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物事の寿命に関する数字
著者 白鳥 敬

物事の寿命に関する数字

人生

人それぞれにいろんな人生があるものです。泣き笑い、怒り嫉み、恋をし、時には失恋して、寿命を終えていきます。

日本人の平均寿命は、2002年の統計で、男78.32歳、女85.23歳となっています。また、同年の年齢別平均余命は、30歳の男で49.21歳、同女で55.86歳。40歳で男で39.64歳、同女で46.12歳となっています。その他の余命について知りたい方は、厚生労働省の「平成14年簡易生命表」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life02/index.html)をご覧ください。

余命を数字で示されると、なんかちょっとむなしくなりますね。

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神経細胞

人間の体を構成している細胞は、日々、生成と死滅を繰り返しています。しかし、ニューロンと呼ばれる脳の神経細胞だけは、生まれてきたときの数から増えることはないと言われています。正確な数はわかっていませんが、その数は、約千数百億個と言われています。20歳くらいまでは、それほど多くは減りませんが、20歳をすぎるころから、減り始めます。その数は、一日数万個だそうです。そして、減ったら二度と増えることはありません。

20代も後半にさしかかると、学生時代に比べると記憶力が落ちたなぁと感じている人もいることでしょう。「神経細胞の数が減っているから」と自分を納得させたくなりますが、30代、40代からますます油が乗りきって新しい仕事をバリバリこなす人も多いですね。記憶力が多少落ちても、経験が、神経細胞どうしの関連づけを促しますから、「脳力」は向上していると言ってもよいでしょう。脳の力は、神経細胞だけでなく、神経細胞とともに脳を構成しているグリア細胞の働きにもよります。グリア細胞は、1兆個もあると言われていて、神経細胞に栄養を補給するなどの役目をしています。

年をとっても、頭は使いようなのです。

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テロメア

染色体を詳しく観察すると、年をとるにしたがって染色体の両端が短くなっていることがわかっています。この染色体末端部分をテロメアといいます。テロメアでは、1万個から1万5000個くらいの塩基の配列が繰り返されています。

なぜ、年をとると、テロメアが短くなるのかはわかっていませんが、何度も何度も複製を繰り返しているうちに、積もり積もった「誤差」のため、染色体末端まで情報が十分伝わらないのでは、と考えられています。

しかし、年をとったからテロメアが短くなったのか、短いので寿命が短いのかについてはよくわかっていません。クローン羊のドリーのテロメアは、生まれたばかりとき、すでに、大人の羊と同じ短さでした。これは、ドリーは大人の羊の細胞からつくられたので当然といえば当然です。そのドリーは、その若さでは発症することの少ない関節症などの症状が出て、2003年2月、7歳で処分されてしまいました。

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鼓動

心臓は、毎日、毎日、規則正しく鼓動を打ち続けています。人の一生である80年以上、人によっては、100年以上も、乱れることなく打ち続けるのです。

心臓はいったい、一生の間に何回くらい鼓動を打つのでしょう。動物学者の本川達雄さんの『ゾウの時間 ネズミの時間』という本によると、ほ乳類ならどんな動物でも、一生の間に約20億回、打つそうです。ちなみに、呼吸は、一生の間に5億回。

さらに、心臓が鼓動を打つ間隔は、体重の1/4乗に比例するそうです。1/4乗というのは、√の√ということですから、体重が2倍になると、時間は約2割ほど長くなり、体重が10倍になると、時間は8割くらい長くなります。

小さな動物は速く鼓動を打ち、大きな動物はゆっくりと鼓動を打つ。そして、約20億回打ったあたりで寿命がくる。すると、体重の重い大きな人は、小さな人より長生きなのだろうか? などと考えてしまいますが、人間の中での体重の大小は関係ないのでしょう。

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半減期

元素の中には、陽子の数が同じなのに、中性子の数が普通より多い元素があります。これを同位体といいます。同位体の中には、放射線を出しながら別の元素に変わっていくものがあります。これを放射性同位体といいます。

放射能の強さが半分になるまでの時間を半減期といいます。たとえば化石などの年代測定に用いられる炭素14の半減期は5730年。長いものでは、ウラン238の44億6800万年。ほとんど地球の年齢と同じです。

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太陽

もし太陽がなくなったら、どうなるでしょう。地球には光も熱もやってこなくなりますから、空は真っ暗、地表は冷えて氷に覆われてしまうでしょう。それだけではありません。地球は太陽という重心があるおかげで太陽の回りを規則的に公転していますが、いきなり太陽がなくなると、地球はどこかへ飛んでいってしまうでしょう。ま、いきなり太陽がなくなる、という設定は、むちゃですが、いつか太陽も寿命を迎えます。太陽の質量と組成から計算すると、100億年くらいで核融合の燃料を使い果たしてしまうだろうと言われています。太陽が誕生してからすでに50億年近くたっていますから、あと50億年後あたりに太陽は寿命を終えるということです。

しかし、終焉を迎えても、光と熱が消えて真っ暗になるわけではありません。最後は、赤色巨星になって、地球の軌道を飲み込むくらいまで膨らみ、爆発してガスを吹き出して、最後は暗くて小さな星、白色矮星になってしまいます。

もっとも、50億年後に、人類の子孫が残っているとは思えませんから、どうでもいいですが・・・

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宇宙

50億年後に太陽が死を迎え、地球も地球で生まれた生命も消滅してしまっても、別に、宇宙の大勢には影響はありません。なにしろ宇宙の年齢は、誕生後137億年と言われていますから。しかも、最新の研究では、宇宙は無限に拡がり続けるそうです。

人間の命どころか、太陽系の寿命と比べても宇宙の年齢はほとんど「無限」と言ってもいいでしょう。

というか、もはや素粒子に還元された世界の話になりますから、無限という概念すらない世界ですね。無限という概念も人間を中心にした考え方ですから。法華経には、「五百塵點劫(ごひゃくじんでんごう)」という言葉があります。10の286乗のさらに7倍くらいの年数を表しているのだそうです。もはや現実の尺度を超えた想念の世界ですね。

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素粒子

物質はみな素粒子という基本粒子に分解することができます。で、その素粒子は、無限に存在し続けるかといえば、そんなことはありません。素粒子にも寿命があります。

物質は原子からできていて、原子は原子核と電子からできていて、原子核は陽子と中性子からできていて、さらに陽子は、クオークやグルーオンなどの素粒子からできています。このほか、ニュートリノ、クオークなど多数の素粒子がみつかっています。

これらの素粒子は、単体では極めて寿命の短いものが多いです。たとえば、タウ粒子の平均寿命は、295.6×10の−15乗、わづか295.6フェムト秒の命です。1フェムト秒の間には、光ですら0.3マイクロメートル(1mmの1000分の3mm)しか進めませんから、タウ粒子は、光が88.68マイクロメートル進む間に寿命を終えてしまいます。

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光の寿命

素粒子の話の続きです。原子核の主要な粒子である陽子の寿命は安定していてほぼ無限に近い(10の32乗年以上)と考えられています。中性子は単独では、887秒の命。電子の寿命は、ほぼ無限なのではないか(6.4×10の24乗以上)と考えられています。どちらも答えが出ているわけではありません。

で、いちばん寿命の長いのは何でしょう。それは光そのものである光子です。これはたぶん、ほんとに無限に近い寿命を持つのではないかと考えられています。が、だれも確認した人はいません。

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養老孟子司さんの『バカの壁』という本が大ベストセラーになっています。すべてのイメージは自らの脳が作り出したもので、他者と外界を共有しよう(わかりあおう)とするとき、認識の壁が立ちはだかるのです。

脳は、脳の神経細胞(ニューロン)の中を電気パルスが走ることで、機能しています。アナログというよりもデジタルに近い感じで、脳はコンピュータそのものといってもいいくらいです。

このときの信号伝達速度は最高で、120m/秒にもなるそうです。時速にすると、432km/時。小さな頭の中にある1000億個もの神経細胞の中を、新幹線のぞみよりも速い速度で電気信号がかけめぐるようすを想像してみるとなかなか素敵です。

こんな小さな脳の中で、宇宙の無限の寿命から素粒子の一瞬の寿命まで考えることができるということは素晴らしいことですね。

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