「お食餌の時間」 というコラム
日本人は、世界で最も味覚の優れた民族でしょう。それは、東京にあらゆる種類のレストラン、料理店が集まっていることを見ればわかります。本国からの出稼ぎの人たちが相手では限界がありますし、単なる物珍しさだけでは、その国の一般消費者を相手にして、これだけ多種多様な料理の店がやっていけるものではありません。日本人は、子どもの頃から食べ慣れた味でなくとも、世界各国の民族料理の味をきちんと評価し、楽しむ能力を持っています。だから、味がよくて値段がリーズナブルであれば、どんな国の料理の店でもやっていけるというわけです。そんな東京は、世界の味の首都の名に恥じないと言ってよいでしょう。そして、他人と比較しようもないので自覚もないという話ではありますが、実は日本人は、日々の食事の快感度が高いという、おトクな特徴を持った民族なんですね。ところが、いわゆる「食のアメリカ化」によって、静かに静かに日本の「食」の崩壊が進んできています。この長引く不況の影響は、コストカットの圧力と新規参入による競争の激化という形で「食」の領域にも大きな波となって押し寄せ、街角の定食屋は次々と駆逐され、「パッと見」こぎれいで値段は安いけど、全てが人工的で画一的なチェーン店で街は埋め尽くされつつあります。そんな店でブロイラーをついばむ我々自身が、ブロイラーと化しつつある最近の「食」の事情に、今回は目を向けてみました。
イラストレーション・下谷二助