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眠りに関する数値と限界
著者 白鳥 敬

眠りに関する数値と限界

春眠暁を覚えず秋眠は?

「春眠暁を覚えず」。これは、中国は唐代の詩人・孟浩然の五言絶句の一節ですが、眠気を催すのは春だけではありませんね。暑い夏が終わって少し涼しくなってくると、やたら眠くなるものです。そういうわけで、今回は「眠り」についての数値のあれこれです。

人間は人生の約3分の1を眠って過ごします。なぜ眠るのか。それは、大脳を休息させる必要があるからです。大脳は、おきているときに取り込んだ情報を、寝ている間に、うまく整理して記録し直す作業をしているのではないかと言われています。コンピュータのハードディスクのフラグメンテーションをデフラグするのに似ているかもしれません。

ところで、眠らせないのも拷問の一つの手法だそうですが、人はいったいどれくらい寝なくても大丈夫なのでしょうか。アメリカの17歳の少年が、264時間12分(約11日)眠らなかったという記録がありますが、まったく眠らないでいると、体温が低下し免疫機能が衰えて、13日から21日くらいで死んでしまうそうです(新潟大学医学部河野正己先生のページより)。睡眠は十分とりましょう。

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ショートスリーパーとロングスリーパー

よく言われることですが、ナポレオンは3時間、エジソンは4時間しか寝なかったとか、アインシュタインは、10時間以上寝ていたとか。2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊先生も、ロングスリーパーで、毎日11時間以上寝ているそうです。

一般に、6時間以下の睡眠をとる人をショートスリーパー、9時間以上の睡眠をとる人をロングスリーパーと呼んでいます。適切な睡眠時間は人によって違いますから、どっちがいいというわけではありません。3-4時間しか眠らない人もいますし、10時間以上寝ないとだめという人もいます。

レム睡眠とノンレム睡眠がセットになった1単位が1.5時間ですから、1.5の倍数である、3時間、4.5時間、6時間という眠りかたがよいといわれています。寝起きがすっきりしていれば、一日、爽快です。

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日本人の睡眠時間はどれくらい?

どれくらい睡眠するかは、国によっても、年齢によっても、季節によっても違うようです。日本人の平均睡眠時間は、7時間23分。世代別では、70歳以上が8時間20分でトップ、ついで10-15歳が8時間10分。最も短いのは30代の6時間57分。そして、年齢が上がることに少しずつ睡眠時間が多くなっています。(NHKの「国民生活時間調査2000」による)

国別では、アメリカ、カナダ、イギリスなど欧米諸国の平均睡眠時間は、軒並み8時間を超えています。日本人は、もう少し寝たほうがよいのかも。

季節の変化は睡眠時間にも影響を与えています。エアコンメーカーのダイキン工業が大都市圏の主婦を対象に行った調査によると、夏の睡眠時間は他の季節に比べて0.7時間(42分)少なかったそうです。

夏の睡眠時間が短い原因は、夏の夜の暑さと湿気による寝苦しさがまず考えられますが、夜の時間が短いということも関係しているのかもしれません。

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体内時計は25時間? 24時間?

腹時計なら持ってるぞ、という人が多いかもしれませんが、実は、人間の体の中には、正確に時を刻んでいる体内時計があって、これに基づいて体のリズムがつくられています。体内時計は、脳の視床下部という部分にあります。光の届かない部屋で時計なしで人間を生活させたところ、ほぼ25時間の周期で一日の生活を繰り返すことが確かめられています。一日は24時間ですが、なぜ25時間? という疑問があると思います。実は、最近の研究で、体内時計もほぼ24時間で時を刻んでいるらしいことがわかってきました。

しかし、こんなに正確な体内時計を持っていても、夜と昼が逆になったようなふしだらな生活をしていると、体内時計が狂ってきます。体内時計が狂うと自律神経の働きに異常が生じて自律神経失調症などの病気になってしまいます。

時間の狂った時計はリセットすればいいのです。体内時計のリセットは光で行います。朝、日の出のともに太陽の光を浴びるか、日の出の時刻に、明るい光を浴びるようにすれば、体内時計は徐々に元の正確な時計に戻っていきます。

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居眠りは何分くらいするのがいいの!?

海外では、昼食後の1時間くらいをお昼寝にあてる企業がけっこうあるそうです。日本では、このような制度をとっている企業は、ごく少なく、大半の企業は、仕事中に居眠りするなんてもってのほかという感じでしょう。「少し眠らせてくれれば午後の仕事の能率があがるのに」と思っても、なかなか会社は、この希望にはこたえてくれません。

眠くなるのは、経験的にだいたい決まって午後の2時頃。

交感神経と副交感神経によって生体のリズムがつくられていますが、眠気は、午前2時から4時頃と午後2時頃にピークを迎えます。眠いときには寝たほうが、午後の仕事の効率も上がるのでは、と思うのですが。

ところで、この昼寝ですが、たっぷり眠れば眠気がとれるかというと、そうではありません。だいたい15分くらい。それ以上になると深い眠りに入ってしまい、起きたときに不快感が伴い、かえって逆効果です。

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眠さの度合いって測定できる?

「眠い、眠い」にもいろいろあって、午前0時を回った頃の眠さと、会社で退屈な事務作業をやっているときの眠さとは同じではないでしょう。「いや、おれは同じだ」という人もいるかもしれませんので、そういう人のために、眠気を客観的に測定する尺度が用意されています。

1972年にアメリカのスタンフォード大学で開発された「スタンフォード眠気尺度(SSS)」というものがあります。これは眠気の強度を7項目に分け、どれに当てはまるかで眠気の度合いを見るという一見単純なものです。最も強度なものはレベル7で「No longer fighting sleep, sleep onset soon, having dream-like thoughts.(もう睡魔に負けそう、すぐに寝ちまいそうだ、もう夢の中みたいだね。)」

詳しくは、スタンフォード大学のページでどうぞ。http://www.stanford.edu/~dement/sss.html

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照明の色と睡眠の関係は?

寝るとき、寝室の灯は消しますか。それとも、小さな灯をつけたままにしておきますか。小さな灯をつけておく場合でも、それが白色は青っぽい色の蛍光灯という人は少ないでしょう。たいていは、赤っぽい色調の電球の場合が多いと思います。

脳の松果体という部分でつくられるメラトニンの分泌が増えると眠気を催してきます。メラトニンは、夜も10時を回ると体内時計の指示にしたがって分泌されますが、このとき、部屋の照明が影響します。

白色の蛍光灯の灯のところにいると、メラトニンの分泌量が少なくなかなか眠くなりませんが、電球の柔らかな光のもとでは、入眠時にメラトニンの分泌量が白色光の時と比べて2倍くらいに増え、気持ち良く眠りに入ることができます。また、照明の明るさは、10ルクスから30ルクスくらいで、間接照明が効果的です。

なかなか眠れないという人は、照明を蛍光灯から電球に換えることで効果があるかもしれませんし、明日までに原稿を渡さなくてはいけないので、眠るわけにはいかない、という場合(自分のことです)は、蛍光灯を全部つけて部屋を明るくしておけばいいのです。

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お年寄りが早起きなのはなぜ?

年をとると、寝るのが早くて起きるのも早いという方が多くなります。これはなぜなのでしょうか。原因の一つは、睡眠のパターンが乱れてくることが原因のようです。睡眠パターンは、寝ては起きるを繰り返す乳児の段階からしだいに発達していって、10歳くらいになると大人と同じ睡眠パターンになり、それが、60歳くらいまで続きますが、老人では、就寝時刻が早くなり、その分、起床時刻も早くなります。そして、睡眠中のレム睡眠の時間が、若い人に比べて少なくなっているそうです。

19-30歳の総睡眠時間に対するレム睡眠の割合は、22%ですが、70-85歳になると、レム睡眠の割合は13.8%しかなくなるそうです。(広島大学・堀忠雄先生「ヒト睡眠の基礎」http://www.ashitech.ac.jp/jssr/kiso/hito/hito.htmlより)レム睡眠は、脳が日中得た情報を整理している時間と考えられていますから、老人は新たな情報を脳に入力する機会が少なくなっているということでしょうか。

年をとっても、新しいものにどしどし興味を持つことがボケ防止になるのかもしれません。

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猫の居眠りは何時間?

人よりももっと寝るのが好きなのはネコではないでしょうか。ネコは夜行性だからなのでしょうが、なんか昼だけでなく夜も寝てばかりいるように見えますね。

睡眠科学の井上昌次郎先生によると、ネコの睡眠時間は、一日約14時間だそうです。最も長いのは、一日20時間も寝るナマケモノ。人間と同じく8時間寝る動物には、ウサギ、モルモット、ブタなどがいます。

面白いことに、霊長類・ほ乳類・鳥類にはきちんとレム睡眠があるそうです。魚や昆虫にはさすがにレム睡眠はありません。レム睡眠は、高度な脳を持つことの証であるようです。ネコのレム睡眠を見たことがありますが、目を閉じたまま眼球がきょろきょろと動き、体がけいれんしているように見えました。

また、イルカやカモメは、脳の左右の半球を交互に眠らせる「半球睡眠」を行います。じつに器用な眠りかたをするものです。半球睡眠の技はぜひ身につけたいですね。

(井上昌次郎先生「睡眠科学の基礎」は、http://www.ashitech.ac.jp/jssr/kiso/kagaku/kagaku.html

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スペースシャトルの飛行士はどうやって寝ている?

スペースシャトルは90分ほどで地球を一周するので、昼と夜が45分ずつです。では、45分ごとに寝るのか、というともちろんそんなことはありません。地上と同じように、時間を決めて、8時間くらい寝ます。実際は、地球上の環境とはかけ離れた環境なので6時間くらいしか眠れないそうです。

地上と大きく違うのは、無重力状態であるということです。こんな状態で寝た場合、どのような問題がおこるのでしょうか。

無重力ですから、寝返りでもうとうものなら、とんでもないスピードで、反対側の壁や人間にぶつかってしまいます。それでは困るので、寝袋に入りベルトで壁に固定して眠ります。

次に、医学的には、睡眠のリズムが狂って不眠症になることが多いそうです。そのため、心臓外科医でもある向井千秋飛行士は、メラトニンが宇宙で睡眠に与える影響を実験しました。

いつか、火星や木星などの惑星に向けて有人探査機が飛行するようになるでしょう。数年はかかりますから、その間は、どのように眠ればいいのでしょうか。一日24時間という周期を持つ地球上で進化してきたヒトが、宇宙でどのように進化していくのか興味深いものがあります。

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