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袋小路派の政治経済学*第2講「談合」
執筆者 土屋彰久

袋小路派の政治経済学*第2講「談合」

談合

談合というのは、競売、競争入札などの参加者が、事前に調整して不当に有利な価格での競落、落札を図るもので、本来の談合罪が刑法に規定されているほか、独占禁止法、官製談合防止法にも規定がありまして、実際の談合事件では独占禁止法か官製談合防止法が適用されるのが通例です。公共事業の入札などを巡って一般的に行われている談合は、<1>指名競争入札制により、入札の参加者が限定されている、あるいは一般競争入札であっても、受注側の業界が閉鎖的で実質的に限定されている状況で、<2>予定価格について非公開制が採られており、<3>参加業者間の受注調整が常態化しており、<4>発注者側も談合に協力的、といった特徴を持っています。

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談合の利益

談合をすれば、落札価格を高くできる、つまり、安売りをしなくて済むので、その分の利益が出ます。ただし、この利益は落札した会社一社のものではなく、談合の参加者全員の利益という扱いですので、落札したからと言って、その利益を独占できるわけではありません。通常は、同じ業界で一年に何件も談合が行われますから、全体を通して、会社の規模、あるいは影響力に応じた受注配分によって調整が図られます。一方、大型事業などで入札の件数が一件だけの場合には、落札した会社が他の会社に下請けを発注したり、あるいは「協力金」を払うなどの調整方法が採られます。

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談合のコスト

参加業者の間の「協力金」などは、談合組織の内部でのやりとりなので、談合のコストとはなりません。談合のコストの主たるものは、談合を円滑にするための外部者に対する利益供与、平たく言えば、発注者側への賄賂です。ちなみに、日本ではまともな政権交代がないために、犯罪とされていませんが、刑法を普通に適用すれば、天下りの受け入れは、事後贈賄に当たるので、これも賄賂のうちです。談合では、この贈賄用の資金もひねり出さなければいけないので、賄賂を貰う側の発注者の方も自然と協力に熱がこもるわけでして、いっそ、受注調整の幹事役まで引き受けてしまおうということで、官製談合にも発展するわけです。そして、こうして政官財がよってたかって公共事業を食い物にした挙句のツケは、国や自治体の巨額の借金として、一般国民・住民に押し付けられていくわけです。

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談合のリスク

談合が発覚すれば、当然ながら摘発され、犯罪として刑事訴追を受けるだけでなく、民事上も、談合によって得たと見なされる利益に相当する額を発注者に賠償する義務を負います。さらに、指名停止処分のような、入札資格の停止も重ねて科されます。しかし、相乗りオール与党体制の小さな自治体などでは、住民訴訟でも起こされない限り、摘発された業者が「自主的に」利益を返上したり、あるいは発注者の自治体の側も形式的に賠償請求をしてみたりと、軽い「火消し」でうやむやにしてしまうのが普通です。また、指名停止処分も、せいぜい半年程度と短く、しかもその間でも、仲間の業者の下請けには入れるので、それほどの実害は発生しません。結局のところ、バレた時だけ「罰金」を払えばそれで済むというのが実情となっています。アメリカなどでは、懲罰的損害賠償と言って、経済犯罪など悪質なケースにおいて、たとえば実際の損害額の3倍までといった、損害賠償の増額が認められていたりしますが、日本の場合、実損額+訴訟費用しか認められていないので、儲けの大きさと発覚のリスクのバランスから言って、経済犯罪は「やり得」といった感があります。

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談合による社会的損失

談合は、実は見た目の悪質さとは裏腹に、それほど直接的な社会的損失は発生させません。もちろん、政治腐敗の悪化、固定化など、間接的な損失は大きいのですが、談合は本質的には、実体的な事業に絡んでペーパー・マネーの分配を違法にコントロールするというものなので、その事業が必要性の高い道路の建設など、社会にとって価値のあるものであれば、全体としては世の中は豊かになっているとも言えるからです。また、違法であるとは言っても、日本では談合が中央から地方へ、富者から貧者へといった所得再分配の機能を果たし、雇用や居住地の調整機能まで果たしてきたことも、一面の真実ではあります。このような状況が背景にあるために、関係者の間には「談合は必要悪」という声も根強いんですね。ただそれもまた、マクロの直接的な利害に限定した一面的な話であって、政治腐敗の進行が回りまわって引き起こす様々な社会的損失を考えたなら、もはや、居直りは通用しない段階に来ていると考えた方がいいでしょう。ただし、談合が果たしてきた副次的な機能まで無視して、絶対悪として単純に排除を進めた場合、むしろ全体としては社会的損失が増加するという皮肉な結果に至る可能性もあります。

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指名競争入札

特別に指定を受けた業者しか、入札に参加できない入札を指名(競争)入札と言います。指名入札を採用するには、一応、悪質な業者や信用のおけない業者、あるいは、技術水準が要求されるレベルに満たない業者などを排除し、事業の失敗を未然に防ぐといったような表向きの理由もあります。ただ実際には、入札の参加者が限定され、固定化する結果、談合が非常にやりやすくなるという効果だけが、抜群に働いています。逆に言えば、指名入札が採用される本当の理由は、まずほとんどのケースで談合の円滑化が目的だと言っていいでしょう。そうしないと、「よそ者」の排除のために、ヤクザを使ったりしなければならず、余計なコストがさらにかかってしまうんですね。

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一般競争入札

入札資格を限定せず、基本的にどこの業者でも入札できるのが、一般(競争)入札です。公共事業改革に積極的な一部の自治体では、指名入札を一般入札に切り替え、また、予定価格も公開制にした結果、平均落札率がそれまでの90%台後半から、80%程度にまで下がっています。一方で、指名入札の根拠とされる懸念が、現実のものとなっているという話は、ほとんど聞かれません。なぜなら、一般入札でも、手抜き工事を行うなど悪質な業者は、入札資格を認めないことが指名入札の場合と同様に可能だからです。むしろ、ぬるま湯の談合体質が染み付いた業者の方が、工事でも手抜きをすることが多いというのが実情です。さらにここのところ、談合事件の発覚がひっきりなしに続いていることもあって、形だけでも入札制度の改革を進めるふりだけはしておこうということで、政府もさすがに重い腰を上げ、原則として予定価格2億円以上の事業に関しては一般競争入札とするという方針を打ち出しています。

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指名停止

談合には限りませんが、その他、手抜き工事などの不正を行った業者に対して科せられるペナルティーが、指名停止という処分です。これは、指名競争入札において指定を外すような場合だけでなく、一般競争入札においても、入札資格の停止という形で行われます。指名停止の期間は、自治体レベルでは半年程度というのが多いですが、政府が現在の原則1年の指名停止期間を2年にする方針を発表したりしているように、表向きは2年程度を目途に指名停止期間の延長を図る動きが広がっています。ただ、指名停止と言っても、処分はその自治体に限られるのが通例で、さらに落札業者の下請けには入れたりと、本当に国から県、市町村まで、あらゆる公共事業の入札から完全に締め出されるというわけではないので、こうしたザル体制から根本から変えていかない限り、罰則としての実効性はあまり期待できません。

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予定価格

予定価格というのは、入札の際の上限価格のことを言います。この予定価格に関しては、公開制と非公開制がありまして、これも本音と建前がまるで逆となっています。指名入札を堅持しているような多くの自治体では、「予定価格が事前に公表されると、みんなが上限ギリギリに入れてくるから、落札価格が下がらない」といったような表向きの理由を掲げていますが、現実にはまったく逆となっています。なぜかというと、予定価格の秘密が守られるなら、まだ少しは効果があるのですが、予定価格はなんらかの形で談合組織に密かに伝えられるのが通例で、その情報に基づいて、実際には予定価格の上限ギリギリで当番の会社が落札してしまうからです。また、この予定価格の非公開制&漏洩という手口は、一般入札についてもなかなか有効で、談合とは別に発注者側の担当者や首長が特定の業者と癒着しているような場合にも活用されています。これは、業者側が希望する価格帯より予定価格が低い水準にあるような場合、普通なら落札者なしで入札は不調となるわけですが、一社だけその予定価格がわかっていて、利益が確保できると判断すれば、ギリギリの価格で落札できるためです。

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落札率

落札率というのは、全部で何件が落札されたかの割合ではなく、予定価格に対する落札価格の割合のことを言います。予定価格の算定水準が同じ程度であっても、一般競争入札&予定価格公開制の場合には、大体、80%前後であるのに対して、指名競争入札&予定価格非公開制という典型的なタイプはもちろんのこと、形式上は違っていても実質的にそれに等しい状態にあって、談合、もしくはそれに類する不正が行われている場合、落札率は90%台後半というか、ほぼ100%と言ってもいいような数字になります。たとえ直接の証拠がなくとも、談合の実態については、この落札率を見れば大体の見当はつきます。とりあえず、平均落札率が90%を上回っていれば談合が日常的に行われている疑いは濃厚で、さらに95%を超えていれば、強固な談合システムが構築されていることは、まず間違いないと考えていいでしょう。

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幹事会社/調整役

談合の仕切り役は、大規模な事業の割り振りなどを会社単位で調整する場合には、幹事会社と呼ばれ、個人で十分に間に合うような、小さな事業の受注調整に関しては、調整役といった呼ばれ方をすることが一般的です。この調整役を発注側の役所の人間が務めるのが、いわゆる官製談合で、発注者が自治体レベルの場合には、首長や有力議員(いわゆる「議会のボス」など)本人や、彼らの「密命」を受けた関係の深い役人が調整役に当たることが多く、官僚による利権の私物化が進んでいる国の省庁レベルの談合では、現役の担当官と天下りOBとの間で、適宜、調整役や連絡役といった役割の分担が行われています。

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官製談合

談合は、元々は業者が内輪でやるものでした。しかし、日本は公共事業を始めとした公的支出の規模が大きいために、談合によって巨大な利益が生まれるようになり、その利益を基に、様々な業界が政治的影響力を強めていったわけです。そうなると、その資金力を背景とした支援を受けて、議会選挙でも首長選挙でも、談合に協力的な候補が有利に戦いを進めるようになるわけです。そうして、業界の息のかかった候補が首長になり、またそれを支える議会の与党勢力が形成されるに至れば、当然、談合はやり放題となります。そして、こうなってくると、談合を容認するだけでなく、さらにその円滑な運営に積極的に貢献した方が、首長や議員の側の存在感も増しますし、その下で働く一般の公務員達も、出世のためには長い物に巻かれろということで、違法行為と知りつつも協力するようになるので、国でも自治体でも、利権の規模に応じて様々な大きさの政官財(=業)の鉄の三角形が形成されるに至ったわけです。

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防衛施設庁

防衛施設庁と防衛庁、今では防衛施設庁が防衛庁の付属機関という位置付けになっていますが、実は、歴史が古い、つまりお兄さんなのは防衛施設庁の方なんです。防衛庁自体も、自衛隊の改組・呼称変更に伴い、二度ほど名前が変わっていますが、防衛施設庁も、それとはまた別の都合で名前が何度か変わっておりまして、最初は特別調達庁という名前で、その後しばらくして調達庁となりました。この頃は、自衛隊(もしくはその前身)とは、まったく無関係で、駐留軍のための施設の取得や管理などを職務としていました。そして、この職務は現在も在日米軍の施設関係の職務として、今でも続いています。一方、自衛隊・防衛庁の発足に伴い、防衛庁内にも自衛隊関係の施設に関して、同じような職務を行う建設本部が置かれました。調達庁と建設本部は、しばらくは別個の存在として活動していましたが、日米の軍事的同盟関係の強化に伴い、調達庁の管轄がそれまでの総理府から防衛庁に移り、その後、両者を統合する形で防衛施設庁として、新たに発足しました。このように、頭に「防衛」はついていますが、組織の沿革から言うと、「防衛庁プロパー」の部分は半分なんです。

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