月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
サブプライムローン、サブからメインへ
執筆者 土屋彰久

サブプライムローン、サブからメインへ

サブプライムローン  Sub-Prime Loan

サブというのは「下」、プライム・ローンは「最優遇貸付」ということで、直訳すれば、「次善条件貸付」というところでしょうか。これでは、なんだかわかりませんので、もっと実の入った説明をすると、所得見通しが不安定な低所得層を対象としたアメリカの住宅ローンで、貸し出しリスクの高さに合わせて利率を高めに設定していますが、一方で低所得者でも利用しやすくするために、最初の数年間は猶予期間として返済額が低く抑えられています。サブプライムローンは、信用度が低い客に高利率で貸し付けるという、よくよく考えてみれば、新銀行東京の《無保証無担保で中小企業に運転資金を8%で貸付》と同じで、ちょっとやそっとの利息の上乗せでは足りないくらい、貸し倒れリスクの高い貸付なんですね。そんなことは最初っからわかってるんです。でも、そうした危険性がここまで表面化せずにやってこれたのにはいくつかの理由がありまして、その第一がアメリカ版住宅バブルでした。

ページの先頭へ 戻る

アメリカ版住宅バブル

アメリカの住宅価格の上昇ぶりがバブルだというのは、実はもう5、6年前から言われ続けてきたことです。それがここまで続き、規模を拡大させてきた背景には、このサブプライムローンの貸付残高の拡大がありました。つまり、住宅バブルがサブプライムローンを生み、それがまた住宅バブルを膨らませ、それがまたローンを増やし・・・と、見事に循環、マネー・ハウリングを起こしてます。つまり、サブプライムローンと住宅バブルは、クラッシュの時まで自己増殖を続けるサイクルを自分自身で作り出したために、バブルは膨張を続け、その間は関係者全員が幸せな夢を見れたというわけです。ただ、このサイクルはサブプライムローンと住宅バブルだけで回っていたわけではありませんでした。そこにもう一人、仕組み債というキャラが入ることで、住宅バブルは通常の予想をはるかに超える膨張を見せたのでした。

ページの先頭へ 戻る

マネー・ハウリング  money howling

最近の投機マネーの暴走ぶりを見ていて、私が勝手に作った和製英語(笑)です。ハウリングというのは、講堂などでマイクのボリュームを上げすぎた時に、スピーカーからの音をマイクが拾って、それがまた増幅されてといった具合に音量が上がっていって、キーーーンとなって、音声係が慌ててボリュームを下げるという、あれです、あれ。最近は、投機マネーだけは、世界的に金余り状態になっておりまして、ちょっとでも条件がよさそうなところを見つけるとどどどっと流れ込んできて、《買うから上がる→上がるから買う→買うから上がる→上がるから・・・キーーーン、ああっ、もう!》というのをそこここで繰り広げるわけです。典型は原油価格の高騰ですね。産油国は表向き否定していますけど、原油高で積み上がった産油国の資金が「投資」という名目でヘッジファンドに流れ込み、これが投機マネーとなって原油先物市場に投じられて原油高を演出し、それが産油国の資金を増やし、それがまたヘッジファンドに流れ込み・・・キーーーン、ああっ、ほんとにもう!というわけで、アメリカ版住宅バブルもこれをやったんですね。

ページの先頭へ 戻る

ヘッジファンド  hedge fund

少ない投資家から大口の資金を集めて、ハイリスク・ハイリターンの金融商品を運用する投機的性格の強い投資信託、または機関投資家のことをさします。「ヘッジ」とは、防御策を講ずること。

ページの先頭へ 戻る

仕組み債

アメリカ国内の資金だけでは、所詮バブルの規模は高が知れています。そこに仕組み債というキャラが加わることで、世界の投資・投機マネーをアメリカの住宅市場に呼び込むことが可能になったおかげで、このバブルは無茶な拡大が可能になりました。仕組み債というのは、まあ、《機関投資家向けの投資信託》ぐらいに考えてもらえばいいでしょうかね。機関投資家というのは、巨額の資金をそれなりの安全度でそれなりの利回りで運用しなければいけない、というか、運用担当者の仕事がそれなわけですが、こんな風に世界で金余りになってくると、そうそう都合のいい運用先というのもないんですね。でも、そんな投資環境の下でも、成績を上げることを要求されるのが競争社会です。そんな《ほどよいリスクとほどよいリターン》の投資先をお探しの皆さんのために、最先端の金融工学を駆使して作られた金融商品が、この仕組み債です。要は、ローリスク・ローリターンの金融商品とハイリスク・ハイリターンの金融商品を組み合わせて、数字の上だけ、ミドルリスク・ミドル・リターンの商品を作り、これに格付け機関が甘々の格付けをつけて、サラリーマン・ファンドマネージャーに売りつけるという話です。ところが、その中に詰め込まれていたハイリスク・ハイリターンの商品、すなわちサブプライムローン債が、実はハイリスク・ノーリターンだったことが、バブル崩壊でバレバレになってしまったわけです。仕組み債じゃないですよ、仕込み債ですよ、それ。そのようなわけで、金融工学がどうのというのは目くらましで、中身は世界の投資・投機資金をアメリカの住宅市場に呼び込んでバブルを演出するという、アメリカの金融業界が仕組んだグループ詐欺だったというのが実状です。

ページの先頭へ 戻る

ローリスク・ローリターン  low risk, low return

リターンとは、資本投下、投資の「見返り」(利益)のこと。不動産投資における「リターン」とは、おもに「賃料収入」と「売却利益」をさします。「ローリスク・ローリターン」とは、投下した資金が戻ってこない、または投下した資金の元本が毀損される可能性が低く、そのかわり、投下資本に対する見返りも低いこと。

ページの先頭へ 戻る

サラリーマン運用

こんな詐欺に、世界中のファンドマネージャー達が、揃いも揃ってコロリとやられたのは、バブってるアメリカの住宅市場に直接投資するなんて気にはさらさらなれないのに、格付け機関の格付けが問題ないなら、仕組み債の一部としてサブプライムローン債も抵抗なく買えるという、独特のファン・マネ心理があります。先にも触れたように、今は投資先難の時代なので、ファン・マネも出来高でガンガン稼ぐのはなかなか難しいので、そうなると成績を上げるよりも地位を守る方を重視するサラリーマン化戦略の方が合理的になってきます。だって、世界経済の成長率が2%の時に5%を稼ごうとしても、リスクの増加率の方が大きいですから、2%の成績で地位をキープする方が得策ですからね。競争を勝ち抜いてファン・マネになるくらいの人間であれば、それくらいの計算はすぐします。というわけで、サラリーマン化したファン・マネは、地位を守るための運用、つまり免責条件の範囲内での運用に逃げることになります。免責条件というのは、格付けを守って投資していれば、実際にデフォルトとなっても運用者の責任は問われないといった内容の運用ガイドラインの一つです。デフォルトの可能性が低くても格付けの低い債券より、デフォルト確実でも免責条件をクリアした格付けの債券を買う、それがサラリーマン運用です。

ページの先頭へ 戻る

ファンド・マネージャー  fund manager

資金管理者。資金運用部長。複数の投資家から資金を集め、その資金で行われる事業や資産からの利益を投資化に分配する仕組みがファンドです。そのファンドを実際に運用する人がファンド・マネージャーで、証券アナリストの資格を持ち、投資信託会社や投資顧問会社に所属し、金融庁に登録されなければなりません。

ページの先頭へ 戻る

デフォルト  default

債務不履行。債券に関する元利金の支払いができなくなること。さらには、成すべきことが成されないこと。もとは「欠席」「不履行」「棄権」という意味ですが。

ページの先頭へ 戻る

ねじれ株安

すでに5年以上前から、《ゆとり返済スキームの破綻とマイホーム倒産の激増》という、サブプライムローン問題の半分を先取りして経験していた日本では、幸い、サブプライム関連の投資残高は少なく、世界で見ればサブプライム関連の直接的な損失は限定的でした。ところがどっこい、株価の下げ幅は日本が一番大きいんですね。なんでそうなるの?と日本人なら誰でもいぶかるところですが、答えを一言で言ってしまうと、日本の株式市場は外資の草刈り場だからです。東証一部で言うと、外国人投資家の比率は、発行済み株式で3割、売買高に至っては6割をすでに超えています。つまり、日本の株式相場を上下左右に揺さぶって、一番儲けているのは外資だということです。その草刈り場、日本市場がこれほどの下落を演じた背景には、《アメリカがくしゃみをすると日本が風邪を引く》という、おなじみの連動理論だけではなく、日本で蓄えていた含み益を現金化して、本国での損失を埋め合わせたいといった事情や、一番稼ぎやすい日本市場で、とにかく相場を揺さぶって短期の売買益を稼ぎたいといった、外資の事情がありました。日本では政治家も経済人も、外資の投資を最高善のように祭り上げていますが、投資をされるということは、このように草刈り場にされるということでもあるんですよね。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS