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スロー流行りの時代に敢えてスピードのお話集
著者 白鳥 敬

スロー流行りの時代に敢えてスピードのお話集

戦闘機とフェラーリ どちらが速い?

2003年12月、イタリアの空軍飛行場で、戦闘機ユーロファイター「タイフーン」とシューマッハ操縦のF1フェラーリが速度を競いました。最初は距離600m、2回めは1200m、3回目は900mの距離で競い、1回目は、戦闘機9.6秒・フェラーリ9.4秒でフェラーリの勝ち、2回目は、戦闘機14.2秒・フェラーリ16.7秒で戦闘機の勝ち、そして3回目は、戦闘機13秒・フェラーリ13.2秒でやはり戦闘機の勝ちでした。

この3回戦でフェラーリは1勝しましたが、もちろんこれをもってフェラーリが戦闘機よりも速かったとは言えないわけです。というのもダッシュ力のあるレーシングカーに比べてジェットエンジンは、スロットルを入れてからパワーが出るまでにタイムラグがあるし、だいたい、武器をはずした状態でも2万1000kgもある機体を重量600kg程度のフェラーリと同じように加速することはできません。しかし、いったん速度がついてくると、あとは速いというわけで、最高速度はマッハ2に達しますから、車が追いつける速度ではありません。

というわけで、競う距離が短いほど車に有利、長くなると飛行機が有利というわけです。もしも、ゼロヨンで競ったとすると、絶対に戦闘機はフェラーリに勝てなかったはずです。

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最も加速の速い乗り物は?

クルマ好きならゼロヨンの加速性能にこだわるかもしれません。ご存知の通り、ゼロヨンは、速度0からスタートして400mの距離を何秒で駈け抜けるかを競うゲームです。スカイラインGT-Rみたいなスポーツカーは、10秒ちょっとで走るそうです。このときの平均速度は130km/時くらいですからゴールを通過するときには、200km/時を超えているでしょう。

ところで、これくらいの加速で驚いていてはいけません。空母から発艦する戦闘機は、約90mの長さの蒸気式のカタパルトで、数秒のうちに速度0から約255km/時まで加速されて離艦します。人間の乗る乗り物で最も速い加速をするのは、空母から発艦する戦闘機でしょう。

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昔の空母はのんびりと

現在の空母は、31トンもあるF-14トムキャット戦闘機を、250km/時以上の速度まで数秒で加速しますが、第二次大戦時の空母はもうすこしのんびりしていました。重量のかさむ爆弾を満載しているときを除いては基本的にカタパルトを使わずに発艦していました。当時の日本海軍の空母、たとえば「鳳翔」は、全長160mほどの飛行甲板を持っていましたが、空母が風上に向かって全速力で走ると、飛行機の速度に向かい風が加わり、離陸に十分な速度に達して、わりと簡単に離陸することができました。プロペラ式の小型戦闘機は、向かい風が十分にあると、100mちょっと甲板上を走るだけで離陸できたのです。

ところが、第二次大戦時の日本海軍のパイロットの中にはすごい人がいました。「彗星」という急降下爆撃機を、停止している空母から離陸させた人がいたそうです。この話は、当時「彗星」のパイロットだったNさんから聞きました。

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最も速い飛行機はコンコルド?

10月24日、超音速旅客機コンコルドが定期航空路線から引退しました。民間旅客機では初めての超音速機で、また唯一の超音速機でもありました。最高速度はマッハ2.04。音速の約2倍の速さです。

軍用機にはもっと速い飛行機があります。ロッキードSR-71はマッハ3以上の速度で飛びます。また、実験機なら1967年に、X-15がマッハ6.7を記録しています。音速の3倍を超える高速になると問題になるのが、空気のと摩擦で機体が高温になること。SR-71では、機体表面は摂氏数100度、部分的には1000℃に達する個所もあるといいます。

ちなみにマッハ2で巡航するコンコルドも機体はそうとう熱くなります。コンコルドに乗ったことがある人によると、機内の壁(機体の内側)にさわってみると、普通の飛行機よりもかなり熱く感じるそうです。

空気の中を超音速で飛ぶというのもなかなか大変なものです。熱だけでなく、超音速飛行は大量の燃料を消費します。乗客一人あたりの必要な燃料は、ジャンボ機の3倍以上です。いまどき、燃費の悪いのは、車だけでなく飛行機も嫌われるということでしょうか。

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超音速機で宇宙に飛び出すには

スペースシャトルは、宇宙空間の周回軌道上から地球に戻るとき、いったん、進んで入る方向にお尻を向けてロケットを噴射し、減速します。速度が遅くなると、それまで、重力と遠心力がつりあって地球の回りをくるくる回っていたのが、徐々に高度を下げてきます。

ある高度で、回り続けるためには、ある一定の速度が必要なのです。この速度が7.9km/秒で第1宇宙速度といいます。これは音速の25倍くらいの速度です。人工衛星を打ち上げるロケットは、何段かに分かれていますが、これは、順々に加速していき、最終的に、この第1宇宙速度を得るためです。

飛行機で滑走路から離陸し、宇宙に飛び出して、任務を終えて、再び滑走路に戻ってくることができたら、コストも安くなっていいのですが、宇宙空間に飛び出させるためには、第1宇宙速度であるマッハ25を実現しなくてはなりません。現在NASAでは、マッハ10以上の飛行をめざす、X-34という実験機の開発を進めています。いつか、飛行機で宇宙に飛び出すことができるようになるかもしれません。

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スペースシャトルの速度は音速の23倍

時速2万7720km。これが、スペースシャトルが350km上空の周回軌道上を飛行しているときの速度です。1秒間に7.7km、1分間に462kmも飛びます。これは音速の23倍くらいの速度です。

スペースシャトルは、大気圏に突入してもまだマッハ10くらいの速度があります。そこで、くねくねとS字のかたちの旋回を繰り返して、持っているエネルギーを消費し、速度を落とします。高度3000mまで降りる頃には、時速500kmと普通のジェット旅客機と同じくらいの速度になります。

そして、ここからが普通の飛行機と大きく違います。3000mの高度に達したとき、飛行場からたったの12kmくらい離れた地点の上空にいるのです。12kmなんて3000m上空から見るとほとんど真上みたいなものです。この高度から、19度くらいの急角度で滑走路に向かって進入するのです。ちなみに普通の飛行機の進入角は3度くらい。進入速度も普通の飛行機の1.4倍くらいありますから、操縦席からはまるで落下していくように見えます。

そして、滑走路目前まで来たら、機首をぐいっと上げて、速度をさらに落とし、普通の飛行機よりも浅い角度で滑走路に滑り込んでいきます。

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射出座席の速度はどれくらい?

ジェット戦闘機には射出座席がついています。万が一上空で飛行機が故障したり、敵のミサイルにやられて飛行できなくなったとき、いさぎよく、飛行機から飛び出し、パラシュートを開いて地上に戻ります。

この射出座席は、レバーを引くと、火薬が爆発して、まず、風防を吹き飛ばし、その直後に、パイロットを座席ごと空中に放り出します。この速度は半端ではありません。座席が飛び出す速度は正確にはわかりませんが、確実に、10G以上の荷重がパイロットにかかります。普通、音速以下の速度で脱出できるように設計されていますが、旧ソ連製の戦闘機には、音速でも脱出できる射出座席が装備されている機体があるそうです。音速以下の速度であっても、死なないまでも身体に重大なダメージを受けることが多いのに、超音速でどのように人体を保護するのでしょうか。

脱出の瞬間は、人間が、超音速で飛んでいるということですから、もしかしたら、これが最も速い人間かもしれません。

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日本経済も失速!?

経済が失速状態。こういう言い回しをテレビのニュースなどでよく聞きます。失速というのは、もともと飛行機の失速から来ている言葉で、経済が発達の速度を失って墜落状態にあることを言うのでしょう。

ところで、飛行機の失速とはどんなことを言うかといえば、それは気流の流れに対してある角度を持っている主翼が、しだいにその角度(迎え角)が大きくなっていって、翼の表面から気流の流れがはがれて揚力をなくすことをです。失速する角度までは、迎え角を大きくするほど揚力が増えていきますが、ある角度に達すると、急に、ほんとに突然、がくんと揚力がなくなります。このときの速度が失速速度です。

この速度は、飛行機によって違いますが、同じ程度の大きさの飛行機であまりにも失速速度が違いすぎるのはよくありません。そのため、失速速度は、61ノット(113km/時)以下、と決められています(小型飛行機の場合)。つまり、小型飛行機で、100ノット(185km/時)で失速する飛行機はないということです。

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鳥の速度

人間が乗って速く移動できる乗り物についていろいろ書いてきましたが、やはりゆっくりというのもいいものです。生身の人間には適切な速度というものがあります。将来、バイオシューズなるものができて、それを履けば、時速40kmという車並の速度で走れるとしても、生身の体では、どこかにぶつかっただけで大けがをしてしまいます。

それぞれ、身の丈にあった速さがあるということでしょう。そういったことを本能的に知っているのが鳥ではないでしょうか。そこで、鳥はどれくらいの速度で飛べるのかを調べてみました。ハヤブサは飛行機の名前につけられているし、ツバメは、九州新幹線の列車の名前になっていますから、きっとハヤブサやツバメは飛行速度が速いのでしょう。

『鳥と飛行機 どこがちがうか』(ヘンク・テネケス著、草思社)という本には、いろんな鳥の体重と翼の面積から、これくらいの速度で巡航飛行ができるはずだ、という数値が乗っています。とても面白いので引用させていただきます。

同書によると、ハヤブサは、12.7m/秒、ツバメは6.4m/秒だそうです。時速にすると、それぞれ、46km/時と23km/時です。ただし、鳥も獲物を捕まえるときは急降下しますからもっと速く飛びます。ハヤブサは、180km/時以上の速度で飛べるといいます。

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パラシュートの降下速度は?

ゆっくりした速度の一つにパラシュートがあります。スカイダイビングのパラシュートがゆらゆら揺れながらゆっくり地上に降りてくるようすはなかなか優雅なものです。

このパラシュートの降下速度はどれくらいなのでしょうか。降下速度を決めるのは、ぶら下がっている重量。つまり、人間の体重と装備品の重さ。それと、パラシュートの傘の大きさで決まります。

傘の大きさが、面積が28平方メートルくらいの面積を持つもので、装備重量が60kgだと、4m/秒くらいの降下速度になるそうです。これは、14km/時くらいです。同じパラシュートを体重100kgの人がつけると、毎秒5.1mの速度で降下します。これは、18km/時くらいの速度です。

ゆっくりした速度には違いありませんが、地面に降り立つ(ぶつかる)瞬間は、けっこう体に響きそうですね。

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