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フラットなパネルのお話
著者 白鳥 敬

フラットなパネルのお話

200分の1mm

デジタル化の進展とネットワークの普及で、世の中がだいぶフラットになってきました。いわゆる「中抜き」と言われる、中間業者を通り越して、生産者から消費者に直接、物や情報が向かうというやつです。そういう時勢を反映しているわけではないでしょうが、ディスプレイもフラットになってきました。

ところで、フラットなディスプレイの代表である(強引な関係づけですね)液晶ってなんだか知ってますか。液晶は、液体と結晶(個体)の中間の状態にある物質で、液晶の細長い形をした分子は、電圧をかけると、その度合いに応じて垂直に立ったり、横になったりする性質があります。

液晶ディスプレイの中には、二つのガラス板に囲まれてたった5μmほどのスペースに、液晶材料が入っているのです。5μmは0.005mm、つまり200分の1mmです。こんな目にも見えないようなすき間で、液晶分子が立ったり寝たりして画像を表示しているのです。

 

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16ミリ秒

数年間前までは、PCの液晶モニターで動画を見ると、残像が残るような感じであまり快適にではありませんでした。原因は、昔の液晶ディスプレイは、液晶分子の応答速度が十分ではなかったからです。

テレビの画面は、60分の1秒で1画面を書き換えています(実際は30分の1秒で飛び越し走査)から、1秒の60分の1、つまり、ほぼ16ミリ秒に1回、画面が変わっています。CRTディスプレイは、電子ビームで走査していますから1ミリ秒程度と高速なんですが、液晶ディスプレイの初期のものは、液晶のドットに電圧をかけてから液晶分子が反応するまでにやや時間がかかったので、どうしても残像が出たのです。このときの液晶の反応に要する時間を「応答時間」と言います。

最近の液晶ディスプレイの多くは動画をストレスなく見ることができるように、16ミリ秒以下のものが多くなっています。

「16ミリ秒」がスムースな動画を再生するときの「時間の壁」なのです。

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90度/270度

ねじれ。これが液晶パネルの正体です。

液晶分子は細長い形をしていて、バックライトから出た光は、液晶分子がねじれてる方向に沿って進みます。なぜそうなるかということについては難しい理屈があるのですが、ここでは説明しません。ともかく光はねじれに沿って進むのです。

普通の液晶(TN液晶)は、90度ねじって配置されています。

液晶パネルは、偏光板という光の振動が一つの方向の波を持つものだけを通す性質のフィルムではさまれています。この偏光板は上のものは下のものにたいして90度ねじってあります。つまり、下からきた光は、液晶分子のねじれにそって進み、上の偏光板に達するときには、振動の方向も90度ずれています。上の偏光板は下の偏光板に対して90度ずらして配置してあるので、ねじれて進んできた光を通します。

ところが、液晶に電圧をかけると、液晶分子が立ってしまうので、光は、ねじれないで上に向かいます。しかし、上の偏光板は光を通さない向きになっているため、黒く見えるというわけです。

液晶パネルの中には、ねじれを最大270度くらいまで大きくして、コントラストや解像度を向上させたもの(STN液晶)もあります。

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第6世代

「第3世代携帯電話」と言えば、高速の通信機能を持った携帯電話のことですね。1980年代には、「第5世代コンピュータ開発プロジェクト」というのもありました。

同じものでも内容がガラっと変わった時点を境に世代分けができます。人間社会にも、「団塊の世代」とか「団塊ジュニア世代」などと言う言葉がありますね。

ところで、液晶パネルにも世代があります。これは、液晶パネルを製造するときに使うガラス基板の大きさによって世代分けしたものです。半導体同様、大きなガラス基板から必要とされるサイズの基板を複数個切り取ります。

第1世代は、1991年から1994年頃までで、ガラス基板のサイズは、300mm×350mmくらいでした。そして、現在、最新の「第6世代」のガラス基板は、1500mm×1800mm。面積にして、第6世代は第1世代の約26倍もあります。

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45V

技術系の人は、電圧(V)のことかと思うかもしれませんね。45は、ディスプレイの大きさを表す数字です。画面の対角線をインチで表したのが、この45という数字です。45インチは、約114.3cm。45インチのディスプレイを45型と「型」で表すこともあります。

では、「V」は? これは、ブラウン管式のディスプレイでは使わなかった記号です。ブラウン管の場合、ブラウン管そのものの対角線の長さより実際に映像が映るエリアは若干狭いのですが、ブラウン管の対角線の長さで「何型」と呼んでいます。

液晶テレビでは、ディスプレイの対角線の長さとほとんど同じエリアに映像が映るので、「上げ底表示」のブラウン管式と区別するため、「V」をつけています。

液晶テレビで、今のところ最大なのは、45V型。これ以上の大画面は、プラズマテレビになりそうですが、50型を超える超大型液晶テレビが出てきそうな気配もあります。いったいどこまでいくのでしょうか。

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50nm

液晶パネルには、液晶を挟んだ電極の交点に電圧をかけ、その交点にある画素の明るさを変えて、画像を表示するパッシブマトリクス型と、画素一つ一つにトランジスタ(スイッチ)をつけたアクティブマトリックス型があります。アクティブマトリクス型のほうが、鮮明で応答時間も速いので、最近はアクティブマトリクスタイプが増えています。この代表的なものがTFTと呼ばれる液晶パネルです。

TFTというのは、薄膜トランジスタのことです。薄膜という名の通り、厚さ50nm程度の薄い半導体の膜を基板の上につくりあげています。50nmとは、たったの0.00005mm。

液晶パネルには、こんな小さな薄膜のトランジスタが100万個から300万個も並んでいるのです。

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170度

昔の液晶パネルは、ちょっと斜めから覗きこむと何が表示されているのかぜんぜんわからなかったものですが、最近は、液晶テレビやPC用液晶ディスプレイが普及してきて、CRTと変わらないような性能を持つようになってきました。

液晶ディスプレイが、どれくらいの角度から覗きこんでもはっきり見えるかを表すのに視野角を用います。液晶パネルの視野角は、コントラストが10対1以上を維持できる範囲をいいます。最近の液晶テレビや液晶モニターは、左右上下とも160度から170度くらいあります。これくらいあれば、もう、ブラウン管式テレビやCRTモニターとなんら変わるところがありません。

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モザイク・デルタ・ストライプ

液晶ディスプレイは、自ら発光してるわけではありません。バックライトまたは外光が通過する量を液晶分子をコントロールすることによって画素の明るさを変えているのです。つまり、液晶そのものは、モノクロ表示しかできません。じゃ、なんで、液晶テレビやPCのモニターがカラーで見えるんだ? 

はい、それは、液晶の各ドット(点)に、R(赤)、G(緑)、B(青)のカラーフィルターをかけて、光の3原色の原理で、カラー表示をしているのです。RGBは規則正しく並んでいて、このひとかたまりを「画素」と呼びます。

ところで、このRGBですが、どんなふうに並んでいると思いますか。身近にあるノートPCや液晶テレビ、デジカメなどの液晶をルーペで拡大してみてください。いろんな並び方があることを発見できると思います。

PCモニターは図表を表示することが多いので、横一列に規則正しくならんだ「ストライプ配列」になっていることが多いです。

液晶カラーテレビなどは、動画を表示するので、1列目がRGBなら2列目がGBRと一個ずらした「モザイク配列」が採用されることがあります。

デジカメなどは、RGBのR・G・Bのそれぞれのドットの半分づつずらした「デルタ配列」が採用されていることがあります。

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RGB/CMY

カラーフィルターは、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色というのが普通ですが、これでは、十分な鮮やかさで出せない色があるそうで、RGBにC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の一部の色、または3色全部を加えた、4色、5色、6色といったカラーフィルターが試作されています。

CCDでは、RGBにE(エメラルド)を加えた4色カラーフィルター搭載のデジタルカメラが製品化されています。

6色もあると、これをどのような配列で並べると、人間の目に自然な感じに見えるのかという点については、今後の研究課題だそうですが、より鮮やかになるのであれば、悪くはないですね。これからの動向に期待したいと思います。

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0.5、300、500

ひろく普及しているTFT型液晶の薄膜トランジスタ(TFT)の半導体膜としてもっともよく使われているのは、アモルファスシリコンです。これは液晶パネルの製造過程で低い温度で薄膜をつくることができるというメリットがあります。でも、電子の移動する速さ(電子移動度)が遅いのが欠点です。

最近は、電子移動度が速く、より鮮やかな表示ができる液晶として、低温ポリシリコン(多結晶)液晶などが登場しています。

アモルファスシリコンの電子の移動度は、0.5cm2/V・秒。これに対して、低温ポリシリコン液晶は300cm2/V・秒、さらに単結晶タイプの液晶では、500cm2/V・秒と電子の移動度が圧倒的に速くなります。(この速度は、一例です。実際は、もっと幅があります)

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