月刊基礎知識
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ドミノなお話の用語集
 

経済理論の連鎖

悪循環

1948年版本誌掲載。以下、

相互に関連し合った事柄は甲が悪化すれば乙に悪影響を及ぼし、それがまた甲に一層悪い反作用を及ぼすという風に際限なく悪化する傾向があり、これを悪循環という。戦後日本の経済には到るところにこの悪循環が見られ、例えば物価と賃金、赤字財政とインフレ、生産と輸送、石炭・鉄・電力の生産の相互関係などに著しいが、中でも物価と賃金の悪循環が最も代表的なものである。政府は昭和22年6月以降実施された経済緊急対策により物価と賃金の同時決定の方法でこの悪循環を断ち切ろうとし、戦前の水準に比し物価は65倍、賃金は27倍くらいの線で安定させ、そのために生活必需物賃のマル公配給を確保すると言ったが、実際はヤミの排除が不可能であったので悪循環は相変わらずつづき高物価を理由とする労働者側の賃上闘争はいつも政府の頭痛の種となっている。

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賃金と物価との悪循環

1955年版本誌掲載。以下、

賃金を引き上げると物価が高くなるから、(1)賃金の増加分は国民大衆の負担になる、(2)賃金が高くなっても物価が高くなるから労働者は利益をえることができない、という理論。商品の価値は、機械、原料などの生産手段の価値が移転した部分と、労働者が工場のなかで新しくつくりだした部分とからなる。そして労働者が工場のなかで新しくつくりだした価値は、労働者の賃金と資本家の剰余価値とにわかれる。労働者が工場のなかで新しくつくりだす価値は、労働者がその商品の生産にどれだけの労働をついやしたかによってきまるのだから、その一部分である賃金が多くなれば他の部門である利潤はそれだけ小さくなる。賃金が高くなっても商品の価値が大きくなるということはない。賃金が高くなると商品の価格が高くなるのは、独占資本が独占力をもちいて商品の価格を価値以上に引き上げるからである。労働者は、賃金の引上げを主張すると同時に、商品の価格の引上げに反対しなければならない。

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デモンストレーション効果

1955年版本誌掲載。以下、

デモ効果とは、後進国や低額所得者層が、先進国や高額所得者層の消費様式をみせつけられて、とかくその消費をふやしてしまう傾向をいう。こうしたデモ効果は、新聞、ラジオ、映画、テレビなどの普及、したがって広告宣伝の著しい発達によるところが大きいと考えられている。近代経済理論では、デモ効果による消費性向の上昇が、貯蓄率の低下、したがって資本蓄積を阻止するという関係から、デモ効果が問題にされる。最近では消費景気に関連して、デモ効果を措止する施策(消費的財政支出の削減や間接税その他の課税による消費抑制、或いは貯蓄の奨励策)が1つの課題になっている。

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賃金スパイラル

1963年増補版掲載。以下、

スパイラルとはうず巻き線を意味するが、経済学では物価などの連続的変動、悪循環をいう。ストライキなどの結果、ある組合の賃上げが成功すれば、同種産業あるいは他業種産業の賃金が影響を受けて上がる水平的な波及や、賃金が上がれば物価が上がる、物価が上がれば賃金も上がるという悪循環などをいう。しかし、賃金上昇が物価上昇のすべての要因でないことは、学問上の一般的見解である。この問題はわが国でも議論の多い問題となっているが、俗説的見解は大局を誤るものといえよう。昭和23年の初の「労働白書」に登場したことば。

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ピグー効果

1976年版本誌掲載。以下、

ケインズの「一般理論」の重要な支柱の1つである消費関数の理論は、「消費は所得とともに増加するが、所得の増加する割合よりも消費の増加する割合は小さい」というものであった。これからケインズの過小消費説が導かれるのであるが、ピグーは、ケインズ理論に対する批判として、消費関数の理論に疑問を投げかけた。つまり、消費は所得だけでなく資産(富)の関数であり、物価が下落して資産の実質価値が上昇する場合には消費支出が増加するはずであるとした。これが「ピグー効果」と呼ばれるものである。もし「ピグー効果」が作用するのであれば、有効需要の不足による景気後退によって物価が下がるとすると、それは消費を増加させる作用をもつから、景気後退に歯止めがかかることになる。しかし「ピグー効果」の実証的妥当性については、はっきりした結論が得られていない。

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押しのけ効果(クラウディング・アウト)

1977年版本誌掲載。以下、

もともと「押しのける」とか「ハミ出す」という意味であるが、近年、国債の大量発行に関して使われる言葉である。国債はそのつど一定の発行金利が付されているが、その発行金利が市中の貸出金利より高ければ、銀行など市中金融機関は企業に貸出すより国債を買ったほうが有利となる。発行金利が高くなくても、市場で売買される国債が値崩れして、実効金利が高まれば同じことが起きる。つまり国債の大量発行が民間の資金を吸収してしまって、一般企業への貸出しを押しのけ、金融が逼迫して景気回復を妨げる。それによって財政支出の景気回復効果を相殺する危険がある、とするのがクラウディング・アウト論である。

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景気誘発効果

1981年版本誌掲載。以下、

たとえば政府が公共投資を増やすと、建設業や鉄鋼、セメントその他の建設資材を供給する産業で雇用が増え、その雇用増によって増えた民間所得が再び支出されて各種消費財の売上げが増え、それがさらに社会全体の所得を増加させる、という乗数効果がうまく働けば、景気誘発効果があるといわれる。1970年代のはじめまでは、民間設備投資が民間消費に加わったから、誘発効果が高かったが、現在は民間の投資意欲が冷えているので、公共投資の景気誘発効果は減退しているのではないかと見るむきもある。

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クズネッツ循環  Kuznets' cycle

1984年版本誌掲載。以下、

アメリカの経済学者S・クズネッツによって確認された約20年の周期をもつ経済循環のこと。そのような循環現象はアメリカの建築活動において見られるが、15年から25年のサイクルをもつ建築循環がなぜ生じるのかについては、これを人口のうちの移民数に関連させるのがこれまでの有力な学説である。すなわち、アメリカへの人口移動には約20年間におよぶ循環的現象が観察され、建築循環はまさにこの移民循環に対応しているのである。日本においては工業生産の成長率に約20年周期の循環があることが確認されている。しかしそれが何によって説明されるかについてはまだ確定された仮説は提示されていない。

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ジュグラー循環  Juglar cycles

1985年版本誌掲載。以下、

フランスの経済学者J・ジュグラーによって発見された約10年の周期をもつ景気循環のこと。1862年の著書でジュグラーは、イギリス・アメリカ・フランスの物価・利子率などの経済統計から約7年−10年の循環的現象のあることを確認し、シュンペーターはその発見者の名前を冠してそれをジュグラー循環と名付けたのである。現在では、これは「主循環」とか「中期循環」ともよばれている。そのような循環現象が生じる理由については、設備投資の変動によるとするのが定説である。10年の周期については、設備資本の耐久期間をほぼ10年と見、その更新が10年ごとに集中的に行われるとする再投資循環論が1つの有力な仮説として主張されたことがあるが、必ずしも説得的ではない。そしてこのジュグラー循環を説明するために、乗数と加速度原理の結合体の重要な研究課題となっているのである。わが国の場合のジュグラー循環の現象に関しては、これを国民総生産に対する民間設備投資の比率についてみれば、ほぼ10年近いサイクルが戦前および戦後を通じて、明瞭に観察されることが明らかにされている。

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キチン循環  Kichin cycles

1985年版本誌掲載。以下、

アメリカの経済学者J・キチンが1923年の論文でアメリカおよびイギリスについて発見した約40ヶ月の周期をもつ循環現象のこと。手形交換高・利子率・卸売物価指数などが用いられたデータである。キチン循環は同一の雑誌でW・クラムによっても確認されていることから、キチン=クラム循環ともよばれている。そしてこのキチン循環は「短期循環」または「小循環」ともよばれる。キチン循環がなぜ生じるのかについて、それが在庫循環とよばれるように、在庫投資の循環的変動によって生じることについては、多くの意見の一致がある。好況期には企業は需要拡大を予想して在庫増大を図り、ために在庫投資によって景気が刺激され、逆に不況期には需要減少によって過剰在庫が生じ、在庫調整によってさらに景気は悪化するのである。ジュグラー循環は設備投資の変動が主要因であるのに対し、在庫投資は設備投資よりも調整に要する期間が短く、そのことが40ヶ月という比較的に短期の循環をもたらす理由となっているのである。今日、景気ということが言われる時には、主として在庫循環が意味されているといって差支えない。

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サミュエルソン=ヒックス型景気循環論

1991年版本誌掲載。以下、

乗数の理論と加速度原理を結合することによって景気循環の現象を分析しようとする試みがサミュエルソンによって最初に定式化され、その後、ヒックスによって精密化されたが、これをサミュエルソン=ヒックス型の景気循環論という。現在でも景気循環の有力な学説となっている。乗数の理論は消費支出が国民所得に依存していることを示し、消費支出に対応する生産活動を消費財産業と呼ぶ。これに対して投資活動が国民的得の変化率に対応して誘発される関係を加速度原理と呼び、投資支出に対応する生産活動を投資財産業と呼ぶ。消費活動および投資活動は相寄って国民所得を形成する。国民所得と消費支出の関係は限界消費性向で結ばれ、国民所得の変化率と投資支出の関係は加速度係数と呼ばれるパラメーターによって結ばれている。サミュエルソンは、限界消費性向の大きさと加速度係数の大きさとの組合わせによって国民所得に関する種々なる型の変動パターンの生じうることを明らかにした。これに対してヒックスは、基本的にはサミュエルソンの方法に従いながら、単調発散型のケースを中心にして景気循環の理論を彫琢した。

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逆資産効果  adverse assets‐effect

1991年版本誌掲載。以下、

資産の評価額の減少が消費や投資の減退をもたらすこと。90年に入ってからの株安の影響についていわれている。

株価は1989(平成1)年末の最高値から90年3月末までで、18%の下落。その評価損(キャピタル・ロス)は114兆円である。そのうち23兆円が家計部門の分とみられる。これは家計の可処分所得の9%弱に相当する規模で、消費支出への悪影響が懸念される。

また企業財テクへの打撃も大きいし、これまで設備投資資金の調達方式だったエクイティ・ファイナンスが困難になり、設備投資の足を引っ張ることが懸念される。

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貨幣的景気循環論

1993年版本誌掲載。以下、

貨幣供給量の変動によって景気循環が作られるとする理論のこと。有名なものにハイエクの理論がある。完全雇用を前提にして銀行の利子率の低下と貨幣供給量の増加が生じると、資本財部門の拡張(迂回期間の延長)が生じて生産要素は消費財部門から資本財部門に移動する。かくして消費財の供給は減少して消費財価格の上昇によって強制財蓄が生じるが、消費財価格の上昇と共に消費財の生産は有利となり、ために資本財部門から消費財部門に生産要素が移動し、迂回期間は突如として短縮されて景気が下降をたどることになる。これが1931年のハイエクの『価格と生産』における理論の骨子である。

この理論は常に完全雇用を前提にしている点において問題点をもっているが、最近、マネタリストや合理的期待の理論を中心とするマクロ・ラショナリストによって景気循環の原因をアド・ホックな貨幣政策に求めようとする主張が勢力を得るに従い、古典的な貨幣的景気理論は再び注目をあびるようになってきた。

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政治的景気循環  political business−cycles

1994年版本誌掲載。以下、

アメリカ合衆国の大統領選挙は4年ごとに行われるが、その選挙を有利にするために、大統領選挙の行われる直前の年には、例えば公定歩合の引下げによって景気の繁栄を図ったり、選挙民が歓迎しない増税政策を保留したり、公共投資の支出拡大が行われたり、あるいは企業に対する補助金や家計に対する移転支払いを増額したりするような経済運営が政策担当の政党によって行われることがある。そしてそれが国民経済全体の景気循環に重大な作用を及ぼすのであって、このように大統領選挙のタイミングと結びついて惹起されるような景気変動を「政治的景気循環」というのである。一般的にいえば、現在では国民経済の運営は不可分離の形で政治活動と結びついている。抽象的には政府の経済活動は経済全体のマクロ的社会厚生を極大にするものと考えられているが、現実の経済では景気循環さえも政党の政治運営によって左右されているのである。そして政治的景気循環はアメリカ合衆国だけではなく、程度の差はあっても、民主主義的政治体制の下にある他の国ぐににおいてもみられる現象なのである。

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バタフライ効果

1998年版本誌掲載。以下、

言葉の由来は、「テキサスで蝶がはばたくとハイチでハリケーンが起こる」という譬え。つまり初期にはちょっとした力だったものが、いくつもの要素の相互作用により強大な力にいつしかなっていくというメカニズムがうかがえるということ。商品の競争などにおいても数社が当初ほとんど差のない状態であったのがいつしか大きな差が開いて、一人勝ちしてしまう現象も、このバタフライ効果が発揮されたと考えられる。

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デフレ・スパイラル/インフレ・スパイラル  deflation spiral / inflation spiral

2002年版本誌掲載。以下、

デフレ・スパイラルとは、物価の下落を示すデフレが生じているとき、企業は将来の収益予想が悪化すると考え、また物価下落にともなう実質金利の上昇による債務者負担をおそれ、生産の削減や雇用のリストラを行いそれがさらなる物価下落を引き起こしデフレを悪化させるという悪循環を引き起こすこという。現在のわが国では、まだデフレ・スパイラルは生じていないと考えられているが、その不安がないわけではない。これに対し、インフレ・スパイラルはインフレが悪循環的にインフレを激化させることをいう。

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