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人間の視力の限界は
著者 白鳥 敬

人間の視力の限界は?

視力2.0以上はあり?

おなじみの視力検査表のいちばん下の列は、視力2.0。これ以上の視力はあるのでしょうか。アフリカの人には、視力が2.5くらいはあり、最高で視力4などという人がいると言います。

視力は、角度1分に相当する長さを見分けることができる場合を、視力1としています。視力検査表でおなじみの円環の一部が欠けているマーク、これをランベルト環と言いますが、視力1のランベルト環のすき間の長さが、角度1分になるようになっているのです。角度1分は視力検査表と目との距離によって異なりますから、検査表には5mとか2.5mという距離が指定されています。

というわけで、視力2なら、角度30秒を見分けることができる視力ということです。2.5なら24秒を見分けることができ、視力4なら、なんと15秒を見分けることが可能。

15秒という角度は、たとえば、1km先の直径7cmほどの物体を見分けられるということです。アフリカの人の祖先は、素早く動く小動物を追いかける狩猟をしていたから眼がいいのでしょうか。

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ゼロ戦の撃墜王の視力はどれくらい?

パイロットは視力がいいものですが、中でも戦闘機に乗っている人は、非常に視力がいいようです。第二次世界大戦中の日本海軍の撃墜王として知られる故坂井三郎さんは、「(敵機の編隊が)空の一角に薄墨をはいたように見えることがある」といったことを書いておられますが、一機では、見えなくても、数十機の編隊になると見えるのでしょう。

ちなみに視力1とすると、全長12mのゼロ戦を真横から見るとして、だいたい40kmくらい離れていても視認できるはずです。でも、飛行機はいつも、真横が見える位置関係にあるとは限りません。真っ正面から見る位置だったとしたら、もっと近づかないと見えません。主翼を真っ正面から見ても、ある程度の距離があるとほとんど見えないので、胴体の直径が、どれくらいの距離で見えるか、ということになります。ゼロ戦の機首部分の縦方向の長さは約108cm、それに風防の高さ50cmを加えた約160cmが真っ正面から見える大きさとすると、視力1のパイロットは、5.5kmの距離で視認できます。でも視認できても、真っ正面ですれ違うと、二機の相対速度は(仮に両機とも時速300kmとすると)600km/hですから、1秒間に167m接近し、33秒ほどですれ違います。

もし、視力2なら、この倍の時間、かせげるわけですから、やはり視力が命ですね。

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視力Aって何?

小中学生のお子さんをお持ちの方はご存知かもしれませんが、学校では視力検査の結果を、ABCDの4段階で表しています。Aは「視力1.0以上」、Bは「視力0.7-0.9」、Cは「視力0.3-0.6」、Dは「視力0.2以下」です。

全国の小学校では、平成4年からこの「3.7.0方式」が採用されています。検査は、従来の視力検査表のように、いちばん上の0.1から下に向かって0.1刻みで大きくなっていくものではなく、0.3、0.7、1.0の3つランドルト環しか描かれていません。1.0のランドルト環が見えれば、視力1.0以上で、Aと記入され、0.3のランドルト環が見えればC、0.3が見えなければ、0.2以下ということでDとなります。

0.2以下がすべてDでひと括りにされてしまうのは、なんか乱暴な感じがしますが、いずれにしろ、0.2以下では眼鏡をかけないと黒板の文字が読めませんから、眼科に行って視力をきちんとはかり眼鏡をしてくださいということなのでしょう。

ちなみに、平成15年度の「文部科学省学校保健統計調査」によると、視力0.3未満の生徒が小学校では5.3%、中学校では、19.7%もいるそうです。

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片目で見るのと両目で見るのでは視力が違う?

会議の会話をICレコーダーなどで記録することがありますが、ステレオ録音してステレオヘッドホンで聞くと、声がよりはっきりと聞き取れると言います。これは、片耳で聞くより両耳で聞くほうが、了解度が向上するからです。決してステレオ録音になったことだけが理由ではありません。もちろん固定したステレオマイクで録音すれば、対象物の位置関係がわかりますから、了解度が向上します。でも、新聞記者が政治家を追っかけながらの取材シーンみたいにマイクの向きが固定されない場合は、ステレオヘッドホンで再生すると、音の位置がくるくる回転して、逆に了解度が下がります。筆者は、一度、この経験をしてから、モノラルで録音して両耳ヘッドホンで再生することにしています。

人間の耳や目は二つあって、その両方を使うことで声や画像を認識するようにできています。だから、両耳、両目を使ったほうが了解度は向上するのです。

視力も、片目で見るよりも、両目で見るほうが、10%ほど視力がよくなります。車の普通免許(1種)の基準も、片眼で0.3以上、両眼で0.7以上となっています。

両目で見たほうが了解度が向上するってことは、望遠鏡と双眼鏡を見比べてみると体感できます。レンズの口径が8cmの望遠鏡で20倍の倍率をかける場合と、同じく口径8cmの双眼鏡で20倍で見るのでは、双眼鏡のほうが対象物を明確に見ることができます。

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月の光で本は読める?

「蛍の光 窓の雪」。おなじみの『蛍の光』の歌詞です。昔の中国の若者が官吏になる試験を受けるとき、まずしくて灯をともす油が買えないので、蛍の光や雪明かりで勉強したという故事に基づくものです。

筆者は、子供の頃、蛍の光や雪明かり、そして月の光で本が読めるかどうか試してみたことがあります。夏の夜、蛍をつかまえて透明なビンの中に5-6匹入れ、本に近づけてみました。蛍が光ると一瞬、文字がかすかに見えますが、読み続けるなんてとてもできませんでした。雪明かりもとてもじゃないけど無理でした。月明かりは、満月の夜、大きなフォントで書かれている文字は何とか読めますが、普通の書籍を読み続けることは難しかったです。

満月の夜の明るさは、0.2ルクスくらいですが、本を読むには、最低でも、50ルクスくらいは必要です。JISでは読書に適した明るさを750ルクスとしています。ちなみに一般的なオフィスの明るさは、500-800ルクスくらいです。

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暗い星の色を見分けることはできる?

人間の眼は、カメラと同じような構造になっています。レンズにあたる水晶体、絞りにあたる虹彩、フィルムにあたるのは網膜です。網膜には、視細胞があって、色を感じる錐細胞と明るさを感じる杆細胞の2種類があります。錐細胞は網膜の中心部分に多くあって明るいときに働き色を識別します。杆細胞は、網膜の周辺部に多くあって、暗いところで働きます。

暗いところでは、色の識別が難しくなるのは、そのためです。たとえば、星のような暗いものを見るとき、火星のような明るい星は、赤い色をしていることがよくわかりますが、暗い星になると、なかなか色まではわかりません。

天文ファンの間でよく話題になるのですが、オリオン星雲(M42)は、写真でみると、赤・ピンク・紫などがいりまじった美しい姿に見えるのですが、望遠鏡を通して眼で見ると、どれくらい大きな望遠鏡を使えば、色が見えるか、というものです。

これは、個人差があるようで、20cmくらいの口径でなんとなく色がわかるいう人もいますし、38cmくらいで見え始めるという人もいます。筆者の15cmの望遠鏡では、まったく色を感じることはできませんでした。

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暗いところではっきり見るためのテクニック

暗いところで、対象物をはっきり見たいときはまず第一に眼の性能を最大限に上げるということです。カメラの場合、暗いところでは絞りを開きます。F値の明るいレンズほど光を多く集めることができます。F値は、レンズの口径と焦点距離の比で、口径が50mm、焦点距離が500mmなら、F:10となります。

人間の眼は、焦点距離約24mm、口径7mmくらいですから、F:3.4くらいです。このF値だと、薄暗くなってくるとなんとなく見えにくくなってくることも感覚的に理解できます。ところで、この7mmという数字ですが、これは、瞳径といって、瞳がもっとも大きく開いたときの数値です。これは、若い人では大きく、年を経るにしたがって小さくなっていきます。20歳では8mm、30歳で7mmありますが、50歳では5mm、60歳になると、4.1mmまで小さくなります。つまり、F値がどんどん大きくなっていくというわけで、暗いところではものが見えにくくなっていきます。

暗いところで、少しでもよく見えるようにするには、「かっと眼を見開く」。ほんとこれがけっこう効きます。瞳の最大値にまで開くことで、より多くの光を入れることができます。次に、見たい対象物からちょっと眼をそらす。こうすることで、網膜周辺部にある感度のよい杆細胞を使うのです。

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暗順応/明順応にかかる時間

車を運転していて、急にトンネルの中に入ると、あたりが見えにくくなります。逆にトンネルの中から出たときは、急にまぶしくなって、一瞬あたりが見えにくくなります。

人間の眼は、明るさの変化に順応するのに、少し時間を要するのです。明るいところから暗いところに行ったときの反応を暗順応といって、数十分から30分くらいかかります。一方、明順応のほうは、数十秒から1分ほどで完了します。

夜間、旅客機が着陸体制に入ると、機内の明かりが暗くなりますが、これは、着陸時に万が一事故がおこった場合、真っ暗やみに近い状態でも、ある程度、視覚が確保できるようにするためです。

もし、明るいままだと、暗順応に数十分を要しますから、助かるものも助からないということにもなりまねません。

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視力はどんな時に低下する?

人間の視力は、網膜の中心部でいちばん良く、周辺にいくにしたがって低下します。中心から5度もずれると視力は0.1になってしまいます。

車を運転しているときなど、速度が速いときも視力が落ちます。高速道路を時速100kmで走っているときの視力は、0.6くらいに落ちています。

見たいものは、できるだけ視野の中心に持ってくるとよく見えるので、人間は、見たいものがあると、その方向に顔を動かしたり、眼球を動かしたりしています。

双眼鏡で風景を見ると、遠くのものが大きく見えますが、よく見ると、視野の中央部では焦点が合っているのに、周辺はすこしぼやけています。双眼鏡を三脚に固定して除くと、中心部に対して周辺部は像がもやけているのがよくわかります。でも、手持ちで双眼鏡を覗いているときは、周辺部のぼけはほとんど気になりません。なぜなら、見たい対称を常に視野の中心に持ってくるようにするからです。

もっとも天体観測用の双眼鏡の中には、周辺部まで収差を補正してきれいに見えるものもあります。ただし、高価です。

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焦点を合わせる速度

最近のカメラはほとんどオートフォーカスになっています。このオートフォーカスの焦点を合わせる速度は、概して高価な製品ほど高速です。コンパクトデジカメでは、もたもたするようなシーンでも、一眼レフタイプの高価なデジカメでは一瞬で焦点を合わせますし、対象物までの距離に応じてリアルタイムで焦点を合わせ続けてくれます。

人間の眼も、眼の前30cmくらいにあるPCのディスプレイから窓の外の遠方の風景にまで瞬時に焦点を合わせることができますから、かなりの高速で焦点を合わせることができると言えます。

動くものをとらえる能力を動体視力と言います。スポーツ選手などは動体視力が良く、、プロ野球の打者は、時速150km近い速度で接近してくるボールが止まって見えるらしいです。おそらく、高速で動くものに対して焦点を高速で合わせることができるのでしょう。昔、戦闘機のパイロットが、他機をなかなかみつけることができないのはどうしてだ、という実験を行ったことがあるそうですが、結論は、「眼の焦点が無限遠に合ってなかった」というものでした。青い空しか見えない空間では、比較する対象物がないので、眼の焦点を無限遠に合わせることができにくいということなのでしょう。

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