋

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作り屋

意外と忘れられていることですが、基本、ものは作らないと壊せません。ここらへん、実は剛腕伝説と相まって、壊し屋と表裏一体なところがあります。小沢が壊したものというのは、大半が小沢自身がキーパーソンとなって、政権獲得のために形成した多数派勢力です。ただ、「相手変われど、主変わらず」と言いますか、いろんな相手と組んでは別れを繰り返してきたため、常に小沢の行動の方が目立ち、さらに権力から離れて少数勢力に転落しているために、壊すところだけが目立つということがあります。→壊され屋

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壊され屋

壊すだけなのかというと、けっこう壊されもするのが小沢です。そもそも、竹下派からの分裂も、剛腕幹事長として名を轟かし、後は当然、と思っていたところで、切り崩し工作で非主流派に転落してしまったという事情があります。極端だったのは自自公連立離脱の時で、このときには自民党側の猛烈な切り崩しに遭って、約半数が保守新党として連立与党に残り、自由党の勢力はほぼ半減してしまいました。今回の離党劇でも、前もって集めておいたグループ全員の離党届をまとめて提出しましたが、後から三人が「自分の意思で出したものではない」として撤回し、「造反の造反」などと揶揄されました。人数は少ないですが、不信任との絡みで衆院での多数を死守したい民主党にとっては、小沢新党への揺さぶりという点からも、意味のある数字といえましょう。→壊し屋

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政局の男

小沢一郎についてよく言われる言葉に、「政策より政局」という言葉があります。実際、これまでの政権形成・参加・離脱遍歴をたどってみますと、いつも表向きは大義、つまり政策を掲げて動いてはいるんですが、どうもそれが口実としか思えない、というところがあります。というか、それぞれの時点で掲げた政策や方向性が、必ずしも一貫していない、あるいは場合によっては矛盾すらしているというのが実情です。そうなると、ある政策の実現のために行動してきたというより、権力奪取のための行動が先にあって、あとから大義を取って付けていると見るのが自然でしょう。実際、今回の離党劇をとってみても、そもそも政権交代後に現実主義を持ち出してマニフェスト実行の最大の障害となったのは、小沢幹事長(当時)その人でした。

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幹事長

小沢の幹事長フェチは、政界の内外で有名です。どうしてそこまで、幹事長というポストにこだわるんでしょう。それは、実力が備わっている場合には、一番権力をふるいやすいポジションだからです。政権党のトップは、自動的に総理大臣となるため、公人として公務に追われますが、No.2の幹事長は、その下で党を束ねて総理(総裁・代表)を支える立場ですから、その気になれば暗躍し放題です。たとえば、党内反主流派をどんなにダーティーに締め上げても、国会で追及されることはありません。これは、幹事長になれば誰でもできるという話ではなく、この種の暗黒面のフォースに満ちた人材が、幹事長というポストに就くと、鬼に金棒になるということです。

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小沢チルドレン

小沢は、自分が幹事長の時に、党の力を自由に使えるその立場を利用して手勢を整えるのが格段に上手です。そうして、「小沢先生のおかげで議員になれた」と思い込んでいる忠順な一年生議員を囲い込み、「数の力」の源にします。この「数の力」が、造反劇のインパクトに直結するのは言うまでもないでしょう。彼らが「チルドレン」と揶揄されるのには、そのカルガモのヒナのような忠順さもさることながら、「国民の代表」としての自覚を全く欠いた、精神的な依存構造の幼稚さもあります。

チルドレン製造法

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チルドレン製造法

チルドレンの作り方は、当然ながら人材選びが第一で、特に資質と忠誠度のバランスが大事です。資質は高すぎても独立心が高まって忠誠度が下がるので困ります。ちょうどいいのは、「小沢先生のおかげ」があれば当選でき、なければ当選できないレベルです。この関係が物理的側面から忠誠度を支えることになります。この資質の条件をクリアしたら、残りは忠誠度の高さで決まります。ですから、資質が高すぎると逆にマイナスで、忠誠度さえ高ければよいというものでもありません。資質と忠誠度の両方が高い人材ですか?それは十中八九、スパイです。資質の高さを自覚する人間は、なにか下心がなければ不必要に下手にはでません。あとは、田中派時代から改良を重ねてきた陣笠議員製造メソッドに沿って選挙戦術を叩き込み、追い風が吹けば大量当選です。

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剛腕

「剛腕」もまた、小沢について回る称号の一つで、本人もまんざらではない感じです。エピソードとしては、自民党時代に選挙資金として経団連に300億を出させたこと、あるいは自民党総裁選に当たって、竹下派を代表して他派閥の3候補を相手に推薦を決めるための面接を行ったことなどが有名です。剛腕の中身を見てみると、決断力と実行力ですが、政治の世界ではそれは「一部の反対を押し切って」ということを意味します。そのため、敵をなるべく作りたくない政治家は、「剛腕」政治家をうまく利用することを考えます。一方の剛腕君も、それと引き替えに様々な実利を手に入れ、腕力を強化します。しかし、これはその場限りのギブアンドテイクにすぎず、利用価値がなくなれば、腰抜け君たちはあっという間に離れていき、影響力を失った剛腕君の腕は一気に細ります。実は小沢に限らず、剛腕伝説の半分は、これを利用してきた腰抜け君たちに支えられてきたというのが実情です。

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離党ドミノ

正確に「五月雨離党」の方が合ってると思うんですが、梅雨明けで五月雨が終わったばかりということもありますし、メディアもこぞって(無批判に)ドミノ、ドミノと言ってますんで、多分、仕掛け人が言い出したんでしょう。離党劇1幕目では、政権側の切り崩しで衆院52人の目標には遠く及びませんでしたが、戦いは始まったばかりです。離党組にしてみれば、ここから解散に追い込まないと国民の新鮮な怒りの受け皿にはなれませんから、法案の参院通過阻止は第二の勝負所です。消費増税反対・未離党組を離党させれば、衆院の52は簡単にクリアできますから、直近の選挙が控える参議院議員から先に離党を働きかけ、政権を泥船状態にして衆院組の離党を促すというのは、なかなか強烈な切り崩し返しです。実際、離党が増えるほど解散に傾き、離党組に有利になるという構造ですので、このメカニズムが回り出すと本当のドミノが発生しますね。それを狙って仕掛けるあたり、さすがは政局だけの男です。

政局の男

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