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売れてる本を快読するマンスリーガイド
執筆者 高木尋士(たかぎひろし)

売れてる本を快読するマンスリーガイド

『医者に殺されない43の心得』

サブタイトルは「医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法」。著者の近藤誠は、がんの放射線治療を専門とする医師である。他にも『患者よ、がんと闘うな』、『がん放置療法のすすめ』など多数の著作で日本のがん医療に疑問を呈してきた。「がんには、本物と『もどき』があり、どちらにせよ手術や抗がん剤での治療は9割がムダ」、「がん検診はしてもしなくても死亡率は同じで、何の役にも立たない」と主張し、論争を巻き起こしている。本著は、がん医療だけでなく、風邪や生活習慣病などの普段の生活に深く関わる医療についても言及し、病院・医者との付き合い方について、心得という形で解説したものである。

世界的に見ても日本の医療はトップレベルであり、しかも国民皆保険制度によって、かなりリーズナブルに医療を受けられる。その結果、日本人が病院にかかる年間の一人平均は14回前後。先進国の平均の2倍以上だ。

風邪気味だと思ったらとりあえず医者へ行き、出された薬を何の疑いもなく飲む。しかし、その治療は本当に必要なのか? 40年以上も医療に携わっていた著者自身が「病院によく行く人ほど、薬や治療で命を縮めやすい」と明言する。「検診を受けて基準値を超えたから治療」という当たり前と思われる行為が実は却って死期を早めるといった、衝撃的な内容が続く。

平均寿命は延びているものの、死ぬまで介護を受けず健康に生きていられるとは限らない。「ずっと元気に生きて苦しまずにポックリ」を理想とする人は多いだろう。どう死にたいか、どう生きるかを考える上で、病院や医者とはなかなか無関係でいられない。書籍やインターネットなどで情報を得られる昨今、医療を盲信するのではなく、自ら関心を持って病気と向き合う必要を説く一冊。アスコム刊。税抜本体1100円。

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『長生きしたけりゃ肉は食べるな』

衝撃的なタイトルで反響を呼び、1月の発売以来たちまち重版となった本書。表紙で元気よく笑う著者は、76歳にして白髪も老眼もなく、歯も身体も健康だという。その健康の秘訣である「食養」、その実践法を実例も交えて紹介していく。

若杉友子著、幻冬舎刊。税抜本体価格952円。

玄米菜食運動の祖である明治時代の医師・石塚左玄が唱えた「食養」とは、食事によって病気を癒し、健康を維持するという考え方である。「人間の体は食べたもので出来ている」、「食べ物の陰陽の調和が大事である」等の原則に基づき、日本人が食べるべき食物、食べては不健康になる食物を紹介する。

その代表がタイトルにもある「肉を食べない事」だ。日本人が昔から行ってきた「一汁一菜」や米食を奨励し、戦後に定着した欧米食の代表であるパンや、また肉などのタンパク質は身体に悪いので食べてはいけないと説く。さらに、卵・牛乳・生野菜などもやめるべきとあり、それらが体に良いと言われてきた人にはかなり衝撃的な主張だろう。

自分が普段食べているものがどんな効果をもたらすか、深く考えた事があるだろうか。現在は自給自足の生活をしている著者の食事法を、全て実践することは難しい。しかし、毎日の食事や自分の健康を見直すきっかけになるだろう。

現代の日本人の食事に対する無関心さに警笛を鳴らす一冊である。

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『ビブリア古書堂の事件手帖4 〜栞子さんと二つの顔〜』

口コミや書店ポップなどから部数を伸ばし、今や大人気シリーズとなった本作。2013年1月からは、フジテレビでドラマ化され、漫画にいたっては二人の作者が発表している。4巻累計発売部数は470万部を超え、現代を象徴するメディアミックスな作品だ。

三上延著、メディアワークス文庫刊。税抜本体価格570円。

ビブリア古書堂の店主である主人公栞子(しおりこ)は、古書に関する知識が並はずれている。そんな栞子のもとに、古書にまつわる謎が舞い込み、それを解いていくミステリー小説だ。1巻から3巻までは連作短篇だったが、本作は、江戸川乱歩を題材とした長編となっている。作中で扱っている古書は、全て実在のものであり、前作までに、夏目漱石『それから』、宮沢賢治『春と修羅』、アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』などが取り上げられたが、それらは、本書の効果により発売部数を伸ばしている。

江戸川乱歩の作品を不気味に浮上させながら物語は進む。前作までの一つの大きな謎であった母親は、怪人二十面相のように描かれ、暗号の解読や隠し扉、人物入れ替りトリックなど、乱歩作品へのオマージュとして取り上げられる。ラストシーンを飾る金庫の謎を追うくだりは、母と娘の間で静かだが激しい心理戦が繰り広げられる。刻々と刻まれる研ぎ済まされたナイフのような時間の中で、読者はある種のカタルシスを感じるだろう。前作までに張り巡らされた伏線も、本作によりある程度回収されている。

ライトノベルの一つの形である、「特殊な能力を持つ少女」と「普通の少年」という主役コンビの設定も、震災エピソードの挿入や具体的な地名などを駆使することにより、とても自然な雰囲気に練り上げられている。

4巻目の本作で、登場人物のさまざまな関係が明らかにされつつも、次回作に繋がる伏線もしっかりと押さえられている。古書・古本屋好きならずとも、読んでおくべき一冊だ。

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『自選 谷川俊太郎詩集』

谷川俊太郎。言わずと知れた「言葉の巨人」だ。

1952年に処女詩集『二十億光年の孤独』刊行。1962年「月火水木金土日の歌」第4回日本レコード大賞作詞賞、1975年『マザー・グースのうた』日本翻訳文化賞、1983年『日々の地図』読売文学賞、1985年『よしなしうた』現代詩花椿賞、1993年『世間知ラズ』萩原朔太郎賞、2008年『私』詩歌文学館賞、2010年『トロムソコラージュ』鮎川信夫賞、など、受賞・著書は多数だ。その実績を数え上げれば切りがない。1982年には、芸術選奨文部大臣賞に選ばれたが辞退。国からの褒章は受けていない。

処女詩集の刊行は、1952年。1952年と言えば、サンフランシスコ講和条約が発効され、日本が主権を回復した年だ。敗戦の影と戦後復興の光。それ以来、半世紀以上にわたり、読者に言葉の力と喜びと希望を与えてきた著者が、二千数百篇におよぶ全詩から自身が選出した173篇を収録したものが本書だ。

まえがきに、「文庫版の選詩集がもう何冊も出ているから、それらと重複する本にはしたくない」と語るように、本作には、大きな一つの物語があるように感じられる。

収録作品は、初出ごとに並べられ、だいたいの執筆年代がわかるようになっている。最初の1ページから読んでいくと、戦後日本の復興、高度経済成長、バブル景気、長い不況の影など、それが書かれた時代の空気を感じることができる。そんな日本の半世紀の物語が豊かに展開される。

その時代を体験した人は、自身の体験と谷川俊太郎の詩を重ね合わせ、時代を知らない若い人には、教科書や映画などでは知ることのできない「時代の空気」を感じるだろう。

谷川俊太郎、岩波文庫刊。税抜本体価格700円。

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『カッコウの卵は誰のもの』

現在約80作品が出版され、多くが映画、ドラマ化されている不動の人気作家である東野圭吾。本作は2010年刊行の単行本が文庫化されたものである。

元トップスキーヤーである主人公緋田は妻・智代に先立たれながらも、一人娘である風美に愛情を注ぎ、また自らの夢を託し、スキーを教える。しかしある日、緋田は智代の遺品から、実は智代が流産しており、同時期に新生女児の誘拐事件があったことを知る。

風美は、妻が他人から盗んだ子なのか?

苦悩し続ける緋田の前で、風美は素晴らしい才能を見せ、父をも凌ぐスキーヤーに成長する。そんなある時、緋田をスポーツ科学の研究者・柚木が訪れ、スポーツ選手の才能を遺伝子的に解明し、才能のある選手を早期に発掘するという研究に緋田父子の協力を求める。柚木はすでに、遺伝子的に才能が認められる少年・鳥越伸吾を早期育成し、成果を収めてもいた。さらに緋田の元に風美の実父・上条から突然の電話が―――

作中に散りばめられた謎が鮮やかに解明されていくミステリーではあるが、カッコウの托卵に、主人公父子だけでなく「才能」という卵を育てることも準(なぞら)えて描かれる登場人物の物語は、ミステリーだということを忘れさせる。

子供が才能に恵まれていれば、それを伸ばしたいというのが親。しかし、その卵は誰のものなのか。子供に早くから塾に通わせたり、習い事をさせたりする現代に、立止って考える必要を、本作品は投げかけている。

東野圭吾著、光文社刊。税抜本体価格648円。

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『JAL再生』

「Too Big to Fail(大きすぎて潰せない)」と言われたJAL。2010年、そのJALが経営破綻した。そして2012年9月、2年8か月で再上場を果たした。その奇跡の再生劇を可能にしたのは何か。誰もが驚いた回復を果たした「稲森和夫の改革」とはどのようなものだったのか。その具体的な方法と理念を余すことなく記録したのが本書だ。

執筆者は、大和総研の経営コンサルティングの専門家である4人。そして、それをまとめたのは、大和総研の執行役員を務めるとともにコンサルティング本部副本部長でもある引頭麻美(いんどうまみ)だ。「稲森改革」を冷静に説得力溢れる筆致で記録している。

編著・引頭麻美、日本経済新聞出版社刊。税抜本体価格1600円。

経営破綻から再上場に至るまでの軌跡とそれに関わった多くの人々の努力と苦悩が描かれている。その一方で、どんな会社がダメになり、業績アップを拒む要因がどこにあるのかなど、大中小問わずどんな企業にも当てはまる「当たり前」の言葉が連なっているのが印象深い。潰れる会社に共通した企業概念。時代に淘汰されていく企業の姿。JAL再建の記録に留まらず、実践的ビジネス書とも読める。

稲森改革。それは、「当たり前のことを当たり前に行う」ことに尽きる。だが、その「当たり前」というレベルが違えば、うまくはいかない。稲森和夫は、京セラでの実績をJAL再建に当てはめて実行した。

JALで実施されたリーダー教育は、啓発ではない。現場における実践のための経営哲学を共有することだ。稲盛イズム「経営12カ条」「会計7原則」「6つの精進」などを課長クラスにまで教育したという。意義・目標を明確化し、強い意志で決定し、従業員・顧客を思いやり、前向きに日々改善する。本書を読んで、襟を正す企業家は多いはずだ。

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『おどろきの中国』

「そもそも〈国家〉なのか?」、そんな扇情的な言葉が帯に大書された本書。

内閣府の「外交に関する世論調査」で、中国に対して「親しみを感じる」という割合が18%という現代(1980年の同調査では78.6%)。マスコミは連日、中国に関するさまざまな情報をもたらす。驚異的な隣国。そんな中国と、これからどのようにして関係を築いていくのか。そして、中国とはそもそもどのような〈存在〉なのか。本書は、東京大学大学院社会学研究科で学んだ三人の社会学者が、中国という巨大な〈謎〉に対して縦横無尽に語り尽くす熱い中国原論だ。

橋爪大三郎×大澤真幸×宮台真司、講談社現代新書。税抜本体価格900円。

「中国は、『国家』なのか」という話題から鼎談が始まる。そして、中国でのキリスト教的な精神的支柱は何か、中国的な政治的統一の意味と歴史、科挙制度と宦官の謎、漢字の秘密、毛沢東と歴代皇帝の比較、中国共産党の強み、ナチズムやスターリニズムとの関係、文化大革命とは何か、と歴史を論じ、そして、日本と中国の関係に話は及ぶ。満州国建国の実際、日中戦争の歴史的意味、社会主義資本経済という発明とこれから、民主化の可能性、領土問題など、鼎談は熱気と言葉がはじける。

中国に対して予備知識がない読者でも非常に読みやすく編集されている。それは、この鼎談に先立ち、著者三人が中国を旅行し、その旅行で感じたことが素直に言葉にされているからだろう。その旅行で、三人が最も多く発した言葉が「おどろいた」だったと言う。それがそのままタイトルに反映されている。そして、読者にとっても本書の内容は、「おどろき」の連続だ。

中国という隣国に対して著者は、国土と歴史と民族を言葉と理論で〈解体〉し、新書一冊という本の中で、〈再構築〉を試みているのだ。日本を代表する社会学者たちが、興奮を隠さず、舌鋒鋭く切り込んでいくさまは痛快だ。知的興奮と満足を同時に味わえる一冊。

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『置かれた場所で咲きなさい』

「置かれた場所で咲きなさい。咲くということは、仕方がないと諦めるのではなく、笑顔で生き、周囲の人々も幸せにすることなのです」。

渡辺和子著、幻冬舎。税抜本体価格952円。

著者は1927年、教育総監・渡辺錠太郎の次女として生まれ、二・二六事件の折、目の前で父を殺された。30歳間際で修道院に入り、弱冠36歳でノートルダム清心女子大学学長となる。理事長となった今も教壇に立つ現役の教育者だ。

発売1カ月で11万部を突破。波乱万丈の人生と美しい言葉の数々はテレビ朝日系「ワイドスクランブル」でも紹介され、既に32刷100万部を突破している。

学長業がうまくいかず思いつめていた時、一人の宣教師に渡された英詩の始まりが“Bloon where God has planted you”、「神が植えたところで咲きなさい」。著者が「置かれた場所で」と訳したこの言葉を要に、どんな場所でも美しく幸せに生きるための心の持ち方が、40のエッセイと名言とで織り成される。

「何もできなくていい。ただ笑顔でいよう」

「時間の使い方は、そのままいのちの使い方になる」

「苦しいからこそ、もうちょっと生きてみる」

父や学生の死、学長の重責、うつ病など、幾多の困苦のなか精一杯咲き続けてきた時間のにじみでた言葉は、平明で分かりやすいのに深みと奥行きがあり、やがて「ていねいに生きる」という人生観へ結晶する。現実に疲れ、ぞんざいに生きそうになった時、背筋をのばしてくれる本だ。

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