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嗚呼、桜田門前払いの変、これが本当に初めてだったのか?
執筆者 長谷川文彦

嗚呼、桜田門前払いの変、これが本当に初めてだったのか?

オウム真理教

オウム真理教は、元は1984年に麻原彰晃(本名:松本智津夫)が立ち上げた「オウムの会」というヨガ教室から始まっている。

それが後にテロ行為をためらわない宗教組織へと変質していった背景には、麻原が各宗教の教義を独自に解釈し直し、それをマインドコントロールされた信者達が丸呑みするというシステムがあった。

オウムは、坂本弁護士一家殺害事件や、松本サリン事件地下鉄サリン事件など、殺人事件を含めた数多の事件を次々に引き起こし、テロ集団たる実体を知られるところとなったが、最終的には日本の国家転覆まで視野に入れていたとも言われている。

こうした常軌を逸した行為を正当化したのは、麻原の言う「ヴァジラヤーナの教え」だった。

これは簡単に言うと、罪を犯して穢れた者達は殺されることによってのみ救われる(ポアされる)という教義である。

通常の精神状態であれば、即おかしいと気づきそうなものだが、実質的な軟禁状態の下で不眠不休の修行を強いられるなど、洗脳環境に置かれていた信者達は、自分の頭で考えられる状態になかった。

こうして生まれた宗教戦士達が、数々の凶行をためらいなく実行していった。

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オウム真理教の武装

1990年、オウム真理教は衆院選に25人が出馬するが、全員が落選した。

この結果を「国家の陰謀」と憤り、被害妄想を膨らませた麻原彰晃は、以後教団の武装化を進めていくことになる。

1993年にロシアに渡り、自動小銃AK-74(AK47系の後継アサルトライフル)を購入、帰国後その製造をスタートする。

また、翌年にはサリンやホスゲン、VXガスなど化学兵器の研究製造も本格化した。

当時旧ソ連の崩壊で混乱していたロシアでは、他に軍用ヘリコプターの購入や、平田容疑者も参加した軍事訓練ツアーを行なっている。

こうした教団の動きについて行けず脱会を考える信者もいたが、監禁されたり、リンチにあって殺害されるといった事件も発生した。

また、オウムに敵対する人物に化学兵器で襲撃などを行なったため、オウムへ向けられた疑いの目は日ましに厳しさを増していった。

しかしこの頃になると、麻原の周辺には取り巻きしか残っておらず、妄想に歯止めはかからなかった。

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松本サリン事件

1994年6月27日深夜、長野県松本市深志の住宅街にサリンがまかれ、7名(後に8名)が死亡する事件が発生した。

これは後に、オウムの教団幹部らによる犯行であったことが判明する(目的は、住宅密集地におけるサリンの効果を確認したかったためと、オウム松本支部建設の是非を問う裁判が敗訴の可能性が高く、報復のため反対住民や裁判官へサリン噴霧しようとしたため)。

しかし、この事実が明るみに出たのは翌年の地下鉄サリン事件以後であり、それまでの間、マスコミと警察、そして日本中に疑念の目で見られていたのは第一通報者の河野義行氏だった。

河野氏は自宅に農薬を複数所持していたことなどから警察は彼を重要参考人とし、マスコミは警察のリークをそのまま報道し続けた。

このため、河野氏が冤罪、報道被害を受けたにとどまらず、真犯人であるオウムに事件が結びつくのが遅れ、その後の地下鉄サリン事件を防ぐことができなかった。

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目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件

平田信容疑者が関わっているとされる事件の一つ。

1995年2月末に目黒公証人役場事務長だった仮屋清志氏がオウム真理教のメンバーに拉致され、薬剤の過剰投与されて死亡した。

仮屋氏は、オウム真理教の信者だった実妹が次々と教団への寄付を始めたことから教団の異常性を疑い、妹の所有だった目黒公証人役場の土地と建物にも手を伸ばしてきたことから、妹を連れ戻して仮谷氏の所に引き取っていた。

教団は妹の居場所を言わせるべく仮屋氏を拉致し、身柄確保のために麻酔薬を過剰に投与したことで仮屋氏を死なせてしまい、証拠を隠すために遺体を焼却した。

オウムはこのように、自分達の意のままにならない人物を害する事件をこれ以前にも起こしていた。

「オウム真理教被害者の会」を設立した弁護士一家を殺害した「坂本弁護士一家殺害事件」や、オウム被害者の会会長をVXガスで殺害しようとした「オウム被害者の会会長VX襲撃事件」などである。

これらの事件では動かなかった警察も、目撃者が複数あった仮谷氏の拉致事件でようやくオウムの捜査に踏み込むことになった。

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地下鉄サリン事件

1995年3月20日にオウム真理教が起こした無差別テロ事件。

営団地下鉄(現・東京メトロ)の日比谷線、丸ノ内線、千代田線の3路線にサリンが撒かれ、死亡者13人、負傷者は6000人以上にのぼる大惨事を引き起こした。

サリンは元々大量殺戮の為に開発された神経ガスで、殺傷力が極めて高い。神経伝達機能に障害が発生するため、最終的に呼吸中枢が麻痺し、呼吸ができなくなって死に至る。

警視庁はこの事件の犯人をオウムと見て、山梨県上九一色村にあった教団本部を強制捜査し、麻原ら教団幹部を逮捕した。この事件の動機については、目黒公証役場事務長拉致監禁致死事件など、教団が起こしてきた事件について強制捜査の日が近いと推察されていたため、警察の捜査を攪乱しようとしたとされている。

一般市民に無差別に化学兵器を用いるという世界でも稀に見る残虐なテロ事件であり、被害者の多くは今も心身の後遺症に苦しんでいる。

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警察庁長官銃撃事件

1995年3月30日午前8時30分ごろ、当時の警察庁長官・國松孝次氏が自宅マンション前で銃撃を受け重傷を負った。

警察庁のトップが襲撃された事件でありながら、この事件は犯人を逮捕できないまま2010年に時効を迎えている。

同年同月20日に地下鉄サリン事件が起こっていた事から、警察はオウムの犯行と見て捜査を開始した。

ところが、オウム信者であった警視庁の小杉巡査長が自分の犯行と自供していたにも関わらず、警視庁はそれがマスコミに漏れるまで隠し続けていたことが発覚した。

結局、この巡査長の「神田川に拳銃を捨てた」という供述も裏付けがとれず、事件に関与した証拠すら発見できなかった。

関与が疑われた者としては、他に射撃経験のあるオウム真理教の平田信がいる他、現場に北朝鮮軍のバッジと韓国の硬貨が落ちていた事から北朝鮮工作員との説、八王子スーパー強盗殺人事件と同一犯との説などが挙げられているが、いずれも憶測の域を出ていない。

警察の初動捜査のミスなども指摘されているが、今も真相は謎のままである。

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オカルトブーム

日本が高度経済成長・その後のバブル期という好景気に湧いていた1970〜80年代は同時に、空前のオカルトブームが起こった時代でもあった。

主なものを挙げると、1973年に刊行されてベストセラーになった五島勉の「ノストラダムスの大予言」で世に知られた「1999年終末論」、1974年に来日し、テレビカメラの前でスプーンを曲げてみせたユリ・ゲラーの「超能力」、先史時代に現代を遥かにしのぐ科学技術を有する文明があったとする「超古代文明説」などがある。

その後、1979年に創刊された学研の「ムー」により、「オカルト」という用語は一般に浸透するようになった。

オウムは、こうしたオカルト的な要素を取り入れた活動を初期から行い、その様子を積極的にマスメディアに向けて発表した。

空中浮遊の写真を雑誌に投稿、古代日本に存在したと言う特殊な金属の「ヒヒイロカネ」を発見したとの発表、「1999年(後に1997年)にハルマゲドンが起きる」という「終末論」を教義に取り入れる、などである。

その結果、こうしたものに惹かれた若者達を教団に導き入れる事となった。

特に最後の終末論は、教団末期において重要な教義となり、様々な犯罪行為を正当化する礎ともなっていく。

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オウム裁判

2011年11月21日、オウム真理教教団幹部の遠藤誠一被告に最高裁で死刑判決が下った。

これをもってオウム関連事件で起訴された189人全員の判決が確定し、1995年の麻原逮捕から16年に及んだ裁判は一応の収束を見たと考えられていた。

ところが、11年大晦日の平田信容疑者の出頭で、裁判が再開される見通しが出てきている。

平田容疑者の容疑である目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件には、他に関わっているとされるのが9名おり、その中には麻原彰晃、井上嘉浩、中川智正という死刑囚が3名含まれる。

平田容疑者の裁判で彼らが証人として出廷を求められる可能性があり、そうなると死刑執行も先延ばしされる公算が高い。

なお、かつてオウムに襲撃された経験があり、殺された坂本弁護士の友人でもあった滝本太郎氏が平田容疑者の弁護士となっているのは、長くオウム真理教被害者対策弁護団を勤めた経験から、信者の家族やマインドコントロール下にあった元信者達も基本的には被害者であるという立場に基づいている。

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その後のオウム真理教

オウム真理教は、宗教法人としては1996年に解散した。

しかしその後も信者達は、オウムの教義を捨てた訳ではない。

2000年にアレフ、2008年にさらに「Aleph」と改名したが、施設内に麻原死刑囚の写真を飾るなど、今も教祖として信奉している様子が見られる。

現在1000人以上の信者を抱えている。

分派としては、上祐史浩が代表を務め「脱麻原」を掲げる「ひかりの輪」があり、信者は200名ほどである。

新規信者獲得数は、Alephは一昨年は90名超で去年は200名超、ひかりの輪は去年に10名超と、どちらも増加している。

大学での勧誘や、mixiなどのインターネットを用いた勧誘により、若い世代に信者が増えていると見られている。

現在「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(団体規制法、オウム法)に基づいて、これらAleph、ひかりの輪は共に公安調査庁の監視下に置かれている。

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特別手配

正式名称は「警察庁指定被疑者特別手配」。

未逮捕の重大事件被疑者について警察庁が指定する。通常の「指名手配」との違いは、顔写真や情報を必ず一般公開するか否かにある。

一般的な指名手配は、各都道府県の警察が他都道府県の警察に逮捕協力を依頼するというもので、都道府県のタテ割りになっている警察行政で、ヨコの連携を図るというのが基本的である。

これに対して特別手配は、マスコミなどを通じて情報を公開し、警察以外の一般人にも協力を求めるのが原則となる(指名手配であっても重大な犯罪の場合には公開に踏み切る場合はあるが、未逮捕であっても公開指定が解除される場合もあり、原則公開というわけではない)。

なお、特別手配は平田信が身柄を確保された今、同じオウム元幹部である菊池直子(殺人、殺人未遂)と高橋克也(殺人、殺人未遂、監禁致死)の2名が残るのみとなっている。

(”おい!小池”などの有名人も、特別手配ではなく一般の指名手配)

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オウムとポア

麻原はオウム真理教の教義を作るに当たり、様々な既存宗教の教義を自分の都合に合わせて解釈し直して取り入れていった。

そのため、事件後に「オウムの教義」として報道されたものの多くは、本来は異なる意味を持つ他宗教の用語だったにも関わらず、麻原の造語であるような誤解を与えることになった。

その筆頭とも言えるのが、教団の名称にもなっている「オウム」だと言えるだろう。

これはインドの宗教において重要な意味を持つ呪文のようなもので、日本に渡って「阿吽(あうん)」になったという説もある古い言葉である。

現在もオウムと関係のないヨガ教室で瞑想の際に用いられることがある。

また、麻原により「魂を高い次元に持って行くため、殺す」という意味で用いられていた「ポア」も、本来のチベット仏教では「意識を移す」、特に「死後、仏界に意識を移す」という意味付けが為されている。

例えば、高僧が瞑想中に仏界を垣間見る事を「ポアする」と言うが、当然の事ながらそこに他者を害するような意味合いはない。

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オウムの洗脳

オウム真理教は、数ある新興宗教の中でも、特に洗脳に力を入れていた。

オウムの洗脳の技術は、他の科学技術同様、高度な専門知識と素人の聞きかじりをその場の思い付きでつぎはぎにして組み上げたようなものだった。

たとえば、「お布施するぞ、お布施するぞ、ハードなお布施するぞー」と繰り返す教祖の録音テープを延々聞かせ続けるといった、端から見れば噴飯ものの幼稚なやり方もあったが、それでも集団内で競争心を刺激するという、どこの企業でもやっているような常套手段なども組み合わせられて、多くの信者がお布施に身命を捧げていた。

一方、専門技術的に効果を上げたと見られているのは、身体的・精神的な負荷(長期間拘束し、その間睡眠をとらせない、修行としてオウムの教義を繰り返し唱えさせるなど)を加えて判断力を低下させ、誘導や暗示にかかりやすい精神状態を作り出す、あるいは向精神薬(LSDや覚醒剤など)によって神秘体験を演出するなど、心理学的には理にかなった手法である。

こうした、巧拙様々な洗脳技術が大量投入され、免疫のない多くの若者が精神を乗っ取られた。現在もカルトと呼ばれる宗教集団にはこれに類似した方法を用いている所も多く、若者達が洗脳の危機にさらされている状態に基本的に変わりはない。

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イニシエーション

教団の武装化を進める中で、麻原はそれまでのヨガを中心にした修行を「イニシエーション」と言われる修行に変えていった。

イニシエーションには様々な種類があったが、LSDなどの薬物を用いて神秘体験をしたと錯覚させる「キリストのイニシエーション」や「ルドラチャクリンのイニシエーション」、チオペンタールなどの麻酔薬を使用して麻原への帰依心を植え付けたりする「ナルコのイニシエーション」などがあった。

また、オウム信者の外見を象徴するものとして有名になった「ヘッドギア」も、PSI(パーフェクト・サーベーション・イニシエーション)と名付けられたイニシエーションに用いられていた。

このヘッドギアは一定間隔で強い電流が流れるようになっており、装着していた元信者達には、記憶に欠落ができたと語るものもいる。強い電流が脳に影響を与える事は明らかであり、ヘッドギアの最終的な目的は洗脳ではなかったかという説もある。

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