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日本の中のヤード・ポンド法
著者 白鳥 敬

日本の中のヤード・ポンド法

斤/英斤

明治政府は近代化を急速に押し進め、イギリス、フランス、ドイツ、そしてアメリカなどの西欧諸国から多くの科学技術を取り入れました。1910(明治42)年の度量衡法改正では、ヤード・ポンド法が公式に認められています。このため、戦後になって新計量法が施行されるまでは、尺貫法、メートル法、ヤード・ポンド法と3種類の単位系が使われていました。この間、ずっと合理的で国際標準であるメートル法に統一すべきだという意見が強かったのですが、なかなか戦後になるまで統一は難しかったようです。

そのため、ヤード・ポンド法の影響を受けた(?)単位も、いまだにわたしたちの身近なところに残っています。たとえば、食パンを数えるときの「斤」という単位。これは明治時代に、1ポンド(453.6g)を英斤とよんだのが始まりです。現在は、食パン一斤は340g以上と決められています。

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インチ(吋)/フィート(呎)/ヤード(碼)/チェーン(鎖)/マイル(哩)/サンチ(糎)

1910(明治42)年に改正された度量衡法で、ヤード・ポンド法が公認されたとき、ヤード・ポンド法の単位に漢字による記号が割り当てられました。記号といっても、漢字1文字の略字(計量法ではこういうそうです)です。現在も、戦前の小説やいろんな資料を読むときにしばしば出てくる単位です。インチは「吋」、フート(フィート)は「呎」、ヤードは「碼」、チェーンは「鎖」、マイルは「哩」です。

語感としてインチに近い言葉にサンチがあります。なんでしょうか? 戦艦三笠の15サンチ砲などという言い方をします。サンチはセンチメートルのことです。明治時代の人がセンチメートルを耳で聞いて、言葉を口にするとき言いやすいように「サンチ」といったのが始まりのようです。サンチは漢字では「糎」と書きます。

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32型と32“V”型

インチは今も、日本のいたるところで使われています。メートル法の採用が決まっていながら、実際は、いまだにヤード・ポンド法が主流のアメリカの影響力は、やはり大きいのですね。

最も身近なのは「インチ」。テレビの画面の大きさ(対角線の長さ)を示すのにインチを使います。日本ではメートル法を使わなければいけないので、インチを「型」に置き換えて表示する場合もあります。21インチのテレビは21型テレビなどということもあります。最近の液晶テレビなどの薄型テレビは、数字の後にVをつけて32V型などと呼ばれます。これは、ブラウン管の大きさは映像の映る部分の外側の全面全体の大きさをいうのに対して、液晶ディスプレイなどの薄型テレビでは、実際に映像が表示される部分の大きさをいうため、区別を明確にするために、Vをつけているのです。

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マイルとフィートでないとだめ?!

1951(昭和26)年に制定された計量法によって、尺貫法とともにヤード・ポンド法も使用できなくなりました。でも、航空機の運航に関しては引き続きヤード・ポンド法の使用が認められています。飛行機は、高度はフィート、距離はマイル(海里)、速度はノット、重さはポンド、燃料はガロン、オイルはクォート、温度は華氏を使います。

飛行するための高度は、500フィート刻みで決められています。500フィートは152.4メートル。これをメートル法に変更して、高度間隔を切りのいいところで150メートルにすると、パイロットの頭の中はごちゃごちゃになってしまいます。高度計もメートル表示になおさなければなりませんし。

また、飛行距離と飛行速度の関係もマイル(海里)とノットでいうととてもわかりやすいのです。100マイル(海里)の距離を1時間で飛べば、速度は100ノットです。

もちろん、これは「慣れ」ですから、慣れればどうってことないのですが、たぶん、飛行機の運航をいきなりメートル法に準拠したものに変更すると、事故が増えるかも・・・

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メートル法とヤード・ポンド法の混在

航空関係はヤード・ポンド法の使用が認められているのですが、法律(航空法等)は、メートル法で書いてあります。国の方針として、メートル法(国際単位系)を使うことに決まっているからですが、航空機を運航する人間というか、とくに新たに航空業務に就くために勉強する人にとっては、結構面倒なことです。

たとえば、航空法には、有視界気象状態の定義として、「視程5キロメートル以上、航空機から上方150メートル、下方300メートル、水平方向600メートル以内に雲がない気象状態。」などと書いてあります。150メートルは、換算すると492フィートなのですが500フィートに、300メートルは、984フィートですが、1000フィートに置き換えて解釈すれば、フィートで高度を把握してるパイロットにとってはわかりやすくなります。

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ヤードは微妙だ

ヤードは、今でもよく使われる単位です。まずゴルフでしょう。コースの長さはヤードで表示されています。ゴルフは、イギリスが発祥の地ですから、ヤードを使っているというのは納得できます。ただ、ヤードはメートルの数値に近似しているので、わりとわかりやすい単位です。1ヤードは0.9144メートル。

アメリカンフットボールでは、前進距離を10ヤードと「ヤード」で決められています。これを仮にメートルに変更して10メートルとすると、10.936ヤードとなって、0.936ヤード(0.856メートル)と、微妙に長くなって、選手はタイミングを逸することが多くなるかもしれません。

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端数の秘密

プロボクシングでは、選手の体重がポンドで紹介されます。筆者の耳には「パウンド」と聞こえるので最初は、なんのことだろうと思っていたのですが、ヤード・ポンド法の重さの単位「ポンド」でした。グローブも8オンス(227グラム)とか10オンス(283グラム)とオンスで決められています。野球ボールも公式ボールは、外周9インチ(22.9セントメートル)・重さ5オンス(141.8グラム)とインチとオンスで決められています。日本の公認野球規則では、重量141.7グラムから148.8グラム、外周22.9センチメートルから23.5センチメートルと、なんとも細かい数字が使われていますが、これは、インチやオンスから換算したためこんな端数が出ているのです。規格を決めた昔の日本人がとくに几帳面だったというわけではないのです。

 テニスボールもテニスコートの寸法もみな、メートル法でいうと小数点以下の数字がでますが、ヤード・ポンド法で決められている数値をメートル法に換算しているからなのです。

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コンピュータのインチねじ

コンピュータは、最初はアメリカで発明され、現在もアメリカがつくった規格が世界中で通用しています。そのため、パソコンの部品の規格もインチになっている場合が多いです。パソコンのハードディスクを取り換えるとき、ときどき固定するためのねじがうまく入らないことがあります。これはインチねじを使っているからです。日本を始め世界の主流はメートル法を元にした国際単位系を採用していますから、メートル系のねじを使っていますが、ヤード・ポンド法が主流のアメリカではやはりインチねじを使っているのです。

インチねじは、直径・長さ・ピッチ(1回転で進む距離)をインチで表し、メートルねじは、メートルで表しています。

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ドットとミル

プリンターやスキャナの解像度を表すdpiは、"dot per inch"のことで、1インチあたりドット(dot)いくつあるかを示す単位です。コンピュータの半導体部品もインチで設計されています。LSIから出ている端子の間隔は、1000分の1インチをあらわすミル(mill)で設計されています。日本製の半導体でもアメリカの規格に合わせてつくります。でないと、コンピュータの基板に差し込むことができなくなってしまいます。

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8オクタス

気象の通報も航空関係はヤード・ポンド法で通報されます。風の強さはノット、雲の高さはフィートです。かりにメートル法で通報されても、メートル法からヤード・ポンド法への換算はわりと簡単です。風速4メートル毎秒なら8ノットとメートル毎秒の数を2倍にするだけで、実用上問題なくノットに変換できます。正確には7.8ノット。

雲の高さをメートルで通報されたとしたら、3倍して1割増しです。200メートルなら、3倍して600フィート、それに60を足して660フィートです。これで、実用上ほぼ問題のない雲の高度がフィートで出せます。正確には56メートル。風は常に多少変動してますし、雲も雲底が真っ平らというわけではないですから、これくらいの数字が暗算でわかれば問題なしです。

ところで、全天に占める雲の量は、8分雲量(オクタス、octas)で示されます。10分雲量が使われることもありますが、とくに航空分野では8分雲量です。全天を8で分割すれば、半分の半分の半分が8分の1ですから、判定がしやすいからです。いかにもヤード・ポンド法的な発想です。

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