連載「平成ヒストリア」その2＝平成2年、バブル崩壊前夜の夢

◆オヤジギャル

オヤジのような行動を取る若い女性たち。駅の立ち食いソバを平気で食べる、電車の中でスポーツ紙を読む、疲れたらユンケル黄帝液を一気飲みする、居酒屋でたばこを吸いながら焼酎を飲むなど。たくましく、男並みの行動力と生活力をもった20代後半の女性たち。「オヤジギャルは金持ちだ、競馬であてた、株あてた」などと歌われる。

ゴルフをやり、赤ちょうちんで一杯ひっかけ、亭主などは面倒だというので、結婚を先送りしている者も少なくない。ネーミングの発祥としては、中尊寺ゆつこのマンガ「スイートスポット」の女性キャラクターが元祖。

ときは、バブル時代の末期。この時代、「アッシーくん」なる「足がわり」にされるボーイフレンドたちも便利に使われた。

◆紀子さんフィーバー

1990年6月、皇太子の弟・礼宮親王と川嶋紀子（23歳）との結婚で、“紀子さんフィーバー”は頂点に達した。二人は学習院大学で、同じサークルに所属する先輩後輩の間柄。2人の結婚話には、「昭和天皇の喪も明けないのに」「兄の皇太子を差し置いて」など否定的な意見もあったが、彼女の持つ若さと初々しさの前にそれらの声はかき消された。91年には長女眞子内親王、94年には佳子内親王を出産、2006年には悠仁親王を出産。

◆グローバリズム

1990年に開催されたヒューストン・サミットあたりから「グローバル化」が合言葉となる。

「インターナショナル」から「グローバル」へ。

地球的な規模で物事が波及していく動きが強く意識されるようになり、サミットでは、開放体制、民主化・自由経済の進展を歓迎することを首脳たちが確認し合った。

◆日本人宇宙飛行士

宇宙開発事業団の公募に対し、1985年に宇宙飛行士に選出されたのは毛利衛、内藤千秋、土井隆雄の3人でNASAで訓練が開始されていた。ところが86年初頭にチャレンジャー号爆発事故が起こり、スペースシャトル計画は大幅に遅れることになる。

その間に、TBSはソ連と商業ベースの日本人宇宙飛行士搭乗に関する調印を行い、秋山豊寛記者を宇宙特派員として送り出す。秋山は1年をかけて訓練を積み、コスモノーツ（宇宙飛行士）の資格を取得。90年12月2日、48歳の秋山はバイコヌール宇宙基地からソユーズTM-11号で宇宙へと旅立った。秋山は日本人初の宇宙飛行士になると同時に、宇宙に行った世界初のジャーナリストとなった。「これ本番ですか？」という宇宙からの第一声は、ジャーナリストならではのものと評された。

◆あげまん

昔から日本にある、男性に上昇運をもたらす女性のことを意味する一種の隠語だったが、伊丹十三監督の映画『あげまん』のヒット以来、このことばが現代日本に定着した。

◆恋愛論

漫画家・フーミンこと柴門ふみが、1990年、『恋愛論』と題したエッセイを上梓、文字通り「恋愛の教科書」としてこの年だけで50万部に近い部数が売れた。続いて刊行された『愛こそがすべて?私の幸福論』も売れ行きが良く、さながら柴門は「恋愛の教祖」として漫画読み以外にもその存在をアピールし、新しい読者を得た。その後、『東京ラブストーリー』『同・級・生』『あすなろ白書』『家族の食卓』などなど、彼女の描く漫画が軒並みテレビドラマ化されて行く。

◆ちびまる子ちゃん

さくらももこ作のマンガ「ちびまる子ちゃん」がテレビアニメ化され、高視聴率を獲得。まる子ちゃんは、1970年代の静岡県に住む、ごく平凡な小学3年生の女の子だ。家族、クラスメートとの交流を描いたギャグストーリーは、たちまちブレイク。番組のエンディングに流れる「おどるポンポコリン」というちょっとワケのわからないテーマソングがミリオンセラーとなり、〈ピーヒャラ、ピーヒャラ〉と全国のカラオケバーや運動会を舞台に合唱された。

◆沈黙の艦隊

1990年5月29日、衆議院内閣委員会で山口那津男議員が、石川要三防衛庁長官に対し「この作品をお読みになったことはありますか」と質問した。「この作品」は俄然、大きな注目を浴びるようになった。かわぐちかいじのマンガ『沈黙の艦隊』である。

88年に雑誌連載がはじまった『沈黙の艦隊』。日米共謀により極秘開発された原子力潜水艦「シーバット」が、突如独立宣言し、「独立戦闘国家やまと」を名乗り、日本、アメリカや国際連合と対峙する。荒唐無稽と評される一方、国家とは何か、戦争の抑止力とは何かを真正面から問い質した「危険な」作品として高い評価も得た。

◆ファジィ

計算機の「あいまい」の処理は昔から無理といわれてきたが、「ファジィ工学」の分野では「曖昧さ」をプログラムする。このファジィ工学が家電製品に応用され、ちょっとしたブームとなる。

◆成田離婚

見合い、結婚、ハネムーンがすんで成田へ着いたとたん、「私、どうしてもあなたといっしょにやって行けないわ」と、たいていは女性の方から、離婚宣言をする。この速さに世間は驚いた。どうも彼はマザコンじゃあるまいか、どうも趣味が悪い、ふるまいが不作法だ、など言い分はさまざま。