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国際化が単位の世界にもたらしたこんなこと集
著者 白鳥 敬

国際化が単位の世界にもたらしたこんなこと集

国際単位系(SI)

現在、日本を始め世界の国々は、国際単位系(SI)という、メートル法を元にした世界共通の単位系を採用しています。日本でも、1999年9月までに、それまで猶予期間を決めて使用が認められていた古い単位が使用できなくなり、すべて国際単位系に統一されました。

たとえば、自動車会社の広告やカタログなどでは、車のエンジンの馬力が「PS(馬力)」表示から「kW」に、トルクが「kg-m」から「N・m」に変わっていることにお気づきの方も多いでしょう。

とはいっても、です。単位とその国の文化は密接に関係しているものですから、そう簡単に、従来の伝統的な単位を変えるわけにはいきません。日本は、メートル法の導入が明治18年(1885年)と意外に早く、尺貫法が根強く残り続けたたとはいえ、現在では、一部の伝統的な分野を除いて尺貫法は使わないようになりました。しかし、根強く古い単位系を使い続けている国があります。じつはそれがアメリカです。

速度は「マイル/時」。距離は、マイルとヤード。しかも、マイルには陸マイルと海マイルがあって数値が違う! 長さは、フィートとインチ!メートル法であるSIに統一してくれればいいのですが、ヤード・ポンド法はアメリカの文化と生活に根づいた単位系であり、また、世界最大の強国ということもあって、完全に国際単位系に移行するには、まだまだ時間がかかるでしょう。

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SI以前、メートル法がいくつもあった

メートル法が誕生したのは、1789年。フランス革命の頃です。王政を倒し市民が力を持ってきた時代は、合理的なものを求める機運が高まった時代でした。この頃、フランスのタレーランという外交官が、単位系を10進法にもとづく合理的なものに統一しようと提案しました。これがメートル法の始まりです。その後、1875年にメートル条約が締結され、世界的にメートル法が普及し始めました。日本も、明治18年(1885年)にメートル法を導入しました。

しかし、科学技術の発達ともに、メートル法にいくつもの亜種が登場してきました。物理学の世界では、CGS単位系が使われてきました。これは、センチメートル、グラム、秒を基本単位とするものです。

また、物理学や工学の分野で使われる単位系に、メートル、キログラム、秒を基本単位とするMKS単位系というものもありました。SIは、MKS単位系を元にして、つくられています。

物理学や工学を学ぶとき、初学者がよく間違うのは単位系の不一致によるものです。なかなか計算の答が合わなくて悩むことがありますが、これは、自分が悪いのではなく単位系が混乱しているのが原因だったのです。などと言う言い訳はこれからは通用しなくなるかもしれませんが。

ちなみにメートルの語源は、ギリシャ語のmetron(=尺度)、ラテン語のmetrum(=計る)。フランスで提案されながらフランス語ではないのは、世界中で使われる単位にするためです。

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単位系の違いで宇宙船が行方不明

ヤード・ポンド法主流のアメリカですが、少しずつメートル法も普及し始めています。しかし、単位系が2つあるといろいろと問題がおこります。交通機関などで事故が続発ということにもなりかねません。実際、単位系の相違が原因と思われる深刻な事故が多発しています。

1999年9月、アメリカの火星探査機「マーズ・クライメート・オービター」は、いざ火星の周回軌道に入ろうというときに連絡が途絶えてしまいました。「火星人の攻撃か」などと冗談を言われたものですが、同探査機は周回軌道に入る高度である150kmよりもはるかに低い60km以下の高度で火星に接近したらしいのです。

この事故の原因は、調査の結果、同プロジェクトを進めていたチームにヤード・ポンド法を使っているところとメートル法を使っていたところがあったのが原因とされています。

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単位系の違いで旅客機があわや墜落

1983年7月23日、エア・カナダの国内線のボーイング767機が、高度4万1000フィートで巡航中に燃料切れをおこし、グライダーのように滑空して、不時着するという事故がおこりました。

この原因は、燃料を入れるとき、ヤード・ポンド法の重さの単位であるポンドとメートル法の重さの単位であるキログラムを間違えたためでした。1ポンドは0.45kgですから、たとえば、100kg入れろと指定された燃料を単位を間違えて100ポンド入れると、実際は45kgくらいしか入っていないのです。

エア・カナダでは、従来機は燃料の計量単位としてポンドを採用していましたが、新型機からはキログラムに変更していたのでした。

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海軍と陸軍の違いはどこにある

日本は、明治18年(1885年)にメートル法を導入しましたが、日本固有の単位系の尺貫法はそのまま使用を認めていましたし、ヤード・ポンド法も認めていました。尺貫法を認めたのは、国粋主義的な思潮が強かったことによります。ヤード・ポンド法が認められたのは、とくに英米から工業技術を学ぶ必要があったからです。

当時、欧米でもドイツのようにメートル法の普及が早かった国もあれば、イギリス・アメリカのようにヤード・ポンド法にこだわった国もありました。そのため、日本に入ってきた工業技術は、分野ごと方面ごとに、教えを受けた国の影響で、主として使用される単位に違い生まれました。

たとえば、海軍は、イギリスから技術を導入することが多かったので、ヤード・ポンド法がよく使われ、陸軍は、ドイツから技術導入することが多かったので、メートル法のものが多く使われていました。

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テレビの規格の違いから政治が分かる?

テレビが映像を表示するときの方式は、大きくわけて3種類あります。日本・アメリカ・カナダなどが採用しているNTSC方式、ドイツ・イギリス・ヨーロッパ諸国・中国などが採用しているPAL方式、フランス・東欧・ロシアなどで採用されているSECAM方式の3つです。

これらは、互換性がまったくありませんから、日本のテレビをフランスに持っていても放送を見ることができませんし、イギリスで買ったVHSビデオソフトは日本のテレビでは見ることができません。

しかし、面白いことに、各国のテレビの規格の違いを見ていると、冷戦時代の政治的思惑が見えてきます。最近、なにかと話題の北朝鮮のテレビはPAL。中国と同じです。意外にもSECAMのロシアとは違うところを見ると、中国と共有する文化のほう多いということでしょう。脱北者がロシアへ逃げずに中国へ逃げるのもわかるような気がします。

社会主義国家キューバは目と鼻の先の大国アメリカと同じNTSCです。旧ソ連はSECAMですから、思想的にはともかく、文化的にはアメリカの影響を強く受けていたのではないでしょうか。

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日本に影響を与えた中国の数学

長い歴史のなかで日本の文化に大きな影響を与えてきたのは、言うまでもなく中国です。仏教も漢字も紙も、その他、さまざまな技術も社会制度も、明治以前は、ほとんどが中国から入ってきました。ヨーロッパの文化が少しづつ入って来たのは、江戸時代からですし、アメリカの影響を強く受け始めるのは明治になってからです。そのように考えると、中国の影響は大きい!

江戸時代に書かれた数学書に『塵劫記』という書物があります。数学者吉田光吉(1598-1672)の著で、中国の『算法統宗』という数学書を参考にして、日本向けに書きおろされた本で、江戸時代の数学教育書のベストセラーとなりました。初版が1627年に出て以来、明治時代の初めまで読みつがれ、400種類以上の異本が刊行されたそうです。

『算法統宗』(1592年発行)は、中国は明の時代の数学者・程大位の書いた、一般向けの数学入門書であり実用書です。数学の問題の解き方、そろばんを使った計算のしかたなどが図とともに解説してあり、中国では、明・清の時代のベストセラーでした。同じ漢字を使う国として、中国はやはり近い国だなあ、と実感できます。(『塵劫記』については、『「数」の日本史』(伊達宗行著、日本経済新聞社)に詳しく解説してあります。)

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日本で使われている中国由来の単位

尺貫法で使われている単位は、その多くが中国由来の単位です。中でも長さの単位「尺」は、古代の中国で生まれ、現代まで使われている長さを表す基本単位です。

もともと「尺」は、手で長さを計るときに、手のひらを広げますが、そのときの親指から中指までの長さから来ています。ですから、もともとの尺の長さは、だいたい18cmくらいだったそうです。それが、時代が進むとともに長くなっていき、明治時代に定められた尺貫法では、1尺が約30cmになりました。

一方、ヤード・ポンド法のフィートは、フートという単位から来ていますが、これは足のつま先からかかとまでの長さが元になっています。現在の1フート(フィート)は、約30cm。足の裏の長さが30cmというのは、ちょっと大きすぎるにしても、体由来の単位が、洋の東西でほぼ一致しているというのも興味深いことです。

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中国のPC関係の単位(1)

中国では、日本ではカタカナで表記するような外来語や技術関係の新語はどのように書くのかとても興味があるところです。

インターネット上に、「中国語パソコン辞典」(http://www.qiuyue.com/)というホームページがあって、ここにパソコン関係の用語を中国語(大陸の方)でどのように表記するかがまとめてあります。たいへん面白いホームページなので、そこに掲載のものからいくつか紹介します。

「模擬」=模擬試験のことではありません。「アナログ」の事だそうです。

「数字化」 =これは「デジタル化」。デジカメは「数碼相機」。「デジタル家電」は、なんと「数字家電」。

「異歩数字用戸線路」=これは「ADSL」。アシンメトリック(非対称)だから「異歩」なのだろうか。

「互聯網」=これは「インターネット」は相互に連絡を取り合う網か。なるほど。「網」は日本でもネットワークという意味でNTTなどが古くから使っていますね。

「微軟」=これは難しいかも。答は「マイクロソフト」。わかってみれば、まったくそのまんまですね。

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中国のPC関係の単位(2)

面白いのでもう少し。

「註冊」=これは「ログインする」。では「ログアウト」は「退出」。そのまんまです。

「格式化」=格式を高くすることか。いやぜんぜん違いました。「フォーマットする」ことだそうです。

「備份」=「バックアップ」です。

「黒客」=これはなんとなくわかりますね。「ハッカー」です。

「虚擬」=これもなんとなくわかるでしょう。「バーチャル」です。日本では、「仮想」と言いますが、「仮想体験」を「虚擬体験」と言い換えても、うーん、ぴんとこない。同じ漢字でもぜんぜんイメージが違いますね。

「筆記本電脳」=「電脳」がコンピュータだってのは、もうだいぶ知られていますから、わかりますね。PDAではないです。「ノートパソコン」です。一方「PDA」は、「個人数字助理」です。PDAは、パーソナル・デジタル・アシスタンスですから、そのまんまですね。

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