月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
世の中にはこんな尺度がありがちです
執筆 白鳥 敬

世の中にはこんな尺度がありがちです。

グレシャムの法則  Gresham's law

悪貨は良貨を駆逐する」で有名な法則。1560年にイギリスのトーマス・グレシャムが提唱し、19世紀になって同じくイギリスの経済学者マクラウドが「グレシャムの法則」と命名。市場では、貨幣に含まれる金の含有量が多い金貨(良貨)は使わずにとっておき、金の含有量が少ない金貨(悪貨)を使うようになるため、悪貨ばかり出回るようになるという法則。

いわく「目先の仕事が会社をだめにする」。

現在は、「目先の仕事ばかり追いかけて長期的に見ると大きな利益をもたらすであろう仕事を逃してしまうこと」など、悪が善を駆逐するイメージに転用されることが多い。「目に見える成果を出せ」と言われることが多い現在、10年以上先を見る視線も必要だろう。

ページの先頭へ 戻る

悪貨は良貨を駆逐する

江戸時代の小判に金含有量の変遷をみる。小判は、1601(慶長6)年に徳川家康が慶長小判を鋳造し、以降、約8回改鋳(かいちゅう)されている。改鋳というのは、出回っている小判を回収して金の含有量を変えて再び市場に出すことをいう。江戸時代の小判に含まれている金の含有量は、時代とともに変遷しており、慶長小判は金の含有量が84%もあったが、元禄小判(1695年)では57%に下げられ、その後、上がったり下がったりを繰り返し、江戸時代末期の万延小判(1860年)では57%となった。江戸幕府は、貨幣の価値を変えて市場のコントロールを行っており、お金の持つ力学は、江戸時代にはすでに現在と同じだったというわけ。

(参考:日本銀行金融研究所貨幣博物館 

http://www.imes.boj.or.jp/cm/htmls/index.htm

ページの先頭へ 戻る

ランチェスターの法則  Lanchester's laws 

人海戦術は効果があるか……?

イギリス人のランチェスターが第1次世界大戦における空中戦の成果を解析して編み出した戦闘理論。現在は、ビジネス理論として応用されている。第1法則は一騎打ちの法則で、使用する武器の性能が敵味方で同等の場合は、兵員の数の多い方が勝つ、というもの。第2法則は、兵器が発達して一人で多くの敵と戦闘することができる場合は、兵員数の2乗に比例して戦闘力が勝るというもの。近代兵器が登場する前の戦いは、一騎打ちを中心とした戦いだったから、兵員の数が多いほうが勝つのは当たり前のことだが、兵器が発達した近代戦では人海戦術は犠牲を多くするだけ。ビジネスにおいても、大勢の社員を安い給料で過労死するまで働かせるよりも、知能・技能など社員が持つリソースを集約したやり方のほうが、効率がいいということである。

ページの先頭へ 戻る

ペティの法則  Petty=Clark's laws

産業構造が変わるのは必然だが……。

第1次産業、第2次産業、第3次産業の順に就業人口が移っていくというもの。17世紀にイギリスのウイリアム・ペティがその著書『政治算術』の中で提唱。これをヒントに、1941年、イギリスの経済学者C.G.クラークが考案。そのため、ペティ・クラークの法則ともいう。第1次産業は農林業、第2次産業は鉱工業、第3次産業は商業・サービス業だが、現在は、第3次産業の一部を第4次産業や第5次産業ととらえる見方もある。第4次産業は情報通信・超ハイテク技術、第5次産業は最先端分野の研究・知的財産権管理など。現在、日本の製造業は、ブランド名と企画だけは日本、製造は海外という構造が増えている。それどころか、企画も開発も外国で、それに自社ブランドだけをつけて売るような商品もあったりする。ブランド残って技術なしということにはなってほしくないものだ。

ページの先頭へ 戻る

アノミー尺度  anomie

不安の増加と自殺増加。anomieとは、フランスの社会学者E.デュルケムが1897年に書いた『自殺論』の中で示した概念で、社会の規範が乱れた状態を意味する言葉である。19世紀末、工業化が急展開する社会では価値観が激変し、また経済の発展等によって社会的規範が緩み、欲求と変動する価値観の間で心が不安定になり、自殺が急増したという。アノミーな状態の尺度については次のようなものがある。1.リーダーが個人の欲求に無理解。2.将来が不安。3.目標喪失。4.何をやってもむだという脱力感。5.孤立感が強い。なんとも現代の状況にぴったり。警察庁によると、日本の自殺者は、1978(昭和53)年には年間約2万人だったが、1998(平成10)年度以降、毎年3万人を超える自殺者が出ているという。

ページの先頭へ 戻る

バンドワゴン効果  bandwagon effect

みんなやってるから……?

バンドワゴンとは、パレードに先頭を走る音楽隊の乗っているワゴン車のこと。笛や太鼓の音に誘われて、ついつい行列に加わってしまうように、社会の大きな流れを受け入れ、その意見を支持するようになることをバンドワゴン効果という。広告はバンドワゴン効果を利用した代表的なもので、「はやっていますよ」といわれると、なんとなくその流れに乗っていれば安心という群集心理である。

これとは反対に、「はやりものには手を出さない」という心理が働くこともあり、例えば選挙で劣勢な候補者に同情票が集まるような場合がある。これを「アンダードッグ効果(underdog effect、underdog=負け犬の意)」という。ネット社会になり、個人対個人のコミュニケーションが密になっている現在、バンドワゴン効果が増幅され、急激に大きくなる場合もあれば、逆にアンダードッグ効果が強くなる場合もある。しかも、短いサイクルで双方の間を揺れ動くことが多いので、ネットでこれらの効果を利用するのはけっこう難しいのかもしれない。

ページの先頭へ 戻る

結合定量の法則

友達は、たくさんはできない……?

社会学者の高田保馬(1883〜1972)が1922年ごろに考案した法則。人間関係の希薄さに関する法則。1人の人間が持てる人間関係の結合量の総量は一定である。だから、仕事における結合量を多くすれば、家庭における結合量は少なくなる。また趣味の分野の人間関係も、趣味が多ければ、なかなか一つの集団と深い結合を保つことができない。深い結合を保とうとすれば、他の趣味の分野の人間関係がおろそかになる。パソコンやインターネットが普及して、膨大な量の情報に接することができる現代社会でもこれは同じで、一人の人間が情報との間で持つことができる結合量は一定量以上にはならない。情報が多いため、どの情報も希薄で消化不良。これが、現代人が「むしゃくしゃする」原因なのかもしれない。

ページの先頭へ 戻る

マルサスの法則  Malthus's laws

人口増は世界的食料危機を招くか……?

T.R.マルサス(1766〜1834)は、イギリスの経済学者。その著『人口論』(1798年)で、人口は等比級数的に増加するが食料生産は等差級数的にしか増大しないとし、人口増加による貧困は避けられないと主張した。しかし、その後、農業技術が発達し、食料が大きく不足することはなかった。しかし、現在、もう一度、マルサスの法則を考え直したほうがいいのかもしれない。産業革命が始るまでは10億人に満たなかった世界人口は、その後、まさに等比級数的に増加し、第2次世界大戦が終わって5年後の1950年には25億人、2008年2月には66億6000万人を超えた。このままでいくと2050年には92億人に達するだろうと推定されている。はたして、それだけの人口を養える食料を生産できるのか、ちょっと心配になってくる。

世界の人口はここ(http://arkot.com/jinkou/)でリアルタイムに見ることができる。

ページの先頭へ 戻る

ファシズム尺度  fascism scale

権威主義的頭の固さの度合い。

哲学者で音楽家のT.アドルノ(1903〜1969)が考案した、人格の権威主義的傾向の尺度。カリフォルニアFスケールともいう。ユダヤ人のアドルノは、第2次世界大戦時、ナチスに追われてアメリカに亡命。その後、ナチス協力者の心理状態や人格を研究して、権威主義的個性について解明。思考の狭隘(きょうあい)な人や、融通のきかない人がいたりするけれども……。

自分のファシズム尺度については、ここ(http://www.anesi.com/fscale.htm)でチェックできる。

ページの先頭へ 戻る

プレグナンツの法則  law of pragnanz

人間は見たいものを見る。人間の心理は、外界の事象をなんらかのまとまりとしてとらえようとし、一部の要素が変わってもゲシュタルト性(全体性)が保たれていれば同じものとして知覚できる。例えば、あるメロディーのオクターブを変えて演奏しても、あるいは移調しても、同じ曲として認識できるのがその例である。プレグナンツの法則は、人は眼に見える図形群は一定の規則を持って知覚されるというもの。例えば、隣接していてまとまりを感じる一群、開いた図形よりも閉じた図形、動きを感じさせる一群の図形などを一つのまとまりとして知覚する傾向がある。木の葉のランダムな明暗の中に人の顔が見えたりするのも、この心理作用によるもの。明暗の中にある一群に、見たいと思っているイメージを見るのである。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS