月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
大連立とは何ぞや
執筆者 土屋彰久

大連立とは何ぞや

大連立

大連立というのは、はっきりとした定義は定まっていませんが、通常、以下の基本的な要件をある程度満たした場合に、大連立として扱われます。<1>大政党2党の連立、<2>議会内勢力第1位と第2位の政党による連立、<3>2党は通常は政策、イデオロギーなどの重要な争点において対立関係にある、<4>議会内に野党が存在する。以下、今回の日本のケースに当てはめて、具体的に論じてみましょう。

ページの先頭へ 戻る

大政党2党

「2大政党」というと、2大政党制を前提にした話のように誤解されてしまいますので、大政党2党という表現になるわけですが、さらに話を進めると、連立政治というのは、基本的には比例代表−多党制の政治システムを前提としたもので、小選挙区−2大政党制と両立するものではありません。逆に言えば、大連立が成立するような政治環境というのは、<1>大政党が2つ(これより多くても少なくてもダメ)<2>比例代表制を基本とした多党制、というのが基礎条件になるわけです。そしてこれを日本に当てはめてみると、<1>の条件はクリアしていますが、<2>は、小選挙区制を基本とした多党制になっているので、微妙です。さらに、民主党は自民党よりも強硬に小選挙区−2大政党制を志向する立場なので、そうした方向性とは明らかに矛盾することになります。この点を考えると、民主党が大連立を拒否したのは、スジ論的に見て正解ということになります。また、そこまでの具体的な話にはなりませんでしたが、連立成立時の公明党に扱いによっても、実は大連立の要件を欠く可能性がありました。要は、要党である公明党まで加わったら3党連立になるので、大連立よりも翼賛連立になってしまうためです。

ページの先頭へ 戻る

要党

大政党2党が、いずれも単独では過半数に至らず、第3位の政党がいずれの党と連立しても過半数となるような場合、この第3党は要党(かなめとう)といった呼ばれ方をします。現在の日本の政治状況では、衆院で自民党が単独過半数で、自公が過大連立となっているために、議会内勢力の計算に話を限定すると、公明党は要党とはなりません。しかし、選挙まで視野に含めて考えると、公明党の抱える組織票の規模から計算して、前回の衆院選で自民党が勝てたのは公明党との選挙協力によるところが大きく、また、前回の参院選の数字を基礎として計算すると、次回の衆院選で民主党が公明党の協力を得た場合には過半数を制する可能性が大きいので、実質的には要党と扱っていいでしょう。ちなみに、細かい話になりますが、2位と3位の連立で過半数に届く場合には、3位の政党は必ず要党になりますが、そうならない場合、1位の党は4位、5位とも連立を組める可能性が出てくるので、この場合は単なる「連立相手」となります。

ページの先頭へ 戻る

過大連立

連立政権の種類は、規模により様々で、過半数に届かず、政権維持のためには、最低限でも局外勢力の消極的協力が必要な過小連立から、すでに過半数に届いているのに、さらに政党が加わっている過大連立、そして、議会の圧倒的多数を占める翼賛連立まであります。ちなみに、野党がまったくいない、つまり与党率100%になった場合には、実態は翼賛政治でも、形式上は挙国一致政権となり、別物になります。日本の場合、かつての自自連立は、首相指名に必要な衆院での勢力で見ると、始めから不必要な過大連立ですが、鍵であった参院での勢力を基準にして考えると、過小連立、その次の自自公連立は、逆に過大連立となります。このような、議席数に基づく計算から行くと変な結果になったのは、計算上は最小連立(最適連立)となる自公連立に、当時は自民、公明支持者双方にまだまだ抵抗があり、緩衝政党として、議席の計算とは関係なしに自由党が仲立ちを務める必要があったためです。こうした緩衝政党を多用する連立の手法は、実は日本の連立政治の特徴でして、連立政治の歴史は諸外国に比べて圧倒的に浅い割に、自社さ(さきがけが緩衝政党)、自自公(自由党が緩衝政党)、自公保(保守〔新〕党が緩衝政党)と、かなりの期間を緩衝政党の入った過大連立の時代が占めています。このように、実態においては盛んに発生している過大連立ですが、批判勢力が過小になり、巨大与党による政党政治の談合化が進むという問題点が指摘されています。

ページの先頭へ 戻る

緩衝政党

連立を組む主要党間の政策やイデオロギー、あるいは政治手法など、要するにキャラに隔たりがあったり、過去の確執が障害になっていたりする場合に、過半数確保には関係のない小政党が加わり、三党以上の連立にすることで、両党の衝突を和らげる場合があります。緩衝政党は、もちろん、実際に両党の仲立ちを積極的に務める場合もありますが、どちらかというと、支持者向けに体裁を整えるという側面が主です。というのは、主要党両党は、それまでお互いに相手を最大の敵として選挙を戦ってきたわけですし、支持組織の結束を高め、士気の向上を図るためにも、敵愾心を煽ってきたという経緯があり、そこまで憎しみを露わにして戦った敵といきなり手を組むと言われても、支持者、特に選挙戦の現場で一票を争って戦ってきた末端の組織などは、納得いくわけもないからです。だから、たとえば自自公政権の場合、新進党時代の公明党(ただし衆院のみで、参院は公明党として残った)を「政教一致のカルト政党」と攻撃した自民党は、公明党と組むために、「悪魔」と呼んだ小沢党首率いる自由党を引きずり込んだわけです。そうしてやっと自自公“悪魔カルト”政権(もう、メチャクチャ)になって、やっと衆参両院での過半数を確保し、政権の安定を確保しました。しかし、その自自公・小渕政権の下で、日本の年間自殺者は、それまでの2万人強の水準から一気に5割増しで3万人の大台に乗せて以降、今日まで9年連続で3万人台をキープし、しかも小渕首相は在任中に脳梗塞で急死と、さすが“悪魔カルト”だけあって、それに捧げられた血の代償もハンパなものではありませんでした。その後、小渕首相急死の遠因になったとも言われる自由党の連立離脱で、小沢党首もなかなかの「悪魔」ぶりを発揮しましたが、当の自由党も無傷ではなく、自民党による強烈な引き抜き工作により、連立参加時の約40人の議員の半数ほどが、新たに保守党を組織して連立に残り、引き続き、緩衝政党としての役目を果たしました。当時、保守党の扇党首は、自らの苗字にかけ、保守党を「扇の要」と言っていましたが、この通り、正確には保守党は要党ではなく、緩衝政党にすぎませんでした。

ページの先頭へ 戻る

挙国一致政権

挙国一致政権は、通常、というか、そもそも非常時の話でした。簡単に言えば、戦争、経済危機などの人災、あるいは巨大地震や大規模水害といった天災の大規模なもの、いわゆる「国難」に際して、基本的にはそれら国難の処理に目的と期間を限定して、議会内の全勢力が結集して組織される政権が挙国一致政権です。この場合、議会内勢力は、最低でも消極的協力の姿勢を採りますが、例外的に一部勢力(極端主義の小政党など)が離反している場合も、翼賛連立ではなく、挙国一致政権として扱われます。ただ、これは実質的要件から見た場合の「挙国一致」で、形式的には、<議会内全勢力の支持・参加>によって機械的に判定することも可能です。日本の場合、年金の破綻や累積財政赤字は、“表面化していないだけの大規模な経済危機”ですので、これら問題の抜本的解決に目的、期間が限定されるなら、実質的な意味での挙国一致政権の成立要件を満たしうると考えてよいでしょう。ただ、自公民の3党だけではなく、あと2党ぐらいは参加しなければ、挙国一致とは言えないでしょう。それにスジ論として、これらの問題を引き起こしたのは歴代自民党政権なわけですから、このような経済危機の処理を目的とした政権に対して、そもそも自民党に参加資格があるのかという問題もありますね。

ページの先頭へ 戻る

1位と2位の連立

1位と2位の連立というのは、小党分立型の政治においては、特に変なことではありません。しかし、連立を抵抗無く組める政党ならば、選挙においてより有利な大政党を組織する傾向がありますし、また、<政治面:自由主義・経済面:資本主義>という先進諸国の場合、国民は経済力(所得・資産)によって階層化するため、それぞれの支持層の利害を反映する形で、政治勢力は左右に分極化する傾向を持っています。そして、この2つの傾向が合わさる結果として、議会内勢力の1位、2位の地位は、穏健左派と穏健右派の大政党によって争われることが多くなります。そのようなわけで、通常は1位と2位が連立を組むということはありません。しかし、様々な特殊事情が働くことで、このパターンから外れると、1位と2位の連立へのハードルもグッと下がってきます。たとえばイスラエルでは、長年のパレスチナ問題がこの特殊事情として働いており、1位と2位の連立はよく組まれていますし(さらに小党が加わることが多い)、日本も実は、社会(民)党の崩壊による穏健左派大政党の消滅という特殊事情の下、1位の自民党が穏健右派右派、2位の民主党が穏健右派左派と、どちらも基本的には穏健右派に属していますので、ハードルはないも同じなんですね。

ページの先頭へ 戻る

大政党2党の対立関係

日本の大政党2党に対立関係はあるのか?よく聞かれる質問ですが、さしあたって一言で答えるなら、「流動的だ」と言っておきましょう。それだけだと、「貴様、それでも政治学者か?」と叱られそうなので、さらに説明を続けましょう。一言に「対立」と言っても、実のところ政党間の対立軸というのは様々ありまして、政治、経済、文化といった基本的な対立軸から、外交、農政といった政策分野、あるいは政治手法、支持基盤といった内部事情、そして年金や天下りといった個別の政策においても、対立関係は発生します。そして、それぞれの対立関係の優先順位は、ころころと入れ替わるので、<現在の対立関係の程度と原因>もまた、ころころ変わることになります。そう、はっきりしない元凶は、この「優先順位がころころ入れ替わる」というところにあるんです。たとえば仮に、両党に本質的な違いはないとしても、個別の政策を巡っては激しく対立することがあり、またその逆もありうるということです。だから、「流動的だ」となるわけです。これでも、「一概には言えない」と言うよりは、言い切ってるだけマシでしょう(大差ない?単なる言葉のアヤ?)。でも、それだけでは不満たらたらでしょうから、もうちょっと解説してみましょう。私の見立てでは、両者には大差はないが、行動原理において若干の違いがあり、それが時には激しい対立関係として表面化することもある、といったところです。ま、「本質的には対立関係にない」と言い換えてもよいので、「それそれ、その答えを待っていたんだ」という人は、我が意を得たりでしょうが、「その行動原理の違いってのは何なんだ」という人もいると思うので、次の説明です。字数の問題もありますので、詳しい説明はまたの機会に譲りますと、最初に断ってから言います。一言で言うと、自民党の第一の行動原理は“利権”で、民主党のそれは“保身”であると私は分析しています。これは、他の行動原理が働かないという意味ではなく、何が一番強く働いているかということですので、誤解無きようお願いします。納得のいかない人は無理しなくてけっこうですが、興味を持った人は、こうした視点から今後の政界騒動の行方を眺めてみると、これまでとは違ったものが見えてくるかもしれません。我が意を得たりの人?けっこうセンスあるかもしれません。

ページの先頭へ 戻る

議会内野党

大連立が形成されると、議会内野党の勢力が極端に小さくなります。議会内野党の存在には、様々な効用がありますが、その規模が小さくなれば、その効用も必然的に低下することになります。具体的には、批判、監視、検証といった、対抗勢力ならでは機能に、さらに対案提示、選挙の際の反対票の受け皿といった、代替勢力の機能が加わります。これが極端に小さくなるとどうなるか、具体例で説明してみましょう。たとえば批判機能に関しては、国会での質問時間は議席に比例して配分されるので、仮に公明を加えない自・民連立としても、与党は衆院で480議席中418議席、参院で242議席中195議席を占め、与党側が特別の配慮をして質問時間を譲らない限り、国会中継ではほぼ延々と与党のヤラセ質問が続く事態となります。そもそも与党は国会内でも必然的に最大勢力になるのに、質問があればいつでも聞きに行けるはずの身内に質問時間を丸々割り当てるという、現行の制度自体にも問題があるわけですが、こうなってしまっては、国民全体が質問権を奪われたに等しいと言えましょう。また、小政党は全国規模では支持基盤が脆弱であるため、選挙の際に連立与党に対する批判票がある程度集まっても、それが政権交代につながる可能性は限りなくゼロに近いので、実質的に国民は与党に対してノーを突き付けることはできなくなります。大連立は、このように様々な弊害を持つ野党勢力の過小化を、必然的に招くという性質を持っています。このことを軽視するような政治家に民主国家の議会人たる資格はないと、私は民主国家の政治学者としての責任において断言します、ビシッと。それはもう、ビシーッと。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS