月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
温暖化、梅雨、衣替え、省エネ・ルック
執筆者 土屋彰久

温暖化、梅雨、衣替え、省エネ・ルック

省エネ・ルック(笑)

省エネ・ルック(笑)が登場したのは、第2次石油ショックに見舞われた1979(昭和54)年の夏前でした。第1次石油ショックの時は、買い占めたトイレット・ペーパーを体中に巻き付けるミイラ・ルックが流行しました(ウソ) 。形は、今の三つボタンの背広を半袖にしたようなシルエットが基本形で、ポケットをぺたぺたと貼り付けたり、肩にパイロット・シャツの肩ひもを貼り付けたりと、色々とバリエーションも出ましたが、全て不発、伊勢丹ではシーズン通して5着しか売れなかったという伝説もあるくらいで、製造そのものが壮大なエネルギーの無駄遣いとして終わりました。でも、その豪快なコケっぷりから、人々の記憶には深く刻まれ、その後、たまたま当時、購入して持っていたことがわかり、羽田元首相のトレードマークとして思わぬ復活を遂げるなど、話題の提供にはけっこう貢献しているようです。

ページの先頭へ 戻る

かりゆし(ウェア)

衣料としては、「かりゆしウェア」というのが正式名称で、「かりゆし」自体は、沖縄弁で「めでたい」、「縁起がよい」、といったような意味の言葉です。今年の夏の流行りになりそうですが、「かりゆし」として流行るか、正確に「かりゆしウェア」として流行るか、どっちになるんでしょうね。かりゆしウェアは、沖縄の伝統衣料というより、「企画衣料」と言うべき存在で、起源は1970年代に企画された「沖縄シャツ」に遡るそうです。その後、紆余曲折を経て、規格の緩和とそれに伴う低価格化、県庁や役場などの官庁も含めた夏場の着用奨励運動が始まったこと、また、サミットでも着用されたことなど、様々なプラス要因に支えられて、今では夏の沖縄の公式衣料として定着しています。かりゆしウェアは、形は基本的にアロハシャツで、緩和されたとはいえ、(1)沖縄県産品であること、(2)沖縄らしさを表現したものであること、の二つの条件を満たす必要があります。そして、認証を受けた商品のみ、「かりゆしタグ」がつけられるので、まがい物とは容易に区別できます。でも、まがい物を作るの、思いっきり簡単そうですね。名前は、「かりゆし着」、「かりゆしルック」、あるいは、「かりゆし風ウェア」あたりでしょうか。あるいはいっそのこと、正味「かりゆし」で正面突破とか。

ページの先頭へ 戻る

アロハシャツ

夏と言えばアロハシャツ、というほどには日本では定着していませんが、本家ハワイでは、やはりムームーと並んで、正装となっています。かりゆしウェアの公式着用にとっては、直系と言ってよい先行事例です。その派手すぎる色柄から、あまり日本人には向かなそうなアロハシャツが、それでも、夏物衣料の定番の一角を占めてきたのは、需要よりも供給が主たる要因でした。今でこそ、国際競争に敗れて、日本の繊維産業はガタガタで、衣料も輸入品が多いですが、かつては繊維は花形産業で、日本はハワイにアロハシャツやそれ用の生地をガンガン輸出していました。つまり、日本はアロハシャツの原産国をやっていたということなんですね。そのようなわけで、生産国の現地でも売ってみようという流れから、国内市場にもアロハシャツが出回るようになったわけです。ちなみに、細かい規格大好きの日本では、派手柄、開襟、レーヨン生地が、アロハシャツの基本条件となっていますが、当地のハワイは、元々、大らかな気風のところですから、細かいことにはこだわらず、開襟もボタンダウンも、裏使い生地や綿生地も、ボタンアップもプルオーバーも、みんなテキトーにひっくるめてアロハシャツです。

ページの先頭へ 戻る

熱帯

夏の東京は熱帯だ、というのが私の持論ですが、さて、地理学上の熱帯の条件は、最寒月の平均気温が18度以上と、実は、夏の暑さで決まるのではないんですね。そして、東京が分類されるのは、温帯の中でも一番暖かい区分で、最暖月の平均気温が22度以上が、その条件となります。つまり数値的に見ても、夏の東京は、冬の熱帯の条件をあっさりクリアしているということです。熱帯では、冬だろうと外を背広着て歩く人間はいません。ところが、夏の東京と来たら、丸の内でも新宿でも、背広のおとーさんだらけです。最近、気温30度でも、おとーさん達の20%は背広を着ている!!(手に持っているのではないそうです。もろに着ているんだそうです)という驚きの調査結果が発表されました。日本の対北朝鮮政策が、ひたすら北風方向に突っ走っている背景には、こんなふうに「北風と太陽」の話が、いまいち説得力を持ちえない風土もあるのかもしれません。このおとーさん達の背広を脱がすには、ピンサロあたりに連れていくしかなさそうですね。

ページの先頭へ 戻る

亜熱帯

ついでに、亜熱帯の条件も示しておきましょう。亜熱帯は、ケッペンの気候区分では温帯に分類されますが、これではどうしても生活実感と離れてしまいます。ケッペンの気候区分は、そもそもがヨーロッパ、アフリカを基準に作成されているために、熱帯と温帯の間には乾燥気候が入ってきて、上から下まで湿っぽい東アジアには、きれいに当てはまりません。そこで、正式なものではありませんが、補助的に亜熱帯という便宜的な気候区分が加えられました。この場合の条件は、平均気温20度以上の月が4カ月以上あり、冬季の最低気温が0度以下にならないことで、日本では沖縄、小笠原などの南方の島々がこれに該当します。しかし、近年の地球温暖化や気候の変化の影響で、小笠原の数値などは熱帯すれすれまで上がって来ており、本州でも九州あたりでは、厳密に言うと亜熱帯の条件をクリアすることもあるようです。ただ亜熱帯については、温度条件の他に、北緯20〜30度とする説もありまして、この条件もとなると、やはり南の島に限定されます。でも、地球温暖化が進んで、北緯30度以下の地域が、皆、熱帯の条件をクリアしてしまったら、亜熱帯が消滅してしまうことになりますね。

ページの先頭へ 戻る

梅雨

初夏と盛夏の間に、1カ月以上も強引に割り込んでくる梅雨、この梅雨の存在が、日本の亜熱帯入りを辛うじて阻止しています。もし、梅雨がなかったなら、6月からもう十分に夏ですし、蓄熱効果の関係で、真夏はもっと暑く、残暑はもっと長くなるでしょう。また、雨水の供給という点から言っても、梅雨がなかったら日本の米作農業は成り立ちません。一応、梅雨のない北海道でも米は作っていますが、あれは、冬に大量に降る雪が山に溜まって、農業用水の供給源となっているためで、同じことは夏場に雨の少ない東北地方の日本海側についても言えます。そのようなわけで、その最中にいるときは、うっとうしさ爆発の梅雨ですが、実は日本にとって、なくてはならないものなんですね。しかし最近では、地球規模で環境破壊が進んできたせいか、エル・ニーニョだの、ラ・ニーニャだの、ダイ・ポールだのと、色々なことを言って、異常気象が常態化してきいるようで、夏のない年(長梅雨からそのまま秋霖に突入)や、梅雨のない年(超カラ梅雨)があったりと、平年並みに梅雨入りし、平年並みに梅雨明けするなんてこと自体が、21世紀の異常気象になりつつあります。

ページの先頭へ 戻る

秋霖(しゅうりん)

いわゆる「秋の長雨」で、秋雨とも呼ばれたりします。秋霖の方が終わりと始めがはっきりしにくかったり、最中の降り方も梅雨ほどではなかったりと、メリハリではたしかに梅雨に一歩譲るため、梅雨ほどメジャーではありません。しかし、それも場所によりけりで、北日本に行くと梅雨よりむしろ長かったりします。つまり、南ほど梅雨が長く秋霖が短く、北ほど梅雨が短く秋霖が長いというわけです。だから、日本の中心地が北日本であったなら、秋霖の方がメジャーになっていても、全然、おかしくなかったんですね。梅雨と秋霖、こんなところにも、日本の南北格差が表れています。

ページの先頭へ 戻る

エル・ニーニョ

南米のペルー沖の海水面の温度が、通常の状態より4度前後上昇する現象で、一度発生すると1年程度は続きます。世界的な異常気象の原因の一つと考えられていますが、その発生のメカニズムは、まだ解明されていません。また現在では、元祖エル・ニーニョより範囲を拡大して、地球規模の現象として「エル・ニーニョ現象」と言われています。エル・ニーニョの由来は、スペイン語の「ザ・男の子=神の子=キリスト」というところから来ており、乾燥地帯である当地の人々にとっては、夏場に恵みの雨をもたらす吉兆ということで、このようなよい名前がつけられました。エル・ニーニョが発生すると、海水面の温度差によって発生する赤道付近の貿易風が弱まり、そこから様々な異常気象につながって行きます。

ページの先頭へ 戻る

ラ・ニーニャ

これは、エル・ニーニョの反対で、南米のペルー沖の海水面の温度が通常より下がる現象で、こちらは貿易風が強まることになりますが、やはり、異常気象の原因となります。発生頻度や、現地の生活への影響度では、エル・ニーニョに一歩譲るために、アンチ・エル・ニーニョという言い方もされましたが、それではアンチ・キリストになってしまうということで、「ザ・男の子」の反対で「ザ・女の子」、ラ・ニーニャとなりました。

ページの先頭へ 戻る

ダイ・ポール・モード現象

これは、訳すと二極化状態現象となりますが、エル・ニーニョ/ラ・ニーニャが太平洋で起こるのに対して、インド洋で発生する、同様の現象として報告されました。この現象が起こると、海水面の温度がインド洋西部で上昇し、東部で下降した状態となり、東風が強くなる結果、西側の地域が多雨となり、東側の地域が乾燥します。日本の猛暑には、エル・ニーニョ/ラ・ニーニャより、ダイ・ポール・モード現象の方が関係していると言われています。また、同じインド洋の南の水域でも、独立して同様の現象が発生することが、その後、確認されています。

ページの先頭へ 戻る

衣替え

戦前の軍国主義体制の名残か、日本人は制服が大好きです。外国人の目には奇異に映ると、よく言われますが、実際、学校制服の定番である詰め襟は陸軍、セーラー服は海軍の軍服が元になっているというのは、有名な話ですし、その上に丸刈りの頭が乗っかって、ずらっと並んでいたら、見慣れていない限り、異様な光景と見るのが普通の感覚でしょう。でも学校制服には、貧富の差を教育現場に持ち込ませないという意味合いもあります。職場での制服についても、画一的な服装をいやがる人もいる一方で、汚れや痛みを気にしなくて済むからよいと、実用的な理由から歓迎する人もいます。この先も、この国の制服文化が廃れることはそうそうなさそうです。そんなニッポン・チックな制服文化と切っても切れない関係にあるのが衣替えです。冬は雪が降るし、夏は熱帯並に暑くなるこの国で、冬服と夏服を切り替える衣替えは、なくてはならない制度と言っていいでしょう。もちろん、大学の応援部のように、好きこのんで夏の盛りでも詰め襟を着ている人たちもいますが、通常は6月1日に夏服に切り替わり、10月1日に冬服に戻ります。かの沖縄では、亜熱帯らしく、4月から11月までかりゆしウェアだそうです。また、制服だけでなく普段着についても、まめな家では、衣装箱と箪笥の中身を入れ替えるという家庭版衣替えをやっていますね。

ページの先頭へ 戻る

サマー・タイム

ホント、やるんですか?マジですか?という感じですが、なんか今の政府は、半分くらいはマジのようです。サマー・タイムというのは、夏場に時計の針を1時間進めるというのもので、緯度が高いために夏と冬の日照時間の差が大きくなるヨーロッパでは一般的で、アメリカでの大半の州が採用しています。だから、夏のロンドンは9時でも明るいとかいうわけですね。我々は、早朝は寝ているので、改めて言われない限り、そのことに気づきませんが、日は縮む時も延びる時も、朝夜両方向です。だから、サマータイムを使うと、「知らないうちに朝に伸びていた日」を、夜に持ってくることで日の伸びが倍になるために、「スゲェよ、ロンドン!ハンパじゃねーよ!!」ってことになるわけです。ヨーロッパでは、国ごとは単一時間であっても、地域全体としては、国ごとに時差がありますし、アメリカなどは、国の中に時差があるくらいですから、元々、時刻というものが相対的であることに慣れているということも、国民の抵抗が少ない要因の一つと言えましょう。対して日本の場合、電波時計なんてのがよく売れるくらいですから、時刻の絶対性に対する信仰は、意外と根強いと思った方がいいでしょう。

ページの先頭へ 戻る

サマー・タイムの魂胆

政府は、けっこう強硬にサマー・タイムの利点を主張しています。ただ、おなじみのコーキョージギョーを始めとして、国民にツケ回しができるのをいいことに、さんざん、不合理と無駄を重ねてきた政府が、今更、本当に省エネ効果だの、経済活性化効果だのと言った表向きの理由で、サマー・タイムを導入しようとしてるとは思えません。一番、勘ぐられているのは、始業時間だけ1時間早くなるという、労働時間の延長です。政府は、「明るいうちに帰れる」とか吹いていますが、「終電がなくなるから」という理由でやっと家に帰れる労働者が多いというのも実態です。それに、そもそも労働基準監督署が真面目にに仕事をしていないから、違法なはずのサービス残業が横行しているんですね。これをきちんと取り締まるだけで、おとーさん達は明るいうちに家に帰れるようになりますよ。

ページの先頭へ 戻る

電力会社のジレンマ

電力会社は、昔はホンネでは省エネ大反対でした。理由は言うまでもないですよね。しかし、最近、省エネを呼びかける声に、以前より真剣さが感じられるようになってきました。さて、どういう風の吹き回しなんでしょう。一つの理由は、エアコンの低価格化にあると私は見ています。昔は、1台つけるのに10万はかかっていましたが、今は5万でもお釣りが来ます。そして、このエアコンが活躍する夏が、やはり一番、電力消費量が多いんですね。ところが電気というのは、自動車のバッテリーとかは別として、基本的にコンセントから供給される電気は、作って貯めておくことができません。そう、我々はいつも、新鮮なできたてピチピチの電気を使っているんです。でも、人々は電力会社の都合に合わせて電気を使ってくれるわけではありません。そこで電力会社の方で、電力需要に合わせて、発電所の稼働率を常に調節することで、需要と供給のバランスを取って、コンセントの100ボルト電圧を守っているわけです。このように電気は作り置きができないために、夏場のピークに合わせて供給体制を調える必要がでてきます。しかし、そのための施設は、夏場以外は遊休化してしまい、かなり無駄な投資となってしまいます。今までは、それでも供給力に余裕があったために、むしろどんどん電気を無駄遣いしてくれた方が、稼働率が上がって都合がよかったために、省エネのかけ声は口先だけにとどまっていたんですが、エアコンの低価格化で、けっこうやばい状況になってきました。このままだと、夏場の2カ月のために、原発を増設しなければいけないかもしれません。しかし、そんなばかばかしい投資はないですよね。そこで、電力会社のホンネも、それまでの無駄遣い万歳から、夏場限定とは言え、マジ省エネに変化したというわけです。

ページの先頭へ 戻る

電力源の役割分担

電力は、随時、需要量に合わせた供給が必要という、困った特性を持っていますが、それに対応するために、それぞれの特性に応じて電力源の使い分けがなされています。すでに、発電量において首位となっている原子力発電は、出力の調節が困難なため、常に一定量の電力を供給するベースロード(基本電力源)として利用されます。そして、最も調節が容易な火力発電がピークロード(高需要時の電力源)に利用され、水力発電は、その発電方式により両方に使われ、一部では、水力発電を逆回転させて低需要時の電力を高需要時に振り分ける貯水池方式も導入されています。ところが、日本では国策として原発ばかりが積極的に建設されてきたために、膨れあがったベースロードの発電量だけで、低需要時の需要量を上回るという現象が発生するようになりました。つまり、原発の無駄使い状態ということです。電力会社が、貯水池式の水力発電所の建設を急いだり、低需要時の夜間の電力利用を進めている背景には、こうした事情もあります。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS