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ヤード・ポンド法の「珍しい」単位
執筆者 白鳥 敬

ヤード・ポンド法の「珍しい」単位

ヤード・ポンド法

世界的にメートル法の国際単位系(SI)が使われているにもかかわらず、アメリカは、いまだにヤード・ポンド法を使っている。ヤード・ポンド法は、日本でいえば尺貫法みたいなもので、西欧の文明とともに歩んできた単位で、きわめて人間的な単位系だ。非合理的な部分もたくさんあるが、由来をたどれば、どの単位も生活の中から自然に生まれてきた、とても人間的で親しみやすい単位だ。わかりにくいのは、地域ごと・国ごと・時代ごとに同じ名称の単位でも指し示す「量」が違うことが多いからである。

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リーグ  league

フランスの作家ジュール・ヴェルヌに『海底2万マイル』(1870年)という、潜水艦に乗って海底を旅する空想科学小説がある。この小説の原題は、フランス語で“Vingt Mille Lieues Sous Les Mers”、英語では“Twenty Thousand Leagues Under the Sea”。フランス語の‘Lieues’は約4kmを表す長さの単位だが、これが英訳されて『海底2万リーグ』となった。リーグは、ヤード・ポンド法の長さの単位の一つで、1リーグ[league]=3マイル[mile](陸マイル)=4.83kmであるから、2万リーグは6万マイル(陸マイル)で9万6600km。一方、日本では、『海底2万マイル』とか『海底2万海里』などと訳されているが、2万海里は3万7000km。長さがぜんぜん違うのだが、これは語感を重視してそうしたのではないだろうか。

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ロッド  rod

昔も今も土地は、作物を育てたり家を建てたりするのに重要なもので財産価値が高く、また税金額も土地の広さによって決められるため、土地の測量は古くから行われている。ヤード・ポンド法には、土地の広さや距離を測るのに用いた「棒」に由来する単位がいくつもあり、ロッドは、木や金属でできた細い棒のことである。この棒に印をつけて、土地の長さを測った。単位のロッドは、古くから用いられている長さの単位で、1ロッド[rod]=16.6フィート[feet]=5.5ヤード[yard]=5.0292メートル[m]。

ロッドを使って面積を表すとsquare rod(平方ロッド)。1[square rod]=30.25[square yards(平方ヤード)]=25.2929[m2(平方メートル)]。

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ポール  pole

ポールも、ロッド同様、ヤード・ポンド法の古い単位で長い棒状のものが語源である。現在もポールという言葉はよく使われている。例えば、棒高跳びのポール、旗を立てる棒を意味するポール、測量用の赤白に塗られたポールなどがある。測量用のポールは、まさに現代も物差しとして機能しているわけである。1ポールは1ロッドと同じく、1ポール[pole]=5.029メートル[m]。 

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チェーン  chain

チェーンは鎖のことで、土地の測量に使用していた「測鎖(そくさ)」という鎖に由来する単位である。測鎖とは、7.29インチの棒(=1リンク[link])をチェーン状に100本つないだもの。「測量士チェーン(surveyor's chain)」、「ガンター(氏)チェーン(Gunter's chain)」(ともに、1チェーン[chain]=66フィート[feet]=20.117メートル[m]=100リンク[link])、「技術者チェーン(engineer's chain)」 (1チェーン[chain]=100フィート[feet]=30.48メートル[m]=100リンク[link])などがある。かつてイギリスの鉄道では、駅間の距離を表すのにチェーンが使われ、イギリスから鉄道技術を輸入した日本でも初期のころは、チェーンが使われていた。

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ケーブル  cable

海上で使用する長さの単位。帆船時代の錨(いかり)をつないだケーブルに由来する。1ケーブルの長さは、1マイル[mile](ノーチカルマイル)の10分の1の185.2メートル[m]、または100ファゾム[fathom](=600フィート[feet]=182.88メートル[m])。また、アメリカ海軍では歴史的に、1ケーブル[cable]=120ファゾム[fathom]=720フィート[feet]=219.456メートル[m]としている。

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ファゾム  fathom

1ケーブルは、100ファゾムと上に書いたが、ファゾムは水の深さを測るときに用いるヤード・ポンド法の古い単位である。人間が両手を拡げたときの左右の手の指先の間の長さから作られた。ロープを手にとって両手で引っ張り、その長さを1単位としてロープに結び目を作れば、インスタントメジャーの出来上がり。もともとは「水の深さはどれくらいだった?」と聞かれて、「(両手を左右に拡げて)これが2つくらいだった」というふうな使い方をしていたのだろう。1ファゾム[fathom]=6フィート[feet]=1.829メートル[m]。現在は、海に関する距離にはノーチカルマイルやヤードなどが用いられるため、ファゾムは使われていない。

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ファーロング(ハロン)  Furlong

こちらは畑など耕地に関する長さを表すヤード・ポンド法の古い単位である。furlongは、furrow(畑の畝と畝の間のあぜ道)とlong(長さ)をくっつけて作られた。1ファーロング[furlong]=1/8マイル[mile]=201.168メートル[m]。

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ルード  rood

イギリスで使われていた古い面積の単位で、1ファーロング[furlong]と1ロッド[rod]の辺で囲まれた四角形の面積が1ルード[rood]。1ルード=1/4エーカー[acre] (1011.7[m2(平方メートル)])に当たる。このように、ヤード・ポンド法の古い単位は、意外ときっちりとした整合性を持っている。もちろん、地域と時代によって、数値が違うことが多いという問題点もあるのだが。

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キルダーキン  kilderkin

最後に、容積を表す古い単位キルダーキンを紹介しよう。このところ原油価格の高騰ぶりがすごいが、原油の価格は1バレル当たりで表示されている。バレル(barrel)は、現在も使われている体積の単位で、語源は「樽」。原油は1バレル[barrel]=42米ガロン[U.S.gallon]=159リットル[litre]である。一方、イギリスでは、1バレル[barrel]=36英ガロン[Imperial gallon]=163リットル[litre]である。1英ガロンの1/2の量がキルダーキン、1/4の量がファーキン(firkin)である。現在もイギリスでは、ビヤ樽の容積を表す単位として、キルダーキンやファーキンを使っている。

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ブッシェル  bushel

2006年12月号参照

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