2010年を彩った「ニュースな人名」

◆辻元清美　　つじもと・きよみ

社民党の護憲精神を受け継ぎ、次期党首とも期待されていた辻本が７月２７日、まさかの離党表明。普天間基地問題で連立政権を離脱後、スジを通したにもかかわらず退潮傾向にある社民党を、ついに見限る形となった。この５月まで国土交通副大臣を務め、政権与党の一員として問題解決に力を発揮してきた経験が離党を考えるきっかけだったという。「これまでは批判の急先鋒だったが、それだけでは日本を変えることはできない。政権交代を逆戻りさせてはいけないと思った」とコメント。９月２８日、無所属という立場のまま、衆院の民主党会派に入った。

１９６０年４月２８日生まれ。早稲田大学在学中の１９８３年に非政府組織「ピースボート」を設立。新しい形の反核・反戦運動を展開していたが、土井たか子の誘いで政界入りし１９９６年に初当選。現在４期目。２期目途中の２００２年に秘書給与詐欺で有罪判決を受け衆院議員を辞職している。

◆毛新宇　　もう・しんゆ

中国の故・毛沢東主席の唯一の孫。７月に大佐から少将に４０歳で昇格し、中国人民解放軍で最年少の「将軍」となった。毛沢東の次男、故・毛岸青氏と女性将軍だった邵華氏との間に生まれた毛新宇氏は１９９２年中国人民大学歴史学科を卒業。毛沢東思想などを研究テーマに中央党校で修士号、軍のシンクタンクである軍事科学院で博士号を取得。２００８年から軍事科学院で戦略部副部長として勤務していた。太り過ぎともいえる堂々とした体躯と顔つきは、まさに祖父ゆずり。中国のネット上では「縁故人事」「高級幹部の子孫が高級幹部になる典型」などの批判も出ている。１９７０年１月１７日生まれ。

◆阿部守一　　あべ・しゅいち

民主、社民、国民新党の推薦を受け、長野県知事選に無所属で立候補し、初当選を果たした。参院選後初めての大型地方選挙で、大敗した民主党の面目を保つ必要から、幹部や閣僚が次々と応援に入った注目の選挙だった。阿部氏は総務省出身で田中康夫・前知事の下では副知事、中田宏・前横浜市長の下で横浜市副市長を務めた。昨年は行政刷新会議の事務局次長として、国の事業仕分けにもかかわる。今回の選挙では「信州型事業仕分けを行う」と改革姿勢を強調。無党派層にも支持を広げた。東京都国立市出身。東京大学法学部卒。妻と子どもの3人家族。１９６０年１２月２１日生まれ。

◆ジュリアン・アサーンジ　　Julian Assange

内部告発サイト「ウィキリークス」の創始者。「情報公開が健全な民主主義を築く」とのポリシーから、米国や大企業の機密情報をネット上で暴露する手法が話題を呼んでいる。２０１０年４月にはイラクで米軍のヘリコプターが民間人を射殺している瞬間の映像を公開し、世界に衝撃を与えた。８月２１日、活動拠点としているスウェーデンでレイプ容疑で告発されるも、すぐに検察によって取り下げられる騒動が発生。７月に米ニューヨークタイムスらと共同で米軍の機密文書９万点を公表した後だけに、「（今後の）告発活動を妨害するための卑劣な策略だ」と怒りのコメント。オーストラリア出身。独学で身につけたプログラミングの知識で１０代後半から「天才ハッカー」と呼ばれ、米国防総省や政府機関をハッキングしていたとされている。

◆アルベルト・ザッケローニ　　Alberto Zaccheroni

サッカー日本代表の新監督。９５年のウディネーゼを皮切りにセリエＡの強豪チームの指揮官として活躍。ＡＣミラン、ラツィオ、インテル・ミラノ、トリノ、２０１０年途中からはユベントスを率いていた。９８〜９９年シーズンではＡＣミランで優勝を果たし、年間最優秀監督に選ばれている。イタリアでは名将として知られるが、代表監督は初のことで、海外での経験もない。またユベントスでの成績がふるわなかったことで、イタリア国内からは今回の監督就任に厳しい目が向けられている。だが本人は、「ガッツとチャレンジがあれば、大変なことを乗り越えることは簡単だ」と前向き。招聘した原博実技術委員長も、「守備からいかに攻撃を仕掛け、点を取るか。これを考えたとき彼の経験やこれまで培った大胆なサッカーを取り入れてもらうことで、日本のレベルがもう一段上がるはず」と説明している。１９５３年４月１日、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州メルドラ生まれ。

◆深津絵里　　ふかつ・えり

カナダ・モントリオールで開かれた第３４回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞。受賞作『悪人』（李相日監督）では、出会い系サイトで知り合った殺人犯との愛におぼれていく女を演じた。これまでは私生活と同様の「控えめキャラ」で、内向的、弱気、しとやかな女性などを演じることが多かったが、本作では主演の妻夫木聡との濃厚なラブシーンにも挑戦し、大人の女優として新境地を開拓した。

1973年1月11日大分県出身。13歳でミス原宿グランプリに優勝し芸能界デビュー。フジテレビの『踊る大捜査線』で正義感溢れる女性刑事・恩田すみれ役を演じ、一気に知名度をあげた。今後は世界へと活躍の舞台を広げることが期待される。

◆桂米朝　　かつら・べいちょう

落語家。当代は３代目。７月５日、大阪府立上方演芸資料館（ワッハ上方）が上方演芸の発展に貢献した芸能人をたたえる第１４回「上方演芸の殿堂入り」を存命中の演芸人として初めて果たす。「噺家で生きている間に入ったんは、私だけやとか……。何や気忙しいですなぁ。ま、いずれにせよ、大変光栄なことです」とコメント。１９４７年、４代目米団治に入門。以後、滅びかけていた上方落語の伝承、復興に力を注ぎ続けてきた功績から「上方落語中興の祖」と呼ばれる。若くして亡くなった天才、桂枝雀の師匠でもある。１９９６年、落語界では２人目の人間国宝となり、２００９年には演芸界初の文化勲章受章者となった。１９２５年１１月６日大連市生まれ、兵庫県姫路市出身の８４歳。

◆小林尊　　こばやし・たける

日本を代表するプロ・フードファイター。毎年７月４日のアメリカ独立記念日にニューヨーク市で開催される「国際ホットドッグ早食い選手権」で２００１年から６連覇。豪快な食べっぷりと細身の体型とのギャップから「Ｔｈｅ　Ｔｓｕｎａｍｉ （ザ・ツナミ）」のニックネームをつけられ、大会の顔となる。２００７年にはアゴの関節症に苦しみながら１０分間で６３本の自己記録を更新したものの準優勝。今年の大会には主催者団体との出場条件が折り合わず欠場したが、試合終了後「俺に食べさせてくれ！」と壇上に上がり、大会妨害の疑いで逮捕される。翌日釈放された際のコメントは「（拘置所では）ミルク1杯とサンドイッチ１つ口にしただけなので、おなかがすいた」。『ＴＶチャンピオン／大食い選手権』などのテレビ番組で活躍後、米で本格的なフードファイト活動に参戦。

１９７８年長野県長野市生まれ。身長１７３cm、体重７５kg。

◆千葉景子　　ちば・けいこ

７月11日に行われた参議院選挙で落選してしまった当時の法務大臣。菅直人首相に辞意を伝えるも、９月の民主党代表選後の内閣改造までは引き続き閣僚に留まるよう要請され受諾。しばらくは民間人の立場で職務を担うことになったが、政界からは引退する意向を示した。弁護士出身で死刑制度廃止論者としても知られる千葉は、２００９年９月に鳩山内閣で法相に就任して以来、一度も死刑執行命令にサインしていない。自ら「死刑廃止を推進する議員連盟」のメンバーであることを明らかにし、捜査や取り調べの可視化にも前向きだったが、今回の落選を受け、その流れが大きく変わっていくことが予想される。１９８６年の参議院議員選挙で神奈川選挙区から社会党公認として初当選。当選４回。１９４８年５月神奈川県横浜市生まれ。中央大学法学部卒業。

◆西村雄一　　にしむら・ゆういち

サッカー審判員。２０１０Ｗカップの審判に選出され、開幕試合や「ウルグアイ−フランス戦」など計４試合で主審を務めた。Ｗカップで主審を務めた日本人は４人目だが、４試合で主審を務め、決勝戦の審判ともなったのは日本人初。準々決勝の「オランダ−ブラジル戦」ではブラジル・メロ選手の暴力行為を見逃さず、果敢にレッドカードを出すなど、世界のメディアからも高い評価を受け、７月１１日の決勝「オランダ−スペイン戦」では主審と副審に次ぐ審判として選手交代の援助などを行う第４審判員を務めた。一方、国内では誤審が多いとの評判で、２００８年４月のＪ１「ＦＣ東京−大分トリニータ戦」では悪質なファウルを受けた大分ＤＦの上本大海が西村に抗議したところ、「お前は黙ってプレーしておけ。死ね!」という暴言を受けたと主張する騒ぎも。東京出身。２００４年からＪリーグを含む国内試合の審判員および国際主審として活動している。

◆木村剛　　きむら・たけし

中小企業向け融資専門の日本振興銀行を設立し、社長・会長を歴任した金融界のカリスマが２０１０年７月１４日、銀行法違反（検査忌避）容疑で警視庁に逮捕された。メガバンクなどの貸し渋り、貸し剥がしに悩む中小企業を救いたいとの目的で、木村が振興銀をスタートさせたのは２００４年４月。だが若きエリートの理想論とは裏腹に、業績不振企業を多数抱え込む構造に陥り、経営が悪化。見せかけだけの業績を伸ばすため、破綻した商工ローン大手「ＳＦＣＧ」との債権取引や「中小企業振興ネットワーク」会員企業との取引が金融庁に問題視され、検査を逃れるため関連メールの削除を指示したことで足を踏み外した。小泉政権下の２００２年、金融担当大臣だった竹中平蔵の誘いで金融庁の顧問となり、大手銀行の不良債権処理問題では金融検査の厳格化を主張しただけに、その変説ぶりが痛々しい。

１９６２年富山県生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。主要部局を歴任後、１９８８年退職し金融・企業財務に関するコンサルティング会社を設立。「金融改革の旗手」ともてはやされ、広い人脈を誇っていた。

◆金賢姫　　Kim Hyon-hui

１９８７年、大韓航空機爆破事件を実行した朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の元工作員。韓国で死刑囚となったが、後に「実質的な主犯は金日成・金正日親子」として特赦された。北朝鮮による拉致被害者の家族と面会するため７月２０日に初来日したが、被害者の消息につながる新情報は得られず。面会場所となった鳩山前首相の軽井沢の別荘やヘリコプターでの移動など、政治パフォーマンス的な側面ばかりがニュースとなる後味の悪い結果に終わった。拉致被害者の多くは、工作員を潜入地の人間に同化させる「現地化教育」の教師役としてさらわれた。１９６２年１月に平壌市で生まれた金賢姫は、平壌外国語大で日本語を学んでいた１９８０年に工作員に抜てきされ、「日本人化」教育を受けるため、拉致被害者の田口八重子さんと同居。日本の新聞や雑誌を読み、化粧の仕方、風呂の入り方、流行していた歌謡曲なども覚えたという。１９９７年、自身の身辺警護についていた男性と結婚。現在は韓国の地方都市で夫と小学生の１男１女と暮らしている。

◆石津幸恵　　いしづ・さちえ

テニスの四大大会ウィンブルドンのジュニア女子シングルスで日本人として４１年ぶりに決勝進出を果たし、準優勝した茨城・土浦日大高３年生の１７歳。８月には第１回ユース五輪（シンガポール）に出場するが、この大会を最後にジュニアは「卒業」し、世界トップクラスを目指して一般のツアーに参戦する予定。その初戦となるのが９月２４日から東京有明テニスの森公園で開催される女子テニスの東レ・パンパシフィック・オープン推薦枠での出場。が、世界ランキング５０位のエレーナ・バルタチャ（英）に敗れ、本戦出場はならなかった。

麻酔科の医師である父に誘われ４歳でテニスを始めて以来、クラブには所属せず親子二人で練習を重ねてきた。「これからもコーチはお父さん」という孝行娘。伊達公子が達成した日本人最高の世界ランク４位を上回ることが最終目標だという。

◆レディー・ガガ 　　Lady Gaga

突き抜けたファッションとステージパフォーマンスで知られる米ポピュラーミュージック界のアイコン。同性愛者の権利向上や、ＨＩＶへの認知を高める活動など社会的・政治的な発言でも注目される彼女が、７月３１日アリゾナ州でコンサートを開き、左腕に「新法を止めろ」と書いて登場。不法移民の摘発強化を目指した同州の新法に抗議するようファンに呼び掛けた。新法の是非をめぐっては米国で大論争が続いている最中だけに、その反響が注目される。

２００８年にリリースしたデビュー・アルバム「ザ・フェイム」が世界中で大ヒットし、グラミー賞で２冠を達成。会員制交流サイト（ＳＮＳ）のファン登録がオバマ米大統領の９４０万人を超える９９０万人以上となったほか、「ツイッター」でもオバマ氏を超える４７０万人のフォロワーを獲得している。

本名はステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジェルマノッタ。１９８６年３月２８日、アメリカ・ニューヨーク州で裕福なイタリア系アメリカ人の家庭に生まれた。４歳からピアノを始め、１７歳でニューヨーク大学の芸術学部に合格したがドロップアウト。親元を離れストリッパーとして働いたり、薬物中毒の過去も告白している。

◆小澤征爾　　おざわ・せいじ

今年１月に食道がんであることを告白し、全摘手術を受け療養中だった「世界のオザワ」が活動を再開。８月１日、長野県・奥志賀高原ホテルの「森の音楽堂」で公開リハーサルを行い、ひさびさに指揮姿を披露した。会見では「今日は第二の人生の１日目だと思っています。家族が僕のことを助けてくれた。感謝しています」と涙でコメント。９月５日の「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」で本格的にステージ復帰し、１２月には米カーネギーホールで音楽祭「ジャパンＮＹＣ」の芸術監督、２０１１年からは小澤塾や新日本フィルなど国内公演中心の活動を行う予定。２００２年１月、日本人指揮者として初めてウィーン・フィルニューイヤーコンサートを指揮するなど、欧米での評価が高い。音楽界に多大な影響を与え、若手音楽家の育成に尽力した功績が認められ、２００８年文化勲章を受章した。１９３５年９月１日満洲国奉天市（中国瀋陽市）生まれ。

◆宇多田ヒカル　　うただ・ひかる

日本の女性シンガーのトップの座を走っていた宇多田ヒカルが、８月９日、自身のブログで突然の活動休止宣言。１９９８年に１５歳でファーストシングル「Automatic」でデビュー。以後ミリオンセールスを連発し、映画監督の紀里谷和明氏との結婚、離婚も経験したが、「アーティスト活動中心の生き方をし始めた１５才から、成長の止まっている部分が私の中にあります。それは、人として、とても大事な部分です」と心情を吐露。自身が進化するために、「来年から、しばらくの間は派手な『アーティスト活動』を止めて、『人間活動』に専念しようと思います」と前向きな充電期間であることを強調する。その代わり年内は音楽活動を活発に行い、秋には新曲も収録したシングルコレクションをリリース予定とのこと。１９８３年１月１９日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。

◆本橋麻里　　もとはし・まり

トリノ、バンクーバー両五輪のカーリング女子日本代表選手。８月１６日、所属していた「チーム青森」を脱退。出身地である北海道北見市常呂町を本拠地に、同市出身者ら５人のメンバーで構成される新チーム「ロコ・ソラーレ」を発足させた。会見では「五輪では自分の限界を超えられなかった。チームワークを一から見直し、もっと強い絆を自分で作るのが課題」と説明。マリリンの愛称で親しまれ、テレビのバラエティー出演や写真集の発売などタレント活動にも積極的だったが、それが「チーム青森」内で浮き上がる結果にもなったと言われている。１９８６年６月１０日生まれ。身長１６１ｃｍ。

◆萩原健一　　はぎわら・けんいち

還暦を過ぎたショーケンが、またもや世間を騒がせている。８月１８日、週刊誌で１２歳年下のカリスマ主婦モデル、冨田リカとの熱愛＆同棲が報じられ、当初は友人関係を強調したものの、最後は「あした告白します」と仰天発言。いしだあゆみ、倍賞美津子、石田えりなどの大女優と浮き名を流したモテ男ぶりは健在だ。今年初めから７年ぶりにミニライブを開催し、９月にはザ・テンプターズ時代からソロになってまでのヒット曲を連ねたベストライブも開かれる。歌手だけでなく俳優としても高い評価を得ながら、大麻や恐喝事件など度重なるスキャンダルで波瀾万丈の人生を送ってきたが、再び復活の兆しか。１９５０年７月２６日生まれ。埼玉県与野市出身。本名・萩原敬三。

◆高島彩　　たかしま・あや

「アヤパン」の愛称で人気のフジテレビ女子アナが、「自分自身を見つめ直したい」と年内いっぱいで退社することを宣言。レギュラー出演する「めざましテレビ」は９月末で降板。突然の退社発表にはさまざまな憶測が飛び交っているが、早朝から始まる同番組で７年半も重責を務めてきたストレスに加え、フォークデュオ「ゆず」のメンバー北川悠仁との“結婚準備”が大きな理由といわれている。北川の母親が運営する宗教法人「かむながらのみち」の熱心な信者でもあるというアヤパン、今後は収入が桁違いに増えるフリーアナとして活躍を続けるのか、次期教祖をめざした活動に入るのかでも注目が集まっている。１９７９年２月１８日生まれ。東京都出身。成蹊大学法学部卒。

◆鈴木宗男　　すずき・むねお

北海道や外務省を舞台にした数々の事件で立件され、かつて辻本清美から「あなたは疑惑の総合商社」と批判を受けた衆議院議員。９月８日、受託収賄罪やあっせん収賄罪などで受けた有罪判決への上告が最高裁に棄却され、懲役２年の実刑と追徴金１１００万円が確定した。公職選挙法と国会法の規定に基づき失職、収監されることになる。会見では捜査段階から一貫してきた無罪を改めて主張。「いかなる環境にあっても検察権力と闘っていく」と対決姿勢をあらわにした。自民党離党後の２００２年に逮捕され、保釈後の選挙で落選するも、「新党大地」代表として２００５年に復活当選。昨年９月には衆院外務委員長に就任し、アフガニスタンやロシアなどを精力的に訪問。８月には議員在職２５年の表彰を受けたばかりだった。１９４８年１月生まれ。北海道足寄郡足寄町出身。

◆つかこうへい

劇作家・演出家・小説家として活躍した戦後演劇界の革命児が７月１０日、６２歳でこの世を去った。今年１月、肺がん公表後も黒木メイサ主演の「飛龍伝２０１０　ラストプリンセス」の練習風景をビデオでチェックし、病室から電話で細かい演技指導を行っていた。役者の個性や芝居の流れを見ながら、頭に浮かんだセリフを伝える「口立て」という独特の演出法を生み出し、一瞬たりとも気が抜けない役者を極限まで追い込む厳しいけいこで知られた。１９７４年「熱海殺人事件」で岸田国士戯曲賞を当時最年少の２５歳で受賞。１９８２年には戯曲を小説化した「蒲田行進曲」で戦後生まれとして初めて直木賞を受賞している。在日韓国人２世として１９４８年４月２４日福岡に生まれ、慶應義塾大学在学中にアングラ演劇の劇作家・演出家として活動を始めた。遺書では「娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています」と書き残していたという。

◆梨元勝　　なしもと・まさる

渦中の人に「恐縮です」とマイクをつきつけては、特ダネをものにしてきた芸能リポーターの草分け。８月２１日、肺ガンのため死去。享年６５歳。法政大学を卒業後、講談社に入社し、「ヤングレディ」の取材記者となった。１９７６年に芸能リポーターに転身。テレビ朝日「アフタヌーンショー」を始め、多くのテレビやラジオで活躍してきた。しかし２００６年６月に、出演していた情報番組が打ち出した「ジャニーズのニュースは今後一切扱わない」との自主規制に反発して降板。以後はテレビの代わりにネットを主戦場に「梨元芸能！裏チャンネル」で活動を続けてきた。今年６月には肺がんを患っていることを公表。以後、ブログやツイッターなどで近況を伝えていた。スクープされた芸能人は、当初彼を毛嫌いしながらも、その人間的な魅力にいつしか引き込まれ、友情が芽生えるパターンが多かったという。

◆梅棹忠夫　　うめさお・ただお

日本の民族学・文化人類学研究をリードしてきた京都大学名誉教授の梅棹氏が７月３日老衰で亡くなった。享年９０歳。戦前からアジア、アフリカでの学術探検隊に参加。１９５７年、日本と西欧の文明が平行進化をたどったとする「文明の生態史観序説」を発表し、西欧中心の世界観の見直しを迫るユニークな視点で反響を呼ぶ。１９６３年に『情報産業論』を発表し、情報化社会の到来を早くから予見したほか、学術調査で得たデータの整理・活用ノウハウを活かした『知的生産の技術』（岩波新書１９６９年）もベストセラーに。１９７０年の大阪万博開催にも尽力し、閉幕後の跡地利用として国立民族学博物館の建設を提唱、初代館長に就任した。まさに好奇心と探求心の塊ともいえる研究者人生だった。１９２０年６月１３日京都市生まれ。京都大理学部動物学科卒。

◆石井好子　　いしい・よしこ

シャンソン界の第一人者として知られ、エッセイストとしても活躍していた石井好子が７月１７日、肝不全のため亡くなった。享年８７歳。自民党副総理などを務めた石井光次郎の二女として生まれ、東京芸術大学声楽専科卒業後、１９５０年米国に留学。５２年にフランスに渡り、シャンソンを学んでパリでデビュー。ヨーロッパ各地で歌い、５４年に帰国。９０年にはパリのオランピア劇場で日本人初のリサイタルを行い、「愛の讃歌」など大半の曲を原語で歌って喝采を受けた。食通としても知られ、フランスなどで食べ歩いた卵料理や肉料理をシズル感あふれる筆致でつづった「巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる」は日本エッセイストクラブ賞を受賞。現在もベストセラーとなっている。

◆森毅　　もり・つよし

「ええんちゃうの」が決めゼリフの社会・文化評論で人気を集めた京都大学名誉教授の森毅が７月２４日敗血症性ショックのため死去。享年８２歳。昨年２月に自宅で料理中に大やけどを負い入院中だった。京大時代は剣客のような容姿と切れ味鋭い発言から「一刀斎」と呼ばれた名物教授。ジーンズ姿で教壇に立ったり、京大紛争中はバリケード内で数学の講義をするなどユニークな行動で知られた。数学者としての業績は論文２本だけだったが、教育論では早くから異才を放っていたため、教授になる際の人事会議では「こんな業績の無いのを教授にしたらだめだ」という意見が出る一方、「こんな教授が居てもいいだろ」という意見が大勢をしめたという逸話がある。１９９１年の退官後は「老人フリーター」と自称し、時事評論やテレビのコメンテーターなどで幅広く活躍。文学・哲学にも造詣が深く、『ちくま文学の森』『ちくま哲学の森』などの編集にも加わった。著書は「チャランポランのすすめ」「現代の古典解析」など１００冊を超える。