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地図はどこまで正確なの? 地図と測位に関する単位と限界
著者 白鳥 敬

地図はどこまで正確なの? 地図と測位に関する単位と限界

巨大太陽フレア発生の影響はいかほど?

2003年10月下旬、太陽表面で大規模なフレアが発生しました。フレアというのは、太陽面でおこる大規模な爆発現象のことです。フレアが発生すると、高いエネルギーを持った荷電粒子が放射され、四方八方に飛び散ります。当然地球にも到達し、地球の大気圏に大きな影響を与えます。ちょうどフレアが発生した頃、北海道で肉眼で見えるような明るいオーロラが発生しました。また、なんと長野でもオーロラが観測されました。

大きなフレアがおこると、大気圏では磁気嵐が発生して無線通信に影響を与えたり、地球周辺を回っている人工衛星の電子回路にもダメージを与えることがあります。実際、日本のデータ中継衛星「こだま」や、米の火星探査機「マーズオデッセイ」に不具合が発生したのも、太陽フレアの影響ではないかと言われています。

また、激しい太陽活動は地球の磁場にも影響を与えています。今回は、磁場と地図に関連したお話です。

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世界測地系に変って、目標は南東方向450mへ

2002(平成14)年4月1日から、地図の緯度経度の基準となる測地系が変更になりました。明治時代に決められた日本測地系から、最新の世界測地系への変更です。何が変ったかというと、緯度経度が少しばかりずれました。東京ふきんでいうと、同じ緯度経度で表示される地点が、国際測地系では南東方向に約450mずれます。このずれは、最北端の宗谷岬では、南東方向に約400m、福岡では同じく約420mです。

また逆に、同じ場所を日本測地系から世界測地系に切り替えて位置表示する場合は、東京付近では、経度を約−12秒、緯度を約+12秒することになります。この値は、場所によって違います。宗谷岬付近では、経度を−14秒、緯度を+8秒、福岡では、経度を−9.5秒、緯度を+11.5秒として換算します。

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日本のへそが移動

測地系が変更になったことで、思わぬとばっちりを受けたものがあります。日本測地系で測った緯度経度を元にして、全国のあちこちにつくられていたモニュメントの位置がずれてしまうのです。

兵庫県西脇市には、「日本のへそ」というモニュメントがあります。これは、市内を通る東経135度線と北緯35度線が交わる地点が、日本のほぼ中心にあるということで、この地点を「日本のへそ」とよんでモニュメントを建てていたのです。しかし、これも、世界測地系にあわせて、南東方向に約450m離れた丘の上に移動しました。現在は、新しい「へそ」にモニュメントが建っています。

日本各地で、移動を余儀なくなれたモニュメントはたくさんあるそうです。

ところで、450mも位置がずれるということは、愛車のカーナビは大丈夫なのだろうか、と心配される方もいるかもしれません。カーナビは、GPS衛星から世界測地系に基づいた位置情報を取得し、それを日本測地系に変換して表示しているので問題ないということです。

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北はどっち?

「北はどっち」ときくと、たいていの人は迷うことなく、「北」の方角をさします。小学生でも知ってることですね。

では、「北はどこなのか正確に示してください」というと、「そんなことは方位磁石でも使わないとわからないよ」とこたえるでしょう。じゃ、方位磁石を使って北の方へ向かってください。で、「そのまままっすぐ進むと北極点にいきますよね?」ときくと、「当たり前よ、南極にいくわきゃねーだろ」と答えるかどうかしりませんが、ほんとに北極点に行けるのでしょうか。

登山などをされている方は知識があると思いますが、方位磁石のさす北は、地図上の北ではありません。方位磁石は、地図の北とは異なった方角をさしているのです。

「なぜ?」と問われるなら、「地球にきいてくれよ」というのが答えになります。地球の内部は、鉄やニッケルがどろどろに溶けた状態になっていて、その流れの具合や密度のムラなどによって磁場にかたよりが生じているのです。

地図上の北(子午線の上の方向)を真北、磁石がさす北を磁北といいます。東京ふきんは、磁北が真北より西に約7度ずれています。ですから、磁石が示す北に向かっていったら、決して目的地にはたどり着けません。たとえば、東京駅から地図で真北にある鹿沼市に向かおうとすると、日光の方に行ってしまいます。日光は目的としたコース(地図上の北を目指したコース)から、西に約15kmも離れた地点です。

地上を走る車や電車では、もともと道路が曲がりくねってますから、あまり磁北と真北の違いを意識する必要はないかもしれませんが、飛行機とか船だと、いつまでたっても目的地に着けず、あわや遭難ということにもなりかねません。

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北は「どこ」でも同じ方向?

地図上の北である真北は、どこにいても同じ方角です。でも、方位磁石が指す北(磁北)は、場所によって違うからやっかいです。磁北と真北の差を偏差とか偏角と言います。磁北が真北より西にある場合は、−をつけ、おなじく東にある場合は+をつけて表します。東京ふきんでは、真北の西約7度あるので、−7度と表します。

北海道北部では西に約10度、沖縄ふきんでは西に約5度ずれています。沖縄と北海道北部では、その差は5度もありますから、目的地に正確に到着したいときは注意が必要です。

しかし、日本の各地の偏差は、最大で10度程度ですからたいしたことはありません。アラスカでは東に30度から40度、サンフランシスコでも東に約20度もずれています。

南極や北極ではもっとひどいことになります。南極では磁力線が収束している地点が2か所あって短い距離で偏角が変っていますから、方位磁石は使い物になりません。

もし、あなたが探検家を目指しているのなら、世界各地に行く前にまず当地の偏角を調べておきましょう。

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北は「いつ」でも同じ方向?

磁石が指す北(磁北)は、場所によって大きく異なっていますが、時間の経過によっても変っています。しかも、この値が意外と大きいのです。たとえば、東京ふきんの偏角は、ここ10年ほどで、西側に13分近く大きくなっています。

過去の偏角を調べてみると、いまから200年ほど前の西暦1800年には、偏角はほぼ0でした。さらにさかのぼって、1650年頃の偏角は、今とは反対に東に約8度でした。

徳川家康を祀る日光東照宮は、江戸の真北につくられたそうですが、完成したのは1636年、この頃の偏角は東に約6度です。北極星を元にして北の位置を決めたのか、方位磁石を用いたのかよくわかりませんが、もし方位磁石で決めたのなら、江戸の北は今の矢板インターチェンジのちょっと西になります。北極星で、つまり真北で北を決めたのなら、鬼怒川温泉あたりです。

きっと、真北方向とも磁北方向ともちょっとずれてるけど、そのあたりでは日光がいちばん荘厳な雰囲気だから、ということで決まったのかもしれません。

鬼怒川温泉が東照宮だったら、楽しさ2倍なんですけどね。

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伊能忠敬の地図の誤差はどれくらい

伊能忠敬は、江戸末期の西暦1800年から全国の測量を開始し、驚くほど正確な日本地図を作りました。移動した距離と方位を正確に測定し、それぞれの地点から見える山などの方位を測り、さらに、夜は星を観測して緯度を測定して、できる限り誤差を修正して、正確な日本地図を作り上げました。

しかし、伊能忠敬のつくった地図と現在の地図を比較してみると、伊能図の北海道と九州が少し東にずれています。このずれについては研究者のみなさんがいろいろ研究されているようですが、経度の測定があまり正確ではなかったのが原因ではないかといわれています。

1800年当時の偏角は東京あたりではたまたま0でしたが、北海道や九州では、0ではなかったと思われます。その差が、ずれとなった、という可能性もあるかもしれませんね。

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方位磁石の誤差はどれくらい?

方位磁石は、針がふらふらしてて正確に何度の方位かを読みとろうとしてもけっこう難しいものです。中にオイルが入っていて針がふらつかないようになっている方位磁石もありますから、プロ用途にはそういうもののほうがいいでしょう。

しかし、オイルを入れて針のふらつきを押さえても、ほんとに正確な方位がわかるかというと、そうでもありません。方位磁石に近接した周囲の環境によって微妙に狂ってしまうのです。

そういうわずかな誤差が問題になるのは、飛行機に搭載されている磁気コンパスです。これは、基本的に普通の方位磁石と同じもので、オイルの中に入っていますので、飛行中でもあまりふらつかないのですが、周囲の鉄のフレームなどに影響されて決して正確な方位は指しません。しかも、方位によって誤差が異なります。これを自差といいます。

そのため、飛行機の磁気コンパスには、自差表というものがそばについています。それには、「FOR 360 STEER 002、FOR 150 STEER 143」などと書いてあります。FORは、進みたい方位(磁方位)、STEERは、進みたい方位(磁方位)で飛ぶときの方位です。

つまり、磁方位150度の方向に飛びたいときは、磁石に7度の誤差があるので、143度に合わせて飛べばいいですよ、という意味なんです。

磁気コンパスの誤差は、+−10度までは許容されています。それ以上の誤差があると、整備工場送りです。

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地図に定規で書いた線はまっすぐ?

地図には、距離・角度(方位)・面積の3つの要素がありますが、球体である地球表面を平面に置き換えるため、3つの要素全部を満たす地図を作ることはできません。そこで、目的ごとに、いろんな図法が考えられてきました。

いちばんポピュラーなのがメルカトル図法でしょう。これは、経度線と緯度線を直角に交わるようにしたもので、狭い範囲を表すにはとくに問題はありませんが、世界全図を描こうとすると、高緯度地方ほど横に拡がってしまいます。

メルカトル図法の地図で、ある点とある点を直線で結ぶ(航程線という)と、子午線に対する方位が一定になりますから、飛行機でまっすぐ航行するときには便利でいいのですが、それは最短距離ではありません。最短距離は大圏コースといって、北半球では北極よりに湾曲した線になります。

ところで、飛行機で実際に使われている航空図は、ランバート正角円錐図法で描かれています。これは、角度(方位)と距離をほぼ正確に表示します。でも、この地図にある地点からある地点まで直線を引いて、その針路(磁方位)で飛行すると、実際に飛行するコースは、地図に描いた直線よりも、ほんの少しだけ赤道よりに引っ張られるようなわずかな円弧を描きます。短い距離では、ほとんど差がでませんが、東京から鹿児島といった長い距離では、航程の真ん中あたりで、地図に描いた線よりも少し南を通過しているのに気がつくはずです。

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縮尺大きい地図と小さい地図はどっちが大きく見える?

地図の縮尺が大きいとか、小さいとかきくと、分母の大きな地図を縮尺が大きいというのか、縮小比が大きい地図を言うのか、迷う人も多いのではないでしょうか。

ぼくもその一人です。「えっ、どっちのこと」と考え込んでしまったりします。

地図には、2万5000分の1とか、5万分の1とか、いろんな縮尺があります。2万5000分の1の地図では、250mの長さが1cmになり、5万分の1の縮尺の地図では0.5cmになります。つまり、2万5000分の1の地図の方が、物件が大きく表示されます。

縮尺が大きいというのは、物件が大きく表示される地図のことを言います。ですから、ここでは、2万5000分の1の地図の方が、5万分の1の地図よりも縮尺が大きいというわけです。

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地磁気の逆転はおこる?

地球の北極の南極の磁場が入れ替わる。地磁気逆転の話は、ときどきテレビ番組などでとりあげられ話題になりますが、そんなことっておこりえるのでしょうか。

古い地層からみつかった岩石の磁場を調べた結果、過去1億6000万年の間に、何度となく地磁気の逆転がおこっていたことがわかっています。

地球の北極にS極、南極にN極がある現在の姿になってから、78万年ほどたつと言われ、過去の逆転の歴史から見ると、20万年くらいで南北が入れ替わっていますから、そろそろ、逆転がおこるかもしれないとも言われています。磁極が入れ替わるのに、1000年から1万年くらいかかると予想されていますが、その間、一時的に磁力0の状態がうまれるかもしれません。

そうなると、ちょっと大変ですね。地球環境に与える影響もかなりのものがありますし、飛行機や船の航行にも大きな影響を与えそうです。

ま、いずれにしろ一夜にして変るわけではありませんから、十分対策はたてられるでしょう、と楽観的に考えておきましょう。

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