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森羅万象全てが学ぶ対象ですの用語集

社会学系学問のいろいろ

民俗学

1951年版本誌掲載。以下、

民族学が現存の未開民族を研究対象とするに対し、民俗学は文明社会に残存している原始的分化を研究する。民俗学の資料は、民衆の伝説、祭礼、歌謡、迷信、方言などあらゆる民間の古俗であり、これらの資料により文化生活を持つ社会群の様式形態が明らかにされる。また民俗学により、自国の固有の文化を明らかにし、民俗精神・文化想像力などを見出すこともできる。日本の民俗学は、柳田國男氏によってはじめられたといえる。

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社会科学  Die Sozialwissenschaft 独

1952年版本誌掲載。以下、

一般的に言えば社会科学は、社会現象の科学的研究を目的とする学だといいうる。その場合経済学、法律学、政治学などの個々科学を総称することとなる。自然科学、芸術学、哲学などを除いたもの全部がこれに包括されるであろう。しかし狭義の社会科学は、人間社会の歴史的な法則を研究して社会の進歩に貢献せんとする科学のことである。自然法則を研究する自然科学は、自同率と因果律を基本原理とするが、歴史法則の研究は矛盾率と弁証法を基本原理とする。それは、社会現象を静態的にみず、不断の流動と変化のうちに捉えようとするからである。社会は内在する矛盾の争克によって動き、矛盾対立の一項が量的に増大して一定の段階にくれば社会は質的に変換するというのがその基本的法則の一端である。これは、量から質への転化の法則といわれるが、他に対立物の統一の法則および、社会意識は社会の物質的基礎構造の変化に規定されて変化するという法則が加わり、これで科学的社会主義、すなわち唯物史観による社会科学の基礎があたえられるのである。

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文化人類学

1964年版本誌掲載。以下、

人間の文化を総合的に研究することを目的とする学問。二つの側面があり、一つは考古学的に文化の歴史を調べるもので、それぞれの地域の文化の発展の仕方や発展させた要素をみる。調査対象はおもに歴史時代以前である。もう一つは文化の内容の研究で、たとえば伝統的な社会構成をもった農村に新しい文化が入ってきたとき、その社会がどのように変容するかを調べ、それによりその地域社会の文化の基盤や特色などを研究する。この学問の特徴は、実態調査にあるが、ある地域の調査をする場合、必ず他の地域文化と比較しながら研究を進めていくことである。

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社会力学

1966年版本誌掲載。以下、

社会集団が複雑な相互作用によって、流動、変化する現象を研究する学問。力学を導入した社会心理学の一領域で、社会的な事象を集団相互間の力関係から分析するという方法がとられる。

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女性学  Women's studies

1979年版本誌掲載。以下、

男性支配である既成の学問分野を、女性の立場で総合的に女性の地位、問題を見直していこうとするプログラムをいう。まだ学問分野としては確立していない。1960年代の反戦運動、学生運動、黒人運動のなかでとくに差別を正すための黒人学講座が開設されウーマンリブ運動が性差別を正すための女性学開講へと結びついた。全米で2000以上の大学が開講、5000以上のコース、7000人以上の教師がいるといわれる。日本でも昭和54年春からお茶の水女子大などで開講される予定である。また53年7月には、学者研究者83名が出席して、国際女性学会78年東京会議が開かれ、外国からは5カ国約30名が出席した。

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情報環境学

1980年版本誌掲載。以下、

電波に乗せて届けられる多種多様な情報と人間社会の望ましい関わり方の関する学問。アメリカではこれに関して、今までの物的環境のほかに情報環境(information environment)という言葉があらわれてきた。これは従来の地理的空間に対する情報空間(information space)といった概念に対応するものである。

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地名研究(地名学)

1982年版本誌掲載。以下、

地名(geographical name)の起源や意味を研究する学問は内外ともに早くから発達してきたが、近年は歴史的地名の保存運動にともなって、専門家のみではなく、市民にも関心が高まった。地名には山地、河川、平野などの自然地名、町、村などの人文地名、都道府県、国群などの行政区名などがあり、地誌の主用な資料である。日本の歴史的地名は吉田東伍による「大日本地名辞書」(6巻・1900年〜1907年)が近代の労作であった。体系的な考察は柳田國男の「地名の話し」(1932年)によって進められた。ムサシのサシは焼畑の意であり、地名は人々の生活を反映している。近年、これらの地名は市町村合併や郵便番号制などの便利主義の波に投入する傾向が強い。旧地名の保存運動は東京の弥生町をはじめ各地に起こり、地名研究所の設立の原動力ともなった。

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文化人間学

1982年版本誌掲載。以下、

美術、デザイン、演劇、パフォーマンス、写真、映画、テレビなど、現代芸術の細分化された分野を総合して、広く人間の営みとしてとらえようとする学問。具体的には、昭和56年度から、多摩美術大学に「芸術学科」がしんせつされ、現代の芸術、文化の諸活動に、作家としてではなく、受けての当事者として積極的に参加できる

人材を養成するという、この学科の趣旨をさしていう。多様化した美術を社会的な視点に立って、総合的に捉える試みとして注目される。

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老年社会学(老人社会学)  social gerontrogy

1985年版本誌掲載。以下、

老人の社会文化行為の労働、性愛、家族、社会組織、社会運動、余暇活動、創造活動、信仰などに社会経済要件の年金、医療、福祉などを配して究明対象とする昭和58年9月の「エージングに関する東京国内シンポジウム」のゲスト・スピーカー、W・キーファーカリフォルニア大学教授はアメリカの老年社会学は老年医学に比べ少額の研究費で倍する業績をあげていると紹介し、日本でのこの分野での入力を強調した。

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考現学

1988年版本誌掲載。以下、

この学問の始祖、今和次郎、吉田謙吉両氏の昭和初期の著書が完全復刻され、いま考現学(モデルノロジオ)がリバイバル現象を起こしている。考現学は昭和の初期、震災復興期のバラック建築のスケッチに端を発して、柳田民俗学に対し都市風俗を観察する学問として今日につづいている。

いまうけついでいるのは、日本生活学会(川添登)、現代風俗研究会(多田道太郎)、路上観察学会(赤瀬川原平)の3団体で、リバイバルの火付け役は新参の路上観察学会である。グループの宣言書とでもいうべき『路上観察学入門』(筑摩書房)が、いま7版2万部、ほかに藤森昭信『建築探偵の冒険・東京篇』(筑摩)、尾辻克彦・赤瀬川原平『東京路上探検記』(新潮社)など加えると半年で数万部になっている。一方、京都を本拠地とする現代風俗研究会は、1986(昭和61)年結成10周年を迎え多田道太郎編『流行の風俗学』(世界思想社)と井上俊編『風俗の社会学』(同)の2冊をまとめた。東西のグループが共に始祖とあおぐのは、今、吉田の両氏だが2人の編著になる『モデルノロジオ・考古学』(昭和5年春陽堂)と『考現学採集』(昭和6年建設社)の2冊が陽書房から完全復刻され、加えて藤森昭信編の『吉田謙吉Collection 1』も出たばかり。見落とせないのは吉田謙吉の存在で、舞台美術家の草分けでもある氏は、本所深川の細民街での手ぬぐいのかぶり方、口のあけ方、ひとりごとまで採録するという面白がりようである。

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比較地理(誌)学  comparative geography

1989年版本誌掲載。以下、

世界の各地域との比較によって、地表上の地理的な姿をとらえようとする学問。それぞれの地域の特徴は、他の地域との違い、つまりチイキさの中でとらえないとよく分からない。例えば「日本は雨が多い」といっても、それは、世界の一般的な降雨の状態と比べて多いからそういえるのである。国際化時代の今日、地理学における比較の重要性はますます増している。

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心理人類学  psychological anthropology

1991年版本誌掲載。以下、

「未開」部族と生活をともにしながら、その部族の文化の特徴を探りだす文化人類学の知見は、たとえば、M・ミードの研究にみられるように、心理学にも多大の影響を与えた。心理人類学は、「未開」部族に限定せずに、制度、文化、風土などの社会的側面と認知、人格形成、価値観などの心理的側面との関連を広く交差文化的に研究していこうとする。

異文化交流が盛んになり、お互いを知り合う必要性が、心理人類学への期待を大きいものにしている。

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家政学  domestic science

1995年版本誌掲載。以下、

19世紀半ば頃からアメリカで始まった家政学は、室内デザインや施設の問題を家庭の中の労働や作業と関連させて考えようとした。たとえば、キャサリン・ビーチャーとハリエット・ビーチャー・ストウの姉妹が、パブリックスクールで女性たちに、男の専門と同じほどにアカデミックに、「家政学」のコースを設置するなら女性の地位は向上するはずだと提言した。19世紀後半のことである。

ビーチャー姉妹は、黒人奴隷を使わないで家事ができるように、家事の合理化をめざし、たとえばシステムキッチンを考案した。ビーチャー・ストウは『アンクル・トムの小屋』の作者としても知られている。他方、やはりアメリカで、メルシナ・フェイ・パースという女性が1860年代に協同家事ということを提案した。

パースの考え方はひとことでいえば、協同組合組織による家事労働の集約化というものであった。12人から50人の女性が協同組合をつくり、そこで、家事労働を集約的に行う。協同組合の建物や設備は、組合の会費によってまかなわれる。料理、洗濯、裁縫、育児などがここで行われる。協同家事が成立すれば、家族向けのキッチンのない住宅と単身者むけのアパートメントをつくることができるとパースは考えていた。協同家事の考え方は、ユートピア主義者シャルル・フーリエのファランステールの影響を受けている。アメリカで考えられた合理的キッチンのアイデアはやがてバウハウス時代のドイツに影響を与えた。

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地域学

2000年版本誌掲載。以下、

日本各地の自治体で、地域の歴史や分化を研究しようとする機運がきわだっている。これは、地域おこしや地方自治の回復をめざす運動の一環として、自分の足元を地道に踏みかためようという動向といえる。秋田・青森・兵庫そのほか、府県や市町村が講座を設けており、折しも要請される生涯学習活動ともタイアップして、着実な成果を収めはじめた。加えて、日本稲作農業の粋ともいえる棚田を保存・復活させようという学会活動などとも連繋して、新たな地域研究の志向が生まれてもいる。

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