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ベストセラーから生まれた流行語
 

ベストセラーと「ひと」

恍惚の人

1972(昭和47)年、有吉佐和子のベストセラーの題名。妻に死なれ、ひたすら空腹を訴えて徘徊する84歳の痴呆の老父と、息子も娘も忘れたその老父に、いじめられてきたのに覚えられている嫁の介助生活を通して、さまざまな老人問題が描かれている。現在のように痴呆症が社会一般に知られていなかった当時、痴呆症や高齢社会に対する問題を投げかけた。昭和生まれの共稼ぎの主人公がぶち当たる老人問題は30年以上たった現代にも通じるものがあり、問題の難しさと高齢者福祉問題改革の遅さを実感させられる。「恍惚の人」は流行語となり、現在では定着した感もあるが、ちょっとボケた人や物忘れをした人を揶揄するのにも使われた。

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火宅の人

1976(昭和51)年、「最後の無頼派」と言われた壇一雄が自分自身をモデルに描いた放蕩を重ねる男の物語。火宅とはもともと法華経にある言葉で、「煩悩が盛んで不安なことを火災にかかった家宅に例えていう。現世。娑婆(しゃば)」のこと(岩波書店「広辞苑」より)。第1章発表から完結するまでに約20年かかり、最終章は、ガンに冒された病床で口述筆記されたと言われ、この作品が遺作となった。発売後たちまちベストセラーになり、火宅の人は流行語に。不倫している人のことを火宅の人と呼んだりした。1986年、深作欣二監督で映画化され、こちらもヒットした。

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極道の妻たち

1986(昭和61)年、家田荘子のルポルタージュの題名。体当たりで極道の世界を2年間取材したこの作品は、ベストセラーとなった。同年秋に岩下志麻を主役にした映画は「ゴク・ツマ」を呼ばれて大ヒットし、原作を元にしたのは1作目だけだが、邦画のドル箱として今なおシリーズ化されている。家田荘子は91年に「私を抱いて、そしてキスして〜エイズ患者と過ごした一年の壮絶記録〜」で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞している。

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塀の中の懲りない面々

1988年版本誌掲載。以下、

元ヤクザとしての経歴を隠すことなく、その懲役体験をもとに綴った安部譲二の小説「塀の中の懲りない面々」がベストセラーに。刑務所を舞台に、ひとクセもふたクセもある受刑者たちの悲喜こもごもの日常を、情感豊かに描き出した作品で、この本を原作にしてつくられたテレビドラマ、映画も話題をよんだ。当の安部譲二も時の人としてマスコミに引っ張りだことなり、そのユニークな体験談を披露した。どちらかといえば裏の文化がこれほどまでに堂々と、しかも明るく一般に受け入れられたことは新しいことだと言える。

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