月刊基礎知識
月刊基礎知識トップページへ バックナンバーへ
「見かけの」単位と言葉
著者 白鳥 敬

「見かけの」単位と言葉

コリオリの力  Coriolis force

見かけの力と言えば、代表的なものに「コリオリの力」がある。南から北に向かって吹く風は、地球の自転による角速度の速い低緯度から角速度の遅い方に進むので、地表に対する航跡は右に曲がる。風に聞くと「まっすぐ吹いているつもりだ」と言うだろうが、地上にいる人間には、針路を右に曲げる力が働いているように見える。そのためこの力を「見かけの力」という。

ページの先頭へ 戻る

見かけの方位

方位を知るために飛行機・船舶・ロケットなどはジャイロ(gyroscope) を用いた針路計を使用している。機器の内部に回転する剛性の高い円盤が入っていて、この回転によって生ずるジャイロ効果によって、空間に対して一定の位置を維持し続けるので、飛行機や船の向き(針路)を正確に知ることができる。しかし、この計器が指す方位は見かけの方位だ。ジャイロの姿勢は変化しなくても地球が自転してるので、4分に1度の割で指示方位がずれていく。そのため針路計は地磁気センサーによって表示が正確になるように補正している。磁気センサーのついていない針路計もある。この場合は、手動で磁気コンパスの指示に合わせて修正する。セスナ172型機などのエコノミーな飛行機は手動で合わせないといけない。

ページの先頭へ 戻る

見かけ視界

見かけ視界とは、望遠鏡や双眼鏡を覗いたときに、見渡せる視野の角度を言う。見かけ視界の広さは接眼レンズの設計で決まる。普通の双眼鏡の見かけ視界は約50度。60度から70度くらいの広角タイプもある。天体望遠鏡用の広角接眼レンズには、米テレビュー社のイーソスなど見かけ視界が100度もあるものがある。見かけ視界に対して、実際に見える視界を実視界という。どちらも単位は「度」、記号は「°」。実視界7度で、倍率が7倍なら、見かけ視界は「7X7=49」で49度となる。

ページの先頭へ 戻る

見かけの「荷重」

人間が加速度や遠心力などを感じるセンサーは、内耳の耳石器という器官だ。耳石器の中には耳石という小さな石があり、これが体の動きに応じて傾くことで加速度や遠心力を感じている。航空会社で使用しているフライトシミュレータでは、パイロットに加速度による荷重を感じさせるために、視界を変えないまま、座席を後ろに傾けることで実現している。たとえば、離陸滑走時の加速度は、前方に映る映像を変えないで、座席のみを徐々に後ろに倒していく。こうすることで、速度が増すとともに、背中に押しつけられていく感じを再現している。実際には発生していない荷重を見かけ上発生させているのである。

ページの先頭へ 戻る

見かけの「親密さ」

ロボット工学者森政弘が1970年に提唱した仮説に、「不気味の谷」がある。

「不気味の谷現象」は、ロボットに対する人間の感情の変化について考察したもので、ロボットの姿や動作が人間に近づくにしたがって親密さが増してくるが、似すぎるとあるところで逆に不気味に感じ、さらに人間に似てくると再び親密さが高まるというもの。人間そっくりになる前に親密さががくんと落ち込む部分があり、これを不気味の谷という。たとえば、二足歩行ロボットのアシモのようなロボットなら人間の姿に近いとは言え、人間と同一視をする人はいない。しかし、大阪大学石黒研究室で開発されているような「アンドロイド」型ロボットのように人間そっくりにつくられ、人間と同じような表情の変化を再現できるロボットならかなり親近感を感じる。

ただし、これは視覚上の親密さであって、見かけは本物そっくりでも、コミュニケーションが不自然であれば、不気味の谷が生まれる。不気味さは、明らかな差異ではなく微妙な差異によって生まれるのだ。

ページの先頭へ 戻る

見かけの「重さ」

最近の携帯電話はどれも100gから120gとたいへん軽いが、見かけの大きな携帯電話のほうが軽く感じる。これは、大きな物のほうが小さな物より重いだろうという人間の先入観から生まれる。これを、シャルパンティエの錯覚(Charpentier's illusion)と言う。

ページの先頭へ 戻る

見かけの大きさ/CCD

デジカメやデジタルビデオカメラには、CCDやCMOSなどのイメージセンサーが搭載されている。最近のデジカメでは1/2.5型や1/1.8型が多く使われている。これは、撮像エリアの対角線の長さをインチで表しているかと思いきや、実はそうではない。1/2.5型なら対角線の長さは2.5分の1インチつまり約10mmだが、、実際の受光部分の対角線はもう少し小さい。これは、CCDのサイズを示すときに、それ以前に使われていた撮像管のサイズに合わせたためだ。ちょうど、デジカメのレンズの焦点距離を長年使われてきた35mmフィルムサイズに換算して表すのと同じだ。

ページの先頭へ 戻る

見かけの大きさ/月

地平線付近に見える満月が天頂のほうに見える満月よりも大きく見えるのは昔からよく知られた錯視だ。なぜ、そう見えるのかについては諸説ある。一つは、地平線には建物や山など見慣れた物件があって、それとの比較で大きく感じるという「比較説」。もう一つは「幾何学的錯視説」で、遠近感からくる錯覚によって同じ大きさの物体でも遠くにある物体は近くにある物体よりも大きく見えるという説である。望遠鏡で遠くの公園などを見ると、ベンチの前に立っている人よりもベンチの後に立っている人の方が大きく見えるが、これも幾何学的な錯視の一つだろう。

ページの先頭へ 戻る

見かけの「明るさ」

2008年3月19日、米航空宇宙局(NASA)のスウィフト衛星が、地球から75億光年離れた銀河の中でおこった巨大な超新星爆発を、ガンマ線とエックス線によって撮影した。また、地上でもLas Campanas Observatoryが、最大で5.8等級に達した光芒の撮影に成功している。同観測所が公表した写真には、爆発と同時に5.8等級の星が現れ、約50秒ほど輝いた後、急速に減光していくようすがとらえられている。

http://grb.fuw.edu.pl/pi/ot/grb080319b/normal.html

星の見かけの明るさを実視等級という。星の明るさは距離の二乗に反比例して暗くなるから、実際は明るい星でも遠くにあれば暗く見える。星の実際の明るさを絶対等級という。今回の超新星爆発は、75億光年という宇宙の果てまでの距離の約半分に当る遠方で起こっていることから、極めて大きな爆発であったと思われる。

ページの先頭へ 戻る

見かけの「密度」

古代ギリシャのアルキメデスが、水をいっぱいにはった容器に王冠を沈め、あふれた水の体積と王冠の重さから密度を調べ、混ぜ物があるかどうかを調べたという話は有名である。密度には、物質そのものの密度である「真密度」、内部の隙間と物体の表面と容器の間にできた隙間を含めた「嵩密度」、内部の隙間を含めた「見かけの密度」などがあるが、アルキメデスが測ったのは、見かけの密度ということになる。

ページの先頭へ 戻る
All Right Reserved, Copyright(C) ENCYCLOPEDIA OF CONTEMPORARY WORDS