月刊基礎知識
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予知と予測と予報に関する単位と数値
著者 白鳥 敬

未来学の基礎理論

未来学  Futurology ; Futuristics

本誌1971年版

20世紀後半の科学技術の発達にはまことにめざましいものがあるが、この急速な科学技術の発達は人間環境、社会構造を大きく変貌させつつある。その結果、われわれの周囲には、こうした急速な環境変化に適応することができず、ましてやこの変化を人間の幸福にとって望ましい方向にコントロールすることができないことから生ずるさまざまな社会病理現象が氾監している。こうした事態に対処していくためには、未来に対する社会的構想力を創造的に開発していかなければならない。このような背景から、とくに1960年代以降、高度産業社会を中心として、未来の社会と人間に関する知的、実際的関心が高まり、そのなかから、未来社会の予測、計画、設計についての諸科学の協力、統合をめざす動きが活発化してきた。

そこには、従来から、とくに未来問題とかかわりの深かった経済予測、経済計画、都市計画、技術開発、経営計画、社会変動論、文化人類学的未来論などからの研究成果と方法論が流れ込みながら、次第に未来学とよばれる共同研究領域を形成してくるに至った。1970年4月には京都で大規模な国際未来学会議も開催されたが、ここでは未来学の方法論、予測、計画の諸手法などから、余暇問題、都市問題、教育問題等の未来問題の分析とその解決方法について意欲的に論議が展開された,産業社会が大きな転換期を迎えている今日、未来を考えることは全ての現代人に課せられた基本的課題であるといえよう。

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探索的予測手法

本誌1971年版

未来を予測する手法はいろいろあるが、そのなかで探索的手法とよばれるものは、過去から現在までの傾向線を、なんらかの仕方で未来に延長することによって未来の可能性を探る手法である。その代表的なものは、外挿法とよばれているが、そのほかにも歴史的類推法、シミュレーションなどさまざまな手法が用いられている。探索的手法による未来予測の出発点になるのは、過去の時系列データである。これらの時系列データがある一定の規則性を持つとすれば、それを近似的に一次関数、指数関数、成長曲線などによってモデル化し、これを未来の一定期間にわたって延長することにより、特定の時点における予測値が推定される。このような探索的手法はさまざまの予測手法のなかで、もっとも一般的に用いられているものであり、またもっとも歴史の古いものであるといってよいであろう。ただし、通常、現実は非常に複雑であるので、過去の傾向的変化を無視して、未来の構造線を単純に延ばすことだけでは適切な予測とはなりえないことはいうまでもない。

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規範的予測手法

本誌1971年版

探索的予測手法が、過去の時系列データの示す傾向線を未来に延長する形で行なう予測であるのに対し、規範的手法は未来社会の必要(ニ−ズ)、目標、価値などの規範的なものを明らかにすることから出発して未来の可能性を分析する手法である。たとえば技術予測の例をあげると、未来社会においてどういう社会的必要が生じてくる可能性があるかを探り、そこから技術革新の可能性を予測するといったことがこれである。そこではいわば、「必要は発明の母である」という格言が前提となっているといってよい。同様のことは技術に限らず、社会的変化の予測についてもいえる。この種の手法としては、ニーズ研究、システムズ・アナリシス、ネットワーク手法、マトリクス手法、関連樹木手法など、さまざまなものがある。またこの規範的手法とよばれているものは、ある点からは予測というよりは計画の範疇に入るものとなることは、以上の説明でも明らかであろう。

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直観的予測手法

本誌1971年版

人間の直観がいかなる思考活動に属するものであるかということについては、未知なことが余りにも多い。未来というものが基本的に不確実性の支配する世界であり、しかもそのすべてが定量的で分析できるものばかりではない以上、われわれは未来予測に力をも動員することを考える必要がある。直観的予測手法と呼ばれているものには、ブレーン・ストーミング、創造性工学的手法、SFの利用、デルファイ手法など、いずれもなんらかの形で、未来に対する人間の直観力に基づく予測を利用しようとした手法である。なかでもデルファイ手法は、直観力をも含む人間の予測能力を組織的に利用した手法の例として注目されてきた。われわれは複雑な未来の可能性を分析するに当たって、明示的な表現のすでに与えられているような情報にのみ依拠するのではなく、直観力をも開発、利用する方法をより一層重視していかなければならないであろう。

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フィード・バック的予測手法  feed back forecasting technique

本誌1973年版

フィード・バックとは結果によって原因を改めるよう、結果をもとへ還元することであるが、このフィード・バックの手法を未来の可能性の領域を探究するために用いたもの。すなわち、探索的予測手法規範的予測手法を循環的に結合したもので、この予測手法は基本的に<現在⇔未来>によって未来の領域を探ろうとするもの。この手法において重要なことは、未来の可能性の領域と現在の、将来における予測および計画との間のフィード・バックであり、現在の状態とプログラムの開発にともなう問題によって予想を構成するとともに、その予想の構成から望ましい将来の状態を実現するために現在が行わなければならない変化を示すことにある。すなわち、現在の変化を有効にする作業手段として将来を使用し、また、この変化をとおして考えられる将来を実現させることにある。将来の目標を明確に定め確認し、評価するという規範的予測が多次元になり、その中からフィード・バックを行うという問題が残されている。

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