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原発事故を正確に理解するための単位と用語
執筆者 白鳥 敬

原発事故を正確に理解するための単位と用語

INES  International Nuclear Event Scale

国際原子力事象評価尺度。IAEA(International Atomic Energy Agency)が定めた、原子力発電所の事故の大きさを表す尺度。8段階に分かれている。

レベル7:深刻な事故(大量の放射性物質が外部に放出)

レベル6:大事故(かなりの量の放射性物質が外部に放出)

レベル5:所外へのリスクを伴う事故(一部の放射性物質が外部に放出)

レベル4:所外への大きなリスクを伴わない事故(法定限度をわずかに超える放射性物質が外部に放出)

レベル3:重大な異常事象(法定限度の10分の1を超える放射性物質が外部に放出)

レベル2:異常事象(従業員の年間線量限度を超える被爆)

レベル1:逸脱(運転制限範囲からの逸脱)

レベル0:安全上重要でない事象

1986年のチェルノブイリ事故はレベル7、1979年のスリーマイル島事故はレベル5、1999年の東海村のJCO臨界事故はレベル4であった。

今回の福島第一原発の事故については、現在も進行中の事象であるが、3月末現在、海外ではレベル6相当とされている。

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放射線被爆線量

国際放射線防護委員会(ICRP)によって、人体への放射線被爆線量の限度が決められている。一般人の被爆限度は、1年間に1ミリシーベルト。原発従事者・医療従事者の被爆限度は 1年間に50ミリシーベルトで、さらに5年間で100ミリシーベルトを限度としている。福島第一原発事故の後、ICRPは、一般人の年間被爆量を、1〜20ミリシーベルトに引き上げることが妥当であるとした。この数値は、ICRPの2007年勧告書で定められている。

たとえば、事故後の周辺地域の一日あたりの放射線量は、0.028ミリシーベルト。新勧告に基づけば、この場合でも年間被爆線量は10ミリシーベルトくらいになるので、健康に問題の出ない量に収まる。もっとも、これは、これ以上、放射線量が増えないという前提の計算なので、事故の経過次第ではどうなるかわからない。

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人体への影響

3月27日、東京電力は福島第一原子力発電所の2号機タービン建家地下にたまっていた水の表面から1000ミリシーベルト毎時以上の放射線を測定したと発表した。1000ミリシーベルトは1シーベルトである。人体への影響はないのだろうか。

放射線被曝線量と人体への影響は次の通り。

1ミリシーベルト/年:一般人の年間被爆線量限度

2.4ミリシーベルト/年:1年間の自然放射線量

50ミリシーベルト/年:原発従事者・医療従事者の年間被爆線量限度

250ミリシーベルト:これ以下では症状無し

500ミリシーベルト:白血球減少

1000ミリシーベルト:吐き気・倦怠感

3000ミリシーベルト:脱毛、5%の人が死亡

7000ミリシーベルト:全身に浴びると死亡

1999年の東海村JCO臨界事故で亡くなった2名は10000〜17000ミリシーベルトの放射線を浴びた。

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グレイ  Gy

グレイは、単位質量あたりの物質が放射線が当たることによって吸収したエネルギーの量を表すSI単位。つまり、グレイは、放射線の強さそのものを表す。

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シーベルト  Sv

シーベルトは、人体が吸収した放射線の量を表すSI単位で、グレイに放射線ごとに決められた係数を乗じて計算したもの。放射線の人体への影響を表すときに用いる。

シーベルト=(係数)×グレイ

X線やガンマ線は係数1、α線は係数20、中性子線は係数5〜20。

前述のように、原発従事者・医療従事者の被爆線量限度は50ミリシーベルト/年だが、5年間の最大被曝線量の限度は100ミリシーベルトと定められている。また、福島第一事故の緊急作業者の上限は250ミリシーベルトとされている。

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シーベルト毎時  Sv/h

シーベルトは被爆量を表すが、シーベルト毎時は被爆の大きさを表す。たとえば、毎時100マイクロシーベルト(μSv/h)の環境に10時間さらされると、被爆量は1000マイクロシーベルト=1ミリシーベルトになる。

東京の平時の放射線量は、0.028-0.078マイクロシーベルト毎時。福島第一の事故後は、0.1-0.15マイクロシーベルト毎時程度と平時よりやや増加している。事故後1時間の増加分は最大で0.072マイクロシーベルト毎時なので、年間の積算にすると0.63ミリシーベルトとなり、年1ミリシーベルトと定めた一般人の線量限度以下ということがわかる。これに胸部X線検査の0.05ミリシーベルト(一瞬の値)を加えても、基準以下なので、現状であれば、東京は問題のない状態である。

各地域の放射線量は、自治体や研究機関が測定結果を毎日、あるいはリアルタイムでインターネット上で公開している。主なものは下記の通り。

*全国の放射能濃度一覧

http://atmc.jp/

*文部科学省都道府県別環境放射能水準調査結果

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm

*都内の環境放射線測定結果(測定場所:東京都新宿区百人町)

http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/

*東京大学環境放射線情報

http://www2.u-tokyo.ac.jp/erc/index.html

*理化学研究所(和光研究所)

http://www.riken.go.jp/r-world/topics/110314/monitoring.html

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ベクレル  Bq

放射能の強さのSI単位。、放射性核種が1秒間に1個崩壊する強さの放射能が1ベクレル。

このたびの原発事故では、水道水やほうれん草などの野菜からみつかった放射能の強さを表すときにこの単位が登場してきた。一時は、東京の金町浄水場で、食品衛生法に定められた基準値のうち、乳児の上限である100ベクレル/キログラム(Bq/kg)を超える値が検出され、乳児には飲ませないようにという注意喚起が行われた。

ベクレルをシーベルトに換算するには、放射性物質ごとに定められた実効線量係数を乗ずる。たとえば、ヨウ素131の実効線量係数は、2.2×10^-8(2.2×10のマイナス8乗)なので、100ベクレル/キログラムは、0.22マイクロシーベルト/キログラムとなる。これは一日に1リットルの水を飲むとして1か月で66マイクロシーベルトである。実際は、ヨウ素131の半減期は約8日なので、この計算よりは少なくなる。

ちなみに、福島県飯舘村の水道水から3月20日、965ベクレル/キログラムのヨウ素131が検出された。これは原子力安全委員会が定めた上限は300ベクレル/キログラムの3倍超。

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プルトニウム  plutonium

東京電力は3月28日、事故をおこした福島第一原発の敷地内5か所で、プルトニウム238、239、240を検出したと発表した。検出量はプルトニウム238が2か所で、それぞれ0.54ベクレル/キログラムと0.18ベクレル/キログラム。プルトニウム239と240が、5か所から最大0.27ベクレル/キログラム、検出された。

1960年代に米ソが大気中核実験を繰り返し、世界中に微量なプルトニウムが降ったが、その量と同程度という。原子炉の中では核分裂がおこっているので、必ずプルトニウムが発生する。また、福島第一の3号炉は、プルトニウムを混ぜたMOX燃料を使うプルサーマル型なので、燃料棒には一定量のプルトニウムが含まれている。

プルトニウムは、放射性ヨウ素より重いので飛散距離は短い。しかし体内に取り込まれると、生体への影響度の高いα線を出すので、生体に影響を与える。また、半減期がプルトニウム239で約2万4000年と長いのが特徴。冥界の王プルートー(Pluto)にちなんで名づけられた。

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半減期  Half-life

放射性物質の放射線を出す能力が半分になるまでの期間をいう。放射性物質は不安点なので、原子核からアルファ線・ベータ線・ガンマ線などの放射線を出しながら別の原子へ変わっていく。

このたびの原発事故で、話題になっているヨウ素131の半減期は約8日、セシウム137は約30日、プルトニウム239は約2万4000年。ウラン238にいたっては、45億年もある。ウラン238は自然界に大量に存在するが、原子力発電所で燃料として使われるのは、純度の高いウラン235。

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SPEEDI  System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information

日本原子力研究開発機構が開発した「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」

。原子力発電所が事故を起こした場合、放射性物質が周辺地域にどのように飛散するかを、気象データを元に予測するシステムである。

3月23日、原子力安全委員会は、SPEEDIを使ったシミュレーションの結果を発表。それによると、福島第一原発の北西約55km、南西約45kmの地点でも、3月12日6時から同24日0時までの積算値で100ミリシーベルトを超える地域が出る可能性があることがわかった。

しかし、放射性物質の飛散から人々を守るには、もっときめ細かな情報が必要とされる。

海外には、以下のように、もっと細かく精密な飛散シミュレーション結果を公開している研究所がある。

*ノルウェ-気象研究所(NILU 、Norwegian Institute for Air Research)

http://transport.nilu.no/products/fukushima

*オーストリア気象地球力学中央研究所(ZAMG)

http://www.zamg.ac.at/

*ドイツ気象庁

http://www.dwd.de/

*フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)

http://www.irsn.fr/FR/popup/Pages/irsn-meteo-france_19mars.aspx

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